黙った彼に向かって、少女は矢継ぎ早に聞く。
「俺の『屋敷』と言ったわね」
一般的に、屋敷といえば大規模な住居を指す。彼は恵まれた状況にあると推察できる。
ではなぜ、こんな粗末な小屋に?
「あなたは一体」
「起きたばっかりであんまり頭を使うと、熱出すぞ」
着替えろよと言われ、少女はようやく全身が冷や汗でびっしょり濡れていたことに気づいた。
「出てくれる」
「今さら照れることないだろ」
少女が近くにあったコップを振りかざしたので、少年は逃げるように小屋を飛び出す。
あと一歩のところで、少年は不意に立ち止まって振り向いた。
妙に静かな声で、
「俺はフェイト・グロティウス。……お名前は?」
少女は一瞬の沈黙の後、凛と言った。
「ステラよ。ステラ=クライスト」
少し目を細め、フェイトは黙って小屋を出る。
太陽は真南にある。
霧は晴れ、辺りは柔らかな光に包まれていた。
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