5times of Life

とある天才廃人ゲーマーの超鬼畜なライフ制異世界生活
井浦光斗
井浦光斗

第17話 狩人と息子

公開日時: 2020年9月9日(水) 02:33
更新日時: 2020年9月27日(日) 16:26
文字数:3,331

投稿予定時刻を3時間も遅れてしまいました。大変申し訳ありません……。

 今年もまた全身をカチンコチンに凍えさせる冬がゆっくりと近づいてきた。

 外は地平線まで広がる銀世界、その世界一面を照らす白く弱々しい陽の光を窓越しに受けながら、俺はミラのアトリエに籠もってひたすらポーション作りの研究を続けていた。

 普通なら、2歳児にこんな場所を貸し与えないだろうが、ミラは「ルールを守るなら、使ってもいいわよ」と許してくれた。そのおかげで俺は【抽出】と【調合】への挑戦ができる。


 初回ですんなりと成功した【抽出】に関しては何度も挑戦しているうちに、コツを掴んできた。

 しかし……【調合】の方はいまだに成功する気配すらない。エッセンスだけがただただ混ざり合い、水と油のような

状態になるだけである。


 どうして成功しないんだ……? 【抽出】はあんなに上手く行ったというのに。

 一体、俺の想像のどこが間違っているのだろうか。どんな想像をすれば成功するのだろうか。 


「うぅ……分からない。分からなすぎる」


 もしかしたら一定回数、魔法行使に挑戦したら習得できる魔法なのかもしれない。現に【投擲】は何千回も石を投げ続けた末にようやく習得したスキルなのだから。

 しかし……だとしたらそれこそ【抽出】があそこまですんなりと習得できた意味が分からない。

 現在は仮説として魔法スキルは一回でも成功すればスキルとして反映されることを提唱しているけど、実際はもっと複雑なルールが存在するのではないかと疑ってしまう。

 

 よく考えてみたら、初めて魔法を使ったときもそうだった。

 銃弾を魔法で作るなんて本当なら難しいことのはずなのに、俺は想像して具現化する工程をなんとなくでクリアしてしまった。それは……すでに魔法スキルを習得していたからなのだろう。

 そして【抽出】についても、俺はずっとミラの作業を観察していてなんとなく要領が分かっていたから成功したのだ。


 けれど【調合】は違った。

 ただ薬釜で素材を混ぜ合わせているだけだと思っていたのに……実際の工程はもっと奥が深かった。

 それゆえに俺は理解できていないんだ、どうすればエッセンスをポーションに変えられるかを。


「まぜる、まぜる……まぜるぅ……」


 混ぜるに関することを想像しては検証し、想像しては検証しの繰り返し……。

 そしてその無数にある方法の中から正解を探し出す。そんなもの、運ゲーに近いじゃないか。

 八方塞りの状況に俺は顔を腕の中にうずめてしまった。


「おーい、ゼッタ。大丈夫か?」

「あっ……パパ」

「今日もポーション作りの練習か? 勉強熱心だな」


 ふと顔を上げると、動物の毛皮で作られた狩人装束にふわふわとしたさわり心地の良いマフラーを首に巻いたクリフトが、中腰で俺の姿を覗き込んでいた。

 きっとこれから狩りにでも出かけるのだろう……。


「毎日毎日アトリエに籠もって、疲れないのか?」

「……ううん、疲れたよパパ」

「だよなぁ。ゼッタは頭も運動神経もいいが……まだ2歳なんだ。無理するな」


 クリフトは自身の子供が2歳である事実に改めて驚いたのか、言葉に一瞬迷っていた。

 それもそうだ。今の俺がやっていることは某少年探偵と何ら変わらないからな。

 ポーション作りなんて2歳のうちから始めるものじゃない……そんなことは分かり切っていた。

 でも、俺は強くなりたいんだ。強くなることに喜びを感じているから、強敵とハラハラするような戦いを繰り広げたいから。



 あれ? だとしたら、俺の成長はただの自己満足でしかないのか?



 いや、違うはずだ。

 俺はこの世界にある鬼畜ダンジョンを攻略するために来た。言い換えると神にデバッグを頼まれてこの世界に転生させられたのだ。

 だから、俺が強くなろうとする意味はそこにあるはずだ。

 目的を見失っちゃ駄目だ、見失ったらそれこそ前世と同じ運命をたどることに……


「おいおい、そんな重い顔して本当に大丈夫か? 少し休憩したらどうだ?」

「ううん、大丈夫。ほらっ、僕元気だから……」

「そうか……」


 俺が追い詰められていると悟ったのか、クリフトは困ったように太い眉を八の字にして頭を掻いていた。

 だがその悩んだ表情は数秒のうちに明るいものへと激変し、あまつさえ気の狂った笑い声を上げたのだった。



「なあ、ゼッタ。パパと一緒にダンジョンに行かないか?」



「え……っ?」


 その突拍子もなさすぎる提案に俺は口を開けたまま唖然とお父さんの姿を見上げる。

 ダンジョンに行くだって? まだ2歳なのに?


「なあに、心配するな。魔物が出てきたらパパがしっかりと守ってやるからな!」

「でも僕は入れないんじゃないの? 小さい子はダンジョンに入れないってママ言ってたもん」

「い……いや、そうでもないぞ。パパはこう見えて昔はダンジョンを渡り歩く冒険者だったんだ」

「それは知ってるよ」

「うっ……まあその、だからダンジョンには詳しいんだ。それにダンジョンの魔物に負けないバッジも持っていてな。これがあればゼッタも一緒に入れるはずだ」


 そう言ってクリフトは懐から「『四季の空洞』5階層突破」と書かれたバッジを見せた。

 ……なにが魔物に負けないバッジだ。ただのダンジョン攻略証明バッジじゃないか。

 クリフトなにり子供にも分かるよう説明したつもりなのだろうが……もう少しいい表現があったんじゃないか?


「これがあると、僕の入れるの?」

「そうだよ。パパは魔物より強いからゼッタも守れるよって、このバッジが教えてくれるんだ」

「へぇー、パパは凄いんだね!」

「だろう? ハッハッハ!」


 狩人で生計を立ててくれている時点でクリフトがそれなりに強いのは言うまでもないけどな。

 それはそうとダンジョンか……いつか行くことにはなるとは思っていたがこんなにも早く機会が訪れるとは。

 もしかしたら、魔物と戦えるいいチャンスになるかもしれない。


「僕、ダンジョン行きたい!」

「おーし、それなら決まりだな。ちょっと待ってろ、今すぐゼッタの服や道具を準備してやるからな!」


 クリフトはガッツポーズを決めるとそのままアトリエの外へと駆け出していった。

 大胆なお父さんがあそこまで張り切ると逆に面倒なことが起こるんじゃないか? そんなことを考えていると、案の定リビングから早速ミラとクリフトの言い合いが聞こえてきた。


「おう、ゼッタ! お前もダンジョン、行きたいよな、な?」

「もうなに吹き込んでるのよ! ゼッタ、駄目よそんな危険場所に行っちゃ。魔物は本当に危ないのよ、下手したら死んじゃうのよ!」

「ミラは大袈裟なんだよ。ゼッタもいい歳頃なんだから、新しい経験を――」

「ゼッタはまだ2歳よ!」

「……そうだったな」


 ええ、そうですとも。こう見えて俺はまだ2歳なんだ。

 そんな幼い子供を危険な目にあわせたくないと思うのは両親として普通の反応、ミラの意見に否は一切ないだろう。


 本当ならミラの意見に従うのが賢明だ。

 けれど……クリフトの気持ちも分からなくはない。彼には俺をダンジョンへと連れていきたい彼なりの理由があるのだろう、たとえ魔物がはびこっている場所であったとしても。


「ママ、ごめん。危ないのは分かっているよ……でも僕行きたいんだ、ダンジョンに」

「……ゼッタ。ダンジョンは危険なの、毎年沢山の冒険者がダンジョンに潜って死んでいしまっているのよ。それだけ……怖くて、恐ろしくて、危険な場所なの」

「分かってる。けれど、それでも僕は行きたいんだ。パパにダンジョンの景色を見せてもらいたいんだ、そうだよねパパ?」 

「えっ、お、おう」


 ポーション作成の研究で参ってしまっている俺を、クリフトはなんとか元気づけようと考えてくれていた。

 ダンジョンには俺の心を動かすなにかがある、きっとクリフトはそれを分かっていたから俺を誘ってくれたのだ。

 2歳という指標ではなく、俺という実力を加味した上で……。


「だからお願いします。ダンジョンに行かせて下さい」


 俺はお母さんのミラに頭を下げた。

 暫しの静寂――ミラは困惑したように首を何度もかしげた。そして長い溜め息を吐き出すとジト目でクリフトに忠告したのだった。


「あなた、ほんっとうに気をつけてね。絶対にゼッタに怪我させないこと、分かった?」

「おう! 分かっているさ、ミラ。それじゃあゼッタ、早速準備しようか」

「うん!」


 こうして、俺はお父さんクリフトとともにダンジョンへと向かうことになったのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート