【完結】慰霊の旅路~煩悩編~

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三坂峠(愛媛・松山市)

公開日時: 2022年4月29日(金) 23:30
更新日時: 2022年4月29日(金) 23:58
文字数:10,323

死入道峠での肝試しを終え、次に向かう三坂峠へと向け車を移動させていた。


車を運転しながら侑斗は助手席に座る吉岡に「次に向かう三坂峠って正直あんまり、四国の心霊スポットって正直何があるか答えなさいと聞かれたら調べなければピンとも来ないんだけど、三坂峠って何が有名なんだ?」と訊ね始めると、吉岡はきょとんとした表情で「三坂峠って饗庭さんのチョイスじゃなかったんですか?」といって返事をすると侑斗は「いや、俺じゃない。俺は聞いただけでもゾッとする死入道峠と首切峠、あと見返り橋と室戸岬ぐらいかな。今回の三坂峠と、徳島の大坂峠に関しては斧落さんのセレクトで”あまり知られていない場所だからこそ行って肝試しをしてみませんか?”ということで、俺も”あっそうだなあまり聞いたことがないので行って見ようか”という流れになったので正式に決まっただけで、実は言うとよくわかっていないんだよね。」と話すと、吉岡は「一応調べた限りの情報を教えますね。」と話し三坂峠に纏わる話を侑斗に説明することにした。


「正岡子規が詩を残したことでも知られている三坂峠はヘアピンカーブが続いているために事故が多く発生しているスポットみたいですね。噂ではここで事故死をされた方が御霊となって新たな事故を招いてしまうという負のスパイラルが起きているとも言われています。夜景が非常に綺麗なところではあるんですけど、仮に夜景を見ることが目的で心霊じゃなかったとしてもこの地で命を落とした事故死者の御霊と遭遇をしてしまうことがあるそうです。ある人の体験談では、峠の途中にあるトンネルを通過した際に誰も乗っていない後部座席で突如笑う女性が乗り込んできたといい、その後がどうなったかはよくわかってはいないのですが、この峠では自宅にまで憑いてくる御霊もいるために、帰るまでの道のりを後部座席で笑い続ける女性の御霊と共にドライブをしなければいけないのかもしれない、とありますね。心霊スポット検索サイトのアプリの情報でも、ここで御霊を見てしまったために取り憑かれてしまったこともあるなど、やはり事故死者に纏わる話が多くあげられているのが特徴ですね。」


吉岡の話を聞いた侑斗は「山道特有のヘアピンカーブが続いているからこそ死亡事故が起こりやすいってことだよね。実は本当に聞きたかったのはそこじゃなかったんだよなあ。」と切り出すと、吉岡は「本当に聞きたかったことって一体何だったんですか?」と訊ねると侑斗は「さっき話した、トンネルを通過したときに後部座席に突如笑う女性が乗り込んでくるって話をしていたじゃん。俺も出来る限りタブレットで情報は集めてみたんだけどさ、その女性がどうしてそのトンネルで出てきて笑いながら車に乗り込むのか、理由が定かでないうえに、ただ分かっていることとしたらその女性が出てくるとされているのは三坂隧道という小さなトンネルの付近で後部座席に気配を感じて振り返るとこちらを見て笑う女性が乗っていたというのが多数寄せられていたけど、肝心なのはその女性の霊が果たして本当に事故死者なのかどうかだよ。仮にもし事故でお亡くなりになられたのなら、笑いながら乗り込んで事故を誘発するようなことはまず考えにくい。それはまるで、次の犠牲者を出したいとばかりの強い意図的な狙いがあってもおかしくない。仮にもしこの噂が真実ならば、あまり遭遇はしたくない御霊だね。」と自分なりの見解を話すと、吉岡は「ああ。なるほどですね。つまり”良くない奴だな”ってことですよね?」と笑いながら話すと、侑斗は「笑い事じゃない。それに吉岡が持っている霊界コミュニケーションロボット語録で反応を示さなくてもいい。考えられることがあって、仮にもしそのパターンなら俺でも対応できないほどの強い御霊と対峙することになる。」と不安げな表情になると、吉岡は「強い御霊って一体どういうことですか?」と質問すると侑斗はこう答えた。


「事故死者の御霊の場合、不運な形で事故に遇われ亡くなられたのだから、この地で死ぬことが本望じゃない。だからお亡くなりになられた今でも、SOSのサインを求めて近くを通りかかった人に対して近付いて倒れかかったりするなどのアクションを起こして、助けてほしいと訴えるんだ。後部座席に突如乗り込んでいきなり笑ってくるということは基本的にありえない。それはまるで次なる事故が起こることを狙い、わざと驚かせるようなことをしているのだとしたら、それは事故死者ではなく質の悪い自殺者の御霊の可能性のほうがぐんと高いね。」


侑斗の見立てに対して吉岡は「饗庭さんが仰っている事も非常によくわかりますよ。しかし自殺者だとする根拠はどこにあるんですか?トンネルの付近で首を吊ったとでも仰るんですか?」と突っ返すと、「心霊スポット検索サイトには、三坂隧道のことに対して触れた記事があったぐらいでつづら川トンネルってのが凄く気になるんだけどね。車1台しか入っていけないほどの細いトンネルになるが、ここのストリートビューを見ていたらさ、入り口付近に縦のモザイク処理が施されているところがあって、それがあたかも”待ち伏せをして乗り込む女性”とも思えるような写真があったのがちょっと気になった。近くにはバス停の待合所があるから、過去に良くないことがあったとしてもおかしくないような不穏な雰囲気は漂っている。ただ、首吊りじゃなくてもここなら死ねる方法はあるじゃん。」と語ると、「ここが事故が多いってことは地図で見ても明らか。ヘアピンカーブが続いていて、かつてここが走り屋やローリング族の聖地として愛媛では有名な場所の一つともされているために、速度超過による死亡事故が後を絶たなかったという事だろう。そのためにいま交通安全の旗が上がっていたり、死亡事故が多発している旨の看板があったりとこれ以上の事故による死者を減らそうと行政が動いているあたりからも、現れた女性が事故で亡くなられたという解釈をしても俺は間違いではないと思う。しかしこれがもし、意図的に起こした事故により亡くなられたのなら話が違ってくると思う。最初に話してくれた事故で亡くなられた方が新たな事故者を出すために誘発するようなことが起きているとも、根源が恐らくこの女性の御霊によるものだとしたら相当の負のエネルギーを持っていて、対峙するとなった際は一筋縄ではいかないだろう。一度悪霊となった御霊の除霊は難しい、地獄に堕ちる覚悟があるのならとことん悪になってこれまで様々な罠を仕掛けてきたりして生者に対し禍を齎すだろう。そうなった場合、説得にも応じず抵抗を示してくる可能性もあり、かなり危険だ。仮にもしそうなった場合、俺達の技量では100%女性の御霊の除霊をすることは不可能に等しい。だから霊感は強くとも祓える能力がない斧落さんや甲州さんの身の安全を守ることに俺達は専念しよう。まあ俺の中では女性の御霊の話は噂であってほしい、そう願ってやまない。」と語り終えると、吉岡は頷きながら「そうですよね。出来る限り霊能者として、遭遇はしたくないパターンの御霊ですよね。」と話し終えると、三坂道路を経由する形で三坂峠に入るための道の交差点で左折した先にある公園の駐車場で合流することにした。


そこで軽いミーティングを行った後に、スマホの時計が13時55分になったと同時にそれぞれのカメラを持った状態で車の中でライブ配信を開始すると、進行役の斧落からなぜ肝試しの場所に三坂峠を選んだのか、そして怪談話についても説明し始めた。


「どうも、皆さん。こんにちは。明るい肝試し女子部の斧落です。ライブ配信、引き続き霊能者の饗庭さんと吉岡さんに協力をして頂き、今回訪れる場所は愛媛県最恐とも言っても過言ではない、三坂峠にいま我々はやってきました!なぜ三坂峠を選んで肝試しを行いたいと思ったのには理由があります!心霊スポットの検索アプリでたまたまここの峠を見つけて、後で説明をさせて頂きますが言われる怪談の内容がなかなか怖くってですね、ぜひ明るい肝試しの女子部で四国に行った際には立ち寄ってみたいなと思って、三坂峠をチョイスさせて頂きました。では三坂峠に纏わる身の毛もよだつ怖い話をしましょう。三坂峠はカーブで見通しの悪いところや車線が狭いところがあるために事故が多いのが特徴です。それだけが怖いのではありません。三坂隧道を通過する際に、誰も座っていないはずの後部座席に笑う女性が座っていたとか、この地で不運にも事故に遇いお亡くなりになられた方の幽霊も目撃されています。ここで幽霊を見てしまったら、その幽霊に憑かれた末に取り憑かれてしまうというから怖いところです。今回そんな危険な心霊スポット、三坂峠の心霊ドライブに果敢にもチャレンジをさせて頂きます。因みに死入道峠では饗庭さんの車にむっちゃんが、わたしが運転する車に吉岡さんがという組み合わせでしたが今回は逆です。先頭の饗庭さんの乗る車にわたし斧落が乗り、わたしが借りてきたレンタカーを吉岡さんが運転するのですがその車にむっちゃんが乗るという形で肝試しを行います。検証すべきなのは噂にもある見通しの悪いヘアピンカーブで不審な写真が撮れるか否か、笑う女性の霊の目撃談がある三坂隧道、昼間でも雰囲気が悪く何らかの霊気が漂っていることを感じ取れるというつづら川トンネルという小さなトンネルがありまして、そこでも肝試しを行いたいと思います。ですので峠道、三坂隧道、最後につづら川トンネルと行って再び三坂峠に戻り峠道の終わりに来たところで明るい肝試しのライブ配信を終了という流れになります。途中でもし不審な点、窓は開けっぱなしの状態で心霊ドライブを決行するので、もし車のエンジン音でも何でもないものが聞こえてきたりした際はコメント欄にてリアクションのほど宜しくお願いします!」


斧落が笑顔で説明を終えると、隣に座る侑斗は「先頭の吉岡と甲州さんが乗る車が出発したそうなので、俺達は5分ぐらい間を開けてから出発します。ライブ配信を見ている皆さんにもお伝えしたいことがあって、一応俺達の車には何かトラブルがあったときのためのトランシーバーがあって、また車載カメラも設置した状態でライブ配信を行うので、見ているだけでも非常に緊張感が伝わるライブ中継になるかと思いますんで、最後までお付き合いのほど宜しくお願いします。」と話すと、無線越しに甲州の声が聞こえてきた。


「登山口の休憩所を通過したので、饗庭さんの車も出発してください。」


甲州の声に斧落が「わかった。わたしたちも向かう。」と返事をしてから、三坂峠へと出発することにした。


一方、吉岡が運転する車は次第に緩やかなカーブがずっと続く山道になっていくと明らかに吉岡の表情が峠に入る前より険しくなっていく事に甲州が気付き始めると、心配になったのか甲州は吉岡に「怖い顔をしていますけど大丈夫ですか?」と訊ねると吉岡は笑いながら「ハハハ。よくね運転中は”怖い顔をしているよ”と言われがちですからいつものことですよ。普段なかなか人を乗せて運転するなんてことはあまりしないので、緊張してしまうんです。」と話し、その答えを聞いた甲州は「別にそんなに緊張しなくてもいいよ。それにわたしたちはこのコラボ企画で友達も同然の存在になれたじゃん。気楽に安全運転でやっていこ。」と話すと、ふと甲州が”何か”に気が付き始めたのか、大きく窓を開け始めると徐にカメラを構えてシャッターを何度も切り始めた。


その様子を知った吉岡が甲州に対し「どうしたんですか?何かあったんですか?」と問いかけると、甲州は「今さっき、歩行者なんて誰も歩いてなどいないのに、ふとこちらの斜面のほうから何人もの方からじーっと除かれているような気がしてそれがふと気になって心霊写真が撮れるかどうかを試しに連写で撮影をしたんです。場所はそれぞれ違うんだけど、トータルで考えると一人や二人どころじゃなかった。10名近くの方がまるで待ち構えているかのように見つめていた。」と話すと、吉岡は「実は言うといま霊視をしながら運転をしていますが、はっきり言ってこの場にいる御霊の数だけでも数えなさいと言われたらそれは出来ません。大雑把な数字にはなるのですが、僕が今の段階で確認できたのは20余名程です。これから先にある三坂隧道の付近ではさらに増えると思われますよ。」と話すと、甲州は吉岡の説明に理解を示しながらも「そうだよね。でもそれだけ多くの事故でお亡くなりになられた方々が今もなお成仏できずに彷徨っているのはそれなりに理由があるってことだよね。あまりにも思いもよらない出来事であったがために自らの死を受け入れることが出来ないとか、人にはそれぞれの抱えている事情も異なるから一概に事故死したことを受け入れられないの理由以外にもあるのかな。」と訊ねると、吉岡は「まあ、事故死された方のことを悪く言えることはできませんが、よく聞くケースとしてはお亡くなりになられたとき、もしくは幸いにも怪我や無傷だけで済んだ方でも、事故があったことを引きずらない人はいないんです。起こした側も、遭われた側も、引きずる傷は皆さん同じ事です。あのときにああしておけばとか、こうしておけばよかったとか、起こってしまってから色々と後悔の念がよぎって、その未練に断ち切ることが出来ないために、未成仏となるんです。思いもよらずに、亡くなられたことに理解を示すことが出来ず自分は今でも被害者なんだという意識をお持ちの方もいらっしゃいますが、単独の場合なら自らの愚行に対してただひたすら後悔の思いだけを訴えてくるのです。」と解説すると甲州は「人にはその人なりの、抱えている事情や未練も違うからね。全ての人が抱える心の闇を照らし解決することは容易なことではないとしても、この地に纏わる怪談話で”笑う女性が乗り込んできた”というのも、あくまでもわたしの見立てなんだけども、幽霊だからこそ気付いてほしいという一心で笑うというリアクションを起こして自らの存在意義を主張することにより、より自分の死に対して同情を持って接してほしいとか、そういう気持ちが事故死者の御霊ならではの特徴だと思う。」と語り始めると吉岡は「ここに来るまでに、饗庭さんとも議論し合いましたが、笑う女性の御霊は禍を齎す危険な御霊の可能性があります。」と答えると、吉岡の答えに対して甲州は驚いた表情で「危険な御霊ってどういうこと?だって書き込みの内容通りの事故でお亡くなりになられた方の幽霊なんでしょ?きっと伝えたい思いがあるから笑いながら出てくるに決まっていると思う。」と強く主張すると、吉岡は「仮にもしこの地で不運にも事故死され、まだまだこの世に対して未練を残しているのならば、通過した人に対してSOSのサインを求めてきます。よくある兆候としては、その場に誰もいないのに苦しそうな呻き声が聞こえてくるとか、あとは足音が聞こえてくるとかそういうケースです。少しでも近づいてくることに対しあえて音を出すことによって主張しているんです。ですので、気が付けば後ろに笑いながら座るという行為は救いを求めていないんです。運転した人間が間違いなく驚き、場所によっては新たな事故を誘発しかねないそんな危険なリアクションを、助けを求めている御霊ならばまずしてこないということです。つまり、負のスパイラルともされている事故死者の御霊が新たな事故死者を呼ぶというのは、その行為自体に悪意性を感じられるために女性の御霊の話が真実ならば、悪霊と判断しても良いでしょう。」と話すと、説明を聞いた甲州は怯える表情へと変わってゆくと、解説したことに恐怖を感じたかもしれないと思った吉岡が甲州に「大丈夫ですよ。何かあれば僕達がいます。それに噂話の類の一つだと分かれば心配することはないと思いますから、今は気を強く持ち決して目の前の恐怖に対して怯えないでください。」と力強くアドバイスをすると、甲州は「ありがとう。あまり考えないようにする。」と言った後に気持ちを切り替えて、再度気になった箇所を写真撮影してみますね。」といって写真を撮り始めた。


一方、侑斗達の車も民家を通り過ぎいよいよ山の中へと入ろうとした時だった。


ずっと窓の外を眺め、心霊写真が撮れそうだと思ったところで撮影をしていた斧落がある場所で連写をした結果、不審な”何か”が撮れたことを報告した。


「今さっき、左側の斜面でふと気になった箇所があって連写をしたら、カメラのフラッシュではない白い靄のようなものが映り込んでいる。赤いオーブとかそういうものではないんだけど、白い靄って何か良くないものが映り込んだってことだよね?」

斧落がカメラ越しに語り始めると、それを聞いた侑斗は「複数名の御霊がその場で写り込んだ可能性のほうが高いな。白く写り込むというのは、自然と一体化した場合ならいずれ時間の経過と共に成仏されるということなんだけど、はっきりと写り込む場合ならば未成仏ということだね。それだけ多くの方々がこの世に対する未練を断ち切れずに彷徨っているという事だよ。オーブとか、とりわけ危険な兆候を示す赤いオーブなどは写ったりはしていないだろうか?」と訊ねると、斧落は「今のところオーブっぽいなっていうのは白いオーブぐらいで、赤は今のところない。」と答えた。


その答えを聞いた侑斗は「それならば、やはりここには多くの無念が遺っているということか。心霊の情報として掲載はされていないが、かつてここはローリング族や走り屋にとっては聖地とされる場所の一つで、全国的には知られていないだけで愛媛ではかなり有名なところだったらしい。そういう場所ほど、自らの愚行で命を落としたことに、後悔の思いを滲ませながら犯した過ちに対して反省しているんだ。若いからこそ、色々な危険な行為をして互いに自慢し合ったりしたい世代なはずだから、それが危険だという認識も無いまま事故を起こして命を去った。亡くなった方にとってはまさかという考えで今も”あのコーナーさえ乗り越えていればこんなアクシデントは起きなかった”という思いでいるのかもしれない。」と語ると、斧落は「若い時は色々と周りの大人たちがああだこうだ注意したことに対して”何だよ、うっせーよ”だなんて反抗をしながらも結局はあの時に言われたことに対して守っておけばと後々後悔することがイコール勉強に繋がったりする時があるからね。それが若さって言うのかな。失敗しないと分からないことがあるって、わたしも偉そうに言える立場じゃないと思うけど、でも20代になり社会人になってからより思えるようになった。失敗も出来ないし、かたや自分の行いで責任が問われることにもなるんだと考えたら、色々と五月蠅く言われていた時のほうが幸せだったという事に気付かされる。」と思ったことを話すと、侑斗は「人間そんなもんだよ。人は失敗をして学習するんだよ。」と頷きながら話しているうちに、「吉岡の車はそろそろつづら川トンネルに辿り着いた頃だろうか。俺達の車もいよいよ三坂隧道に近づいてきたな。斧落さん、甲州さんに対してトランシーバーで今どこにいるのか聞いてみてほしい。」とお願いすると斧落は侑斗に「わかった。連絡してみる。」とトンネルに入るまでにトランシーバーのスイッチをONにして吉岡の乗る車との交信を試みた。


「斧落です。むっちゃん達の車は今どこにいるの?」


斧落の問いかけに甲州が「今わたしたちの車はつづら川トンネルへと入ろうとしているところ。メイサちゃんの車は時間的に考えたら三坂隧道に入ろうとしているよね?」と質問すると、斧落は「うん。あと少しで三坂隧道の入り口で、噂の除霊の幽霊ともひょっとしたら会えるかもしれないところだよ。」と話すと、甲州が「吉岡さんが饗庭さんに伝えてと言っているんだけど、三坂隧道よりつづら川トンネルのほうが怒りの感情を露わにする御霊だけでも複数名見受けられてこちらのほうが危ないですって伝えてと言っている。三坂隧道は確かに昼間でも雰囲気があって不気味だったし、吉岡さんも”事故死をした御霊が複数名見受けられる”とも話をしていた。でもつづら川のほうがやばいって、ね?ちょっと益々吉岡さんの表情が険しくなっていくんだけど大丈夫なのかな?」と話すと、それを聞いた侑斗は「吉岡に己を強く保て、甲州さんを守れるのは君しかいないだろ、と言ってくれ。そう話しているうちにトンネルの入り口にまでやってきたな。」と話すと、侑斗と斧落の乗る車は長さ51mの三坂隧道へと入っていく。倒れていたり、宙に浮いた状態の複数名の御霊達の存在を改めて侑斗が可能な限り確認すると呟くような口調で「臨兵闘者皆陳列在前(りん・びょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい・ぜん)」と九字切りをして三坂隧道を通り過ぎてゆく。


そして吉岡と甲州が乗る車はゆっくりとしたスピードでつづら川トンネルへと入っていくのだが、窓を開けていても明らかに異世界に迷い込んだとも錯覚してしまいそうなコンクリート吹付のトンネルに入ったところで、甲州が「女の人がいる・・・。何だか待ち構えているようにも見える・・・。」と恐る恐る人差し指を指し示しながら話すと吉岡は「恐らく事故死された方でしょう。噂された女性の御霊なら残念でしたと言うところですね。待ち伏せするまでに僕達のほうが先に気付きましたからね。」と話すと気にすることなくさっと通り過ぎると、後ろの席には乗らなかったが最後まで睨み付けられるような厳しい視線を周囲から感じながらトンネルを抜けるとその先の道路で切り返しを行い、再びトンネル内へと入った際に、じっと待ち伏せをする女性の霊が待ってましたとばかりに車の前に待ち構えると、吉岡は何食わぬ顔でスッと通り抜けると三坂峠へと何事もトラブルが起こることなく、左折して伊予郡砥部町のほうへと向かっていく。


侑斗と斧落の乗る車もつづら川トンネルへと到着すると、侑斗が「怒りの感情を露わにする複数名の御霊がいるって言ってたよな?」と斧落に対して話すと、斧落は「確かにそう話していたけど、何かあったの?」と訊ねると、侑斗は「何名かトンネル内に、生きている人間じゃないのは明らかだが怒りの感情は露わにしていない、今まで俺達が見てきた事故死者の御霊達のSOSの訴えだけが轟いている。だとしたら、今吉岡の車にやばいのが憑いて来ていることになる!斧落さん、トランシーバーで吉岡に緊急停車して御祓いを行えと言ってくれ。まずいのがあっちに行ったかもしれない。とりあえず検証のためにもトンネルの中に入るから、中でも電波は通じるはずだから今すぐに行ってほしい。」と指示を出すと、斧落は「わかった!」といって交信を試みるがノイズ音が酷く交信を試みようとしたが、”何か”に阻害されているかのようにうまくつながらず、トンネルを出てすぐのところで一旦停止して再度交信を行おうとしても、吉岡の車とのトランシーバーでのやり取りが出来なくなった。


侑斗は「何とかしなければ!冷静になって冷静になって、つづら川トンネルへと戻り、吉岡の車に追いつくしかない。」と焦る気持ちを抑えすぐさまつづら川トンネルへと戻り、吉岡が向かったであろう当初のルートの伊予郡砥部町の方向へと向け走らせた。


急にトランシーバーの調子が悪くなったとは知らない吉岡は走っていくうちに連れ段々と悪寒に近い寒気に襲われ、甲州に「急に寒くなってきましたね。」と話すと甲州がふと後ろが気になったのか恐る恐る後部座席を覗き込むと吉岡の背後に見覚えのない女が座っており、甲州と目が合うとニタっと不敵な笑みで笑い始めた。


すぐさま甲州は吉岡に「待避所に行ってすぐにでも車を停めるべき!やばいのが乗り込んでいる!」と話すと、吉岡はちらっと後ろを振り返るとハッとした表情になって「あのときのトンネル内で待ち伏せをしていた女だ!」とすぐ気が付くと、車を停めることが出来そうな場所へと緊急停車を行い、すぐさま緊急の御祓いを行った。


吉岡が緊急停止をして御祓いをしているときにタイミングよく侑斗の車も合流してすぐさま緊急停止し、侑斗も吉岡の車の御祓いを始めた。二人で協力をしあいながらなんとか女の御霊を祓うことに成功すると、侑斗は吉岡に叱責した。


「良くない奴だな。全くさては待ち伏せしていたのをそのまま相手にすることなく通り過ぎれば問題はないと思ったんだろ!?違うんだよ。通り過ぎるまでにまずは身の安全を考えて回避するべきだったんだ。そのためにもまず九字切りか運転しながらでもできる御祓いを行ってから通過するべきだったんだ。女の御霊以外にも色んなあの付近で事故死した御霊達が色々と憑いて来ている結果になり肝心のトランシーバーが使えない状態になって、こっちはどれだけ心配したと思っている!?」


怒る侑斗に吉岡は「経験不足ですみませんでした。」と謝ると、侑斗は「起こり続けていてもしょうがない。気持ちを入れ替えリセットしよう。これから高知県に行かないといけないのだからね。今回学んだことは吉岡にとっていい経験になったと思うし失敗を糧にこれからも学習することを忘れるなよ。」と喝を入れたところで、吉岡も「はい。ありがとうございます。」と答えた後に侑斗の車を先頭に、吉岡が運転する車が追随するような形で三坂峠を後にすることにした。

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