骸骨を抱いてステップを踏むエリザに、まだ人間としての姿を保つロルフとゲルトは手拍子を添えた。
「まだまだ、これくらいの人数では寂しいですわ。さあ!」
エリザが促すと、大食堂の扉が開いて新たな人々が現れた。
「クリューガー殿! バッハ!」
二人とも婚礼に参加するような盛装で、襟元にはヤブランを一枝さしていた。
「私の体は一つしかないから、ハインツの隣に並んで座っていて下さいな」
クリューガー達は黙ってその通りにした。余りにもナンセンスな事態にハインツは喋るも動くもままならなくなった。
「元はといえば、あなたの生まれがいけなかったのですよ」
マクシミリアンの骸骨と踊りながら、吟遊詩人の語り口のようにエリザは言った。
「生まれだと?」
やっと口が自由になった。少なくともハインツはそう思ったし、なるほどエリザに質問できた。
「そうですとも、テオドールぼっちゃま」
テオドールはマクシミリアンの三男で、とうに亡くなっている。
「俺はハインツだ。間違えるな」
「それはあなたが自分でつけた名前です。素敵なお名前ですね。さ、ローテ子爵様、疲れたでしょう。交代しますわね」
マクシミリアンは骸骨のまま席に戻り、今度はロルフの腕を握った。
ロルフもまたたちまち骸骨と化し、父と同じようにエリザの相手をさせられた。
「ハインツ、いえ、テオドール、あなたの母様は修道院の尼僧です。つまり、お父上のお手がついたのです。そして、ロルフが結婚してから暫くして、ロルフの奥方に毒殺されたのですよ。あなた自身が。……うーん、ロルフは内気過ぎてダンスの相手はつとまらないわね」
「なにを馬鹿な。魔法よりもっと酷いたわ言だ」
一刀両断のつもりのハインツだった。エリザはロルフを席に戻し、ゲルトを三番目の骸骨に選んだ。
「本来なら、あなたはなにも知らずに修道士として一生を終えるはずだった。でも、ゲルトが地区司祭になったせいで、皆が少し困ったんです。だってゲルトは口が軽いですし。あなたが事実を知ったら皆が面倒ですし」
「ふざけるな!」
「ちなみにあなたのお母様はあなたが成人する前に病気で亡くなっていました。……あらゲルト、もう足腰がたたないの? 美食のやり過ぎかしらね」
ゲルトもまた席に戻された。エリザはテーブルを回り込み、バッハの間近に顔を寄せた。
「バッハ君。君は誰?」
わざとらしくエリザは声を潜めた。
「僕はハインツ・フォン・ローテです」
かしこまってバッハは答えた。
「おいっ! しっかりしろ!」
エリザはにこにこしながらバッハから離れ、クリューガーの顔を横から覗き込んだ。
「クリューガー様。あなたはどなた?」
「私はハインツ・フォン・ローテだ」
「クリューガー殿まで!」
「おほほほほほほ! あははははは!」
さも愉快そうに笑いながらエリザはハインツの背後にたち、そのまま細くてしなやかな両腕をハインツの両脇に座すバッハとクリューガーの肩にかけた。
案に相違して二人は骸骨にはならなかった。
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