「あぅ……!?」
言葉にならない驚きの声を上げた俺は、どこからともなく現れたその二つの物に近づく。
(いきなり喋りだしたりしないよな?)
ここは異世界、白峰として生きてきた世界の常識が通用する場所ではない。
たとえ俺の予想を超越した現象が起こったとしても不思議ではないのだ。
俺は恐る恐る子供部屋の床に落ちている黒いルービックキューブ――と思われる物体を拾い上げた。
材質はカーボンでもなければ金属でもない……どう考えても見たことのない物質だ。
(この世界のおもちゃ、にしては重厚感がありすぎる)
1歳の俺が両手を使ってようやく持ち上げられる程度の重さなのだから、そこまで重くはないはずだ。
しかしこの見た目では鉄塊以上の重量はあってもおかしくない気がする。
暫しの間、俺はその全面漆黒に染まった厨二病アイテムを観察していた。
そしてルービックキューブと同じように回せるのか? と一列のブロックを90度回転させた直後、まるで機械のようにその物体は紅く輝き始めたのだった。
「んー?」
回したことで電源でも入ったのだろうか。
首を傾げながら物体の紅い輝きに見入っていると、突如として俺の目の前に電光掲示板のように輝く文字列が浮かび上がったのだ。
(こ……これは、ステータスじゃねぇか! ようやく現れたか、この野郎!)
親の顔よりも見た光景――その文字の羅列を見た瞬間、俺は全身を燃え上がらせるような高揚感を覚えた。
俺の予想通り、ステータス開示の条件は1歳の誕生日を迎えることだったんだ。
それにしてもよかった。ここはステータスそのものが存在しない世界で、職業や難易度はすべて転生させるトラップだったのではないかと気を揉めていたところだったぜ。
俺は黒いルービックキューブを抱えたままその場に座ると、表示されているステータスを舐め回すように見た。
【名 前】 ゼッタ
【年 齢】 1
【種 族】 ヒューマン
【職 業】 魔法銃師
【レベル】 1
【生命力】 5.00 (50.00)《100%》
【マ ナ】 3.00 (30.00)《100%》
【筋 力】 1.00 (10.03)《 99%》
【耐久力】 1.00 (10.02)《 99%》
【魔 力】 1.50 (15.00)《100%》
【知 識】 1.00 (10.00)《100%》
【器 用】 1.50 (15.00)《100%》
【感 覚】 1.50 (15.00)《100%》
【敏捷性】 1.00 (10.00)《100%》
【幸 運】 0.50 ( 5.00)《100%》
【健 康】 普通
【経験値】 0/1000
(…………なぁにこれぇ?)
思わず心の中で俺はそう呟いてしまった。
それもそのはず、目の前に表示されたステータスは俺が予想していたそれよりも遥かに複雑だったのだ。
あまりにも複雑すぎて、速攻でヘルプを見に行きたくなるほどだ。
しかしここはあくまでもゲームではなく異世界――ヘルプやTIPSが存在するわけがない。
つまり俺はこの解読不能な暗号を自らの手で読み解かなければならないのだ。まるで別の言語学習をするかのようにね。
無論、表示できるのはこれで全てではない。
空に浮かび上がっている画面をスライドさせると、次のページにはスキル一覧、その次のページには今後耐性や固有能力が並ぶであろう一覧が載っている。
(これだけのものを一度に理解しようとするのは不可能極まりない、時間を掛けてでも少しずつ調べていくべきだ)
色々とページをめくり、一通りステータスを見終えた俺は静かにほくそ笑んだ。
ここまで複雑なステータスを見たのは初めてかもしれない。それ故に抑えきれない興奮がこみ上げてきて、俺はいても立ってもいられなくなっていた。
(早く色々と検証したい……! だけど、他の機能がないかも調べなくては)
俺は黒いルービックキューブを先ほどとは別の向きで90度回転させてみる。
すると今度はびっしりとした文字列ではなく、とても簡略化されたステータスが目の前に表示されたのだった。
【名 前】 ゼッタ
【職 業】 魔法銃師
【レベル】 1
【生命力】 5/5
【マ ナ】 3/3
【ライフ】 ♥♥♥♥♥
これは恐らく、通常のRPGでいうHPやMPなどの重要なステータスを表示してくれる機能なのだろう。
そして最高難易度の証である【ライフ】の表示も、そこにしっかりとあったのだった。
恐らくこの世界では生命力がHP、マナがMPという扱いだ。
そして敵から攻撃を受けると生命力とライフが削れ、そしてどちらかが0になった瞬間にGAMEOVER、つまり死んでしまうのだろう。
5回攻撃を受けただけで命を落とす……か。
生命力とライフには常に気を配ることにしよう、気づかないうちに死亡なんて笑えないからな。
ライフすら関係なくなってしまうほどの生命力の低さに俺は苦笑いしつつ、黒いルービックキューブさらにいじってみる。
するとそれは再び光り輝き始め、目の前に文字列を表示する。
しかしそれは今までのステータスとは違い、誰かの手によって書かれた文章のようだった……。
(ま、まだこの世界の言語はしっかりと理解できてないんだけどなぁ……)
頭を掻きながら、俺は可能な限りその文章を解読した。
幸い難しい言葉や知らない言葉はあまり使われておらず、今の俺でもなんとか意味を把握できる。
この度は鬼畜ダンジョンの攻略にご協力いただきありがとうございます。
今回は規約に明示してありました通り、転生という形で異世界にご招待させていただきました。
つきまして、転生者特典として『最上級ステータスキューブ』と職業に合った『魂武器』を1つずつ届けさせていただきました。
これからのダンジョン攻略に役立てていただけると幸いです。
それでは、あなた様のご武運をお祈り申し上げます。
これはもしかしなくとも、異世界の神からの手紙だ。
ラノベなどでよくある設定だがやはりいるらしいな。人間を超越した全てを見守る存在とやらが。
鬼畜な異世界ダンジョン攻略の協力……手紙から読みとるにそれが俺をこの世界に呼び出した理由らしい。
わざわざ異世界から召喚(?)したのだから一筋縄ではいかない別の理由があると思ったのだが、そういうわけでもないのだろうか。
そう言えば、初期設定に夢中で規約とか一切目を通してなかったな……。
もしかしてそこに今回の異世界転生の概要が全て書かれていたのか? だとしたらとんでもない失敗を犯したことになる。
今から規約を見返すことは――恐らくできないだろうな。
仮に見返せたとしても間違いなくミスト語で書かれているはずだ、解読にかなりの時間を費やすことは目に見えている。
(ステータスキューブと魂武器か)
ひとまず、突如現れた物体と銃の詳細が分かっただけでも一歩前進したと言えるだろう。
ステータスの仕組みすら全く分かっていないが、ゆっくりと解明していけばいい。今はステータスが見られるようになったことを素直に喜ぼうじゃないか。
(それはそうと……お母さんやお父さんにバレたらマズいな)
一歳にして銃を持っている姿を見られたら両親は間違いなく動揺してしまうだろう。
いや動揺するだけではない、折角もらった特典を没収されてしまう可能性だって十分にある。
そう思ってその銃に手をかけた俺だったが、言うまでもなく持ち上がらなかった。
(お、重い……っ! これはまともに持てるようになるまで、どこかに隠しておいた方が良さそうだ)
光を反射して銀色に輝く銃を引きずりながら運んだ俺は、それを床下にしまっておいたのだった。
来たるべき時がくるまで、誰にも見つからないように……。
どうも、井浦光斗です。ここまで読んで下さりありがとうございます。ポイントやコメントも嬉しい限りです。
今回の小説ではステータス数値表記を採用しました、普段ならこういうものはあまり書かないのですがステータス表記を使ってしっかりとした小説を書いてみたいという欲求があったので……。
それはそうと、そもそもステータス表記を採用している小説自体、しっかりとしているのかどうかはあやしいですけどね。
各話の下に星の数でポイントをつけられるところがあります、なので
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