――まだ二人の言葉が届く、全ての人へ。
雨と風はいっそう強く吹きすさび、雷鳴が轟いていた。
少年は、大きな雨粒が窓枠にぶち当たって流れていくのを、憂いを帯びた目で眺めていた。
屋根をたたく雨は、寒気流と混ざって霰となるだろう。
勢いを増した河が増水しなければいいのだが……。
小さい粗末な小屋だ。
少年の歩幅で十歩ぐらいの狭い部屋に、水道とかまどのついたキッチン。
丸太を切り崩して作った、粗い造りのテーブルと椅子。レンガで囲われた煙突に暖炉。
それにベッドが一つあるだけだった。
少年は椅子に腰かけると、分厚い皮の表紙の本をひもといた。
本といっても、市販されているものではない。
少年が生まれて間もないころから持たされていた歴史書だった。
少年の一族は、自分が生きた時代の全ての歴史を記録することを使命としていた。
そして、彼が知る今までの歴史は、こうである。
――少年の住む共和国『ニュートリノ』は、国土の狭い国だった。
国民は聡明で、輸入品からさまざまな製品を作り上げる技術を持ち、それらを世界中に輸出していた。
発明家も群を抜いて優秀で、活版印刷や写真、ランプ、製糸機械など、画期的な道具を次々と発明。
その成果もあって、『ニュートリノ』は世界有数の豊かさを誇るようになった。
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