5times of Life

とある天才廃人ゲーマーの超鬼畜なライフ制異世界生活
井浦光斗
井浦光斗

第10話 マナの限界

公開日時: 2020年9月3日(木) 18:01
更新日時: 2020年9月27日(日) 15:42
文字数:3,450

 それが襲ってきたのは俺が4回目の魔法を発動し終えた直後のことだった。

 弾丸の精度を確かめようと目を凝らすと、視界がグラリと大きくゆらぎ、極彩色の砂嵐で埋め尽くされた。


「あ……ううぅ!」


 貧血の時に感じるものとは比べ物にならないほどの目眩。気がついたら、俺はその場に倒れていたのだ。

 その直後、鈍器で殴られたような強烈な痛みが頭を走り抜ける。

 ――やばい、このままじゃ。


 “死”


 その文字が脳内をよぎった。

 得体のしれない恐怖が俺を包み、死の淵へと引きずり込み始めていた。


 ――せめて、今何が起きているかくらいは。


 こんな状態に陥ってもなお、俺はステータスという狂信対象にすがりつこうとしていた。

 地面を這いつくばって、草むらの上に転がっているキューブに手を伸ばし、握りしめる。


 目眩のせいで視界はほとんどが閉ざされていた。

 しかし、わずかに見える景色に文字の羅列が写り込んでいる。



【名 前】 ゼッタ

【職 業】 魔法銃師

【レベル】 1

【生命力】 4/6

【マ ナ】 -1/3

【ライフ】 ♥♥♥♥♡



「ま、い、な、す……?」


 無意識に俺は見たものの情報をそのまま口に出していた。

 無論、俺自身が頭の中でなにかを理解しているわけではない。それを考察できるほどの余裕は残念ながらなかった。


 そしてその言葉を最後に……俺は完全に意識を失ってしまったのだった。






 鎖を全身に巻きつけられているような酷い金縛り。息ができなくなりそうで……俺は必死にもがいた。

 そしてなんとか両腕と両足を動かせた俺は目をゆっくりと開ける。


 ぼやけた視界に写っていたのは白い天井、そして恐ろしい形相をした巨人……ではなく蒼白したミラの顔だった。


「……ゼッタ? 大丈夫、ゼッタ!?」


 俺が目を開けたことに気づいたミラは必死の表情で俺を抱きかけてきた。

 絞り出すように「うん」と声を出すと、ミラは安堵の息をはきだして目元に涙を浮かべる。


「ああ、良かった……。本当に良かった……」


 涙をポロポロと落としながら、ミラは俺を強く抱きしめたのだ。

 まるでどこかにいってしまいそうな存在を必死で引き留めようとするかのように。


 ――こんなにも、俺は愛されているのか。


 ミラの腕の中で彼女の温もりを感じながら、俺は静かにその愛情を受け取っていた。

 そこまでしなくてもと一瞬思ったが……大事な1歳の子供が庭で意識を失って倒れていたなら、そんな反応にもなるよな。


 名目上は検証だったが俺自身を生死の狭間まで引きずり込んだのは紛れもなく俺の好奇心だった。

 自業自得なのは言うまでもない。むしろ両親に迷惑をかけてしまったのだ。


 今更になって、俺は後先考えずに魔法を行使したことを後悔する。

 MPが足りない、マナが足りない。その事実を知らせてくれるほどこの世界は甘くなかったか……。

 マナが足りなければ、使用者に対してそれ相応の代償が降り掛かってくる。それを身をもって実感した。


 ――これからは、マナ管理に十分に気を使った方がいいな。


 ミラに抱きしめられていた俺は小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。

 今の俺はどうやら死の淵から這い上がってきた安心感よりも、心配させてしまった両親への罪悪感が強いらしい。



 それからというもの、俺はミラに優しく看病されながらベッドで横になっていた。

 本当であれば他にも色々とやりたいことがあったのだが、この状態での筋トレや読書はさすがに1歳の身体では耐えられないだろう。


 そして、狩りから帰ってきたクリフトにも俺はキツく抱きしめられる羽目となった。

 俺が倒れたという情報はどうやら彼にも伝わっていたらしく、ダンジョン周辺の魔物討伐を切り上げてまで、飛んで帰ってきたのだ。


 凄く心配してくれていたんだな……そう俺はしみじみと感じた。

 ここまで心配されたのは一体いつぶりだろうか? いや、そもそも前世でここまで心配されたことはあっただろうか。



『コイツ、なんでこんなことまでできるんだ……?』


『まだ5歳だってのに、気持ち悪いったらありゃしないよ!』



 ――変なこと、思い出しちまったな。

 ベッドの中で俺はぶんぶんと首を横にふると別のことを考えながら、ボーッと天井をながめた。

 人間は忘れる生き物だとよくいうが、嫌なことはいつになっても忘れられない……。特に俺はな。


「ねぇ、ゼッタ?」


 ふとベッドのそばにやってきたミラが話しかけてきた。


「なぁに……?」

「このおもちゃ、あなたのものなの?」


 そういうと、彼女は黒い立方体ことステータスキューブを俺に見せてきた。


 ドキリと心臓がなり響き、思わずつばを飲み込んだ俺だったが、平静を装ってミラを見上げる。

 そう言えば、倒れる寸前にステータスキューブを握りしめたな。それと近くに入門魔導書も置いてあったままな気がするぞ……。


 となると――バレてしまったか? まだ1歳の俺が魔法の練習をしていたと。


 とはいえここで嘘をつけば、俺が倒れた原因はステータスキューブにあると勘違いされかねない。

 そしたら……当然キューブは没収され、ステータスを見る手段がなくなってしまうだろう。


「うん、そうだよ」

「……そうなのね、分かったわ。もうひとつ聞くね、これで遊ぶときに気持ち悪くなったり、頭が痛くなったりした?」

「ううん、そんなことないよ。グルグル回して遊ぶの楽しいんだぁ」


 俺は少し頭のいい1歳を演じながら、ステータスキューブに手を伸ばした。

 するとミラは訝しげな表情を浮かべつつ、それを俺にそっと手渡してくれた。


 その時だった――俺はついキューブの中央に指を触れてしまい、簡易ステータスが起動する。

 電光掲示板のような橙色の文字、それが俺とミラの目の前で表示されてしまったのだ。


 ――ま、まずいっ!


 冷や汗がにじみ出て、俺はその場で動けなくなってしまった。

 これが見られたとなると、俺が本当に1歳の子供なのかと疑われるのは時間の問題。また前世のような過去を繰り返す羽目になる……っ!


 しかしミラはそのステータスを目にしても何一つとして表情を変えなかった。

 それどころか、目の焦点を俺の顔からずらそうとしなかったのだ。


「どうしたの、ゼッタ?」

「あっ、ううん。なんでもないよ!」


 ……この反応、さては見えていないのか?

 俺はとっさにそのキューブを回してステータス画面を表示させてみる。

 だが、それでもミラは驚くことなく、おもちゃで遊ぶ我が子を微笑ましそうに見つめていた。


 なるほど、どうやら本当に見えていないらしい。

 これはいい事に気づいたな。他の人にステータスが見られないのならば、人目を気にせず堂々とステータスを眺めることができそうだ。


「それじゃ、ママはスープを持ってくるわ。ちょっとだけベッドで待っててね」

「うん、分かった!」


 そう言いながら、俺はキューブを動かしてステータスを眺める。



【名 前】 ゼッタ

【職 業】 魔法銃師

【レベル】 1

【生命力】 6/6

【マ ナ】 4/4

【ライフ】 ♥♥♥♥♥


【レベル】 1

【生命力】 6.46 (64.63)《109%》

【マ ナ】 3.51 (35.12)《150%》

【筋 力】 2.31 (23.09)《 60%》

【耐久力】 1.90 (18.95)《 75%》

【魔 力】 2.18 (21.81)《220%》

【知 識】 1.75 (17.53)《130%》

【器 用】 1.53 (15.31)《250%》

【感 覚】 1.64 (16.42)《250%》

【敏捷性】 2.22 (22.19)《 74%》

【幸 運】 0.50 ( 5.00)《100%》

【健 康】 普通

【経験値】    0/1000


 《通常スキル一覧》

【魔法発動】  1.03 《249%》

【罠解除】   1.00 《250%》

【射撃】    1.00 《250%》

【※※※※※】 1.00


 《魔法スキル一覧》

【魔弾生成】  1.03 《249%》

【魔弾発射】  1.00 《250%》



 マナが著しく上昇しているな……。あんな短期間で基礎値が5も上がるのか。

 加えて魔力が予想通り上昇し、今まで上昇方法が分からなかった感覚も上昇している。

 となるとここでの感覚というのは体内のマナの流れをつかむ“感覚”や魔法の発動させる際の“感覚”などの意味が含まれているように思える。


 危険な修行だったとはいえ、今日は大きな一歩を踏み出せたかもしれない。

 それにこの調子でマナが成長していくならば、将来的にマナの枯渇もなくなるかもな。


 なにか引っかかる気もするけど……とりあえず今は休もう。

 考察はもっと心の余裕がある時に、そうしないと大事なことを見誤ってしまうかもしれないからな。


「ゼッター、温かいスープよ」

「ありがとう、ママ!」


 俺はキューブをベッドの脇に置くと、ミラが愛情込めて作ってくれた野菜のスープを受け取ったのだった。

どうも、井浦光斗です。

1日に4回、謎の一言を呟くのは流石にしんどかったので1日1回に絞らせていただきます。(というかこの一言を読んでくれている人がいるかどうかすらあやしい)


ではまた次回、いつも通り

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