人に対して

Ad hominem
Kay.
Kay.

1シーズン

♯1 飛行機内の憂鬱

公開日時: 2022年3月19日(土) 02:44
更新日時: 2023年9月10日(日) 05:01
文字数:3,059

ある南アフリカのブルームフォンテーンの一角奥にあるオレンジ色の小さなハウス。そこは誰かが講演会をするためにできた建物だ。


中では男が一人話している。オレンジ色のスポットライトが男を明るく照らす。男は「映画」について話している。


え~僕が配給会社に入って任されたのが「人は見かけによらない」です。これは思い出が深い映画です。日本人映画監督である久木田くきた洵平しゅんぺいと連携して映画館に配給宣伝をしました。僕は宣伝業務の仕事もしてます。彼は日本よりも南ア暮しが長く、語学も長けています。そんな彼はこう言いました。「俺はこの映画を地味に最高になる作品にしたい」と言いました。当時、意味がわかりません。だって、地味な映画は誰も見ません。もっと爆発シーンやギャグシーンがあった方が面白いと思いませんか?


そこでこの話を聴くお客さんは笑いながら、頷く。たしかに派手な映画の方が見応えがある。


そうですよね? 僕も言いました、もっと凄い場面を作ろうよって。でも彼は頑固で、頑なにこの映画は地味にするって言い張りました。正直、なぜここまでこだわるのかわかりません。まあたしかに自分の作品なので、こだわる気持ちもわかります。そんなこんなで2人はいがみ合いになりますが、映画が出来てPV、あ、予告編完成して観たら、彼の言いたいことがわかりました。この映画は人間性や人間らしさを改めて考えさせられました。


この場を真剣に聴くお客さん。


この作品は大切な映画です。あえて地味にする事で味がでる、凄いんです。彼とは今は仲がいいです。ではでは今日はこの辺にします。明日も早いので。ありがとうございました!


と、ここでお客さんは大きな拍手でマサンに感謝を伝える。


ありがとう! どうも!


と、マサンは舞台から立ち去る。すると、裏にいくと裏口からバーに向かう。


そこである人に出会う。


やあ、マサンうけてたな! 来たかいがあったよ!


話しかけてきたのは友達のロンだ。この小柄な男性はこの公演場の小道具・大道具係として仕事をしている。今日はお客さんとして来ていた。このロズウェルで働いている。


ケープタウンからわざわざ来てくれてありがとうな!


いやいいんだ、今日の夜の便で帰るよ。


ケープタウンのほうはどうだ?


いいよ住みやすいし気候もいい。仕事もある。


ここだって仕事はあるぞ。でも大学卒業してフォートワースに行くんだもんな。羨ましいよ。


まあね、じゃあもう行くよ。飛行機が22時だからあと1時間だ。


わかった! またな! マサン!


ああ、またなロン。



マサンは今日ブルームフォンテーンに講演の出張に来ていた。


マサンはバーの扉を開けた。この会場はバーと一体化した会場で、バーから会場に向かえる。


会場を出ると、早速空港に向かう。空港までは歩いていける。10分ぐらいだ。その前に売店に寄って温かいコーヒーを買う。カフェラテMにする。


マサンは買ったコーヒーを飲みながら空港に向かった。


今日はやけに冷えるな。寒いのは苦手だ。


空港に入ると、チケットを女性に渡し、マサンは飛行機内に入る。あと20分で離陸だ。


飛行機の中は暖かった。これでゆっくり出来る。と、思ったら男性に声を掛けられる。


君そこは僕の席なんだが?


え? ああ、すみません。


マサンは1つ席を間違えていたようだ。マサンは真ん中の席だ。各々3席ずつある。


左隣はめちゃくちゃ美人。右の隣のやつはめちゃくちゃブサイクな太った男だった。



マサンの心情では「うわぁ…… ヤダな。一人はブサイクな男、でも左は美人。どっちも美人ならよかったのに。左手向いて寝よ」と、左向いて寝ることにした。


すると、その女性から声を掛けられる。


すみませんトイレ行ってもいいですか?


え? あ、いいですよ。


と、女性は立ち上がる。


すみませんと言いつつ席の前を渡り、トイレに行った。



まるでお人形さんのような可愛い子だ。何処の国の方なのだろうか。目は綺麗なブラウンに金髪だ。ポーランドぽい。


暫くすると、彼女は戻ってきて席に座る。


すかさずマサンは話しかけた。


君綺麗な瞳をしているね。


あら、ありがとう。


君はどこに?あ、ちょっとまって。


寝ていた右横の男がカクっと首がマサンの肩に当たっていたので、マサンは気持ちわりながら人差し指で彼を起こした。見つからないように。


男は起きると、首を戻す。


ごめんね。おれはマサンだ。君は?


私はサーニャ・グリシッチよ。


なるほど、ていうことはポーランド系ですか?


いえ、セルビア人よ。


あ! セルビアですか、いい国ですよね。仕事で1度行ったことあるよ。



へえ~どんな仕事してるの?


仕事? 仕事は、映画の配給宣伝会社のディレクターさ。


ディレクターなの!? 凄いわね!


と、そこにまたあの男が頭を当てて寝てくる。マサンの心情では「またかよ、このクソ野郎!」と思っていた。


ちょっとごめんね?


すると隣の男の頭を動かす。左から右に。


で、なんの話しだっけ?


マサンは笑顔で話す。


あなたの仕事についてよ。


そうだった。たまに各地で映画の裏側について講演してほしいって依頼が来るんだ。今日も講演してた。


なるほどね。普段はどんな映画みるの?


そうだね、交渉人とか。


交渉人? そんな映画があるの?


そう、シカゴ警察の交渉人の映画。


面白い?


面白いよ。今度みてみ…… 。


と、そこにまた寝ている隣の男が首をマサンの肩に落としてくる。男はグ~グ~と音をたてながら寝ている。


ごめんまた待ってて。


え、あ、うん。


マサンは隣の男にビンタを食らわした。


いて!!


と、痛がる。


おい!! お前はさっきからなんだ? え? おい、邪魔をするな! いまいい所なんだ、マジで邪魔するな!


と、その男に聴こえる声で耳元で怒る。もちろん女性には聴こえないように小さな声で声を張って怒った。


う、怒り心頭だな。わかった。すまない。


男は怒ったマサンを見て怖くなり、目を逸らしつつ謝った。



わかりゃいいんだよ。


そしてマサンは美女の方へ体を向ける。


待たせたね。


いいのよ、気持ちはわかるわ。同性の人が寝落ちんで首落としてくるの。


ああ、まあね。


あなた面白いわね! ところでさっきなにか言いかけなかった?


あ! そうだった!今度見てみるといいよ。そうだ、君はどこに行くの?


ケープタウンよ。


そうなのかい? 僕もケープタウンなんだ。そうだ、今度映画一緒にどう?


いいわね! 行きましょう!


すると、機内アナウンスが聴こえる。「ケープタウン国際空港に間もなく到着します」、そう聴こえた。


あ、もう着くね。連絡先あるかい? 書いておくよ、ここにいつでも連絡してくれ。


と、メモ帳に電話番号書いて渡す。


ありがとう、わかったわ。


マサンの心の中でガッツポーズ。それはもうよし!と拳を握って喜んでいた。


すると、飛行機は空港に到着。飛行機から降りて、出口に向かう。


マサンはサーニャと歩いていた。


出口でサーニャとは別れた。


じゃあ、また連絡するわね。


ありがとう! またね!


その場から去るサーニャの後ろ姿は女優のような綺麗な白い肌で惚れ惚れする。


マサンは出口である人を待っている。空港に友人が迎えにきてくれる。


そこから10分待つと、マサンの目の前に車が到着した。


やあマサン、ちょっと遅れた。


まったく、凍え死ぬところだった。


彼は友人のカーソン・スズマン。同じ配給会社で働く社員でもある。


マサンは乗ると、カーソンはさっそく車を走らせる。


車はレッドのローバー600の12モデルだ。


マサン仕事どうだった?


あ~その話は家に帰ってから話すよ、いい事があったからな。


そうか。


2人はとりあえず家に向かった。


そのあとマサンは先程の話をするようだ。あと男の話や女性の話を。






ー ♯1 飛行機内の憂鬱 ー つづく。

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