5times of Life

とある天才廃人ゲーマーの超鬼畜なライフ制異世界生活
井浦光斗
井浦光斗

第21話 NEXT STAGE

公開日時: 2020年9月13日(日) 01:41
更新日時: 2020年9月27日(日) 16:43
文字数:3,478

投稿予定時刻、遅れて申し訳ありません……。

「いやぁ、凄いじゃないか、ゼッタ!」


 スライムの死体が動かなくなり、魔石の回収を済ませたところでクリフトは俺の頭を撫で回した。

 一瞬、俺を恐れるような目をしたために思わず身構えてしまったが……、俺の取り越し苦労だったようだ。


 そもそもよく考えてみれば、普通の人なら誰だってそんな反応をするだろう。

 だって見た目が2歳のまだ赤ん坊と言っても過言ではない子供が、スライムと戦って勝利するんだぞ? 普段の俺を知らない人たちは下手したら腰を抜かすかもしれない。

 魔物と戦いたい衝動を抑えられなかったとはいえ、もう少し自重したほうが良かっただろうな。クリフトの前だったから良かったものの、他の人が俺の両親と同じ反応をするとは限らないからな。


「2歳で初めてのスライム討伐……まさかパパよりも2年も早いなんてな」


 おん……?

 パパよりも2年早いということは、つまりクリフトは4歳の時にスライムを初めて倒したということだ。

 俺からしてみれば……それでも十分に早い思うのだが、気のせいか? いや、気のせいじゃないな。きっとクリフトは4歳の頃から脳筋だったのだろう。

 でなければ2歳違うとはいえ、ステータスが解禁された1歳からかなりの効率でステータスを成長させてきた俺に追いつくわけがないだろう。


 待てよ? そもそもクリフトが俺のように難易度エクストリームの状態で生活しているとは限らないし……難易度ノーマルなら普通の生活をしていても成長速度からしてあり得なくはなさそうだ。

 となると、活発な男の子なら案外普通のことなのかもしれない。疑って悪かった、お父さん。


「村で一番早かったパパよりも遥かに早いってことは、ゼッタには天性の素質があるってことだ。いっそのこと、本当に一流の冒険者を目指してもいいかもしれないぞ? ハッハッハ!」


 前言撤回、やはりクリフトは幼い頃から脳筋だったのだ。


 仮に他の人の難易度が全てノーマルだったとしても、ステータスの存在を把握していなければ意図的に鍛えるのはかなり難しい。

 現に俺はクリフトやミラの口からステータスの言葉を全くと言ってもいいほど聞かない。

 こそこそとレベルや職業の話をしているところはたまに目撃するが……それは飽くまでも俺に聞こえていないことを前提だ。


 ある時までステータスを子供には知られてはならない。きっとそんな風習が世間に広まっているのだろう。

 そのある時が何なのかは、残念ながら検討もつかないけど。


「いやぁ、いいものが見れた! ゼッタを連れてきて正解だったな」

「ねぇ、パパ。お家にはいつ帰る予定なの?」

「そうだな。もう少し魔物を狩って魔石を集めたらにしようか。ミラがポーション作りに使う魔石もできるだけ集めておきたいところだ」

「うん、分かった。僕もスライムもっと倒したいな」

「ハッハッハ! 初めて倒せて自信がついたか? ……だけど、無理はするなよ。魔物は子供だろうと容赦なく攻撃してくるからな。危なかったら、ちゃんとパパを呼ぶんだぞ」

「分かった、気をつけるよ」


 柔和な笑みを浮かべてうなずいた俺は、一旦クリフトの後ろに下がると懐からステータスキューブを取り出したのだった。

 俺の予想が正しければ、魔物を倒したことで経験値を得られていると思うんだが……どうだろうか。

 若干期待しつつ、俺はステータス画面を起動して経験値の欄に目をやった。


 そして――そこで俺は初めて思い知った。難易度エクストリームの本当の恐ろしさを。



【経験値】    2/1000



(……マジか)


 心のなかでそう呟きながら、俺はまじまじと初めて変動した経験値を見つめる。


 確かに難易度エクストリームを選んだ時点でこうなることは覚悟していた。

 けれど今までの経験上、筋トレや走り込み、魔法の練習など毎日ある程度の反復作業をしていれば、案外ステータスそのものを成長させるのは簡単かもしれないと思っていたのだ。

 だから、経験値に関してもそうなのだろうと……勝手に思い込んでいた。


 けれど実際はそんなことなかった。

 しっかりと計画的に魔物を討伐していかなければ、いつまで経っても強くなれない。

 適当に狩っていればいつかレベルが上っているだろう――などという甘い考えは捨てなければならない。


(レベル2になるにはあとスライム499体……か)


 鬼畜だ、あまりにも鬼畜すぎる。

 けれどそれで構わない。なぜならこれこそが俺の求めていた真の鬼畜に匹敵する難易度なのだから。


 ようやくだ。ここに来てようやく面白くなってきた……。

 やってやろうじゃないか。例え1000体だろうと10000体だろうと倒してやる、そして経験値が10倍でも他の皆に遅れを取ることなく成長できることを証明してやろうじゃないか。

 魔物共、せいぜい震え上がって待ってるといい。俺の銃弾で経験値に変えてやるからな。


 クリフトの後ろにピッタリとついて行きながら、俺は不敵な笑みを浮かべて微かな声を漏らす。

 これからの毎日が楽しみで仕方ない。俺を存分に満たしてくれることを祈っているからな。



 

 それから俺とクリフトはダンジョンで軽い狩りをしたあと、袋いっぱいの魔石を持って帰路についた。

 家につくやいなや、クリフトは早速俺が一人でスライムを討伐したことをミラに自慢。一方、ミラは「危ないって言ったでしょ」などと言って俺を少しだけ叱った。


 話を聞く限りだと魔物は人間の命を狙う生物だと、俺にしっかりと分かって欲しかったらしい……。

 ミラはそれだけ俺を心配してくれているのだろう、でなければあそこまで真剣な表情にはならない。

 けれどその一方で、スライムを倒したことに関しては叱ったあとに素直に褒めてくれた。そんなメリハリのある姿からはやはり、ミラの寛容さが垣間見える。


 かくして、俺の初のダンジョン探索は無事終わったわけだが……悠長にその思い出に浸っている場合ではない。

 まず新たに直面した大きな課題――経験値問題。

 あれからクリフトの指導のもと、ゴブリンやコボルトも討伐できたのだが、得られた経験値は1~3だった。

 しかも魔物の種類ごとに得られる経験値は決まっていなかった。決まっているとしても範囲のみだ。


 今日遭遇したゴブリン・コボルト・スライムはどれも同じくらいの経験値を落とした。

 つまり、現状ではこの三体のうちどれが最も倒しやすいか、あるいはどれが最も広く生息しているかを考え、その魔物を重点的に狩るのが一番効率が良いと言えるだろう。

 無差別に戦っても問題はないのだろうが……その場合、パターン化が難しくなってしまう。


 そして大量の魔物を狩ることになると……やはり消費マナの量も問題になってくる。

 本来なら成長速度を伸ばしたくて始めたポーション作成だったが、マナ回復ポーションも視野に入れたほうがいいかもしれない。


 それと銃以外の近接武術も習得しておくべきだろう。マナがなくなり、銃が撃てなくなって戦えなくなるようではライフ5で生き残るなんて不可能に近いだろうからな。


 課題はまだまだ沢山あるな。

 けれど、焦ってはいけない――ひとつずつ着実に進んでいこう。


「さてと……まずは『調合』を成功させないとっ」


 せっかく、クリフトが気を利かせて気分転換させてくれたのだ。

 その感謝の意を込めて、俺は必ず『調合』を成功させてみせる。


(想像するんだ。『調合』する瞬間を、エッセンスとエッセンスが互いに混ざり合って力を引き出す瞬間を!)


 忘れることのない過去にあった様々な情景を頭の中に並べていく。

 その過程でふと、俺はスライムが硬直して雪の上に広がっていくイメージが脳裏に浮かんだ。

 初めて魔物を討伐した瞬間、スライムが形を保てなくなって溶けた瞬間、達成感と同時に儚さを

抱いたことを思い起こした。


(って、そんなことを考えている場合では――えっ?)


 ふと薬釜を覗くと、中から淡い紫色の光が溢れ出ていた。

 エッセンス同士が混ざり合って濁った何かではない、そこにあったのは毎日飲んでいる果物ポーションと酷似した、まぎれもない魔法の液体。


(おいおい、嘘だろ……?)


 直様、ステータスを起動してスキル一覧を確認すると、そこには【調合】の二文字が新たに記されていた。そう、俺はついに成功したのだ……ポーションの【調合】に。


「やった……。やったぁ! やったよ、ママ!」


 この時の俺は年甲斐もなく、まるで本当の2歳児のように全力ではしゃいだのだった。


 それもそうさ、だって数ヶ月間ずっと失敗し続けていた魔法がようやく成功したのだから。

 ダンジョンのスライムを討伐したことによって……。



 ちなみにその後、俺は自分の作ったポーションを飲んでみたのだが、劇物のごとく不味かったのは言うまでもないだろう。

どうも、井浦光斗です。

投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。あと1週間から2週間ほど私生活が忙しい時期が続くので、この期間は特に投稿期間があいてしまうことが多々あるかもしれませんが、ご了承下さい。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート