有用なポーション自作を新たな目標とした俺はその日からお母さんミラのポーション作りをかたわらで観察することにした。
こればかりは実際の工程を見なければ習得はできないだろう、百聞は一見にしかずだ。
ちなみにミラに1人だと寂しいと伝えると、騒がなければアトリエにいてもいいと許可をもらえた。
本当に優しくて子供思いな母親だよ。親バカなんじゃないかと思ってしまうほどに。
彼女のご飯を食べるたびに母の優しさを感じ、彼女に抱きしめられるたびに母の愛情を受け取った。
恋愛感情は全く持ってないのだが、俺はミラが母親として大好きだった。
前世では感じることのなかった温かな気持ち、充足感とでも言えばいいのだろうか。
(ここまで家庭の幸せで満たされたことって……なかったよな)
いくら鬼畜ゲームをやっても満たされなかったのはそういう理由もあったのかもしれない。
いや……それとこれは別の話だ、どう考えたって。
俺は絵本を読むふりをしながら薬草を丁寧にすりつぶしているミラの背中を静かに見つめていた。
この恩を返せるのは一体いつになるんだろうな。
けれどいつか絶対にこの感謝は伝えたい、それが今まで孤高を気取っていた俺としてのケジメでもある。
(って、いつまでも物思いにふけってたらいけないな。ポーションの作り方をしっかりと学んでいかないと)
ここ数日間、観察したことで分かった工程を俺は手帳をみながら改めて確認する。
まず、ポーション作成は大きく分けて二段階の工程となっている。
ひとつは薬草をすりつぶして窯でグツグツと煮込み、輝く液体を作る工程。
もうひとつは数種類の輝く液体を混ぜ合わしてポーションを作る工程。
簡潔にまとめるとこんな感じだ。これはみるからに錬金術の類だな。
そして前者にしろ後者にしろ、ある程度その筋の理論が分かっていないとできなさそうな工程だ。
特に前者については、薬草を煮込んでいる最中になにやら魔法を使っているらしく、少なくとも前世の知識だけでは絶対に解決できないだろう。
(魔法を使っているということは……もしかしたらスキルも関わってくるかもしれない)
「ママー、トイレ行ってくるー」
「あら行ってらっしゃい。ひとりでもできる?」
「うん!」
便器によじ登るのは中々にしんどいが、親にトイレをするところを見られるのも恥ずかしいからな。
というかそもそも俺は本当にトイレに行くわけではない。
ステータスのある部分を確認するためにキューブを取りに行くだけだ。
(ステータスもある程度理解できたことだし、そろそろスキルに手を出しても大丈夫のはず……)
俺はキューブをゆっくりと回し、ステータスを次のページへと移す。
1ヶ月間、全く目を通してこなかったがそのスキル一覧には見慣れたような文字が並んでいる。
《通常スキル一覧》
【魔法発動】 1.00 《250%》
【罠解除】 1.00 《250%》
【射撃】 1.00 《250%》
【※※※※※】 1.00
《魔法スキル一覧》
【魔弾生成】 1.00 《250%》
【魔弾発射】 1.00 《250%》
ゲームのスキル一覧としてはよくありそうな画面だが、普通と違う点が2つほど。
ひとつはスキルレベルと思われる値には小数点以下も存在すること、もうひとつはスキルにも成長速度が存在することである。ちなみに今現在の成長速度は250%で頭打ちとなっているが、初めにこの画面を見た時はちゃんと100%だった。
多くのゲームではスキルは特殊な能力や技能として描かれているが、それはこの世界でも同じらしい。
現に魔法発動がスキルとして組み込まれているのだからな。
スキルの効果が名前の通りなのであれば、魔法発動というのは魔法を発動させるスキルとなるだろう。
つまり工程で魔法が必要となるポーション作成において、このスキルは大きく関わってくるかもしれない。
そうなると、やはりそろそろスキルについても検証していく必要がありそうだ。
そう、ついに魔法の修行に手を出す時が来たのだァッ!
魔法――それはファンタジーの醍醐味であり、代名詞でもある夢とロマンの結晶体!
これを極めずにしてファンタジーを制したとはいえないだろう。
そして魔法銃師という職業を極め、この世界の鬼畜ダンジョンを攻略するためにも俺はこの魔法修行の道を歩む。
その道の先にある非科学的現象が織りなす世界へと足を踏み入れるためにもなぁ!
それと……ひとつだけ伏せられているスキルの存在も気になる。
このスキルだけ成長速度が表示されていないのは何かのバグなのだろうか? もしかしたらコイツだけ普通のスキルとはなにか違う特徴があるのかもしれない。
(クククッ、これからの修行が楽しみでたまらないぜ!)
1歳らしからぬ含み笑いをもらした俺はステータスキューブをしまうとミラがポーションを作っているアトリエへと戻った。
明日からの計画を立てるためにも今は冷静に考察する時間が欲しい。
それにミラの近くにいるとなんとなく落ち着くからな。
「ゼッタ、トイレは大丈夫だった?」
「うん、ちゃんとできた!」
「そっかぁ、ゼッタはお利口さんねぇ」
そう言ってミラは俺の頭を優しくなでてくれた。
子供の成長を喜んでいるのか、彼女の顔は普段よりもにこやかだ。
「それじゃあ、ママは今の仕事をすぐに終わらせちゃうから、もうちょっとだけ待っててね」
「うん、わかった」
俺は小さな丸イスに座ると所狭しと並ぶ錬金器具をながめながらうなずいた。
それにしても前世では見たことのない形状をしたものばかりだな、魔法を効率的に作用させるためなのだろうか。
「あ、ねぇゼッタ。今度、バイルさんのお家でお茶会をすることになったの。あなたのお友達とも会えるかもしれないわよー」
「おともだち……?」
バイルさんって、たしか隣に住んでいる父の同僚だったな。
お父さんのクリフト曰くバイルさんとは長年の冒険者仲間だったとかなんとか……それで狩人として定住した今でも家族ぐるみの付き合いがあるそうだ。
そしてミラやクリフトの話によると、俺と同い年である1歳の娘がいるらしい。
「そうよ。これから長い付き合いになるかもしれないから、ちゃんとあいさつしてねー」
「わかった!」
俺は小さな手を上げてしっかりと返事をしたのだった。
同い年の子、つまり幼馴染か……。
前世ではあまりいい思い出はなかったが、仲良くしておいて悪いことはないだろうな。
どうも、井浦光斗です。
今日はまだまだ投稿したいと思います、投稿できるほどのスタックはまだあるので……。
自分が力になっているかは分かりませんが、少しでも楽しんで過ごしてくれる人が増えれば幸いです。
私はここまで読んでくれた貴方がたにありがとうの気持ちでいっぱいなのです。
ではいつも通りの展開で締めくくりましょう。
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