5times of Life

とある天才廃人ゲーマーの超鬼畜なライフ制異世界生活
井浦光斗
井浦光斗

第27話 命がけの勇者ごっこ 後編

公開日時: 2020年9月30日(水) 22:06
更新日時: 2020年10月1日(木) 07:56
文字数:3,350

  カラッとした夏の暑さに涼しさをもたらしてくれるそよ風が吹き、青々と茂った木々の葉はサワサワと心地よい音を鳴らす。

 癒やされる環境音に満ちた森の中で、俺とソニファは刃の部分が丸く削られた木の剣を互いに構え、対峙していた。


「じゃあ、やろー! わたしがゆうしゃで、ゼッタがまおうねー」

「はいはい、わかりましたよ」


 俺はやれやれと肩をすくめると、息を静かに吐き出してソニファの幼い姿をしっかりと見据えた。

 陽の光を受けて輝く金髪に燃え上がるように勇猛で曇りひとつない金赤きんあかの双眸、佇まいはとても可憐であどけなく、剣を振り下ろせばたちまち壊れてしまいそうなほどだ。

 しかし……現実はその真逆、目の前にいる幼女は紛れもない戦闘民族。心の底から戦いを好む狂人である。


「われはゆうしゃソニファ、きさまをたおすべくこのちにまいった。いざじんじょうにしょうぶ!」


 なにかのセリフを暗唱しているのかソニファは剣を片手で振り上げると、胸を張って高らかに宣言した。

 今までは「ゆうしゃだぞー」みたいなことを叫びながら襲いかかってきたが、どうやら礼節をわきまえることの重要さをようやく理解したらしい。

 それならば好都合、秘策として持ち込んだ俺の黒歴史を今こそ君の前で披露して――


「やぁ――ッ!」

「ちょっ、ちょっと待てぇ!」


 俺の名乗りを完全に無視したソニファは、満面の笑顔で肉薄すると軽いステップで飛び上がり、上段から木の剣を振り下ろしてきたのだ。

 剣のといに手を添え、彼女の斬撃を受け止めると、3歳児とは思えない重量が一気にのしかかってくる。

 これを受け止められる俺も大概なのだが……俺は毎日訓練を欠かさずしている身、同世代の幼女に力量で負けるつもりはない。とはいえそれも僅差、辛うじてもいいところだった。


「どうしたの、ゼッタ? バシバシしようよ」

「ちゃんと順序をわきまえようって。君は今、勇者だって名乗っただろ、だったら僕にもなにか名乗らせてくれよ」

「……そっか! まおうもじぶんのなまえ、いうもんね。ごめんね、ゼッタ!」


 こういうところはすごい素直で、いい子なんだけどなぁ。

 俺は頭をかきながら木の剣を下ろし、肩の力を抜くと深呼吸をする。そして長年封印してきた禁断のスイッチをカチリと脳内で鳴らしてしまったのだった。


「ククク……、クァッハハハハハハハ!!」

「……ゼッタ、どうしたの?」


 いきなり気色の悪い笑い声をあげた俺を見て、目をまたたかせたソニファは怪訝そうに小首をかしげる。

 だがもう遅い、こうなってしまった以上俺を止める手段は他に存在しないだろう。

 俺は木の剣を大きく薙ぎ払い、剣先をソニファに向けると歪んだ笑みを浮かべて名乗りを上げる。


「我は魔を統べるものにして魔王にあらず。我の名はシュバルツ=カッヅェ、天よりこの地に舞い降りし片翼の堕天使なり!」

「しゅ、しゅばら……?」

「シュバルツ=カッヅェだ! 勇者ソニファよ、汝は我を打ち倒しにここへと参ったのか? ならば無駄足だったな。汝の今の力では我を打ち倒すこと、いやその剣を我の身体に当てることすら不可能だ!」

「……ッ! そ、そんなことないもんっ、ゆうしゃはつよいんだよ!」

「そうか、ならばこの地でハッキリとさせようではないか。我の存在が汝などに汚されぬことをなぁ!」


 完全に厨二病モードへと移行してしまった俺は、お返しと言わんばかりに距離を詰め、彼女の斜め前方から流れるように斬撃を放つ。

 慌ててソニファは片手で握る剣でそれを受け止めるが……その直後、剣の刃が滑り、それに連なって体勢を崩してしまった。

 そのよろめいた隙に、俺は腰を低くして彼女の懐へと滑り込むとお腹に木の剣を叩きつけた。


「……うぁっ」


 短い悲鳴を上げたソニファは目を見開き、そのまま激しい尻もちをつく。

 そして剣先を彼女の喉元に突きつけると、俺は口角をくいっと上げて怪しげな含み笑いを唇の隙間から漏らした。


「どうだぁ? 勇者ソニファよ、口ほどにもないではないか」


 普通の3歳児相手にこんなこと言ったら、いつ泣き出してもおかしくないだろうな。

 けれど俺には分かっている。この程度のことで生まれながら戦闘民族の彼女がへこたれるはずがないと……。


「なにをー、まだまだぁー!」

「うぉぁっ!?」


  ソニファは俺の剣を素手で弾くと、その場で身を起こし、再び綺麗な弧を描いた斬撃を繰り出し始める。

  剣士や騎士の試合では普通、剣を突きつけられ、詰みの状態に追い詰められたらそこで仕切り直しだ。

  しかし、彼女がそんなことを気にするわけがない。マナーをまだ知らぬ彼女は、ただ無邪気に楽しそうに剣を振るってくるのだ。


  ――これが3歳児の実力なのかよ。


  そう呆れてしまうほどに彼女の攻撃は凄まじかった。

  これでも俺は前世の知識や経験をフル活用し、ソニファの動きや立ち回りを予測しながら木剣を振っている。出来るだけソニファが体勢を崩すように、渾身こんしんの剣撃を出させないように工夫して動いているのだ。


 「はぁ、はぁ……」

 「どうした、まさかもう疲れたなどと抜かすのではないだろうな?」

 「ううん……。しんこきゅう、してたのっ」


  俺の挑発にわかりやすく頬を膨らましたソニファは、両手で剣を握りしめると袈裟けさ斬りの要領で斜め下へとその場で剣を振り下ろす。

  すると、淡く白い輝きをまとった衝撃波が剣先が描いた軌跡から発射されたのだ。


 「はぁ……!?」


  思わず素の声を上げてしまった俺はとっさに横へと転がり、その魔法のような衝撃波を回避する。

  あれは……間違いない。『四季の空洞』裏ダンジョンに生息する鎌ゴブリンが放ってきた遠隔攻撃とほぼ同じだ。


 「やぁっ、はぁっ!」


  感覚を掴んだのか彼女は次々と衝撃波を俺へ向かって射出する。

  背後から押し寄せる空気とマナの塊、俺は転がるようにそれを躱しつつ、タイミングを見計らってソニファとの間合いを詰めていく。

  まさか、早くも習得したっていうのか? どんだけ才能に恵まれてるんだよ!

  流石に威力はゴブリン劣るとはいえ、遠隔攻撃があるのとないのとでは大違いだ。それに俺があの衝撃波をまともに食らえば当然ライフは削れるだろうな。


  だが実を言うとこちらにも、一度だけ使える遠隔攻撃はある。

  その上この状況なら、ソニファの隙を見計らってそれを打ち込めば……容易に彼女を詰ませられるだろう。


「やるではないか、勇者よ! だが――」


 呼吸を止め、全神経を標的であるソニファへと集中させる。

 そして力を込めながら右腕を大きく振り上げると、握りしめていた木の剣を――投げた。

 もう一度言おう。振り下ろしたのではなく、投げたのだ。


 木の剣は俺の手を離れると、美しい円を描きながら虚空を飛んでいった。

 空を切りながら鋭く回転……そして回る剣の刃は木の剣を握りしめるソニファの手首に打ち付けられ、彼女は驚きと痛みから反射的に剣を手放した。


 刹那、俺は彼女へと肉薄する。空に投げ出された彼女の剣を逆手に掴み、勢いよくソニファを押し倒して改めて剣先を彼女の喉元に突きつけたのだった。


「まだ甘い、出直してくるんだな」


 なにが起きたのか把握できていなかったのか、彼女は目をパチクリとさせる。

 そして剣を彼女の喉から離すと、彼女は仰向けのまま屈託のない笑顔で言ったのだった。


「えへへ、まけちゃった」




 それから10分毎に休憩しながら1時間ほど剣戟を続け、へとへとになった俺たちはお互い木の幹に寄り添って休んでいた。


「ゼッタはつよいね、きょうもかてなかったよー」

「でも、ソニファも凄かったよ。まさか、遠くから衝撃波で斬ってくるなんてさ」

「えへへっ、きづいたらできるようになってたんだー。かっこよかったでしょ?」

「うん、そりゃもう僕も冷や汗をかくくらいにはね」


 実際、あれに当たったら俺の命に関わっていただろうからな。

 そんな技を遊びで使ってくるなと言いたいところだが……彼女自身、まだ力を制御できていないのだろう。

 そしてそれを注意したり指導したりするのは、バイルさんやマーレさんの仕事。俺の出る幕ではない。


「はぁ、たのしかったぁ……またやろーね! えっと、だてんしシュラバ=カルビさん!」

「シュバルツ=カッヅェだ!」


 なんだよシュラバ=カルビって、命がけでカルビの取り合いでもするのかよ。

 俺はソニファの言い間違いに苦笑しつつも、再び勇者ごっこで遊ぶことを約束したのだった。

投稿が遅くなって申し訳ありませんでした。

投稿していない間にも沢山のポイントやブックマーク、本当にありがとうございます。もう感謝しかありません!

次回はついに裏ダンジョン第1階層攻略です、お楽しみに……。

 

それではまた次回、

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