目的の王国

――まだ二人の言葉が届く、全ての人へ。
凪子
凪子

18

公開日時: 2021年10月2日(土) 20:00
文字数:662






屋敷に戻ると、玄関にずらりと縦に並んだ召使めしつかいたちに出迎えられた。


「おかえりなさいませ、フェイト様」


一斉に声をそろえて言うので、屋敷中に響き渡るような音量だった。


ステラは空気の振動を肌で感じて驚いたが、フェイトはいかにも慣れた様子でひらひら手を振った。


「ただいま。親父いる?」


「アクシオン陥落かんらくに伴いまして、条約締結のため王城へおもむかれました」


深々と頭を下げた、古株らしい白髪の執事が言った。


「あ、そう。茶、淹れてくれる」


「かしこまりました」


ステラは自分に向けられる好奇こうきの目に気づいていないのか、物珍しそうに屋敷を見回している。


フェイトはステラについて一言も触れなかった。


ほっそりした二の腕を掴み、


「こっちだ」


表情は硬く、歩調が速い。とても自分の家でくつろいでいる様子には見えない。


ステラは慌ててフェイトの後を追った。


迷路のように入り組んだ廊下を案内され、通された部屋は上等な客室だった。


使われていた様子はないが、よく手入れされ、掃除されている。ピンクのベッドや壁紙は、明らかに女性向けのものだ。


「ここ、好きに使って。親父が帰ってきたら詳しいこと話すから。それと、お前の正体ばれるとまずいから気軽に誰とでも口聞くなよ。屋敷の中も歩き回らないほうがいい」


危険だからな、とフェイトは重々しく言った。


「金髪はニュートリノにはほとんどいない。うすうす勘づいている奴もいるだろうが……」


「そんなに簡単に殺されたりしないわ。ご心配なく」


ステラはベッドの柔らかさを確かめるために寝転がった。


「……緊張感のない奴だな」


呆れ顔でフェイトは扉を閉めた。

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