5times of Life

とある天才廃人ゲーマーの超鬼畜なライフ制異世界生活
井浦光斗
井浦光斗

第28話 次層への試練 前編

公開日時: 2020年10月2日(金) 23:06
文字数:3,498

  夕暮れ……真っ赤に染まった星がところどころ紫色に変色した野原を照らしている。

 野原には汚染された作物や果物が各所で実っている。さらに地面は色鮮やかな紅葉できれいに敷き詰められていた。

 様々な色が混じり合っていて小高い丘から見下ろすだけで目がチカチカしてくる。この風景を一言で表すならば極彩色の野原だろう。


 こんな気が狂った芸術家が描いたような世界を作り上げている場所は唯ひとつ、『四季の空洞』の裏ダンジョンに他ならない。今の時期は秋だから、このような景色となっているのだろう。

 恐らく表の方は、美しくて感動するような心地よい世界が広がっているのだろうが……残念ながらこちらは狂気や芸術を演出するのに精一杯のようだ。


 この第1階層に潜り始めてからすでに7ヶ月くらいが経過し、俺のレベルは11まで到達していた。しかし次の階層へとはまだ行けていない状況である。

 それもそのはず、なぜならダンジョン内部は俺が想像していたよりも遥かに広かったのだ。恐らくこの階層だけでも街ひとつはすっぽりと収まる程度には広いだろう。

 そんな中から次の階層へとつながる場所を探し出さなければならないのだ……。砂浜に落としたひとつの米粒を探すのと等しいくらいの労力を要すのは、想像せずとも明らかだ。


  ただお父さんのクリフト曰く、その場所を特定するヒントは幾つかあるらしい。


  まず魔物の生態系や強さ、これが個人的に最も分かりやすいヒントだろう。

  次層へと近づくと生息する魔物の種類も変わり、強くなる。そのため階層内における魔物の生息域を把握すればある程度場所を予測できるのだ。


  次に緑の転移キューブだ。

  そもそも緑の転移キューブとは、ダンジョンには入り口の赤い奴とは別種のもので階層各地に点在している。そしてそれを使うと、同一階層内の他の緑キューブへと転移できるのだ。

  ゲームでいうステージごとのチェックポイント、と表すのが一番しっくり来るだろうか。実際、緑キューブさえ見つけてしまえば入口付近にあるキューブへと転移してダンジョンを脱出できる。

  ただこのキューブを使って転移する際は、転移先の風景や地形を思い浮かべなければいけない。よって必然的に一度は見たり、触ったりしたことのあるキューブでなければ転移先として利用はできないだろう。


  そんな緑キューブだが……クリフトによると次層へと続く場所の近くには必ず存在するらしい。

  だから緑キューブを見つけたらまず辺りを探索して地形をメモする。それがルーティーンとなりつつあった。


 最後に階層主の存在、これはヒントというよりダンジョンの仕組みそのものだな。

 ゲームにはありがちなことだが、この世界のダンジョンにも階層主ボスと呼ばれるひときわ強い魔物がいる。そしてその魔物は決まって階層と階層を繋げる異空間、通称ボス部屋と呼ばれる場所に門番のごとく鎮座して訪れる冒険者をひたすら待っているという。

 さらにボス部屋へと足を踏み入れるには、階層内にある転移キューブとはまた違ったマナポータルなるものを使わなければならないらしい。つまりそれを見つけて、ボスさえ倒せれば……次層へと行けるのだ。


 これら3つの基礎さえ知っておけばあとは探索するのみ、それがクリフトのアドバイスだった。


 俺がダンジョン探索をしていると勘付かれずにこの情報を仕入れるのは、少し骨が折れたな。ダンジョンに興味津々な息子を演じれば案外上手くいったけれど。

 だがその過程で「今のうち勉強しておくといいぞ!」とクリフトから魔物図鑑をプレゼントされたのは予想外の収穫だった。前世でも見たことのない魔物と対面して、落ち着いていられるのも、これのおかげだ。



「さて、次層への入り口となるマナポータル探し、再開しますか」


 のんびりと夕暮れを見上げながら休憩していた俺は立ち上がると、狩人装束についた木の葉やほこりを払った。

 今日やるべきことは、昨日発見した13個目となる緑キューブの付近にポータルがあるかを確認することだ。

 いい加減、そろそろ見つかって欲しいのだが……こういう時に限って祈れば祈るほど見つからなくなる。いわゆるフラグ論という奴だ。


 ちなみにこの辺りに生息する魔物種はすでに頭の中にインプットされている。

 代表例をあげるならば……いま俺の目の前にいるホイップマンと収穫精ハーベニストがふさわしそうだな。


「これはこれは……、準備運動にはもってこいの相手じゃないか」


 俺は静かにほくそ笑むと慣れた手つきでアイザックの弾倉に魔弾をこめ、肺に溜まった息を吐き出して二体の敵を見据えた。


 ホイップマン――このダンジョン『四季の空洞』のみに生息する魔物だ。身体が真っ白な美味しいホイップクリームで出来ていて、常に浮遊していることで有名なのだ。

 現にダンジョン街クロスシーズンの特産品として、この魔物のクリームを使ったホイップマンケーキというお菓子が売り出されている。

 俺も何度か食べたことがあるが、あのケーキの美味しさは本当に格別だ。あんなものを毎日食べたら中毒症状を起こしてしまいそうだよ……。


 そんなお菓子モンスターのホイップマンだが、実はとても臆病。たとえ人間とバッタリ出会っても、襲いかかってくるどころか、ホイップクリーム投げながら逃げていくのだ。

 だからもし遭遇しても無理に手出ししなければ、とても安全な魔物である。


 ただ……これは表ダンジョンでのお話。残念ながら俺の目の前にいるのは、チョコレートのような色のクリームから紫の魔水晶を数本生やした超好戦的な変異体だ。

 見た目からは考えられないが奴らは敵を見つけ次第、ホイップクリームを呼吸器官に詰まらせて息の根を止めてから、体内に取り込もうとしてくる。まるで臆病なんて言葉を知らないかのようにな。


 収穫精ハーベニストに関しても同様だ。

 コイツは作物を勝手に収穫して持っていってしまういたずら好きな妖精だが、基本的には「秋だよー」「豊作だよー」「収穫、収穫ー」など喋っているだけで人間を襲うような魔物ではない。

 しかし変異体になった途端、「シュウカク、シュウカクゥ――ッ!」と叫びながら人間の命を“収穫”しようと襲いかかってくる。


 もとの種が安全だろうが中立だろうが、凶暴で残虐な性格となる。それこそが魔物の変異なのだ。


「アハハハ、シュウカクゥ――ッ!!」


 意味のわからない言葉を叫びながら突撃してくる狂人の収穫精ハーベニストと、ホイップクリームをマシンガンのごとく打ち出してくるホイップマン。

 この組み合わせの戦闘は過去に4回あったはずだ。そしていずれも同じ戦術で対処している。


 俺はホイップクリームが顔面につかないよう注意しながら身体を反らして、収穫精ハーベニストの突進を回避する。さらにその不安定な体勢ながらも奴の頭に狙いを定めて発砲した。


 不意に、妖精の口から断末魔の叫び声が上がった。

 それもそのはず、なぜなら妖精の頭は魔弾に撃ち抜かれると同時に発火し、激しく燃えたのだから。


 念には念を入れてもう一発、収穫精ハーベニストに火炎弾を撃ち込み全身黒焦げになるほど燃え上がらせた。


 まずは一体、だがここで少しでも油断してはならない。

 身を翻すとすでにホイップマンは茶色のクリームを空中に幾つも生み出し、それを俺にけしかけてきた。


「例の追尾クリームだな?」


 敵の呼吸を止めるために放たれた甘いクリームの弾。

 あれがまるまるひとつ顔面につきでもしたら……考えるだけでもゾッとする。


 その殺人クリームが徐々に近づいて来たところで俺は全身に力を入れると、地面に銃口を向けたそ。これはあれだな、3歳になってすぐに習得した新たな属性弾――突風弾の出番だ。


 躊躇なく引き金を引き、俺はその魔弾を地面に撃ち込む。すると一瞬だけ強い上昇気流が発生したのだ。

 俺は地面を蹴るとその気流に乗って高く跳躍、クリームの軍勢を軽々と飛び越えるとそのまま司令官であるホイップマンの脳天にかかとを振り下ろした。


 ゼリーのような感触とともにホイップマンはグチャリと潰れる。そしてそのまま地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなってしまったのだった。


「一応、一発撃っておくか」


 トドメの魔弾をホイップマンの死体に撃ち、戦闘は終了した。

 今回は手間取ることなく鮮やかに倒せて何よりだ。これも成長した証、といったところか。


 さてと、せっかくホイップマンを倒したのだから奴のクリームでも味わってから行こうかな。

 そう思って、その場にしゃがもうとしたその時、俺は地面に摩訶不思議な模様が描かれていることに気づいたのだった。


「……ん、なんだこれ?」


 心臓が高鳴るのを感じつつ、その模様を視線でゆっくりとたどる。

 次の瞬間、俺の視界に入ってきたのは――黒い八本の柱と台座からなる怪しげな建造物だった。

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