※第10話~第13話において一部ステータスの数値に調整を加えました。また前話にてスキル一覧に【投擲】を追加し、それに関する説明を追加しました。急な変更、大変申し訳ありません。
夏のカラッとした暑さに晒されて全身が少しだけ汗ばむ。
ふと一枚の葉っぱが風に撫でられて、枝のもとを離れた。それはひらひらと虚空を舞いながら、ゆっくりと地面へ吸い寄せられていく。
深呼吸――そして息を止めると、俺はその銀色に光る銃を両手でしっかりと握りしめ、木の幹に狙いを定めた。
本物の銃を握るのは久しぶりだ、最後に握ったのは確か一人旅でハワイへと立ち寄った時だったはず。
あの時はゲームの世界では絶対に味わえない爽快感を味わいたくて、インストラクターの指示に従いながら引き金を引いたっけ……。
これ以上の雑念は要らない、あとは撃つだけだ。
口の中に溜まったつばを飲み込み、俺は引き金を引いた。
次の瞬間、軽く弾けるような音が響き、予想以上に重い反動が右腕に襲いかかってくる。
そして銃口から放たれた輝く弾丸は、しばらく空を切って進むと突如として弾けた。それはまるで星屑のように散らばったかと思うと、エネルギーの奔流となり木の幹に衝突。
気がついたころには幹の表皮はあっという間に削れ、内部が見えるくらい抉られていたのだ。
魔法の銃の威力を目の当たりにした俺は驚きと感動に支配され、何も言うことが出来ずにただその場所に突っ立っていた。そして静かにほくそ笑んで、抉れた木の幹をジッと眺め続けた。
歓喜なのだろうか、あるいは恐怖なのだろうか、俺の両腕はいつまでも震えていた。震えていたのだが、それでも銃を握り直すと先ほどとは少し上を狙ってまた引き金を引いた。
それから5回ほど引き金を引き、俺は弾倉に入れた魔弾全てを撃ち切った。
的とする場所を1回ずつ変えたため、木の幹がぽっきりと折れて倒れるなんてことはなかったが……このまま撃ち続けたら危ないだろうな。標的はそこの辺りにでもある岩にでも変えるとしよう。
「消費したマナは6……ということは撃ち出すのにマナは使っていないのか?」
しかし、確か魔法スキル一覧に【魔弾発射】があったはずだ。
だからマナを消費する行為でもおかしくはないのだけど……。
【射撃】 1.03 《249%》
【魔弾発射】 1.03 《249%》
ステータスで確認してもスキルのレベルは少しだけ上昇している。ということは、魔法スキルは一応発動していたことになる……。
となると、マナを消費して魔弾を発射することもできるかもしれない。
「試してみるか」
素直にそう思った俺は再び魔法の弾を作り上げ、それを弾倉に装填すると今度は全身のマナを腕に誘導しながら引き金を引いてみた。
だがそれでも先程と変化した様子はなく、魔弾は空で弾け、大岩に奔流としてぶつかったのだった。
まあ、そう簡単に魔法が発現するわけがないか……。
ただどうも引っかかる。仮にこの発射という過程で魔弾に属性を付与できたとしても、それは魔弾生成の時点でも可能なわけだし……わざわざスキルとして存在する意味が俺にはよく分からなかった。
となると弾道とかその辺りなのかもしれないが、スキルレベルが1の状態で検証するのはどうも効率的じゃないな。現に魔弾生成はスキルレベル1の状態だとまともな弾を一つも生成できなかったわけだし。
ひとまず、今はどんどん魔弾を撃って銃の感覚を掴んでいこうじゃないか。
「上手くなるには訓練あるのみ、頑張って回数を積み重ねていこう」
そう思った俺はひたすらに魔弾生成と魔弾発射を繰り返したのだった。
それこそマナを使い切るその瞬間まで……。
「ふぅ、続きはマナが回復した夜にしようか」
自身のマナを使い切るまで魂武器を使い続けた俺はへとへとになりながらも帰路についた。マナが全開するまでの時間は約12時間前後、だから夜には最大マナの半分以上は回復している状態になる。
そこでまたマナを使い切るまで特訓すれば、現状の最高効率を叩き出すことが可能だ。
実際、魔法関係のスキルのみ他のステータスと違って成長速度を消費しきれず、中途半端な状態となっていた。
しかし2歳になってマナが2倍になったことで、今度こそ成長速度100%まで下げることができるだろう。
そしていつかはわざわざマナを使い切らずに済む日々が来るかもしれない……!
マナの成長速度を消費するためにマナを過剰に使い、頭痛を引き起こしていた日々を思い出すと俺は首を振った。
あれは……普通に辛かったからな。トータルで一体何時間の頭痛に俺は耐えていたのだろうか。
まあ、そのおかげかは知らないが、最近は頭痛になってもあまり苦痛を感じなくなってしまったけどな。
そんなことを考えながら俺はステータスキューブを取り出して起動しようとする。
そこでふと俺はキューブが妙な点滅を起こしていることに気づいたのだ。
「……なにか異常でも起きたのか?」
試しにステータスやスキル一覧など表示してみるが、なにも変化はなさそうだった。
となると……別の機能で異常が生じたのだろうか?
俺は嫌な予感を覚えつつも普段は回さない方向へと、キューブを回転させた。すると、一つの見たことのない画面が俺の目の前に表示されたのだった。
魂武器『無名』の【レベル】が0から1に上昇しました。
特殊効果《消音効果Ⅰ》が発現しました。
魂武器『無名』に名前をつけられるようになりました。
「は、はぁ……」
あまりにも唐突すぎるお知らせに、俺は思考が追いつけずその場で首を傾げた。
えっと、その……、魂武器はペットかなにかだったのかな? それなら俺は随分とひどい仕打ちをこの子にしてしまったことになるけど。
そもそもレベルがあるということは魂武器にもステータスが存在するかもしれない。
そう思い、キューブを色々な方向に回してみて新たなページを探したが……残念ながら見つからなかった。ということは仮にこの武器にステータスがあったとしても、ステータスを確認する方法は別にあることになるな。
「それで……名前をつけられるのか? この武器に」
俺は先程目を通したお知らせを再度表示させ、その文字列に触れてみる。
すると予想通り、そこからPCで良くあるウィンドウのようなもの浮かび出て来たのだ。
魂武器に名前をつけて下さい。
そういきなり言われてもなぁ……。
硬くてしっかりとした銀色の銃身、滑らかに回るシリンダー、前世ではあまり使われていないダブルアクション機構の高級感漂うリボルバー。
それはまるで俺の答えを求めるかのように陽の光を反射して輝いた。
今後、魔法銃師としての道を極めるならば、この武器は俺にとって最初の相棒となるだろう。
それならば名前はしっかりと考えなくてはな。
「アイザック、なんてどうだ?」
前世で最も有名な偉人の一人から取った名前。
ひねりのある名前ではなかったが、俺はこれ以上にしっくりくる名前を他に思いつけなかった。
それだけ響きが好きなのだ、ミスト語に訳した際のアイザックという名前の響きが。
名前は『アイザック』で宜しいですか?
俺が再度そのウィンドウに触れると、それは徐々に透明となっていき消えてしまった。
これでこの子に名前がついた……というわけだな。
「これからよろしくな、アイザック」
しゃべることのできないリボルバーに俺はそう話しかけていたのだった。
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