目的の王国

――まだ二人の言葉が届く、全ての人へ。
凪子
凪子

Ⅰ【敗戦の日】

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公開日時: 2021年9月14日(火) 20:41
文字数:507

――まだ二人の言葉が届く、全ての人へ。


雨と風はいっそう強く吹きすさび、雷鳴がとどろいていた。


少年は、大きな雨粒が窓枠にぶち当たって流れていくのを、うれいを帯びた目で眺めていた。


屋根をたたく雨は、寒気流かんきりゅうと混ざってあられとなるだろう。


勢いを増した河が増水しなければいいのだが……。


小さい粗末そまつな小屋だ。


少年の歩幅で十歩ぐらいの狭い部屋に、水道とかまどのついたキッチン。


丸太を切り崩して作った、粗い造りのテーブルと椅子。レンガで囲われた煙突に暖炉。


それにベッドが一つあるだけだった。


少年は椅子に腰かけると、分厚い皮の表紙の本をひもといた。


本といっても、市販されているものではない。


少年が生まれて間もないころから持たされていた歴史書だった。


少年の一族は、自分が生きた時代の全ての歴史を記録することを使命としていた。


そして、彼が知る今までの歴史は、こうである。


――少年の住む共和国『ニュートリノ』は、国土の狭い国だった。


国民は聡明で、輸入品からさまざまな製品を作り上げる技術を持ち、それらを世界中に輸出していた。


発明家も群を抜いて優秀で、活版印刷かっぱんいんさつや写真、ランプ、製糸機械など、画期的かっきてきな道具を次々と発明。


その成果もあって、『ニュートリノ』は世界有数の豊かさを誇るようになった。

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