(これは予想以上の変化だな……)
一歳の子供がするとは思えないしかめっ面で、俺は目の前に羅列されている数字を睨みつけた。
今まで切りの良い値に揃っていたはずの数字が、たった数時間で散らばり始めている。
(ステータスってこんなに頻繁に変動するものなのか?)
気に留めることのない俺の行動一つひとつがステータス変動に響いている。
時間が経つにつれて子供が大きくなっていくように、普通に生活するだけでもステータスは上昇していくらしい。
それならステータスキューブを手に入れる前から変動していてもおかしくないのではないかとも思うが……そこは考えないでおこう。キリがない。
それよりも重要なのは俺の状況だ。
俺の選択した難易度はエクストリーム、ステータスを成長させるのに必要な経験値が10倍になるモードなのだ。成長するには他のゲームとは比べ物にならないほどの時間を要するだろう。
現に……1時間の過度な筋トレをしたにもかかわらず、筋力は1も上昇してないからな。
それとまだこれは定かではないが、仮にこの世界で生きる俺以外の人に適応されている難易度がノーマルだったとしよう。
そうすると……俺は普通の人の10倍以上の努力を積み重ねなければ、満足に成長できないのだ。
これはある意味、この世界における俺の不遇な点とも言えるだろう。
そして、努力するためにはまず方法を確立されなければならない。
見当違いな努力を積み重ねても強くなれないからな。
――時間をかけてでも確実な解析を行おう。
1日程度の考察でどうこうなる問題ではない。あせらずゆっくりと、正確に答えを導き出していこう。
そうした方が結果的には成長への近道になるはずだ。
(ともかく今日の行動から考えられる可能性を挙げるとしよう)
まず筋トレが終わった直後から今までの間に変動した部分を調べよう。
・ステータス値の主な変動は生命力、魔力、知識の3つ。
・筋力と耐久力も少しだけ上昇している。
・幸運をのぞくすべてのステータスのカッコ内の%が上昇している。
・【健康】が満腹・弱へと変わり、経験値バフがかかった。
まず筋力と耐久力の上昇に関しては、ちょっとした運動によるものとして間違いないだろう。
さらに知識についてもおそらく昼寝前の考察タイムによるものと推測できる。
問題なのは――生命力と魔力だ。
俺の記憶では生命力と魔力に関連した行動をした覚えはないが……ステータス上昇はたしかに起きている。
つまりどこかにトリガーがかくされているはずだ。
トリガーと考えられる行動は主に2つだ。ひとつは睡眠、そしてもうひとつは食事である。
このどちらか、あるいは両方がステータス上昇につながっていると考えられるが、残念ながら予想はできそうにもない。
寝る子は育つとも言うし、よく食べる子は育つとも言うし、どれがどう影響しているかもさっぱりだ。
そして、それは%についても全く同じである。
ステータス上昇にともなって減少するのは筋トレのときに観測しているが、上昇するトリガーは考察しても全く想像できなかった。
ある意味、初日で上昇するトリガーを絞り込めたのは運がいいとも言えるだろう。
しかし――厄介なのは幸運という例外をのぞいて、全て上昇してしまっていることだ。
筋トレのように想像だけで関連付けられる行動ならまだしも、項目と関係のないタイミングで変動されてしまうと推測しようにもできない。
肉をよく食べると筋肉がつくみたいな発想なのか……? いや、ちょっと安直すぎる気もするな。
だとしたらミラが作ってくれた果物ポーションに秘密があるとか……それは可能性としてはありそうだな。
(はぁ……。ステータス上昇に関する一般式の見当がついているから楽勝だ、と思っていた時期が俺にもありましたとさ)
考察しようにも今はデータが足りなすぎる。
偶然ステータスが上昇するのを待つよりは、トリガーと予想できる行動をして片っ端から検証していったほうが効率がいいかもしれないな。
「こまったなぁ」
思わず本音を口に出してしまった俺はステータスキューブを床下にしまうと、早速書斎に潜り込んで読書を始める。
今後の情報を混沌とさせないためにも、今日中には知識が上昇するトリガーを確実に抑えておきたい。
その一心で今日も文章の翻訳作業にはげむのだった。
「おーい、ミラ! 今帰ったぞ!」
「おかえりなさい、あなた。今日は遅かったわね。なにかあったの?」
夜の帳が下りたころ、リビングで俺とミラが食事をしていると狩人の父クリフトが大きな荷物を背負って帰ってきた。
少し生臭い匂いがすることからうかがうに、今日もシカやイノシシの肉を持って帰ってきたのだろう。
「ちょっと異常発生した魔物を討伐してきたんだ」
「異常発生って、もしかしてスタンピードのことかしら?」
「そうだ。ダンジョン周辺で大量にダンジョン産の魔物がわき出るようになって、衛兵や傭兵だけでは手に負えないから、狩人の俺たちにも討伐を手伝ってほしいんだとよ」
「そういうことだったのね。……危険なことにならなければいいけど」
ミラはクリフトの分のご飯を用意しながら心配そうに首を傾げた。
そう言えばこの街はダンジョン街だったな。つまりダンジョンの魔物がなにかの手違いで街までやって来ることもあり得るということか。
「大丈夫だって、わき出ると言っても所詮レベル5以下の弱い奴らばかりだからな。それになにかあったら、俺がちゃんと守ってやるよ」
「……ふふっ、ありがとう」
やめろやめろ、子供の前でわかりやすくいちゃつくな。
当人たちはなにも思わないかもしれんが、見ているこっちは気恥ずかしくてしかたない。
それにしても面白い情報を聞いたな。
魔物の生息域やエンカウント条件は俺もまだ良くわかっていなかったから、ありがたいかぎりだ。
ダンジョン周辺にレベル5の魔物か……序盤のレベル上げにはもってこいの場所だ。
この機会だ、せっかくだしもっと聞き出してみるとするか。
「ねぇねぇパパー。まものってなぁに?」
「魔物か? そうだなぁ、魔物っていうのはとても危ない奴らのことだ。人間を見ると襲いかかってくるんだぞー」
「へえー。パパはそのまものより強いのー?」
「もちろんだ! ゴブリンやコボルトなんてバッタバッタと倒しちゃうんだぞ」
「うわぁ、パパってすごいんだね!」
その自慢がどこまで本当かは分からないが……狩人を生業としているくらいだ、少なくとも嘘ではないだろう。
それにゴブリンにコボルトか、やはりファンタジー世界によく駆り出される魔物もしっかりといるみたいだな。
「そうだろ? ゼッタもパパの自慢の息子だ。もしかしたらパパみたいに強くなれるかもしれないぞ。なんなら今でもスライムくらいは倒せるかもな! ハハハッ!」
「ちょっと、変なことを吹き込まないの! ゼッタ、魔物はとても危ないのよ。見かけても絶対に近づいちゃダメだからね」
「はーい!」
スライムくらいなら今でも倒せる……か。
最弱モンスターとして有名なスライムだがどのくらいのステータスか分からない以上、ミラの言う通りむやみに挑むのは危険だな。
だけど、仮に経験値が魔物を倒した際しか手に入らない代物だったら、スライムは最弱の敵にして最大の壁だ。
それをなんなく乗り切れるようになるまで、ステータスを上昇させる必要があるだろう。
「それとミラ、ポーション用の魔石だ」
「まあ、こんなに?」
「ああ。今日はダンジョンの魔物をとことん狩ったから大量に手に入ったのさ。それにバイルがいくらか譲ってくれたからな」
「あら、そうなの? それなら今度しっかりお礼を言っておかなきゃいけないわね」
そんな事務連絡っぽい会話を済ませるとクリフトは疲れたように席についたのだった。
ちょくちょく出てくる重要そうなワードの数々……だが全てに構っている余裕は、今の俺にない。
この世界について知らないことはまだまだ山ほどある。だからひとつずつしっかりと理解して行かないとな。
どうも、井浦光斗です。
5000兆ポイント欲しい!
↑こっちで小説を書き始めて、このブロックというシステムに感動を覚えました。
ホームページなどにはよくあるシステムなのでしょうが、小説投稿サイトでこのような表現が使えるサイトはそうそうないので……。作者視点ではありますが個人的に執筆フォームはすごく好きです。
ではいつも通りありがちな一言で締めくくります。
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