5times of Life

とある天才廃人ゲーマーの超鬼畜なライフ制異世界生活
井浦光斗
井浦光斗

第1章2幕 ダンジョン攻略

第13話 満2歳

公開日時: 2020年9月4日(金) 18:01
更新日時: 2020年9月27日(日) 15:59
文字数:3,349

 風景が彩られる秋がすぎ、凍えるほど寒かった冬がすぎ、花が咲き誇り生き物が活発になる春がすぎた。そしてまたあのカラッとした暑さに襲われる夏がやって来る。

 子供の頃は1年は長いものだと思っていたが、25年以上も過ごせば季節の移り変わりもあっという間に感じてしまう。


 先日――俺はついに2歳になった。

 この世界の子供の成長はどうやら少し早いらしく、身体つきは幼いものの、容姿は既に整いつつある。


 見下ろす先にある水たまりに映る俺の姿、それはお母さんのミラとお父さんのクリフトを足して二で割ったような姿だった。

 若干くせっ毛のある白髮に翡翠色の瞳、そして1歳の頃に鍛えまくったことで出来上がってしまったガッシリとした体格。

 これが異世界での俺なのか……とようやくアイデンティティが定まってきたのだ。


「……雨上がりの風は気持ちいいな」


 家の屋根の上に登って、そこに腰掛けながら俺はダンジョン街の外にある平原を眺めていた。

 ここからだと本当に色々なものが見える。街を歩く住民の姿、平原を駆け回る魔物、大きなカバンと馬車を引っ張る行商人、何もかもが新鮮でしかたなかった……。


 こうして屋根に登る――正確には登れるようになったのはつい最近だ。

 体力づくりのために木登りや登攀とうはん、パルクールのテクニックを学ぶついでに登れるようになっていたというわけだ。

 登れるようになってからというもの、いつもここで朝日を眺める毎日を送っている。


 さてと……俺はここに来るまでずっとうずうずしていた。

 朝起きた瞬間から感じていたのだ、自分自身の力が昨日とは比較にならないほど成長していることに。

 原因は、だいたい予想がついている。こんなことだろうとは思っていたけど……やはりだったか。


 ステータスキューブと魂武器ソウルウェポン出会ってから今日でちょうど1年。

 俺は一つ、ゆっくりと深呼吸すると右手に握られているステータスキューブをゆっくりと回した。




【レベル】 1

【生命力】 48.40 (241.98)《109%》

【マ ナ】 59.46 (297.32)《121%》

【筋 力】 26.27 (131.33)《103%》

【耐久力】 24.30 (121.49)《101%》

【魔 力】 38.64 (193.22)《102%》

【知 識】 24.03 (120.15)《 99%》

【器 用】 23.86 (119.31)《105%》

【感 覚】 26.42 (132.11)《104%》

【敏捷性】 42.44 (212.21)《 95%》

【幸 運】 1.00  (  5.00)《100%》

【健 康】 普通

【経験値】    0/1000



(ああ、分かっていたさ。全ステータスにかかっているデバフが5分の1倍になったようだな)


 昨日と比べて力も速さもマナも、全てが2倍となっている。

 さらに言えば1歳のときと比べ、ステータスの成長速度も実質2倍となるのだ。


 この日をどれだけ待ちわびていたか……。

 筋力が2倍になれば今まで持てなかったものも持てるようになるし、マナが2倍になれば魔法も2倍使えるようになる。ともかくできることが沢山増えるんだ!


(ひとまず情報を整理しよう。今までステータスが10分の1になっていたのは全て年齢が原因だと分かったな。そして俺の仮説も証明されたと)


 早速パジャマの懐から手帳を取り出すを俺は新たにわかった事実をサラサラと書き記していく。

 今までのメモはほとんど日本語で書いていたが、最近はミスト語でも問題なく書けるようになっている。これも子供ゆえの成長、といったところだろう。


 それにしても……圧巻の成長っぷりだ。

 1歳に成り立ての俺とはもはや比べ物にすらならないな。今の俺は初期値の10倍から20倍なのだから。


 ステータス上昇の法則がある程度把握できてからというもの、俺は訓練方法の最適化に努めてきた。

 方針としては項目を一つずつ丁寧に上げるのではなく、いかにして複数の項目を同時に上げるか……そこに充填を置いてきた。


 例えば、器用と筋力と敏捷性を同時に上げたいと思ったならば――

 適当な的を用意して、それなりに重い石をその的に投げる。無論投げる際には助走をつけてからジャンプして、石を振り下ろすように投げるのだ。

 ちなみに的を狙ったり物を投げたり、指先を使った作業をしたりすることで器用が伸びると分かったのは1歳と2ヶ月くらいの頃だったな。


 そしてこの1年間色々な方法を試しているうちに、俺はステータス上昇の本質に気づいたのだった。

 それは――いかにして美味しいご飯を毎日食べられるか、だ!



 いやいや、冗談で言っているわけじゃないぞ。

 そもそもステータスが上昇するたびに成長速度である%が減っていくシステムだから、1日のステータス上昇量には実質的な限界があるのだ。

 そしてその限界は……1日に増えた成長速度分に直結する。

 つまり、美味しい食事をして回復した成長速度分だけしか、ステータスを上昇させられないわけだ。


 厳しいトレーニングを続けるほどステータスが伸びる! と最初のうちは思っていたが……どれだけ苦しいトレーニングを継続させても成長速度が下がってしまうとステータス上昇値は少なくなる。

 そしてそのうち、1日に食事で回復する成長速度と1日のステータス上昇で下がる成長速度はほとんど同じになる。


 これを俺は成長速度の平衡点と呼んでいるが、この平衡点は毎日のトレーニングの量で変化する。

 厳しければ平衡点は低い%になるし、楽なトレーニングなら平衡点は高い%になる。


 ちなみに俺の全ての成長速度が大体100%前後で揃えられているのもそういう理由だ。

 例えば平衡点が50%だとすると余分な労力を使っていることになるし、逆に平衡点が150%だとすると50%分の回復量が無駄になっているからな。


 そんな訳だから、ステータス上昇量は食事によって回復した成長速度に依存する。

 どれだけ健康的な食事をして成長速度を上げるか、それがステータスを上昇させる為にはとても重要。



 よって……ステータスを上昇させることは美味しい食事をすることと同義なのだ!



 まあ、そんなわけで俺はある時から親の料理に口を出すようになった……というわけだ。

 お母さんのミラには悪いが、これも強くなるためなのだ。どうか、俺のわがままを見過ごして欲しい。



「ゼッター? どこにいるのー?」


 ふと下を見ると、お母さんのミラが庭に出てきて俺のことを探し回っていた。

 そこまで焦っていない様子からミラも俺のわんぱくさ(?)には慣れてしまったのだろう。


「おーい、ママー! こっちこっち!」

「あっ、またそんな高いところに登って……朝ご飯だから早く降りてきなさい」

「はぁーい」


 そう言うと俺は雨で濡れた屋根の上を滑るように走ると縁を力強く蹴って、高く飛び上がる。

 そして前世で学んでいたパルクールの技術、ロールで上手く着地するとミラを見上げてニカッと笑ってみせた。


「ねぇ、ねぇ。カッコいいでしょ!」

「うふふ……そうね。でも危ないから気をつけなさいよ」


 ミラは額に冷や汗を浮かばせながら俺の頭をなでてくれた。

 それもそのはずだ。想像してみよう……仮に自分に子供がいて、その子が屋根から飛び降りてくる姿を見たら誰だってヒヤヒヤするだろう。


 ごめんなさい……こんなにも危なっかしい子供で。

 でも子供のうちから色々な動きを経験しないと、実践で上手く回避できるようにならないんだ。それは前世の俺がしっかりと証明している。



 前世の俺が子供の頃――いじめっ子にボールを投げられる嫌がらせを受けていた。それも毎日のようにな。

 相手は俺がいたがる様子を見るのが楽しいようだったが……俺にはやり返せるくらいの力はなかった。

その代わりボールを避ける研究を積み重ね、ボールを投げられても全部避けられるようになったのだ。



 それが俺と回避の出会いでもあり、回避に楽しさを見出したきっかけでもある。

 たとえ殴られそうになっても、蹴られそうになっても避ければいい。そうすれば当たらずに済むから……。


「ゼッタ? どうしたの、ボーッとして。朝ご飯、一緒に食べましょ?」

「うん!」


 大きくうなずくと、ミラは俺のことを優しく抱きかかえてダイニングへと連れて行ってくれた。

 異世界に転生してよかった――それは特に俺がそう思える瞬間だった。


 さてご飯を食べたらミッションを整理しよう。

 なにせ、2歳になってできることが大幅に増えたのだからな。

どうも、井浦光斗です。

7話くらいに話したゼッタの間違い、それが今回明かされた訳ですね。かなり数学的な話になってしまったのですか……伝わったのでしょうか。

そしてステータスの桁がついに一つ増えてしまった……。作者自身も感じてますが、管理が大変になりそうですね。

ただ読者はそこまで気負う必要はありません。テーマの一つではありますが、飽くまでもステータスはフレーバーテキストとして捉えていただけるとありがたい。

重要なのは値ではなく、ゼッタが成長した姿……なのですから。


ではまた次回、楽しみにしていただけると幸い。

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