【完結】慰霊の旅路~煩悩編~

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ホテルニュー鳴門(徳島・鳴門市)

公開日時: 2022年6月5日(日) 01:37
文字数:9,103

2026年5月5日火曜日 PM19時過ぎ

夕食を早めの18時に食べ終えた侑斗と吉岡は、徳島に来た際の第1の目的地であるホテルニュー鳴門へと向け移動していた。


明るい肝試しと合同での肝試しライブ配信を行う予定ではあったが建物の物理的な危険性を考慮した結果、男性陣である侑斗と吉岡の二人で配信用の動画の撮影を行うことになった。侑斗が脚立を、吉岡が撮影用のカメラを持った状態で、車を駐車場に停めてから徒歩で徳島最恐とも噂されるホテルニュー鳴門の前へと到着すると、不気味な雰囲気に改めて圧倒されるのであった。


もはや完全に吹き抜け状態となったフロアを見た吉岡が侑斗を撮影しながら「もう見た感じ、解体費用も安く取り壊せられそうなのに何で取り壊さないんですかね。」と不思議がると侑斗は「立地条件の問題もあるんじゃないかな。この建物さ、地図で見たらわかると思うんだけどさ、崖に建てられているじゃん。つまりこれを取り壊そうと思ったらさ崖側からクレーン車で壁をボーンと叩くようなもので取り壊してからさらに内部となると重機は今の技術では運ぶことすらできないじゃん。つまり、取り壊しにくいかつ建設時もきっと相当な日数をかけて造られたのだとしたら、それなりの問題があるんじゃないかな。値段が安いとか高いってより、技術的な問題のほうが大きい。」と答えると、吉岡は「なるほどですね。ひとまず、中へ潜入しますか。北郷さんから前もって階段が崩落しているという情報があったから僕達は脚立を持った状態で中へと入りますが、この動画を見て下さっている方達は真似しないで下さい。本当に、冗談抜きで幽霊が出る怖さよりも物理的な危険性のほうが極めて高いですからね。」と説明した上で、二人はホテルニュー鳴門の中へと入っていく。


侑斗が慎重な足取りで中を隈なく見ていくと、建物内のかつては壁があったであろう場所にまで辿り着くと、吉岡に対して「ここカメラを向けてほしい。今日は俺と吉岡で良かったかもしれない。明るい肝試しの女子部さんとのライブ映像を見てくれていた人は分かるかもしれないが、ここは甲州さんや斧落さんが行けば間違いなく危険な所だ。物理的な、いつ崩落してもおかしくないのに、建物が造りにくい崖側に面しているということもあってか、営業が終わっても解体するにも技術的な難しさから放置されているんだと思うけど、人為的に落書きされている箇所も柱などには見受けられるな。」と話すと、吉岡は「ここは某有名怪談家が訪れてから、有名な心霊廃墟としても知られるようになりましたからね。訪れる人の多くが霊障を必ずと言ってもいいぐらいに経験しているみたいですからね。怖いもの見たさの若者がやってきて、記念に落書きをして帰った、そんなもんですか。」と答えると、侑斗は「落書きのことはもうどうでもいい。それだけ多くの人がここに訪れている何よりの証拠だ。とりあえず、下に降りよう。下に降りる階段があった場所が恐らくここの(懐中電灯を照らしながら)スペースになると思うが、近付いてみようか。」と話しながら近づいてみる。


そしてかつて階段があったはずの場所に足を運ぶと「階段がもうない。脚立で下りるしかない。」といって持っていた脚立を急いでセットすると、侑斗が「何だか心霊廃墟探検隊みたいになってきているな!」と愚痴をこぼしながらも先に降りていくと、続けて吉岡も侑斗が足元を滑らせないように懐中電灯を照らしながら下りたことを確認してから、下のフロアの散策を行うことにした。


かつてはホテルのフロントだっただろう場所に足を運び各フロアを確認した後にどこからか空気が入っていることに気が付くと、吉岡は気になったのかその方向へと歩き進んでゆくと侑斗に対して「あれ?脚立無くても入り口があったじゃないですか。」と笑いながら話すと、フロントで手掛かりになる者はないのか散策をしていた侑斗は「聞いて居る話と全然違うんだけどな、まあいいや帰りの際は吉岡が発見した出口から出よう。一体どこに繋がっているんだろ、駐車場脇にあった遊歩道かな。とりあえずこのフロアの可能な限り調べてみよう。」と話したときに侑斗と吉岡しかいないはずなのにガラスを踏む足音が二人の背後で聞こえ始めるのだった。


”ピキッ、ピキーン”


二人のいる方向とは明らかに違う方向から聞こえてきたため、侑斗はすぐさま後ろを振り返り「誰ですか?誰かいるんですか?」と念のために確認を行うも反応がなかった。その様子を見た吉岡は「噂される動画を撮影していたら幽霊が写るとか、或いは写真を撮影していたらオーブが出るとか、原因となっている御霊が現れたんじゃないんですか?」と訊ねると、侑斗が「仮にもしこれが浮遊霊なら何のために俺達に近づこうとしている?俺が物音に気が付いてパッと振り返ったときに、俺達に近づこうとしていた”何か”は俺達に気付かれたくないのかスッと消えてしまった。助けを求めているのか、これ以上散策されてほしくないのか。」と言いながら吉岡に対して「音の聴こえた方向がどこなのかを探る必要がある。」と話して二人は聞こえただろう部屋の方向へと歩き進めることにした。


侑斗が部屋を散策しながら「ガラスが割れている形跡はあるが、だけど俺達以外の人の気配は全くと言ってもいい程感じられることはできない。やはりこの地に居座る何かが俺達に対してサインを送ってきたのかもしれない。」と話すと、その答えを聞いた吉岡が「何かがサインを送ってきたというんですか?いったい何が、どうして可視化して姿を現すことも無ければ物音を立てることによって僕達に対して訴えたいことがあるってことですか?それなら具現化していないと、おかしなことになりますよ。一体何がしたいんですか?ということですよ。」と話し終えたときに、再びあのガラスを踏みしめるような音が聞こえ始めるのだった。


”ピキ、ピキッ”


吉岡が「今度はまた違う部屋から聞こえてきましたよ。」と話すと、侑斗は「まるで何かを見せたいのか、俺達を誘き寄せたいのか、真偽は分からないが少なくとも音を立てた御霊の意図を確かめてみよう。」といって更に音が聞こえた部屋のほうへと移動することにした。しかしいざ音が聞こえた部屋へと潜入を試みるが、何もなく確認のために写真撮影を行ったところで、他のフロアを可能な限り見ることにした。


そして吉岡が侑斗に対して「足の踏み場がない、というより完全に雨風などによって腐食されてこれは絶対に足を踏み入れたら逝ってしまうことは間違いないですね。」と話すと、侑斗は「長年ずっと放置されてきた建物だからしょうがない。解体工事の業者が入ってきたであろう痕跡は所々見受けられた。最上階だろう、俺達が最初に入ってきたあのフロアにも重機のようなもので壁をガツンと叩いているために外側にかつての建物だっただろう残骸が散らばっているような状態、でもそれならばちゃんとした解体業者ならこんな中途半端な形で撤退などするのだろうか。やはり難工事だと分かってそこそこの金額を受け取って解体工事を頓挫しなければいけなかったのか。事件や事故があったとか、そういう様子はこの建物では見受けられないので、今聴こえてきた物音だって、あくまでも憶測の域にしか過ぎないけども俺達がここに来たことによって都合の悪い理由があるのかもしれない。まあいい。下の怪談はまだ脚立がなくとも健在だったな。下へ移動しよう。」と全フロアを見終えた後、二人は下の階へと下りるために脚立を置いてきた場所にまで戻ってくると、侑斗は脚立を回収し、改めて下へ下りる階段を確認すると侑斗が吉岡に「足元気を付けたほうが良いな。1段だけが何故か無い。まさかここだけ解体して終わりってことはないだろうから恐らく腐食してしまった可能性のほうが高い。気を付けて下りよう。」と言いながら、足元の段差がない部分を注意深く懐中電灯で照らしながら下り始めると、侑斗は溜息交じりに「高いのは苦手なのに段差がないから下が見える。これははっきり言って地獄だ。仕事じゃなかったら絶対に行かない。」と言うと、吉岡は「前へ進みましょう。怖いのは僕だって同じですから。」と同調するように話すと、二人は下の階へと下りるとすぐ右のフロアへと入ったと同時に侑斗が立ち止まった。


「あそこの窓の外に中年の男がいた。おかしい。吉岡にも見えたか?」


侑斗が吉岡に訊ねると、吉岡は「見えましたね。明らかに僕達がここに来たことに対して快くないと感じていますね。警戒心すら感じ取ることが出来ました。」と話すと侑斗は男がいた場所を中心に写真撮影を行った。


「事件性は無いが何かある。ではその何かとは。とりあえず可能な限り、散策して調べよう。」と切り出して、二人は各部屋を見ていくことにした。


吉岡が侑斗に確認のために「最上階の僕達が入ってきたフロアが5階、先程ガラスの踏みしめるような音が聞こえてきたのが4階、そして僕達が危ない思いをしながらやってきたのが3階、後残るは2階と一番幽霊の目撃例がある1階ということですが2階へと下りる階段が見た限り完全になくなってますね。」と訊ねると、侑斗は「仕方ない。だから脚立が必要って言われてたんだから。でもこのフロア全体は比較的、まだ落書きもあってということは人が比較的に出入りしやすい場所ほど、ってことか。」と話した後に不審な水の撥ねる音が聞こえ始めた。


”ピチャン、ピチャン”


吉岡は侑斗に対して「不思議に思いません?さっきのフロアではガラスを踏みしめるような音が聞こえてきたのに、今度は水道など何も流れていないのにピチャピチャと水が撥ねる音が聞こえてくるんです。饗庭さんには聞こえてますよね?」と質問すると侑斗は「勿論聞こえた。しかし水道すら廃業と同時に当然ながら使えなくなっているはずなのに、水の撥ねる音が聞こえるのは不自然だ。外か、いや違う。これは外ではなく明らかに俺達がいる付近から聞こえた。どうしたいんだ?何を訴えたいんだ?驚かせたいだけなのか?」と頭を抱えつつも「トイレとかお風呂は、映像で見る限りでは1階が大浴場になっていたか。このフロアにある水場を重点的に確認しよう。」と切り出し、気になったトイレを確認し始めるが、水はすっかりなく便器だけが残っているような状態だった。


各部屋を見ていくうちに、吉岡が侑斗に「2階、1階から聞こえてきた可能性もありますよね。でもだとしたら、天井が水の漏水により腐食している痕跡があると言えども、水が滴り出ている様子などは一切見た限りでは見受けられませんね。散策しているのは僕達ぐらいですし、ここを離れて2階へと移動しましょう。」と話しかけると侑斗は「そうだね。2階からが怪しい。階段もなくなって下りれなくなっているからそれこそ俺達以外に肝試しに訪れている奴はどうやって下りてきた?というレベルだな。今の現段階では、ラップ音以外の怪奇現象と出くわしておらず、俺が入ったときに目がばったりとあったあの中年の男性の謎も残る。仮にもしあの男性がオーナーだとしたら、経営難に陥った末に思い入れのあるこの建物で果たして自らの命を絶つようなことは果たしてするだろうか。いや違う。ここはもっと違う理由が存在しているな。」と言いながら、二人は階段のところへとやってくると侑斗が持ってきた脚立をセットし始めると懐中電灯で足元を照らしながら先に降りることにした。


そして吉岡が下りてきたことも確認したところで、二人は各部屋を見ていくことにした。やはり水が撥ねる不審な音の根源が気になるのか、二人は熱心になってトイレにまだ水が残っているのかどうかも含め、注意深く見ていくことにしたのだが、建物の残骸のようなものが便器の中にあるだけで、水がある痕跡は見受けられなかった。


二人が行ける範囲内で散策しているうちに吉岡が侑斗に「さっきの、3階のフロアまでは落書きがありましたけど、階段がないからかここには落書きされたような形跡が一切見受けられませんね。至って綺麗なままの状態ですが、臭いますね。何かちょっとかび臭い、ここから異様な臭いがしてきますね。一体何の臭いなんですか?心霊廃墟で仮にもしここで事件とかがあったら死臭がするとかいうじゃないですか。まさかこのことを示しているんですか?」と話すと、侑斗は「いや違う。窓ガラスが割られ部屋の中がずっと野ざらしの状態で当然ながら雨風が入ってきて、気の流れも悪いために所々にカビが発生しているんだ。あまり臭いすぎるなよ。これは体に良くないタイプのカビだろう。」と言って答えると、足早に各部屋を見終えてから、1階へと下りるために再び脚立を用意して下りることにした。


そして男用の浴場とも思える場所に辿り着くと、侑斗が浴槽を眺めながら「見た限りでは水が残っているような痕跡すら見受けられない。トイレにも、となるとあの水が撥ねる音は一体どうやって、どうしたらあんな音が聞こえ始めるんだ。最初のガラスを踏みしめる音のほうがまだ説明が出来る。だけど、建物の周りは雑木林ぐらいしか無いこの場所で水の要素が何一つも無いのに水の音が聞こえるのはおかしい。水の音をあえて出したと思われるかもしれんけど、俺達ははっきり言ってそんな下らない小細工のようなことは一切していない。まさか海から?だとしても海からの距離が離れすぎてどう考えても聞こえるのはおかしい。」と話した直後に、二人の背後から何者かが近付くような足音が聞こえ始めるのだった。


”タッ、タッ、タッ、タッ”


明らかに廊下のほうから誰かが近付くような足音が聞こえてきたので、侑斗が確認のために浴場を出て廊下を確認すると、そこに侑斗が見た中年の男が立っていた。その表情は恨めしそうにも見え、とてもSOSのサインを求めているようには感じ取れなかった。御霊の感情を改めてみた侑斗は呼び掛けた。


「あなたは僕達に対して一体何を要求しているんですか?はやく出ていきたいのならば、早々と僕達は出ていきますから安心して下さい。」


侑斗が男性の御霊に対して話しかけると、男は急に黙り込み、何も伝えることはないと思ったのだろうか、スッと砂埃のように消え去るのだった。侑斗と御霊のやり取りを見ていた吉岡は「何か収穫でもあったんですか?」と確認のために訊ねると、侑斗は「何かある。しかし俺の呼びかけに対してあの現れた男性は何も言うことなく消えてしまった。」と話すと、「他に女性用の浴場もあったはず。ここにも足を運んでみて調べてみる必要性がある。」と話すと、二人は廊下を出て女性用の浴場がある場所へと移動することにした。


歩いていると二人の顔が次第に段々と険しくなっていくと、吉岡は侑斗に「さっきまでのフロアは明らかにかび臭い臭いでしたけど、1階に辿り着くとこれは何なんでしょうかね。カビでもない、異臭ともいえる臭いが、これはちょっと長居は出来ないですね。」と訊ね始めると、侑斗が「考えたくもないがひょっとすると死臭の可能性があり得るかもしれない。」と答えると、吉岡は思わず「死臭が漂うってどういうことですか?それならばここにはかつて事件があったってことですよね?でも過去を透視できる饗庭さんならここに何があったのか、入浴中に不慮の事故があったとかそういう事ですか?」と聞くと、侑斗は侑斗なりの見立てを話し始めた。


「恐らくだが俺が見た中年の男性は恐らくだがオーナーの御霊かもしれない。自殺したとかその後の消息が分かっていないために、仮にもし自殺したという話が真実ならば土地の価値を下げかねない行為を果たしてするかという事になる。つまり、オーナーはここで自殺などしていない。死んでから何かを注意するために現れたのだろう。だとしたら、ここが某有名怪談家の心霊DVDで取り上げられたことによってより心霊廃墟としての知名度が高まるにつれ、装備が不十分な若者が肝試しに訪れた結果壁が取り壊され無くなっている箇所に誤って落ちてしまった事故もあったのだろう。当然ながらこんな断崖絶壁に建てられているわけだから生きて帰れる保証はない。つまり最初の足音も、そして水が撥ねるあの音も、ひょっとすると肝試しに訪れた若者達が死ぬまでに行った行為を俺達に対して訴えてきたのかもしれない。そしてオーナーだろう男性の御霊は不法侵入された上にここで転落死した若者の御霊達に対し当然ながらいい思いをちっともしていない。自らの死を理解できぬままラップ現象を起こすことによって自らの存在をアピールする御霊達に対して、オーナーだろう男性は心底うんざりしているんだろう。こんなことで、土地の値打ちが下がっては益々買い手がつかなくなるだけだからね。オーナーの御霊が俺達の前に現れた理由として恐らく一刻も早く、建物を取り壊してほしいということだろう。そうじゃなければ、また同じ馬鹿が現れて、同じ事故が繰り返されるだけ。」


侑斗が見立てると、吉岡は「そのためにオーナーの御霊が現れたのだとしたら、僕達に対して訴えることなく消え去ったのは、僕達に対して”こんな危ない建物の中をこれ以上散策するのは危ない”と注意を促しに来たということなんですね。」と話すと侑斗は「だろうね。少なくとも俺達は身の安全に対して徹底的に考慮しながら、当然ながら心霊現象は何一つも起きないことすら証明できれば、買い手がつくかもしれない。この周辺にあった謎の建物だって解体の目途が立つかもしれない。」と話すと最後に足を運んだ女性用の浴場で写真を撮った後、足早に2階へと繋ぐ階段があった場所に脚立をセットすると、2階へと上がり、そして3階へ上がるために脚立を用意して上がり始めると、4階へと辿り着き、そして最上階の5階へと登るために脚立を用意して登ったところで、ホテルニュー鳴門での心霊検証を終えることにした。


建物の外に来たと同時にカメラの撮影を終えると、二人の表情は安堵感に包まれていた。吉岡が侑斗に「生きて帰れただけでも、いやでもここは異質ですね。こんな場所に建てたからこそ取り壊しにくい環境が相まってか心霊廃墟としてより危険な場所となったのは間違いないと思いますが、因みに某有名怪談家は心霊DVDの中で自殺が多かったともお話していましたが、見る限りでは恐らく違いますね。自殺というより肝試し目的で訪れた若者達が私有地でありながら不法侵入した末の事故死ですから、こんなことを言ってしまえば悪い事だと思いますが、自業自得ですよ。」と話したその直後に誰もいないはずのホテルニュー鳴門から女性の悲鳴が聞こえ始めた。


”キャアアアアア”


悲鳴が聞こえたと同時に侑斗が吉岡に「待ってて!見てくるから!」と話すと、駆け足で最上階のフロアを散策し始めると、侑斗の前に20代ぐらいの若い女性が虚ろな表情で何かを訴えたいのかじっと見つめ始めると、侑斗は女性の御霊に対して「あなたは自殺をした、いやここで転落死をされたんですよね。同伴した仲間に対する裏切りの思いもあなたは相当強くお持ちでしょうが、あなたのしたことも、あなたの仲間がしたことも思い出してください。れっきとした犯罪です。こういった廃墟には常に危険が伴うものです。あなたたちには有名だからこそ肝試しに訪れたい一心で来たのかもしれませんが、天国ではそんなあなたの死を快く思う人がいないために、今もここに訪れた者に対してラップ現象を起こすことにより、自らの存在を主張しているんですよね。”わたしはここにいる”とね。でももう観念されたらどうですか?あなたは諦め行くべき世界に行くべきだと思います。ここに居留まるべきではありません。」と優しい口調で語り掛けたと同時に、1階で目撃したオーナーとも思える男性の御霊が再び侑斗の前に現れ始めると、悲鳴を上げた女性の御霊の近くに寄り添うような形で、侑斗に対してこう告げた。


「行きなさい。」


男性の御霊の呼びかけに侑斗は「有難うございます、有難うございます。」と深々と頭を下げてから、建物を後にすることにした。そして外で待機していた吉岡に「あの1階で現れたオーナーの男性が、俺が女性の霊と対峙して説得をしようとしていたところを俺の代わりに説得するから行きなさいって言って身代わりをしてくれた。もうここは心霊スポットとしても名前は出さないほうが良いだろう、そもそもこんな建物をいつまでもいつまでも残しているほうがもっと問題。北郷さんには事故物件的な要素は微塵にも感じないから、取り壊しを早急に行うように促す。建物がもう危ない、土砂崩れなどが起きたら二次災害にも繋がりかねない。」といって説明すると、侑斗の説明を一通り聞いた吉岡は「そのほうが良いですね。跡地になってしまえば、わざわざ危険を顧みてまで足を運ぶ人もいなくなるでしょう。何よりオーナーの御霊はそれを望んでいるはずですからね。」と言って、二人は予約していたビジネスホテルへと出発するためホテルニュー鳴門を後にすることにした。


その道中で侑斗が「まだ見ていないんだけどさ、甲州さんと斧落さんが明るい時間帯での大坂峠での心霊ドライブをしていたよな。俺達はホテルニュー鳴門の建物が今どんな状態にあるのかあの周辺を散策する必要があるから同行出来なかったけど、でも何か困ったことがあったとか、そういった連絡は一切なかったよね?」と吉岡に確認すると、吉岡も「僕も甲州さんと斧落さんには連絡先を教えていましたけど、でも連絡掛かってきませんでしたね。大丈夫だったと思いたいですが、でも暫く僕達は別行動で、次僕達はまた廃墟に行くんでしたよね?」と侑斗に対して質問すると、侑斗は「そうだ、女子部では行かせられない喝破道場(香川・さぬき市)だね。甲州さんと斧落さんは大坂峠に行った後は、首切峠(香川・仲多度郡まんのう町)と長崎の鼻(香川・高松市)に行って明るい肝試しの女子部としてのライブ配信日程を終了だったね。だから今頃、香川にいて明くる日の長崎の鼻での検証を終えたら東京に戻る、確かそんな予定を聞いていたけどね。」と答えると、吉岡は「何事も無かったら良いんですけどね。ホテルに着いたら明るい肝試しの女子部のライブ配信の様子が動画にアップされているはずですから見てみましょうか。」と切り出し、侑斗も「そうだね。何事も無かったら良いんだけどね。」と理解を示しながら、二人の乗る車は高速を使って徳島から香川県へと入っていく。

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