見返り橋での肝試し検証をあっという間に終えた明るい肝試しの女子部と侑斗と吉岡は14時から室戸岬で行う肝試しライブ配信のために移動していた。
見返り橋でのライブ配信を終えた後、出発するまでに一休みをしていた斧落が侑斗に「今さっきむっちゃんと二人で話をして決めたことなんだけど、饗庭さんが見返り橋で伝わる怪異譚の説明をした際に1972年の災害のことを伝えたんだから、この際肝試しじゃないけど慰霊目的で繁藤駅の近くにある繁藤大規模土砂災害被災者慰霊塔へと行って改めてここで起きた自然災害について明るい肝試しでも特別編として組みたいからそれが終わってから室戸岬に行かない?」と提案すると、侑斗は「そうだね。俺も吉岡も慰霊の旅路として来ている以上、自然災害の犠牲者に対して黙祷を捧げるのは当然のことだ。でもどうしてそんなことをどうして調べようと思ったの?」と訊ねると、斧落が「犠牲者が60名も出た大規模な災害ならば慰霊碑の一つか二つはあってもおかしくないんじゃないかなと思ってねそれでググった。」といって返事をすると、侑斗は「なるほどね。」と頷きながら繁藤大規模土砂災害被災者慰霊塔の場所を地図で調べてから向かうことにした。
カーナビの音声案内を頼りに繁藤追悼の広場と書かれた看板の中に入っていくと、車を駐車しやすいところに停めてから慰霊塔へと訪れると両手を合わせ黙祷を捧げた。
※繁藤(しげとう)災害とは
繁藤災害(しげとうさいがい)は、高知県香美郡土佐山田町(現・香美市土佐山田町)繁藤の繁藤駅周辺で、1972年(昭和47年)7月5日に発生した土砂災害である。1972年(昭和47年)7月4日から5日にかけて、暖かく湿った空気が舌状に大量に流れ込むことで大雨をもたらし“姿なき台風”とも呼ばれる「湿舌」が四国山地にぶつかったことにより、土佐山田町繁藤では1時間降雨量95.5mm(5日6時)、24時間の降雨量が742mm(4日9時〜5日9時)という激しい集中豪雨に見舞われた。平年の3ヶ月分という大量の雨が一気に降った影響で地盤が緩み、至る所で小規模な土砂崩壊が発生していた。
降り始めからの雨量が600mm近くに達した5日午前6時45分、繁藤駅前にそびえる追廻山(550m)の駅付近の山腹が高さ20m・幅10mにわたって小崩壊し、人家の裏で流出していた土砂を除去していた消防団員1名が崩れ落ちてきた土砂200m³に埋もれて行方不明となった。早速、町職員や消防関係者が招集され、約120名が降りしきる雨の中、重機を使用した捜索活動が行われた。前日からの激しい雨はさらに降り続き、降り始めからの雨量が780mmに達した午前10時50分頃、小崩壊を起こした山腹が、いくつかの雷が一度に落ちたような大きな音と共に幅170m、長さ150m、高さ80mにわたって大崩壊を起こし、10万m³もの大量の土砂が駅周辺の民家のほか、駅および駅構内3番線に停車中だった高知発高松行き224列車(機関車DF50 45号機牽引、客車4両)を直撃した。突如発生した大崩壊による土石流は、家屋12棟や機関車1両と客車1両を一気に飲み込み、現場付近で救助活動を行っていた町職員や消防団員、その活動を見守っていた周辺住民や列車の乗務員、乗客らを巻き込んだ後、駅背後を流れる20m下の穴内川まで流れ落ち川を埋め尽くした。中でも機関車は川の対岸まで飛ばされるほどに土砂に押し流され、1両目の客車が機関車の上に乗りかかるように埋没、2両目が崩れ残った路盤に宙吊りとなり、辛うじて3両目と4両目の客車が被災を免れた。
自衛隊や機動隊、消防等関係者ら1,300人体制による捜索・救出活動(および遺体収容作業)は約1ヶ月間続き、延べ約2万人が従事したが、最終的に死者60名(大崩壊による死者は59名)、負傷者8名、家屋全壊10棟、半壊3棟の被害を出すに至った。駅構内の半分を土砂に飲み込まれたほか、一部の路盤を失って不通となった国鉄土讃本線(現・四国旅客鉄道(JR四国)土讃線)は、復旧までに23日を要している。災害発生の原因となった追廻山の山腹は、元々破砕帯が露出した比較的脆弱な岩盤構造となっており、折からの大雨で土中に多量の水分を含んでいたため、崩壊が起こりやすくなっていた(最初の小崩壊に巻き込まれた消防団員は、現場付近で小規模に崩落した土砂の除去にあたっていた)。小崩壊が起こったことによって、それよりも上部の破砕帯は地下水の流出経路を失い、土中にさらに多くの地下水が貯留され、それが過飽和になった時点で大崩落が発生したと推測されている。
この災害は、最初の小崩壊によって生き埋めになった消防団員の捜索、救出活動を行っている真っ最中に起こった「二次災害」といえるものであったため、その後に被害者遺族が起こした訴訟では、「怠慢による不作為」という行政の責任が問われることとなった。災害発生当時、降り続く雨によって災害現場の地盤が非常に不安定であり、なおかつ落石等で頻繁に救出作業が中断されていたという当時の現場状況において、作業に従事していた消防団員が大規模崩壊を予測できたか否か、自然災害における行政の責任を問う全国初の裁判となったのである。一審の高知地裁では、「消防団幹部が崩壊の予兆を見逃す『不法行為』をし、そのために大勢の死者が出た人災」と判決され原告が勝訴した。しかし、控訴審の高松高裁では一転して予測不可能な「天災」と判決された後、19年後の1991年9月に最高裁で和解が成立した。この災害の教訓から高知県の防災行政が見直されたほか、消防団員の研修内容に「現場の状況から危険を察知し避難する判断力の重視」という新たな項目が加わった。また、駅から国道32号線を高松方向に数百m進んだ地点には、本災害の慰霊碑やモニュメントを設けた広場があり毎年、慰霊祭が行われている。この慰霊碑は列車の窓からも見ることができる。
出典先: フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)様より
両手を合わせ終えたところで、レンタカーを停めておいたコインパーキングへと向け足早に出発することにした。そしてコインパーキングに到着後、斧落と甲州を降ろし停車しておいたレンタカーに乗ったことを確認後、室戸岬へと向け出発した。
その道中に、侑斗の携帯に着信を知らせる着信音が鳴り始めたので、侑斗は吉岡に「鞄の中に入っている俺のスマホを見て誰からの着信か見てほしい。」とお願いをすると吉岡は「わかりました。」といって返事後、すぐさま侑斗の鞄からスマホを取り出すと「登録されていない番号からの着信みたいですけどどうしますか?」と訊ねると侑斗は「ひょっとすると、畑さんか後藤さんかもしれない。電話に出てほしい。運転中だから出れない。」と指示を出すと、吉岡がかかってきた電話を取り始めた。
「はい、もしもし。饗庭さんが運転中の代わりに後輩の吉岡が出ました。」
吉岡の問いかけに、電話を掛けてきた後藤が応じた。
「侑斗さんのお兄さんから番号を聞いて電話を掛けてみた、後藤なんだけど侑斗さんはもうすでにお兄さんから俺と畑が浦戸大橋で質の悪い地縛霊を見てしまったがために禍を祓う必要があるのかどうかを侑斗さんに見てもらうって話なんだけど、ちょうど侑斗さんたちが室戸岬に向かうって話を女子部の見返り橋でのライブ配信を見ていて、あっこれはちょうどいいなと思って俺達もスカイレストニュー室戸での肝試しを行う前に先ずは侑斗さんに視てもらって身の安全が保障されてからライブ配信を行おうかなと思っていて、室戸岬なら女子部と男子部の俺達で合同でライブ配信をしようと思えばできることだし、あっ一応甲州にも斧落にも今さっき説明はしたんだけど侑斗さんにはまだ説明していなかったなあってのがあってそれで連絡したんです。」
後藤の話をスピーカー越しに聞いた侑斗は「兄貴から話は聞いて居る。室戸岬で落ち合ったらすぐにでも禍が憑いているかどうかをしっかりと見極めたうえで今後の心霊スポット探索が安全に出来るか否かも含め霊能者がジャッジをしなければいけないのは当然のことだからね。」と語りつつ「スカイレストニュー室戸なら、写真でちらっと見た程度にしか過ぎないんだけど多分ただの廃墟って感じじゃないかな?でも長年ずっと放ったらかしにしていたから人気が無いことを良い理由として御霊達の溜まり場となっているのは間違いはないだろうなあ。ただ事件性があるとかないとか、強いて言うならばあの室戸スカイラインは事故が多かったんじゃないかなっていうのはあるけどな。建物が怖いってよりも、あの周辺の環境のほうが怖いって印象を持った。さすがに自殺を図った方がスカイレストニュー室戸に行って一休みをしているなんてことは距離を考えてもあり得ないから、まだレストランがあったときに立ち寄った後に不運な形で事故に遇われてお亡くなりになられた方々が最期に過ごした思い出の地に足を運んでいるというのかな、可能性としてはそれしかない。」と後藤に対して話すと、後藤は侑斗の説明を聞くと「某有名怪談家の心霊DVDを見たのか!?誰もいないはずなのにはっきりと人の手が写ったり幽霊の大名行列があったりと、事件性の話はないけども曰く付きであることは間違いないと思うけどな。」と突っ返すと、侑斗は「仮にもし御霊の手が見えたのならはっきりと見えるわけがない。あそこにいる御霊の大方は浮遊霊にしか過ぎない。いいか!?あのDVDは恐怖演出をすることによって降霊術をしているわけではないがああいう形で騒いだり脅かせたりなどの古典的な方法でその場にいる御霊達のリアクションを求めるようなことをしているだけに過ぎない。実際にあの映像に出てきた発光物だって心霊現象と言いたいのか!?あれは心霊でも何でもない。あれがもし心霊なら一定のリズムで点滅するわけがない、あれは外で誰かが信号を送っているとしか思えない。だから俺的には建物内で彷徨う御霊が怖い云々よりも物理的な怖さだと思っている。」と話すと、思いがけもしなかった侑斗の答えに畑は「せっかく、まあ心霊廃墟の今の建物の崩壊の危険度を探る調査がメインだから侑斗さんがそういうのも理解はできるよ。でも俺達は噂される心霊現象をこの目で確かめたいというのもあるし、でもまずは饗庭さんが強く指摘した禍を祓う必要性があるかどうかをまずは視てもらい、祓ってから臨むのがいいとは思っているから、一先ず俺達も室戸岬の無料駐車場に向かうとは聞いて居るからそこで落ち合って、また会ってから色々と打ち合わせをしよう。」と話すと電話を切られた。
後藤と畑との電話のやり取りを終え、吉岡は侑斗に「まだしっかりと調べてもいないのにああ答えてよかったんですか!?」と質問をすると、侑斗は「それでいい。廃墟の大方は解体するにも予算が足りず建物の劣化と共に解体費用を安く見積もりたい業者の思惑がある。噂されるだけで事件性がないのが殆どだ。」と語る一方、「心霊廃墟として伝わっている廃墟の中で事件性があるとしたら千葉のYホテルぐらいしか無いけどな。あれはどうぞ中に入って下さいと言われても絶対に嫌だけどね!」と笑いながら話すと、吉岡は苦笑いをしながら「ハハハ。あそこは特殊ですからね。でもさすがに一度事件が起きてしまっている以上事故物件扱い、解体するにしてもあそこはあそこできちんと殺された方を供養するための施設にするとかしか、商業用の施設はもう建てられそうにないですからね。あと植樹するしかないでしょう。」というと、侑斗は「まあそうだろうな。一先ずスカイレストニュー室戸で彷徨う御霊の正体を突き止め、怖いもの見たさで不法侵入をしてくる人たちに対して怖い場所ではないことを証明したい。あそこは何もないと自信を持って言える。」と話した。
一同の乗る車が室戸岬無料駐車場に14時前に到着すると同時間帯に後藤と畑の乗る車がやって来て、そこで改めて明るい肝試しの女子部と男子部と侑斗と吉岡によるライブ配信を行うまでに軽いミーティングを行った後に、スマホの時計が13時59分になったところで、室戸岬の太平洋側をバックにするような形で明るい肝試しと慰霊の旅路の合同肝試しライブ配信を開始した。
進行役を務める甲州が室戸岬に纏わる怪談話から、今回の肝試しで行う議題について説明した。
「明るい肝試し、そして慰霊の旅路をご覧の皆さん。こんにちは。明るい肝試しの女子部の甲州です。今回は室戸岬にやってきました。2日から引き続き、慰霊の旅路様から霊能力者の饗庭さんと吉岡さんの二人に帯同してもらい、心霊検証を行って頂けます(甲州の紹介後、侑斗と吉岡がカメラを前に軽く会釈をする)。今回我々が足を運んでいるのが、室戸岬です。室戸岬は足摺岬と同様に高知県では非常に有名な景勝地として知られる一方、自殺の名所としても知られています。これまで、報道されてきた内容としては平成20年(2008年)の6月19日の午前5時25分頃に室戸スカイライン沿いの室戸岬展望台駐車場に駐車していた軽自動車の中で女性が頭からビニール袋をかぶり倒れている状態を通行人が発見し110番通報するも死亡が確認、車内にはトイレ用の洗剤などがあったことから硫化水素自殺を図ったものと見られている。あと一つは、平成26年(2014年)11月15日に室戸ジオパークインフォメーションセンター西方約350km海岸にて入水自殺を図っただろう男性の遺体が発見されたことからもここで伝わる怪異譚としては自殺者の霊が出てくる、林の近くでは子供の声が聞こえてくるとも言われています。古くは海の難所とも知られており、海岸は海水の浸食等により自然に造られた奇岩が乱立していて、またサーフィンの名所としても知られている場所の一つみたいですね。絶景だからこそ、最期の死に場を良い思い出になるような場所をあえて選んでいるのだとしたらとても悲しいことですね。そこで、今回は噂される自殺者の幽霊や、林が恐らく地図で見るとアコウ林とされる場所かと思いますので、今から我々は室戸岬遊歩道西側まで歩いて行って、そこで肝試し検証をし終えた後に再びこの地にまで戻ってきて子供の声が聞こえるという噂のあるアコウ林と室戸岬遊歩道東側、そして心霊に纏わる話はないんですけども道路を渡った先にある水掛地蔵堂と一夜建立の岩屋、最後に室戸岬展望台まで行って肝試し検証を終了させたいと思います。」
甲州の説明を聞いた侑斗は、甲州に対して「ところで何で林の近くで子供の声が聞こえてくるんだよ。子供が自殺するわけないじゃん。」と首を傾げながら質問すると訊ねられた甲州は「そこは、林のほうから子供の声が聞こえてきたという心霊現象があるぐらいしか、何があったのかは分からない。でもそのあたりはわたしよりも、饗庭さんのほうがよく分かるんじゃないんですか?」と質問返しをするような形で侑斗に対して答えると侑斗は「子供が遊んでいて、といっても仮にもし地元だとしてもこんなところで遊ぶかな~。そこが疑問なんだよね。観光地で子供が遊ぶような遊具なども無ければむしろここ、保護者と一緒じゃなかったら多分来ないでしょ。だから保護者が目を離した隙に迷子になって入れると思って興味本位で海に飛び込んだ結果旅立ってしまった、それにしても無理がある。」といって悩み始めると、侑斗の見解を聞いた吉岡が「子供の声っぽい声を聞いたという可能性もありますよ。地図で見ても民家のある集落から室戸岬までは自転車で行くにしてもかなりの距離がありますし、こんなところを子供同士で行くのはありえないことです。海岸沿いですので、例えば海鳥の鳴き声が子供の声のようにも聞こえた、その可能性は否定できません。」と話すと、侑斗は「それもそうだな。とりあえず今もなお自殺者の御霊が彷徨っているか否かをこの目で確かめる必要性がある。」と言って、一同は室戸岬遊歩道西側を目指して歩き進んでゆくことにした。
歩きながら念のために心霊写真が撮れそうな浸食された奇岩などを見て写真を撮ったりゆっくりと歩き進んでゆくにつれ地図上で見る室戸岬遊歩道西側とされる場所に到着すると、海側を食い入るようにじっと見つめていた侑斗が甲州に対して「昔はよくここが海の難所で一説によると海難事故に遇った際にお亡くなりになられた方の御遺体が室戸岬に流れ着くとかそういう話もあるみたいだから、亡くなられた方々の霊魂が出てくるという説もあるみたいだけど、多分ここは違うような気がするな。」と話しかけると、それを聞いた斧落が侑斗に対し「それは一体どういう事?」と訊ねると侑斗は「試しに何枚か自分のスマホで写真撮影をしてみたけど、岩場のところに白い靄が写っていてここに複数の顔が写っている。吉岡が撮った写真にも、吉岡来て(写真撮影をしていた吉岡を近くにまで来るように指示を出す)。吉岡が撮った写真にも不自然なものが撮れてしまった。」と話すと、呼ばれた吉岡が侑斗の近くにまで駆け寄るとすぐさま心霊写真とも思える写真をカメラの前で見せ始めた。
そこには赤いオーブのようなものが何枚も写っていることに甲州や斧落、そして一緒に帯同していた後藤と畑も食い入るように見ると、吉岡は「恐らくだが自殺者の御霊と判断して良いと思います。」と話すと、後ろから侑斗が補足説明で「ここは足摺岬と並ぶほどの自殺者が多いってわけでも見た限りではなさそう。海難事故に遇われてお亡くなりになられた方の御霊が彷徨っている可能性も皆無に等しい。仮にもし出てくるとしたら海難事故に遇った場所で帰る場所が分からなくなってしまい彷徨い続けるパターンだろう。だが、俺と吉岡が撮った写真には”もうこれ以上関与してほしくない”という御霊達の強いサインを見て取れた。恐らくだが、思い入れのあるこの地で最期を遂げることによって、あまり騒がずに静かに見守って欲しいというのかな、観光地だから仮に亡くなったとしても遺体が何日も経っても見つからないわけがないからね。苦しい思いはするが痛い思いをせず、確実に見つかる場所を選んで命を絶ったのだとすると、それは少数派の自殺志願者によるものだと思う。禍を齎す可能性は無いと思うが、今はただ御霊達の気持ちに対して尊重してあげて見守ってあげるのが望ましい。ここを離れて、室戸岬遊歩道東側へと向けて移動しよう。」と切り出すと、侑斗の意見に従って一同は室戸岬遊歩道西側を後にして室戸岬遊歩道東側を目指して歩き進んでゆく。
遊歩道を歩いていくうちに、次第に心霊写真のほかに近くで祭事でも行われているのだろうか、祭囃子のような賑やかな音が聞こえ始めて、先頭を歩いていた甲州の足がふと立ち止まり、思わずスマホで調べ始めた。甲州の様子がおかしいことに気が付いた吉岡が「どうしたんですか?」と訊ねると、甲州は「何だろう?メイサちゃんにも聞こえるのかな?観光客はいるけど、誰かどんちゃんしているような、賑やかなザワザワとした声がずっと聞こえてくるんだけど、まさか七人ミサキがここに出てくるとか、いや怪異譚では自殺者と子供の霊の話ぐらいしか無かった筈だし・・・。」と言って説明をすると、後ろから後藤が「俺にも聞こえる。(畑を見ながら)祭りでもしているんじゃないのかなってぐらいの勢いで騒いでいるよね。でも見回すと観光客が記念撮影しているぐらいで、ポケモンGOに興じている様子すら見受けられない。何なんだ?」と首を傾げ始めると、侑斗は「こう歩いているうちに、霊的エネルギーが強い人間が何人もいるから余計、自殺を図った方々が俺達の周りを今囲っているんだよ。大きな音で騒ぎ立てることにより、自分たちの居場所を邪魔してほしくないという意思表示に過ぎない。よって今回の室戸岬は撮影続行が困難とみて中止しましょうか。これ以上、この地で眠る御霊達の怒りを買ってしまっては禍を、祓う立場の俺達にも降りかかってくる可能性がある。ここに眠る方々はそれぞれ、理由があって帰れるにも帰れない状態になって今もここにいるのだろう。今は亡くなられた皆様の全ての抱える心の傷が癒えることは神様ではない、俺や吉岡には決してできないことだが追悼の意を捧げることならできるはずだ。ライブ中継の最後に皆で太平洋に向かって両手を合わせ室戸岬での肝試しライブ中継は終了させよう。」と説明し、行く予定だったアコウ林、室戸岬遊歩道東側から水掛地蔵堂、一夜建立の岩屋、室戸岬展望台での肝試しライブ中継が急遽中止という形で、ライブ中継の最後に一同が太平洋に向かって両手を合わせたところで、室戸岬でのライブ中継を終えることにした。
配信を終えた後、駐車場にまで戻ってきた畑が改めて室戸岬での肝試しラブ中継の様子の動画のコメント投稿された内容をタブレットで見始めると「あのさっきの賑やかな声がライブ中継のコメント欄で見ても聞こえる人には聞こえてきたみたい。心霊写真も撮れたことだしこれ以上撮影を続行してまでって饗庭さんは考えたんだよね?」と訊ね始めると、侑斗は「それはまた違う。自殺者が多く集まっている場所に禍が憑いてるかもしれない後藤さんと畑さんを帯同しての撮影は困難と判断した。」と話すと、侑斗と吉岡が並んで後藤と畑の後ろに立つと、後藤は「え?何だよ?何をするつもりなんだよ!?」と困惑した様子で聞き始めると、吉岡が「浦戸大橋で見た男の地縛霊による禍がこの場に眠る自殺者の御霊達を呼び起こす原因を作ってしまった可能性が高いです。この状態で心霊スポットに行けば益々幽霊キャッチャーにもなりかねません。早急に御祓いをしなければいけない必要性が生じました。」と説明を行ってから、予め清めて置いた侑斗の車の後部座席に後藤と畑を乗せ、緊急の御祓いを行うことにした。そして御祓いの儀式を終えた後、侑斗が後藤と畑に「もう大丈夫だ。といっても次のスカイレストニュー室戸が、まあ俺も吉岡も帯同はするけども、事故多発スポットにある廃レストランというのもあるからよりライブ中継が終われば連れて帰ってしまいかねないリスクも今のままでは高かったが、禍は何とか祓うことが出来たので、後は何事もなく、まあ俺個人的には建物の物理的な危険性を強く訴える形でのライブ中継にしたいんだけどね。」と笑いながら話すと、侑斗と吉岡の説明を聞いた畑は「それだったらライブ中継を行うまでに御祓いをしてほしかったけどなあ。」と指摘すると、侑斗は「実は言うと、ストリートビューで予め室戸岬がこういう場所なんだというのは写真で見てきたけど、写真に写るのが遭難者の御霊なのか、自殺者の御霊なのか、苦しみを訴えてきているあたりからも果たしてどっちなのかが分からなかった部分があったけど実際に来て見て答えが分かった。苦しいんじゃない、これ以上近付くなと叫んでいたんだ。それが分かった以上、我々が出来ることは時間の経過と共に心の傷が癒えること、願い祈り続けるしかない。」と話した後に後藤と畑を車から降ろすと、海岸のほうから女性の甲高い声で「キャアアアア!」と叫ぶ声が聞こえてきた。
慌てて侑斗と吉岡が海岸のほうへと向かって駆けつけると、観光客が写真撮影に興じているほか、変わった様子は見受けられなかった。叫び声に侑斗が吉岡に「まだここには多くの、心の奥底に闇を抱えた方々が救いを求め彷徨っているのだとしたら、やはり悪意のある御霊がいてもおかしくない。名所と言われている割には自殺対策が施されていない面も考えたら件数としては少ないとも思ったけど、マスメディアの自殺の報道規制があることも考えたら報道されている内容よりも実際は多いのかもしれない。中には悪意を持って導こうとしているのが、先程の女性の叫び声ならば、肝試しで行くには危険すぎたのかもしれない。」と話すと、吉岡は「こうして相手にしているとより自分に気を引かせようとして近付いてくるかもしれません。我々も早々と立ち去って、次のスカイレストニュー室戸へと移動しましょう。明るいうちに行って、明くる日の徳島での肝試しをしましょうよ。」といって、再び侑斗と吉岡が車へと戻ってくると、一同は予定していた17時よりも早い15時過ぎに次の目的地であるスカイレストニュー室戸へと向けて出発することにした。
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