目的の王国

――まだ二人の言葉が届く、全ての人へ。
凪子
凪子

10

公開日時: 2021年9月24日(金) 20:00
文字数:387

少女は金を要求しようと、小さな手のひらを差し出してくる。


少年は宥めるように手で空気を押さえつける仕草をした。


「まあ待てって。お前は誰だ?認識票にんしきひょうがないみたいだけど、どこの部隊の所属だ」


「あなたが知る必要はありません」


さらりと言い返される。


「それが命の恩人に対する態度かな」


「あら。助けてと頼んだ覚えはありませんけど」


小鳥のように首を傾げられ、少年は呆れて両手を広げた。


「分かった分かった。ともかく俺の話を聞け。信じたくないとは思うが、お前の国はニュートリノ共和国に占領されたんだよ。お前が帰るのは自由だが、今のこのこ戻っても捕虜ほりょにされるだけだぞ」


衝撃のあまり卒倒するか、泣きわめいて錯乱さくらんするかもしれない。


少年は身構えたが、少女は見当違けんとうちがいの事を言い出した。


簡素な男物の洋服をつまんで、


「この服……」


呟きに似た言葉だった。


少女がもともと着ていた軍服ではない、と言いたいのだろうか。

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