時を止められる元最強勇者の俺。まったり暮らそうと、正体隠して荷物持ちをしていたら弱い奴はいらないと追放される。俺の援護無くて大丈夫?は?戻ってきてくれ?もう遅い。ロリ元魔王に国賓として招待されました。

魔族の幼女とスローライフ&ざまぁ
向井一将
向井一将

一方エレンは……《追放者side》

公開日時: 2021年2月11日(木) 20:24
文字数:2,082

「ロゼ様! またお漏らししたんですか! めっ! ですよ! めっ!」


「違うんじゃぁ~! 昨日の晩、クラウスがトイレから出てこなくてぇ~!」


 次の日の朝。


 庭の物干し竿の前で、ロゼはエリザに怒られていた。

 物干し竿には、まるで地図の様に染みを作っている布団と、俺たちのパジャマ。


 ロゼが漏らしたから全員濡れた!

 クソが! 最悪の目覚めだった!


「違うぞ。俺は確かにトイレから出るのを渋ったが、その後ちゃんとロゼにトイレを譲った」


「でも、その後クロノスすぐ寝たじゃろ! 扉の外で待っててって言ったのに寝たじゃろ! 儂は話してやったのに! 一人でトイレは怖いじゃろ!」


 なるほど? 俺がすぐに寝たから、怖くなって布団に戻って寝たと。


(言い訳になってない……身体は幼女でも精神年齢は大人なんだから一人で小便くらいやれよ……)


 俺はエリザが作った煙草に火を付けながら……。


「言い訳になってません! いい加減一人でトイレ出来る様になってください!」


 と、怒られているロゼを見る。


(馬鹿だ)


 そして、布団の染みに目を移した。


 綺麗な世界地図だ。

 ギルドがあった王国と、今俺がいるイレザレムまでしっかりと描かれている。


(王国とイレザレム……結構近いんだよな……今頃エレン達何してんだろ)


 〇


 エレンはゴブリンの糞尿に|塗《まみ》れていた。


(くっそ! なんで俺がこんなことを!)


 AランクパーティーなのにBランクモンスター【キングオーク】に手も足も出なかった。


 その噂は、瞬く間にギルド中にひれ渡り、元々自分はAランク冒険者だと横柄な態度を取っていたエレンの地位は一気に地に落ちた。


「おい、お前俺の仲間になれ! Aランクパーティの一員にしてやる!」


「は? キングオークに負けたパーティの仲間に? 絶対嫌なんだけど」


 仲間など集まる訳もなく、単独のエレンに回されるのは質の悪い仕事のみ。


「今エレンさんに回せるクエストはこれだけですね」


「はぁ!? なんで俺がゴブリンの糞を掃除しなければいけないんだよ!」


 エレンに回されたクエストは、郊外にある廃墟の掃除。


 少し前、ゴブリンに占拠され巣となっていた場所だ。

 他の冒険者がゴブリンを討伐したので、後始末としてゴブリンの死体や糞尿を掃除する仕事。


 普通なら新人冒険者に回される人気の無い仕事である。


「どうします? やめますか? でもこれ以外仕事は無いですよ?」


 ギルドの受付嬢の言葉に、エレンは歯を食いしばり……答えた。


「……っ! やるよ! やればいいんだろ!」


 周りから、冒険者たちの嘲笑が注がれる中、エレンは廃墟へと向かった。


(くそ! なんでAランクの俺がこんな仕事を! くっそ!)


 エレンは悔しさに涙を滲ませながらゴブリンの死体を片付けていった。


 廃墟の中は、ゴブリン死体と糞尿で、吐き気を催す悪臭が漂っている。


(臭え! 汚え! くっそ! 服に血が付く! 糞を踏んじまった!)


 30分を超えるころには、エレンの服はゴブリンの血や糞尿塗れ。

 染み込んだ悪臭は洗っても落とせないだろう。


 ーー背後からの微かな物音でエレンは振り向いた。


『ギギィ!』


「なっ! まだ生き残りが!」


 一匹のゴブリンがエレンの背後から飛び出してきいた。

 エレンはまだ剣に手をかけていない。


 ーー油断。


 今まで背後からの敵は、クロノスが倒していたので、エレンは反応出来なかった。


 ゴブリンの棍棒がエレンの胴体に向かって振り抜かれる。


『ギッ!』


「ぐあっ!」


 直撃したエレンは、ゴブリンの糞の山に吹き飛ばされた。


 頭からズッポリと糞の山に埋まったエレンは、ゴブリンの汚物が頬を撫でる感触を実感していた。


(くっそ! 痛てえ! 臭え! くっそおおお! 正面から来ればゴブリンなんて! 楽勝だったのに!)


「くっそおお! 死ね!」


『ギギッ……』


 糞の山から立ち上がったエレンは、ゴブリンを一刀両断するが……。


 その姿は糞尿塗れ。


 糞の山に頭から突っ込んだ代償は、髪の毛や顔にへばりつく大量の汚物だった。


(肋骨が折れた……早くギルドに帰って誰かに回復して貰わないと……こんな時……クロノスがいたら回復とクリーンの魔法をかけて貰えたのに……)


 エレンは、荷物持ちをしながら戦闘以外の補助全般をしてくれたクロノスの事を思い出していた。


 彼がいたなら、骨折くらいなら回復できただろう。

 糞まみれの姿もクリーンの魔法で綺麗にしてくれただろう。


 しかし、彼はもういない。


「……くっそ……クロノス……」


 エレンは口のなかに入ったゴブリンの糞を吐き捨てると、街へと向かった。


「おいおい! 糞まみれじゃねえか!」

「肋骨を押さえてるぜ! 折れたんだ! だっせえ!」


 全員に笑われながら、彼はギルドの門を潜る。

 糞尿塗れのエレンを見て、嫌な顔をしながら、受付嬢が一枚の紙を渡してきた。


「Dランクに……降格……」


 ーー全身コブリンの糞尿塗れ。


 ーー更にゴブリン一匹に負傷させられている。


 彼がDランクに降格する理由は十分すぎる物だった。


(こうなったのもクロノスのせいだ……絶対に見つけ出して殺してやる)


 行き場のない怒りはクロノスに向いた。


 Dランク降格と書かれてた紙を握りしめ、エレンはクロノスに復讐することを誓う。


 ーー彼が時間を止められる最強の元勇者と言うことを知らずに。

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