鳴滝での観光を堪能した油井と村田が、15時からの肝試しライブ配信地でもある徳島市内の大神子(=おおみこ)海岸へと向け車を走らせていた。
徳島市内へ有料道路を使いながら1時間かけて徳島市内へと到着すると、ライブ前に昼食を済ませるために立ち寄れそうなコンビニへと一旦休憩を取ってから、大神子海岸へと向かうことにした。
車の中で助手席に座る村田が信号待ちの度に飲む油井に対して「幾ら寝不足といっても、さすがにその商品。俺は絶対に買おうとは思わなかった。」と笑いながら話すと油井は「この商品、果たして関東のコンビニに売っていたのかどうか正直あんまり見ないし、ひょっとして徳島限定だったら、なおのこと味がどうのこうの別にして凄く気になったし買ったんだよね。歯がとろけてしまいそうなカフェオレ。」と苦笑いしながら答えると、村田は「そのさ、歯がとろけるってだけでも嫌な感じしかしないし見てそれを絶対に買おうとは思わない。」と突っ込むと、油井は「北海道産の生クリームが100%含有されていて、コーヒー豆はブラジル産、砂糖は沖縄産の黒糖、あなたの歯が今にもとろけてしまいそうなほど味わい深いカフェオレになっていますとペットボトルのラベルの説明書きにはあったから、それに値段も高そうだと思いきや200円あれば買えるからね。良い材料を使いながらこのお値段はコスパ高いよ。ただ名前はどうかと思うけど。」といって語ると、村田は「いや~。それでも絶対に買わない。ネーミングが嫌。」と話しながら二人の乗る車は日峯大神子公園の敷地内にある駐車場へと到着するとそこへ車を停車させてから徒歩で海岸を目指すことにした。
砂浜へと向かう道を、ゆっくりと潮風を味わいながら突き進むと、大神子海岸へと到着するのだった。スマホの時計が14時57分になったと同時に早速海岸をバックにした状態でニコニコ動画とYouTubeでの同時ライブ配信を開始した。進行役の油井がカメラを持つ村田に対して「季節が季節だから海水浴目的のお客さんがいないとして、ここで伝わる怖い話って何?」と訊ねると、村田が大神子海岸に纏わる怖い話について説明をし始めた。
「紀伊水道に面しており、元々は海水浴場だったみたいなんだけど海面下の地形がおぼれ谷という陸上の谷が海面の上昇や地盤沈下で出来ており、そのために潮の流れが複雑になっていることから水難事故が相次ぎ現在は遊泳禁止となっています。噂ではどれだけ多くの方がここで命を落としたかは正確な数が分かってはいないそうですが水難事故で水死された方の幽霊が目撃されており、また心霊写真も撮れやすいという話ですね。あとは、深夜にここを訪れると海難事故で亡くなられた方が幽霊となって海面から覗いている、松林では親子らしき人影が彷徨っている、付近で白い幽霊が目撃されたりと至る所で心霊情報が後を絶たない場所の一つです。」
村田から分かりやすい説明を聞いた油井は「なるほど。遊泳禁止になった場所だからこそ心霊スポットになったわけだな。でもそれ以外にもあるでしょ?」と単刀直入に切り出すと、村田は「1992年の8月17日に台風11号で波浪が高くなったことにより、18日から19日が時化模様となって最大瞬間風速は徳島で18日21時55分の時点で南東25.2m/秒を観測したらしい。高波のために海南町では行方不明になられた方が1人、大神子海岸で死者が6人、松茂町で死者が1人とあったみたい。そのほかにも、俺達が車を停めてきた駐車場では男性が焼身自殺をしたという話もあり、公園内では一時期不審火により使えない時期もあったみたいだけど、帰り道で交通事故に遭い病院に運ばれ入院された方も心霊スポットの情報では掲載されている。何でも公園内でバーベキューをした後の事だったらしいからね。心霊目的じゃないのに、結構やばいことが起きたみたいだよ。また付近では強姦殺人が起きたという情報もあるね。」とケロッとした口調で返答すると、油井は「おい!バーベキュー帰りに事故に遭って病院に運ばれ入院って、ってかあの入ってきたときの公衆トイレも何だか出てきそうな、やばい雰囲気はあったから絶対この辺り周辺は出るなと思ったけど、焼身自殺って。その上強姦殺人も起きているのかよ。」と言って言葉を失うと、村田が追い打ちをかけるように「2015年には遊泳中だった女性がお亡くなりになるなどの事故もあったりとやはり天災や事故の話があったのは紛れもない事実で、大神子海岸に纏わる怪談話としてはこんな怖い話がある。」と話すと、怪談話について説明をし始めた。
「太陽が浮かぶ前、空が明るくなってから魚が餌を探し泳ぎ始める時間帯を狙っていた釣り目的のAさんが真っ暗な時間帯に家を出て魚が餌を探し出す時間帯に合わせて大神子海岸に到着。そのときには既に何人の釣り人がいて、機体が出来そうだと胸を躍らせていたが、どうしてかAさんの竿には当たりが来ません。他の釣り人は好調のようで順調に魚を釣っていく姿を見たAさんはチッとイラついた態度を思わず取ってしまったようですが、それでも竿はピクリとも動かない。空も次第に明るくなっていき時計を見てみると日の出までもうすぐという時間になり、粘っても駄目だなと諦めがついたAさんは大きく息を吐きだし、帰り支度をしようと思い釣り糸を巻き取ろうとすると海の色が変わっていることに気が付いた。空が明るくなり、海の色も青みが増していたにも関わらずAさんが狙っていた部分の海だけが夜のままだったという。釣り糸を巻き取る手を休めることなくじっと海を見ているうちに小魚の群れが散っていくような感じで、黒いモヤっとしたようなものが広がるように消える瞬間をAさんは見たという。こんな体験をしたのは初めてで、釣り仲間との話でも聞いたことはなかったみたいだが、それが良くないものだと感じ取ったそう。それからは、黒いモヤっとしたようなものは見なくなったそうだが、Aさんにとって夜の海が若干怖くなってしまったという話がある。」
その話を聞いた油井は「わかったよ、もう大神子海岸の怖い話はそれまでにしておいて海岸沿いをゆっくりと歩いてから、心霊スポットじゃないけど大神子海岸遊歩道にも足を運んで帰りに日峯大神子広域公園の敷地内にある各公衆トイレにも立ち寄って肝試しライブ配信を終了させようか。」と話しながら、海岸沿いをゆっくりと気になった箇所をカメラで撮影しながら遊歩道がある方向へと歩き進んでゆく。
呟くような口調でカメラで撮影した画像を見ながら油井は「水辺だからか白いオーブっぽいのがちらっと映ってはいるな。でもこれは水難事故で命絶たれた方なのかどうなのかは、その辺の浮遊霊が写り込んだ、にしては白いってことは未成仏ってことだよなあ。せっかく海水浴を楽しみに遊びに来たのに、思いもよらず海の怖さを知らなかったがために、事故に遭われ亡くなられたのだとしたら、自らの死に対して理解が出来ない思いで彷徨っていてもおかしくはないけどな。」と思ったことを口にすると村田は「自殺の噂もあるから、何も水難事故でお亡くなりになられた方のみならず、色々な方達が大神子海岸から旅立たれてるからこそ、あちこちで心霊に纏わる話があって当然なんだと思う。まあ遊歩道でも身投げをしようと思えばできるスポットがあるから、その辺りでも重点的に写真撮影したほうがいいかもしれないね。」と話すと油井は「説明にもあったここの曰くと、事件があった、更には釣り人の怪談話を聞いて益々、徳島って旧一宮火葬場もあるけどさ、お亡くなりになって昇天された方が必ず逝く施設とは違ってこちらのほうが生々しさが尋常じゃない。カメらにも映ったこのオーブが一体俺達に何を訴えているのか、霊能者じゃない俺達には答えすらわからない。」と語ると、村田は「そんなもん、答えは分からないほうが良いに決まっているよ。人には人、それぞれの事情があるし、何より海難事故で亡くなられた方にとってはここが最期の場所だとは思ってもいなかっただろうし、それを追求してしまうとより同情心が芽生えてくれたとでも勘違いされかねない。とりあえずはひたすら海沿いを歩いてみて、遊歩道の行ける場所にまで行って、でここも気になった場所ではあったんだけど大神子海岸南側遊具広場の付近にも足を運んでみて、そこでの検証が終わったらトイレ、駐車場へと戻って終わり、そんな感じでいいかなとは思う。」と話すと油井は「あのさ、大神子海岸南側遊具広場の付近のことなんて何も触れていなかったのにさどうして急に行こうって決めたわけ?曰くがあるわけ?」と単刀直入に訊ねると村田は「全体的にまだほら、大神子海岸の全容を見ていないわけだしさ、まずは遊歩道沿いに歩いてみて最後に確認のために大神子海岸南側遊具広場の付近まで行って改めて噂される内容が確認されるか否かをしっかりと見てからトイレでの検証をしようかなって、そのほうが視聴者も納得しやすい内容になると思う。」と答えると油井は「わかった、わかった。遊歩道まで行って、見終えたら次は行っていない方向の砂浜を歩いて、可能な限り海岸にも近付いてみて、一番端っこの大神子海岸南側遊具広場の付近にまで行った所でトイレまで行って、そこで肝試し終了ってことか。何だろう、ここに来てから海面から人が覗き込むような気配は感じないんだけどさ、海のほうからさじっと誰かに見つめられているような視線だけは凄く感じる。」と話すと、村田は「それってカメラで撮れている?」と訊ねると、油井は「それが点々となんだけど白いオーブでしか映っていないんだよね。それが俺が感じた視線なのかどうなのかはまだはっきりと答えることはできない。」と回答しながら二人は遊歩道沿いの一番海を眺めることが出来る岩場へと足を運ぶと、油井は村田に「WARASHIの反応を見てから、俺の霊視を行いたい。」と説明を行うと、鞄の中からWARASHIを取り出して手動検知で調べ始めるのだった。
結果は水色点滅で”空気が綺麗だね”と言われるのだった。
その答えを聞いて村田は「水色ってことは悪い霊はいないってことだったよね?」と確認のために油井に訊ねると「一応説明書きではね。赤が危険なお化け、黄色が危険ではないがお化けがいる、緑が通常、水色が良い精霊がいる、青が天使がいるとあった。つまりここには悪いお化けはいないってことだな。」と話した直後に確認のために霊視を行うことにしたのだが、結果は同じだった。
「霊視をしてみないと分からないほどの、微弱な浮遊霊しか視ることが出来なかった。昼間だからとか、そういうのは恐らく関係がない。実際に水難事故が多かったために遊泳禁止になったのは間違いない事実だからこそ、海岸に近づくまでにあった注意書きの”あぶない!泳がれん(=徳島の方言で泳げないを指す)”と警察が注意書きの看板を立てたのもそれだけ多くのってことだろう。でもここにいざ立ってみて悪い気は一切しない。むしろこんな綺麗な場所で海を眺めることが出来て、土釜では山の綺麗な空気を沢山吸えて、こっち(大神子海岸)では潮の空気を味わって、あ心霊観光じゃなくて肝試し検証だったな。ここは残念ながら山+水場というのもあって微弱な力しか持たない霊しかいない、大神子海岸沿いでの検証は終えて遊歩道へと向かおう。何か新しい発見があるかもしれないからね。」といって促すと、村田は「白いオーブの説明がはっきりとしないまま、霊視をしたら無害な浮遊霊が確認できたので次へと行きましょうってちょっと納得しないけどな。そもそも白いオーブはどうして撮れたんだ?第1の疑問が解決されていないのになあ。」と疑問に思ったことを呟きながらも、遊歩道へと向かう通路を歩いて移動することにした。
二人の前に遊歩道の階段が見えてきて、階段の段差を踏みしめるかのようにゆっくりと歩いていくと、踊り場辺りで油井が立ち止まった。
油井は村田に「今さっき、女性の声で、奥にある林のほうからフフフって笑い声が聞こえてきたけど、村田は聞こえたか?」と真剣な表情になって訊ねると、村田は「俺も聞こえた。林のほうから確かに、俺達以外に女性がいるのかなっていう、フフフって笑い声が聞こえた。」といって返事をすると、村田は油井に対して「撮影をしていることをしっかりと説明をしなければいけないから、声が聞こえてきた方向に対して俺が呼びかけるよ。」というと、油井は「任せるよ。」といってお願いすると、村田は林に向かって大きな声で「スミマセン、林に誰かいらっしゃるのなら隠れていないで出て来てください。ライブ配信中なんで、あのもしこういったらあれなんですけども僕達のライブ配信を見て来てくださったのならそれはそれですごく嬉しい事なので恥ずかしがらずに出て来てください!」と呼びかけるも、林のほうからは何かが動くような物音も、そして女性の声が聞こえた方向からはシーンと静寂な空気だけが広がるのだった。その様子を見た村田は「本当に女性の声が、あれは動物の鳴き声とかそんなもんじゃない。明らかに人の笑い声が聞こえてきた。あれはどういうことだ?」と二人には解決できぬことを目の当たりにしたところで、油井が「撮影していると分かってさっと消えた可能性もあるかもしれない。とりあえず遊歩道を行けるところまで行って見てそこで俺の霊視とWARASHIの検証を行って、村田が検証を行いたいと語っていた大神子海岸南側遊具広場の付近から公衆トイレへと行って検証を行うって流れで今は動いているわけなんだし、このまま予定通りで進んでいこうぜ。」と行ってさらに前へと歩いていくと、絶景を満喫できるスポットが目前に近づいたところで再び女性の溜息のような呻き声のような声が聞こえてくるのだった。
”はっはっはー”
再び不可解な声を聴いた油井は村田に対して「なあ。またも説明のしようがない女性の声が聞こえてきたんだけど、これは野生動物なのか!?野生動物なら海鳥とかそういうものか?こんな左手の林のほうから海鳥の鳴き声が聞こえてくるっておかしいだろ!?何なんだこれは!?これがもし幽霊なら俺達に何を訴えているのか、わからない、わからない。」と言った直後に、鞄の中からWARASHIを再び取り出して、手動検知で検証を調べてみることにした。
結果は赤点滅”後ろに気を付けて!”というWARASHIの答えに、油井は「後ろに気を付けて、ってことはやはり俺達が聞いた声はそういうことだったのか。」と言葉少なげに呟き始めると、村田は「だとしたら、もし遊泳中の事故でお亡くなりになられた方がわざわざここに足を運んでくる理由もわからない。何があったんだ?それすら噂にも何もなかったのだからどうしてここに?」と不安げにリアクションすると、油井は村田に「立ち止まっていないで、理由が分からないのだからこそ遊歩道の立入禁止で通行できない場所の付近にまで行って見てそこでも改めてWARASHIと俺の霊視検証を行おう。少なくとも俺の霊視の実力ではここで何があったのか、真相にはたどり着けない。」と話すと、村田は油井の答えに渋々理解を示しながら立入禁止と書かれた看板を目指して先を進むことにした。
歩き進んでゆくと、女性の声はぴたりと止まったが、それでもなお二人には言葉では説明しがたいほどの恐怖に襲われていた。
やっとの思いで遊歩道の先にまで到着すると、そこで改めて海を眺めてみると、油井は「海難事故で亡くなられた女性が幽霊となってここにまで這いあがってきたのか。いや違う。もっと違うことがあるはず。」と言葉にした直後に、村田が油井に対して「あそこの柵がないところ、よくよく見たら防護柵の一つもない、落ちたら間違いなくあの世へと旅立つことが出来るよ。ひょっとするとだが、怪異譚の話として上がっていないだけでここに訪れた際に自殺された可能性も捨てきれないと思う。」と話すと、村田が指摘した内容を改めて確認するために油井が恐る恐る近づき始めると「そうだな。ここから身投げをしたら、間違いなく助かる見込みはないだろうな。ここ最近の自殺者を増やさない取り組みからマスメディアでの報道も自粛されているから、水死者の霊が出ることには間違いないが、これが海水浴目的ではない可能性があるかもしれないってことか。」と話した直後に、油井は村田に「俺達では真相に絶対に辿り着くことはできない。饗庭さん、有識者に相談するしかない。一応饗庭さんには俺が撮影した不審な画像をLINEのメッセージでは送信した。」と言って答えた後に、星弥の携帯に電話を掛けてみることにした。
コール音が3コール程鳴って星弥が「はい、今度は何所の心霊観光地?」と冗談交じりに応えたので、油井は「心霊観光じゃなくって、肝試しに来たんだよ!」と笑いながら突っ込み始めると、油井は星弥に対して「画像を送ったんだけど見てくれた?こればかりはもう、俺達の手に負えるレベルじゃない。何がそうさせるのか、一体何があったのか、霊能者じゃない俺達には限界がある。教えてほしい。今俺達は徳島市内にある大神子海岸ってところに来ているんだけど、かつては海水浴場として非常に賑わっていた観光地でもあったそうだが、ここの大神子海岸の潮の流れが複雑だったという事もあってか、海難事故でお亡くなりになられる方が後を絶たなかったために現在は遊泳禁止となっている。なので心霊に纏わる噂も海難事故で亡くなられた方の霊を見た、水死者の霊を見た、あと心霊写真が撮れやすいってのもあって、ただどれも水死者であることには間違いないが、怪異譚の内容がオールアバウトすぎて正直にいま俺達が歩いてきた遊歩道でも俺達以外誰もいなかったのに女性の笑い声や呻き声のような声が聞こえてきた。もうここまで説明のしがたい事が起きると、今の俺達では視聴者に対してどう説明したらいいのかすらわからなくなってしまった。饗庭さんなりに視えたことを教えてほしい。」と懇願すると、星弥は言葉少なげに「わかった。答える。」と話すと、星弥なりの見立てを解説し始めた。
「油井さんが写してくれた、海岸沿いの白いオーブは恐らく、海水浴目的で訪れたが不運なことにこの地で溺死された方々が、ここは報道されてある内容以外にも多数事故が多発していたように見受けられる。岩場から眺める写真でも、砂浜から眺める写真でも明らかに浮遊霊とは違う、”ここで旅立つとは思ってもいなかった”という御霊達の強いメッセージすら感じ取ることが出来る。予想外のことが起きたからこそ、自らの死に理解が出来ないってことなんだよ。」
星弥の説明を聞いた油井は「それなら、俺と村田が遊歩道で聞いた女性の声は饗庭さん的にはどう解釈するの?」と訊ねると、星弥は「それならもう答えが分かり切っている。」と言うと「海難事故で亡くなられた方のほかにも、水死者の霊が出るとも心霊に纏わる話としてあると言っていたよね?これがもし、海水浴での事故ならば何も水死者の霊が出るとオールアバウトなことは言わない、ではどうして水死者の霊が出るというんだ?近くで船の事故があって運悪く船に乗り込んだ方がご遺体となって漂着してきた場所とでも?違うはずだ。」と指摘すると、油井は「それならば、答えは何だと思う?」と恐る恐る訊ねると、星弥はきっぱりとした口調で言い切った。
「そこで身投げされた方だろう。今油井さんと村田さんがいるところは、崩落があってその先が行かれないように封鎖されていると思うけど、恐らく海に近づけば近づくほどその傾向が高かったのかもしれない。笑い声やその後に聞こえてきたのは恐らくだがその地で自らの命を絶たれた方が自らの訴えを主張したかったに過ぎない。相手にしてしまうと、己の死に同情してくれるもんだと思い込み、憑いてくる危険性のほうが極めて高い。女性の霊の調査はそこまでにしておいて、見るべき場所がもしあるのだとしたらそれらは全て撮影中断したほうが身のためだと覆う。訳の分からないことが起きたから原因を追究したいお二人の気持ちは凄くわかる。でも浦戸大橋(高知市内にある有名な自殺の名所)で俺は後藤さんと畑さんにも言ったことだけど、怪異譚の内容があやふやで曖昧なものほどそれだけ多くの、不特定多数の方々が旅立たれているってことなんだよ。だから何が出てくる、これがあるとか、明確なはっきりとした情報が無いのは当然のこと。人にはその人にしか視えぬ、同調し合うことで可視化して現れる傾向もあるから一概にこの人には視えたのに、でも違う人が視えると思って訪れたら全く視えなかったり、心霊スポットとされる場所には必ずといってもいいぐらいに人の命を落としている場所が多いからこそ、後々心霊と付いてしまうことで悪い噂となって広がりやすい。だからこそ根本に帰って素直な気持ちになって考えるべきだと思う。長々となったけど、大神子海岸南側遊具広場やトイレを調べても時間の無駄だと思う。見どころをしっかりとおさえたから、後はもう肝試しライブ配信を終了してもいいんじゃないの?追求しても答えは同じ。じゃあね。」
星弥と電話でのやり取りを終えた油井は「話の内容聞いたか?」と村田に対して質問すると、村田は「ここは饗庭さんの言う通りに従おう。海岸まで戻ってきたところで大神子海岸での肝試しライブ検証を終了させよう。答えがわかったからこそ、饗庭さん無しの今の俺達ではかえってこの場を混乱させかねない。」と言うと、油井は「そうだな。そうするしかないな。」といって、二人は遊歩道を後にして海岸にまで戻ってきたところで、大神子海岸での肝試しライブ配信を終了させることにした。
ライブ配信をあっという間に終え、車に戻ってきた油井は村田に対して「予定では17時過ぎに終わらせる予定だったのが16時には終わってしまったね。」と話すと、村田は「今は、お互いの身の安全を守ることが最優先。霊能者が言う事には従い、行動することで禍から逃れることも出来る。危険を冒してまで、続行したらかえってよくないものが憑いてきた結果になっていたのかもしれない。」と語ると、油井は「まあそうだな。今の俺達には祓うことも、霊と喋る才能も無い。霊視が出来る、霊感がある。大神子海岸で自分の才能とは何か?限界を痛感させられた。」と語ると、村田は油井に「限界があって当然のこと。限界のない人間なんていないんだよ。」と慰めるようにそっと話しかけると、油井は村田に感極まって言葉を詰まらせながらも「ありがとう。」といって返事するのだった。
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