人生で初めて異世界転生を書きました!
いつか書いてみたくて、ようやくです。どうか誰かの心を打ちますように
少女は、困惑していた。
山で栗拾いをしていたらモンスターに遭遇し、襲われそうになったから、……ではなく。
そのモンスターが、ここら一帯では滅多に見ない凶悪モンスターだったから、でもなく。
ベテラン冒険者のパーティが複数人がかりでようやく倒せるはずのそのA級モンスター相手に、少女とそんなに歳も変わらないであろう男が助けに来てくれて、たった一人で渡り合っているから――――でもない。
「い……銀杏さんっっ! やっぱり僕には、こんなバケモノまだ無茶ですよ……っ‼ だいたい何だよこの動物、ゴリラなのかアルマジロなのかグリズリーなのか、はっきりしろっっ‼」
「はぁ……相変わらずダメダメですね、月影さんは。弱音を吐いたら減点です。このままだと見るも無惨な評価シートの出来上がりですよ、死ぬ気で頑張ってください」
「そうは言っても……っ」
「データの上では、十分倒せる相手です。それに、今ここにいるのは我々三人だけ。無茶だろうと何だろうと、あなたが勝てなければ、全員殺されて終わりですよ?」
少女の目の前にいる、二人の男女。
見た目は明らかに少女より年下でありながら、口調や落ち着き、纏う雰囲気が大人を感じさせる、年齢不詳の幼女。
そしてそんな彼女に叱咤されながら、弱音を吐きながら戦う頼りなさそうな男。その身に纏った妙な服装――――少女は知るよしもない知識だが、この世界とは別の世界、〝日本〟の武術、〝空手〟の道着である。
突如助けに現れた、二人。だが、
減点? 評価シート? 一体この人達は、何の話をしているのだろう。
特に女の方。この絶体絶命の状況で、何故こんなに落ち着いて、溜息まで漏らせるのだろう。
A級モンスターとの戦闘がまるで新人研修だ。こなすべきタスクの一つ程度だと言わんばかりの温度感で、女は淡々と指示を続ける。
「周囲に他のモンスターはいません。私達のことは気にせず、目の前の敵に専念してください。あなたが討伐できればそれで全て解決です。もう一度言いますが、勝ち目は十分あるです」
「いや……本当ですか? 僕あんな、口から炎吐いたり、パンチ一撃で大岩粉々にしたりできないんですけど……本当にそのデータ合ってますか⁉」
「見せかけの力に惑わされる。雑念で注意散漫。減点ですね。あなたの脳みそはお飾りですか? 前世で何を学んだんですか? 体格と力が全てなら、武術はあれほど流行していないでしょう」
「それは……っ、ぐhァあ……ッッ‼‼」
振りかぶった大きな一撃を喰らい、男は数メートル吹っ飛んだ。
少女の喉から声にならない声が漏れる。大岩をも粉々に砕く一撃をまともに……いや、寸でのところで、両腕でガードしていたか。
だとしても、たかが腕二つ。その防御にどれほど意味があるだろう。
武器も防具も、魔法の杖さえ装備せず、彼が素手で戦っていたことに今さらながら少女は気付く。なんという無謀だ。
「油断しましたね、これは大きな減点です」と、事ここに至ってなお溜息をつく隣の幼女も意味が分からない。
いやそれより、彼の安否だ。少女は恐る恐る視線を向ける。と……ひとまず安心か。男は動いているし呼吸もしている様子。「痛てて……」と立ち上がろうとさえしている。
あの一撃を生身で喰らって「痛てて」で済む意味も分からないが、とにかく安堵していいだろう。ほっと胸を撫で下ろす少女。
と、そこに。
「おっと……危ないですよ栗拾いのお嬢さん。もう少し下がっていてください」
「えっ、ぅあ……っっ、きゃぁぁあああああああっっっっ‼‼」
男を吹き飛ばしたモンスターは、今度は少女達を襲おうと向かって来ていた。
少女が気付いたときにはもう、腕を振り上げているモンスターの姿が、目と鼻の先に。
野獣の眼光。
圧倒的強者の圧力。
腰が抜けて足が震える。一歩たりとも動けない中で降り注ぐ殺意たっぷりの本能。
死んだ。……そう思って目を閉じた、直後だった。
――――ズガァァァアアアアアアアアアアンッッッ‼‼
凄まじい轟音。閉じた目を開けると、モンスターの腹に拳をめり込ませている男の背中がそこにあった。
目から生気が失われ、ズシンと倒れ込むモンスター。……討伐した、のか。
素手で。たった一撃で。
目の前で起こった出来事。しかし少女は、とてもじゃないが、この光景を信じられない。
対照的に、当然だと言わんばかりに口角を上げて頷く幼女。
「そう。勝ちを悟り、獲物を狩る直前こそが最大の好機。相手が巨大であればあるほど死角だって大きくなる。どんな強者にも隙は生まれるし、しなやかに動けるということは外皮は硬いだけじゃない。心理的に、物理的に、的確に〝急所〟を見極めて無駄無く倒す――――まあ、総合的には及第点ってところですかね。全然ダメダメでしたけど。お疲れ様です月影さん」
「ははは……ダメダメですか。今これ、間違いなく人生で一番の大金星なんだけどなぁ……」
「こんなレベルのモンスターならこの世界にはうじゃうじゃいるです。この程度で満足しないでくださいね。あなたの〝目標〟はもっと遥か遠く、雲の上にあるんですから」
「あ……、あの……っ!」
しばらく、呆然と眺めているだけだった少女。
いよいよ堪え切れなくなったとばかりに、表情いっぱいに広がった困惑を声にする。
「あなた達は……一体、何なんですか……? 何者ですか……?」
「ああ、これはこれは。のけ者にしてごめんなさいです。お怪我はないですかお嬢さん」
「いえ、あの、怪我は大丈夫ですけど……」
そして幼女は、淡々と答える。
至って真面目に。妄言のごとき真実を。少女の素っ頓狂な反応を置き去りに、業務連絡さながらに淡々と。
「質問にお答えしますと、あちらの彼が異世界からの転生者で、私は女神です」
「は?」
――――かつて。
無数に存在するパラレルワールド各所に、女神達は、才覚ある転生者を送り込んでいた。
世界の安定を保つ責務を負った〝女神〟という存在にとって、それが一番効果的な手法だった。
世界を救うために転生者を送る。ルーティーンのように機械的に繰り返し……やがて、女神達はとある問題に直面した。
資源の枯渇。つまり、〝才覚ある人間〟の不在である。
めぼしい才覚者の魂は全て送り出した。新たな掘り出し物にはなかなか出会えない。死後の魂を何千何万と面談して、ようやく一人見つかるかどうか。あまりにも、労力に合わない。
そんな女神社会で導き出された、一つの解答。
考え方をがらりと変えて問題解決を図ろうとして設立された、一つの会社があった。
「女神社会でも色々ありましてね。まるで才覚はありませんが、そこの彼、天野月影さんをこの世界の救世主たらしめるまでプロデュースするのが私の仕事ですので。株式会社俺TUEEE異世界エージェンシー所属、プロデューサー兼マネージャー、女神の銀杏です。以後お見知り置きを」
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