室内を好き勝手に転げ回っていた雹も消え、バッハは床に倒れている。
「バッハ! しっかりしろ!」
ローテはバッハのぐったりした上半身を抱き起こした。負傷はしていないようだ。
「危ないところでした。司祭殿へは私から事情を説明しましょう。聖水も至急手にいれねばなりませんし。その少年はしばらくすれば目を覚ましますから、詳しいお話はその時に」
聖水は、どこの教会でも出入口の脇にある聖水盤に入れて構えてある。ゲルトは堕落した司祭だが、教会自体は何百年も前に建てられたものなのでそこまで汚れてはいないだろう。
「かたじけない、クリューガー殿。今日の晩、どうしても私は家を明けねばなりません。私の代わりに家を守って頂けるとありがたいです」
ローテとしても、魔女があっさり諦めるとは到底思えなかった。
「はい、喜んで。では、いって参ります。すぐに戻ります」
クリューガーを見送ったローテは、改めて室内を見回した。
窓が開いたままなのと、十字架や花瓶の破片がテーブルに散らばっているのと以外は今朝出発した時と少しも変わらない。
一瞬ローテは十字架の欠片に手を伸ばしかけた。すぐに戻して窓を閉めた。
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