2026年5月6日 水曜日 PM19:00
建物の物理的な危険性を検証するために侑斗と吉岡は喝破道場の前にカメラをセットして録画用の映像を撮影していた。
カメラを前に吉岡が侑斗に「慰霊の旅路、高知のスカイレストニュー室戸、徳島のホテルニュー鳴門、そして香川の喝破道場と四国の心霊スポットを訪れる上において外せないと言っても過言ではない有名な心霊スポットの3か所を巡ってきましたけど、饗庭さんはどう感じましたか?」と訊ねると、侑斗は両腕を組みながら「うーん。」とため息をつきながらも「思ったことを正直に話そう。」と話した後、侑斗なりに感じたことを語り始めた。
「後ろの”修養団二大誓願”にも書いてあるでしょ。
”人よ醒めよ
醒めて愛に帰れ
愛なき人生は暗黒なり
共に祈りつつ
すべての人と親しめ
わが住む郷に
一人の争う者も
なきまでに
人よ起てよ
起ちて汗に帰れ
汗なき社会は堕落なり
共に祷り(いのり)つつ
すべての人と働け
わが住む里に
一人の怠る者も
なきまでに”
石碑に書かれた有難い文章が物語っている!だから言うこと無いでしょ?」
侑斗がケロッとした表情で石碑に書かれた文章を懐中電灯で照らしながら読み終えると、それを聞いた吉岡は失笑しながら「いやいや、これは答えになってませんよ。饗庭さんが行って見て思ったこと、霊能者として感じたことを、多分見ている視聴者の皆様はとても気にされていると思いますので教えてほしいんですよ。」と釈明をすると、侑斗は「霊能者として感じた事、思ったことといっても、多分視聴者の方達は俺が同じことを言って答えが見つからぬからそう言ったと思われるかもしれんが、心霊廃墟と言われる建物の多く土地の所有者が自己破産しているケースが多く、財産は当然ながら没収される。つまり、もともと所有していた土地が第三者に渡ったときにこの土地を有効活用しなければいけないのだが、建物の構造によってはある程度の年月が経ち朽ちてから解体工事を行ったほうが工賃が安くなる。それを狙いあえて物理的に危険と判断してから解体に踏み切るか、あるいは管理する自治体にそもそも解体費用を負担できるほどの余裕がない、いずれかが考えられるのだが、はっきり言って廃墟は物理的な危険性がある以外に怖いものなんてない。人が管理されなくなり、人目がないからこそ、御霊の格好の溜まり場にもなりやすい。視える人にはそこが事件があったりなんて思うかもしれないが、本当に事件や事故が起きた廃墟というのはほんの一握りで、心霊スポットにも挙がっている心霊廃墟の大方はただの廃墟に過ぎないし、それを知らぬ心霊好きは噂の真偽を確かめるべく土地の所有者の許可なく撮影を行ったりする。それは違法行為だ。不法侵入は勿論のこと、伝えた内容が事実とは異なる場合は名誉棄損で訴えられてもおかしくない。だから、ここが怖かったとか、そういうことは俺からはコメントを差し控えたい。」といって説明すると、吉岡は「饗庭さんの言っていることも非常によく理解できますよ。行った先々で明らかに害を及ぼすとは言い難い浮遊霊がいたのは僕も確認できたし、何より御霊が出てくることの怖さよりも物理的な危険性があるのは実際に足を運んでみてよくわかりました。現れる怪異譚の内容についても、多種多様とされているのも、それだけ不特定多数の浮遊霊がこの世への未練が捨てきれずにこういった人の管理がなされていない場所に溜まって棲みつく傾向があるというのはよくよく理解できましたし、饗庭さんが所有者の方々の気持ちを察してコメントを控えたいというのも理解できますよ。」と侑斗の意見に対して同調し理解するような発言をすると、侑斗の口から思いもしない答えが返ってきた。
「現存している心霊廃墟とされている建物は果たして本当に事件や事故が起きたのか人々が思うイメージから怪異譚というのが生まれていないだろうか?建物の中までは入っていないので今のところ俺が思うイメージとしては剣道の道場だけだったに過ぎないのじゃないかな。心霊の噂にもあった『青少年の更生施設だったという事もあって厳しい訓練から逃れようとしたり、或いは自殺を図ったりしてしまったという話は果たして本当のことなのか。風呂場での集団自殺が行われたというのも益々怪しくなってくる。剣道の二刀流とも案内があるように、剣道の道場だった。そして地元の高校生の合宿所としても頻繁に使われていたとも考えたら、建物内での”こっちにおいでよ”という不可解な声が聞こえてくる、写真に御霊が写り込むという不可解な現象が起きるという怪異譚は調べれば調べるほど、廃墟と化して人の管理がなされなくなっていく様子を人々が気味悪がって言われるようにもなったんじゃないかな。こういう廃墟は、人目がなく、またこの喝破道場は山頂にある。つまり、御霊が集まりやすい環境にあるということだ。おまけに電波塔が隣接しているのだから、現れやすい環境が非常によく整っているために出てくるとしか考えられない。」
侑斗がそう語ると、吉岡は「饗庭さんがそういう見解を持つのも理解は出来ますよ。廃墟になって人目が無くなればそれを良い理由にこの世の中に未練を残す浮遊霊達の棲家となっているようなところが多いのが殆どですからね。だからこそ心霊現象が起こりやすい要因の一つにもなって、不法侵入を図った人たちの中でかつてこの建物内で事件や事故が起きたのではという噂話も広がりやすい。それがいつ起きたのかそれすら噂である以上抽象的かつ曖昧な情報を知った若者達によって心霊スポットと化しやすいですからね。某有名怪談家が心霊DVDの撮影のために心霊廃墟で好んで実施していたのも、誰にも知られていない心霊廃墟のほうが確実な心霊現象が撮れるということを知っているためですよね。だからやらせとも思えるような恐怖演出などをしたりして、建物内で彷徨う浮遊霊をおびき寄せたりしているのを見て、内容が怖いと思えば思うものほど、訪れた建物が人気心霊スポットになりやすいんでしょうね。」と見解を話すと、侑斗は「まあな。それもあるんだけどね。いかんせん、建物の解体費用を抑えるために、ある程度建物が朽ちてから解体工事に取り掛かる場合もあるからこそ、運営していたオーナーが実はここで死んだから取り壊せずにいるんじゃないかという憶測も飛んでしまう要因にも繋がってしまう。ここは日本各地にある廃墟の一つにしか過ぎないと思っている。まあ本当に何もないかどうか確認するためにここにやってきたのだから中へ入って見ようか。まずは左の部屋から入っていって、次に右の部屋を見てみよう。浮遊霊は間違いなくいるだろう。それが果たして禍を齎すものなのかどうかをジャッジしてみよう。」と切り出すと、二人は建物の中へと懐中電灯を照らしながら入っていく。
最初に入った部屋で最初に目にしたのが、恐らく寝起きしていたであろう部屋だったが、室内は足場しか無い状態で朽ち果てており、慎重な足取りで残された足場を跨ぎながら中へと入っていくことにした。
侑斗が押し入れの中を確認し始めると、「中にまだ布団が、と言ってもこれはもう完全に使えそうにないなあ。だいぶ長いこと入っていたみたいな感じだな。」と思ったことを話すと、吉岡が一番奥の部屋を散策していると、侑斗に対して「だいぶ長い間放ったらかしにされているから、ちょっと臭いが鼻にきますね。これ以上ここを散策するとちょっと気分が悪くなりそうなので、早々と右の部屋へと移動しましょう。」と話しかけると、侑斗は「そうだね。右の部屋へ行こうか。」と理解を示すと二人はいったん外に出て右側にある部屋へと入っていく。
足場は辛うじてある。
しかしその先にあったステージ上のようなところが火事があったような、焼け焦げた痕跡があるのを見た侑斗が「これは火災があったってことだろうな。これが原因で廃業したにしても、火事による被害者が出ていなければすぐにでも建物は取り壊しているだろう。」と話した後に「廃墟となった後に不法侵入をした若者によって放火された可能性も考えられる。恐らくここが受付でかつ練習をする場所だったと考えるのが筋だろう。」と自分なりの見解を答えると、吉岡が「北郷さんから頂いた情報だと2階、今僕達がいるフロアが受付並びに練習場となっていて、1階が宿泊できるための部屋になっていたとありますね。つまり2階に布団があったことも考えたら、1階に収納が出来るためのスペースがないために2階から1階へわざわざ布団を下ろさなければいけなかったってことですよね。」と思ったことを口にすると、侑斗は「そりゃそうだろ。でもこの部屋を見る限り、御霊の気配は微塵にも感じないからとりあえず1階へ下りよう。宿泊用の部屋から現存しているトイレから集団自殺の噂があるトイレまで見よう。あんま長居すると多分これ、電波塔がある影響だろうかちょっと耳鳴りがキーンってくるのがずっと襲われているんだけど、吉岡は大丈夫か?ちょっとさっきから別にいう必要もない事を言っているような気がするんだけどな。」と言って気遣うと吉岡は「ちょっと、僕も。付近にある電波塔の影響ですかね。ここに来てから30分以上は経ちましたけど、時間が経てば経つにつれて、耳鳴りのキーンってくるものがありますね。場所を変えましょう。何かリポートしなければいけないと思いながら話していましたけど、ちょっとここに長居はきついですね。」と話し終えると二人は2階を後にして、1階の各フロアの部屋を確認することにした。
それぞれの部屋の状況を確認した侑斗が「落書きがある。ってことはここにも頻繁に誰かしら訪れているってことだよな。2階の部屋と同様、御霊がいるような気配はやはり感じない。そういえば階段、地下もあったよね。そこに風呂場やトイレがあるのだとしたら、水場で御霊が出てくる可能性もある。重点的に調べる必要がある。」と吉岡に対して提案すると、吉岡は「そうですね。因みに知る人ぞ知る噂にはなるんですけど一時期流行ったボディソニックチェアが置かれてあってそこに座るとって話もあったんですけど、今もあるんでしょうかね?」と笑いながら話すと、侑斗は「何それ?座ると3日後に死ぬとか?ってかボディソニックチェアって何?」と不思議そうな顔で返答すると、吉岡は「僕だってそれを聞かれたら答えられませんよ。地下を目指しましょう。」と戸惑いの表情を見せながらも階段を降りることにした。
そして地下に辿り着いたときに、吉岡が話していたボディソニックチェアに二人の目が留まると、侑斗は思わず吉岡に対して「先に座ってみるか?初体験でしょ?」と何気ない口調で訊ねると、吉岡は「いやいや、ここは先輩の饗庭さんが先に座ってもらって大丈夫ですよ!」と遠慮する姿勢を見せると、侑斗は「何も遠慮しなくていいんだよ。座りたいんだったらどうぞ座ってってほしい。俺はその間にトイレと風呂場を散策してくるから、吉岡はここで浮遊霊が彷徨っているかいないかを視てほしいんだよ。ここからは単独で検証する。そうじゃなければ俺達の動きに対して警戒して出てこない可能性があるんだ。」といって吉岡にお願いをすると、吉岡は侑斗に「分かりましたよ。ここで待機して浮遊霊がいるかいないかを見張っておきますよ。」といって理解を示すと、侑斗は単独でトイレと風呂場の確認を行うことにした。
先ずトイレらしき場所に足を踏み入れた侑斗は「多分ここがトイレだったんだろうなあ。台風か何かで仕切り板が綺麗に倒された状態で、でもこの面積で宿泊用として使われていたとしてもこれはかなり狭い。大人数が来たら対処できないんじゃないかなとは思うけどな。仕切り板がこんな状態じゃ便器に水があるかどうかってのも確認が取れないなあ。とりあえず板をどかして確認するか。カメラを置こう。」と言ってカメラを置いて倒れていた板を動かして便器の状態を確認するもゴミが中にあるだけで水がある要素は一切見受けられなかった。侑斗はいったん置いたカメラを再度持ち出し、便器の様子を撮影したときの事だった。
パタ、パタ、パタ、パタ、パタ。
背後から”何か”が動く音が聞こえ、思わず振り返った。
だが振り返るも壁しかなかった。
その瞬間侑斗は「待っててって言ったのに、吉岡の奴。勝手に動いたな。」と言って吉岡がいるところにまで戻ってくると、そこに吉岡が周囲の雑木林を気にしながら散策をしていたのだった。その様子を見た侑斗は吉岡に「吉岡。俺は吉岡にここで待機して浮遊霊の存在を確認してほしいってお願いしたのにどうして動いたんだ?」と単刀直入に聞き出すと、吉岡は驚いた表情で「饗庭さん、何を言っているんですか?僕は饗庭さんの指示に従ってここから一歩も動いていませんよ。僕のカメラを見て頂いたら分かると思いますよ。」と言うと、侑斗に対して撮影した様子のカメラの映像を見せることにしたのだった。
その映像には紛れもなく吉岡が待機するようにお願いされた場所から違う場所へ移動する様子もなく、その場をじっと待機しては気になったところがあればウロチョロとしているだけの映像を見た侑斗は「俺がトイレを散策していた時、便座の様子が気になって倒れていた仕切り板をどかした後カメラを向けたときに、誰かが俺の後ろを通ったんだ。気になって振り返ったが誰もいなかった。俺はてっきり吉岡が俺のことが気になって駆け付けてくれていたとばかりに思っていた。」といって釈明すると、吉岡は「それこそこの地に居座る浮遊霊の可能性がありますよ。一緒に確認して誰か僕達以外に散策している人間がいないか見ましょう。」と話すと、侑斗は「まだトイレしか確認が取れていない。お風呂場までは全然見にいけてないんだ。」と説明すると吉岡は「了解です。一緒に僕達以外の人間が訪れていないかも確認のために呼びかけましょう。」と言うと、二人はまず不審な足音が聞こえたと話すトイレへと向かう。
そこで改めて吉岡が隈なく確認すると、「水がある要素は一切ないですね。」と侑斗に対して話しかけると、侑斗は「確かに足音が聞こえたんだよな。でも仮にもし俺に御霊だとしたら、真っ先に気付く。でも俺でも気づかないことってあるのか?いやあのとき俺しかいなかったはずだった。だからてっきり外で吉岡が動いたとばかりに思ったんだよなあ。」と振り返りながら語ると、吉岡は「お風呂場に行きましょう。もう正直ここは心霊云々よりも近くの電波塔の電波による影響が、ちょっとさすがにここは霊感が敏感・鈍感だとか関係なしに気分を悪くするところだと思いますよ。僕だって早く切り上げたいです。」と話し、侑斗も「そうだな。この心霊廃墟は霊障云々ではなく環境的に宜しくない場所だな。物理的な危険性もあるけど強烈な電波を飛ばす電波塔が近くにあるから余計ちょっと言っていることがぐちゃぐちゃになってしまうな。行こう、行こう。風呂を見に行ってある程度の検証が終わったら次に屋上での霊視検証をしたところで、喝破道場の結論を出そう。」と言ってお風呂場のある方向へと侑斗が先に移動して、吉岡が追随するような形で中へと入る。
小さな浴槽がポツンとある光景に、吉岡が思わず「宿泊用にしてはあまりにも小っちゃすぎやしませんか?まるで一人暮らし用のアパートの浴槽を取ってつけたみたいな感じで、これは多分3人とか一気に入ったらきついでしょう。ゆっくり疲れを取るには適さないと思います。」と侑斗に話すと、侑斗は「本当に宿泊用だったのか、それにしては疑問に思うんだよなあ。トイレにしても、この風呂場にしても、大人数の宿泊客が来たときにこの面積とこの浴槽の大きさじゃ対処できないのは明らか。そのほかにも北郷さんから何か情報ってあったりする?」と吉岡に質問すると、吉岡は「聞いた情報では正式名は喝破道場ではなく修養団日盛山道場らしくって剣道師範の池田幸太郎らによって開かれた剣道の道場で、当時は高校生の合宿所としても使用されていたのは紛れもない事実みたいですよ。因みに喝破道場と言われるようになったのが地元の高校生の合宿所として使われていただけに不登校等の自立支援を行っている高松市内の公益財団法人の喝破道場と混同視されたのかもしれないとのことです。」と侑斗に対して説明すると、侑斗は「ってことは噂にあった青少年の更生施設だってというのはデマってことか。だとすると厳しい訓練から逃れたい一心で逃げ出したり、自殺を図ったりしたものがいたという説や、今俺達がいる風呂場で起きたとされる集団自殺、一人が自殺をしたために口封じで大量虐殺が行われた、屋上から飛び降り自殺があったの噂の真偽、その他建物内で”こっちにおいでよ”という不可解な声が聞こえてきたことについても検証に移ろう。」と話したその直後だった。
パタ、パタ、パタ、パタ、パタ。
またしても誰かが歩くような足音が聞こえるのだった。
その瞬間に吉岡がいったん外まで出て、「誰かいらっしゃるのなら出てきてお話をしませんか?僕達は土地の所有者の許可を得て撮影をしています。恥ずかしがらないで出てきてもらったほうが助かります。」と大きな声で問いかけるも返答がない。
吉岡の様子を見た侑斗は「俺がトイレで聞いた足音だ。これがもし生きている人間じゃないとしたら、俺達をどこかに案内しようとしているってことだろう。」と反応を示すと、吉岡は「まさかと思いたいんですけど、僕達を屋上へと導こうとしているんですかね?」と侑斗に対して訊ねると侑斗は「音を立てるということは、俺達に対して”ここにいるよ”というサインを出しているということなんだ。つまりいるから自らの存在を主張するためにあえて音を出した可能性のほうが高い。実際に訪れた人が遭遇した白い人の可能性もある。ひとまずどこから音が聞こえたのか?音を出した根源を探る必要がある。」と話すと、二人はまだ確認できていなかった屋上へと登ってみることにした。
階段を登り切り、眺めることが出来る絶景を目の当たりにした吉岡は「屋上まで上ってみると本当に綺麗ですね。さぬき市内を一望できますよね。」と侑斗に対して話すと、侑斗は「俺達が屋上まで来たのは絶景を見ることじゃない。俺に対して音でアクションを起こすことで気づかせようとした御霊の心情が知りたい。霊視して、この付近にいるか、ここならば建物の周囲を確認することも出来る、二人で徹底的にどこに居るのかを探してあぶり出そう。俺は階段上がって右手を探すから吉岡は左手を探してほしい。必ず何かがここを彷徨っている。」と言うと、吉岡は「わかりました。」と返事してすぐさま行動したのを確認してから、右手の方向の散策を行い始めた。
「本当に助けてほしいとか、訴えたいことがあって聞いてほしいことがあるのなら俺の前まで現れると思うんだけど、なぜなんだ?どうして音だけのリアクションだけは起こすのに、姿を現さないのか。助けてほしくないのか?この世の中に憂いがあるから彷徨っている、だからそっとしてほしいという意思表示だったのか。」
侑斗の中でしっくりと来ない謎をぶつぶつと呟きながらも屋上に設置されてある欄干越しに下を恐る恐る覗いてみると「この高さじゃ一気に逝けるのは間違いない。ただ果たして本当にここからの自殺が多かったのか。疑問だ。」と話したときに、左手の方向を検証していた吉岡が侑斗に「饗庭さん、来てください!御霊の存在を確認できました!」と大きな声で呼びかけられると、侑斗は「わかった。今そっちに向かうから。」と言って吉岡がいる方向へと駆け足で向かっていく。
そして吉岡に「何を見たのか、何があったのか、事の経緯を教えてほしい。」と訊ねると、吉岡は「僕がいるこの付近で散策していたとき明らかにこの建物に入ることを目的とした人ではない白い修道着姿の男の人が俯き加減で立っていて、僕の中ですぐ生者じゃないとすぐ判断して何があったのかと切り出したんです。これが喝破道場の真相だったのかもしれないです。」と言うと、吉岡は御霊との会話で知ったことについて説明を行った。
「ここは結構剣道の道場としても知られていたところだったみたいなんですけど、鍛錬の内容が厳しいところでも知られていたみたいで、僕の前に現れた男性は練習の厳しさゆえに鬱状態になって道場から脱走を試みたが結局保護してくれるような場所など、行動が行き当たりばったり過ぎたがゆえに追い詰められた末に逃げ込んだ先で自ら命を絶ったと言っています。因みにその方曰く、練習が厳しすぎて自分と同じように脱走を試みるが帰る場所がないために追い詰められて自死をされた方は他にもいらっしゃるみたいで、ここの建物で風呂場での集団自殺とか一人が建物内で自殺があったから口封じのための虐殺の話も、屋上からの投身自殺があったとかそういうことがあったのかと質問はしてみたけど聞いたことがないと話していて、トラブルがあったとしたらその脱走を試みたが行きつく場所がなく自ら命を絶つパターンだったみたいです。つまり噂で真実を語っていたのは、逃げ出した後に自殺を図った人がいた。伝わっている怪異譚の多くは人々の想像で作り上げられた噂話にしか過ぎなかったってことです。廃道場になってしまったという事も、さらに高松市内の更生施設の存在もより修養団日盛山道場のイメージが悪くなっていったのかもしれません。」
吉岡の話を聞いた侑斗は念のために欄干から下を覗き込むと、そこに笑顔で手を振る白い修道着姿の若い男性が佇むと一瞬で淡い光となって消えたのだった。
その様子を見た侑斗は「もうここは怖いとか、完全に無縁の施設になったようだ。ただやはり物理的な危険は勿論のこと電波塔の電波をどうにか、健康に害を及ぼすレベルだよ。これは何とかしないと、誰も買い手がつかないと思う。でも今やっとようやく俺が御霊の存在を確認できたんだけど、吉岡が比較的に年齢が近かったから悩みを分かち合いやすかったのかな?禍を齎したって報告もあったのによく浄化させることが出来たよな。」と感心しながら話すと、吉岡は謙遜しながら「僕は特別なことなんてしてませんよ。一一人の社会人として、また霊能者として素直な気持ちで可視化して現れた御霊に対して思ったことを訊ねた、それだけですから。現れた男性も心の鬱憤を聞いてもらえて安心したのか、今まで聞いてもらえる相手がいなかったから心の中でのウヤムヤがあったと思うんですけど、男性の御霊が色んなことを話していくうちに次第に男性の御霊の表情も穏やかになったんです。」と話すと、侑斗は「俺も比較的年齢は近いし、悩んでいる気持ちだって分かち合えるはずなんだけどなあ。何でだろう。新入社員のほうが共有しやすいのなら、俺は天狗になり過ぎているってことなのだろうか。」と呟くように語ると、吉岡は「そんなことはないと思いますよ。相性の良しあしだってあると思いますから。」と侑斗を慰めると、侑斗は「そうであってほしい。嫌われたらこの仕事は終わりだ。」とさらに小声で返事をしたところで二人は屋上を離れ、いったん建物の前で両手を合わせ深々と拝み終えたところで、喝破道場を後にすることにしたのだった。時間は21時を回っていた。
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