銭居は馬場の顔写真を数秒眺めてからファイルごと消し、ネット回線から大小様々なSNSを開き始めた。正確には路上や街中を写した画像を掲載した頁を自分の目玉だけで確認し始めた。
次から次へと、一つの頁を数秒かそこらで確かめては消して行く。
「いました」
一分かそこらで一枚の画像が絞り込まれた。このビルから電車で一時間程の地域で、寂れた地方都市の一角だ。画像の年月日と時刻は今から一時間前を示していた。
馬場とおぼしき人物を撮影したのは、無論彼を追っていたのではない。街角の野良猫写真を趣味で挙げていただけだ。モブキャラよろしく横断歩道を歩いており、ズボンと靴だけがあった。後ろ姿で。
「これが馬場さんだって分かるんですか?」
「ええ、靴が同じですから。ズボンについた絵の具の汚れも」
「前に本人と会ったことがあるんですね?」
「いえ、ありません。でもさっきお部屋に入った時に、靴屋さんの空箱がありましたから。最後に使った絵の具も察しがつきますし」
「……」
それで仮に当たりなら相当な才覚だった。
「でも、ここからどこに移動したんでしょう」
赤野でなくとも悩むだろう。最終的な目的地が把握出来ないと空振りの可能性が高い。
「この街なら教会がありますね。カトリックの」
「馬場さん、キリスト教徒だったんですか?」
我ながら間抜けな質問だった。オーナーとして借家人の宗教までは無頓着なのが……よもや新興カルトでもないのだろうが……、こんなところで。
「さあ。ただ、さっき目にした絵の修道士達は明らかにカトリックのそれですから」
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