2026年5月2日 土曜日 PM23時
スカイレストニュー室戸での明るい肝試しを行う前に本格的な肝試しを行おうということで畑と後藤が向かったのは、高知県で非常に有名な自殺の名所とされる浦戸大橋にやってきていた。
22時58分から明るくない肝試しライブ配信と題してYouTubeとニコニコ動画で同時にライブ配信を開始すると後藤と畑が予め三脚で固定されたカメラの前で「どうも皆さん、こんばんわ。明るい肝試しの男子部の後藤です。」とまず後藤が挨拶すると続けて畑が「畑です。非常に明るくない時間で肝試しをしようということで、まあこれからの時間がねよりお化けが出やすくなりますからね、本来なら我々もこの時間帯に行ってこその心霊チャンネルとしての醍醐味をというところですが、明るい時間帯に会えて行うことで足元が不安定なところとか場所によっては安全性すら確保できないようなところもありますので、そういう理由で夜の心霊ロケは控えていたんですけども、今回後藤がね3万ルーメン(※懐中電灯の明るさの単位)の暗闇でもめっちゃくちゃ明るく照らしてくれる懐中電灯を持ってきているので、今回これを片手に浦戸大橋をじっくり、まずはこんな時間で非常に物珍しく思われること間違いなしですが実際に浦戸大橋の上を往復で歩いた後に、今度は橋の下にも行けるそうなので可能な限り橋の下での検証を行って、心霊の噂の検証をしたいと思いますので、皆さん眠たくなる時間かと思いますがどうぞ最後までお付き合いをして頂けたらと思いますので宜しくお願いします。なお、進行役は後藤が担当、カメラは僕畑が担当します。」と言った後に、三脚に建てた状態のカメラを畑が取りに行くと、後藤がカメラ越しに浦戸大橋に纏わる心霊に纏わる噂について説明を行った。
「浦戸大橋は全長1480mで高さ50mの高知市種崎と桂浜を結ぶ橋で1972年に開通されました。建設当初としては非常に画期的なスパンが200mを超える橋はなかったことから、いかに浦戸大橋が最先端の技術を誇っていたことが伺えます。しかし、その一方で浦戸大橋を有名にさせたのが投身自殺の多さでもあります。あまりにも身投げをされる方が多く出たために、自殺防止策として内側に折り返しのある高さ3mの防護柵を設けられていますが、それでもなお乗り越えて飛び降りをする者が後を絶たず、心霊現象としてはこの橋から飛び降りた自殺者の霊が死んでもなお何度も何度も飛び降り行為を行っているのほかは、老婆の霊の出るとも言われていますが、この老婆の霊がどうして出るかは謎です。また橋の下にも霊が出るとも言われていますが、どんな霊が出てくるのかについては明確な情報がありません。そこで我々本格的な肝試しの男子部として、浦戸大橋で行う議題としては一体どんな霊が現れどんな霊障が起きるのかをこの目で真偽を確かめたいと思います。」
後藤が話し終えると、後ろから畑が「ライブ配信を見ている方に、後藤が前方を分かりやすく懐中電灯で照らしてくれているんだけど、見ての通り俺達は今橋の付近にいてこれから狭い歩道を通って浦戸大橋の往復実験を行おうとしているんだけど、橋には厳重過ぎるほどの高い防護柵が至る所に張り巡らされておりせっかくの絶景が楽しめるスポットなはずなのに、この防護柵があるために歩きながら満喫をするってのは出来ないのが観光目的で来られた人にとっては残念なところかもしれない。」と話すと後藤は「自殺防止のためには致し方ないでしょ。一部書き込みの情報によると、防護柵が出来る前は何十人も飛び降りがあって、飛び降りを試みた方の数名が死にきれずに助かったみたいだけど、話を教えてくれた方も実際に土左衛門(=膨れ上がった水死体のことを指す)をまたかと思ってしまうほど頻度は多かったらしい。一部情報筋では、飛び降りた人が肉体がバラバラになった状態でもなお死ぬ前の状態に戻って現れるというのもあったけども、高さが50mもあることからそうなるんじゃないかという噂のほうが広まったような印象があるな。」と語ると、畑は「高さ50mだとワンフロアが3mだと計算して算定すると大よそ17階建てのビルから飛び降りるのと同じ計算になる。仮にもし飛び降りた場合、水圧により腕や足の骨を骨折した状態で海中で浮上できる余力もなくもがき苦しみながら亡くなるパターンだろうね。」と説明すると、後藤は「それは知りたくなかった情報だよ。説明してしまえば、皆頭の中で想像してしまうじゃん。」と切り出すと、畑は「真相を探るためには知っておいたほうが良いと思って説明した。老婆の霊の所以も調査の対象であると同時に、俺達はまず高い確率で出くわすであろう自殺者の霊が何度も何度も繰り返し飛び降り行為を行う噂の真偽についてまずは橋を歩いて検証しなければいけない。」と後藤に前進するように促すと、後藤は「来たからにはこんな、ってか車置いてきたけど本当にこれ傾斜がきつい坂だな!」と愚痴をこぼしながらも、早歩きで歩道を歩いてゆく。
歩きながら畑が後藤に「橋なら懐中電灯要らずと言ってもいいぐらい明るすぎるぐらいに明るいね。歩道が狭いのはちょっと歩行者向けに造られた訳じゃないから致し方ないのかもしれないけどね。」と話すと、後藤は「あえて明るすぎるぐらいに明るくして、かつ飛び込みもしにくくさせるために歩道も狭くしているとしか思えない。だって人ひとりが十分あるけるスペースがあればこんなところ、高い防護柵があっても乗り越えようとする人が出てくるわけじゃん。わざと車との距離を縮めさせることでより飛び降りをさせにくい環境にさせているのだと思うよ。」と思ったことを口にすると畑は「それならば精神を落ち着かせる効果があるとされるブルーライト効果があっても良いと思うんだけど、オレンジ色の照明じゃより神経を興奮させてかえって逆効果にも思えてしまうんだけど、歩道を狭くすることで効果はあるのかな?」と言うと、後藤は「飛び込みの防止のためには、車で来た状態で飛び込むってことはこの防護柵を見て分かる通り、これはよじ登らなければ乗り越えることも出来ないことを考えたら自殺者の大方は歩行者だ。要は歩行者の通行をしにくくさせるために狭くすることで自殺の抑制にも繋がっているってことだよ。」と答えると、畑が「話が変わるけどさ、車ごと突っ込んで自殺を図るって確か香川にそんな心霊スポットがあったよね。」と話し始めると、後藤は「坂出市の林田港だね。ここで急に明るい肝試し男子部の宣伝くるのか。因みに曜日は非公開とするけども、林田港でも肝試しライブ配信を行う予定なので、引き続き明るい肝試しの男子部の報告に目を向けてほしいな。」と笑いながら話すと、畑は「いやいや、必要な事でしょ。男子部のゴールデンウィークに実施する肝試しライブ配信の予定はあえて明らかにしないことで、女子部がいま中国地方だったっけ?あしたぐらいに愛媛での明るい時間帯での肝試しだったはずだから、あとは今四国にいる俺達とあと既に明るい時間帯でのライブ配信を終えている油井と村田がこれから行く先だって秘密にすることで次はどこ行くんだろうって視聴者からすると色々な楽しみが増えるじゃん。それってすごく心霊エンターティナーとして心霊好きのファンの皆様方に提供をしなければいけないことだと思う!」と強く誇張すると、後藤は「心霊エンターティナーって何?」と首を傾げるのだった。
歩き進むにつれやっと二人は坂道から解放され、明るい時間帯だと浦戸湾の周辺が眺めるであろう場所に辿り着いたときに改めて畑が防止策の高さを実感するためにカメラを持った状態でよじ登り、防護柵からの高さを撮影し始めた。
その様子を見た後藤は「本当に大丈夫か。ってか誰かしらよじ登ったような痕跡も無いのによくそんなところ登れるな。」と話しかけると、畑は「高さには慣れているから大丈夫なんだけど、しっかし高いな!コメント欄での反応はどうなっている?」と聞き出すと、後藤はタブレットを片手に「今一応視聴者の反応は見ているよ。見ているだけでも高すぎてちびりそうになったとか、皆こんなにも高いとは思ってもいなかったというコメントが寄せられているね。ナイスグッジョブだったよ。」と褒め称えると、畑は「もうそろそろ下りるね。」と言った後にフェンスから下りたと同時によじ登ったからこそ気付いたことを話し始めた。
「フェンスをカメラを持った状態でよじ登ったけど、フェンス越しに誰かがいるような気がするんだよな。無論足場も無くて、こんなところ落ちたら一発で死ねてしまうような場所にも関わらずだよ。心霊の噂にはなかったけども、次の新たな自殺者の仲間をここで命絶った自殺者が待ち伏せをしているようにも感じ取れた。」
畑の意見を聞いた後藤は「それって気配を感じたってこと?」と訊ねると、畑は「実際に姿を見たってわけじゃないんだけど、”何か”がいた。気配を感じただけで、なんかそんな感じだったんだよなあ。」といって説明すると、後藤は「実際に見たわけじゃないんでしょ?気配だけじゃさ、何の説得力にもならないよ!」と突っ込むと、畑は「いやいや、霊感あるほうの俺が言うから、俺の勘に間違いはない!」と言い切ると、後藤は呆れて「それならば噂の老婆の霊ぐらい見つけてくれよ。いい加減、自殺者の霊が現れてもおかしくないんだけどさ、本当に出てきそうな雰囲気だけは十分あるのに、気配とか雰囲気で終わらせるのかと言えば俺も畑の悪口は言えないんだけどさ、”何か”はあるんだよな。ただ具体的に可視化された状態では現れてこないね。」と率直な感想を述べると、畑は「今は気持ちを切り替えて、このまま粘り強く歩き続けて行けば、俺はきっと出てくると思う。だって自殺者が多数出ているからこその高い防護柵を設置しているのに、お地蔵様で自殺者の霊を祀っているとかそういう情報も無ければ、死んでからこの世に対する未練があって今もなお彷徨っている霊がいてもいいころだけどなあ。」と話すと、後藤は「霊感があるだけでは答えに辿り着かないから、一先ずLINEで饗庭さんに写真と映像の鑑定をして貰おうか。持っているスマートフォンで映像を撮影してから写真を何枚か撮って送るから、それで返事を待つことにしよう。この時間だし、あとちょっとで日付も変わるんだから、寝ているかもしれないしね。」と提案すると、畑は「霊能者の意見がどうかだよね。それは必要なことだから至急。俺達の見解では視聴者を納得させることが出来ない。」と言ってお願いをすると、後藤はその場で30秒の映像を撮った後に写真を何枚か撮ったものを星弥のLINEに送ると、後藤がカメラ越しに「今から霊能者の饗庭さんに電話を掛けて、見解を聞くことにします。」と説明した後にスピーカー状態で星弥に電話を掛ると、すぐ星弥が電話に出て「とうとう明るくない肝試し?」と早々に突っ込まれると後藤は「たまにはね、明るくない時間帯の肝試しも必要かなと思ってライブ配信を行っているんだよ。」と理由を語ると、星弥は「それじゃ色んな所で肝試しをする様子の動画をアップロードしている心霊系YouTuberとやっていることは同じじゃん。」と言われ、後藤は「それは否定しない。やっていることは全く同じ。」と答えてから「単刀直入に聞きたい。今高知の浦戸大橋ってところに来ているんだけど、今場所的には桂浜に向けて歩いているところだけど、ここは自殺者が多くって防護柵もあるレベルなんだけど、今のところ出てきそうな気配や雰囲気があっても肝心のお化けをこの目で確かめることが出来ない。そこで霊能者の見解を聞きたい。画像や映像を送ったのでそれは見てほしいなと思って連絡した。」と星弥に霊能者としての解説をお願いすると、星弥は「うん。画像も映像も見た。むしろ桂浜から種崎に向けて歩いたほうが危険だと思う。」と見立てを説明すると、後藤は「俺達のいる進行方向の反対が危険ってこと?」と質問すると、星弥は「あくまでも率直な意見になるけど、桂浜から種崎、地図も見たけどそっちから歩いて行って飛び込んでいる人の割合のほうが多いんじゃないかな。今後藤さんが歩いている方向とは逆の方向で老若男女の恐らく自殺された方々だと思うけど、柵越しに覗き込む無数の顔を確認できた。送ってくれた画像でざっと数えただけでも、50人近くはいる。多すぎてちょっとどう言葉に言い表していいのやらわからなくなる。今は柵があってまた車との距離をあえて近くさせることによって自殺者の数は減ってきているんじゃないかな、柵が出来るまでは相当数の人間が飛び込んでいたはずだしね。」と語った後に「そこにいて、気分が悪いとか、そういうことはない?」と質問すると後藤は「今のところ、気分が悪いとか。いやちょっと、さっき50人近くの人が写っているって言ってくれたじゃん。ちょっとそれを聞いただけで俺も畑も一気に寒気が走ってきた。」といって返事すると、星弥は「今も未練があって橋を彷徨う御霊がいるのは明らか。柵越しに顔を覗かせることによって、新たな仲間を待っている。自殺された方は、あの世の世界での考え方では、先代の方々にとっては歓迎されない死に方。宗教観でもあるけども、与えられた命を自ら絶つってことが、罪深いってことだね。旅立ってもあの世での居場所がなくこの世に戻り彷徨い続けるしかない。結果、最後に自らの命を絶った場所しか居場所がないから戻ってくる。よく自殺の名所で、何度も飛び降りを試みようとするとか橋の上を彷徨う人がいるとかがあるけど、それは居場所がなくあてもないから最期の場で居座る心構えで、孤独であることの寂しさを紛らわすために注目を引かせるようなリアクションをあえてする。中には本当に自殺行為を誘発しようとしている場合もあるから。ただ浦戸大橋は、あまり長居するにはおすすめしない。早々と切り上げたほうが身のためだと思う。」と説明すると、話の内容に後藤は頷きながら「浦戸大橋の噂って老婆の霊が出るのほかは、都市伝説の類の一つかと思ったけど、何度も何度も飛び降りを試みようとしている霊が出るというのもあって、画像や映像は送ったけど、説明していないことなのにどうしてそれが分かったんだ?」と質問すると、星弥は「今までの経験上、自殺の名所とされるところは共通している。抱えている心の闇の根源が同じだからね。因みに今さっき説明した老婆の霊が出るというのもそれがもし事実ならば自殺者の御霊と解釈して良いだろう。何度も飛び降りを試みようとするというのはこの浦戸大橋に限らずとも、自殺の名所と言われるようなところならば色々と噂される内容だから、仮にもしもこれが事実ならさっきも話したことだけど、自殺行為を誘発している可能性もありそうなってくると極めて危険性が高い。もしその場にいてそのような類の御霊を見てしまったら連絡して。憑いてくる可能性もあり得る。」と話し終えた後に星弥のほうから電話を切った。
後藤は畑に「どうする?饗庭さんはこのまま肝試しをするのは勧めないというような回答だったけど、このまま言われた通りに帰ったほうが良いかもしれないね。」と打診すると、畑は「このまま肝試し続行。橋を渡り切ろう。視聴者はここのお化けの正体を知りたいに決まっている。俺達は心霊エンターティナーとして、閲覧注意も覚悟のうえであやふやな噂の実態を探らなければ、真相には辿り着かない。」と切り出すと、後藤に対して「浦戸大橋に纏わるお化けの正体が、自殺者の霊が出てくることはわかっていても実際にどんな霊障を起こしてくるのかもわからず、かたや老婆の霊に限っては自殺者かもしれんじゃ、提供する立場からしてこのまま明確な答えに辿り着かないまま調査を終了してしまえば、”出てきそうな雰囲気はありました”で終わるのか?それで納得してもらえると思っているのか?」と説得すると、後藤は「わかったよ。このまま橋を渡り切って、復路のほうが出ると饗庭さんが話していたから、実際に出てくるのかどうかも含め、ここに現れるお化けの正体を突き止める。このままでは視聴者も納得しないし、俺も本当にこれでいいのかと、ちょっと正直答えを明確にしておかないとすっきりしないところもある。」と話すと、二人はそのまま肝試しを続行して歩き進めることにした。
畑が「コメント欄での反応、霊能者の言われた通りにするべきだという声も寄せられているけど、ここで引き返すわけにはいかない。謎を謎で終わらせたくない。しっかりと答えを導き出して、この目で見た事を情報発信しておかないと、あやふやな終わらせ方が一番嫌いなんだよね。だったらもう俺達が可能な限り視た、ありのままの浦戸大橋を伝えて恐怖を共有してもらうのが一番いいと思うんだよ。長いからこそ皆嫌がって行きたがらなかったのかもしれんけど、でもだからこそ俺達の肝試しで今まで謎のベールに包まれていた部分を解き明かしてやりたいんだ。」と強気の口調で話すと、後藤は「饗庭さんは写真で見るだけでもざっと50名近くのとも言っていたし、老婆の霊の正体は自殺者の霊とも言って良いとも言っていたから、何もお化けの正体を突き止めるまで肝試しをする必要性もあるのかなと視聴者の方達は思い始めているのかもしれない。あと少し、もう少し頑張って歩けば橋の下のあたりがやっと見えてきた。このまま前進していこう。あと少しで往路のゴールだ。ゴールに辿り着いたら、復路のスタート開始だ。」と自らを奮い立たせるように話すと、傾斜になっている坂を早歩きになりながらも進んでゆくことで、やっと橋を渡り切り、畑が「長かったけど、結構いい運動になった。いや良い心霊ウォーキングになったな!」と話すと、後藤は「肝試しはどこに行った?いつから心霊ウォーキングって、心霊で健康ってどう考えてもあり得ないでしょ。」と笑い始めると、渡り切った勢いもあってか、車が通り過ぎたのを見送ってから二人は対岸の歩道へと歩き始めると、歩道に辿り着いてから復路での肝試し心霊検証を開始した。
傾斜を歩き始めて数分程が経過して、後藤が異変を発見したと畑に報告した。
「今俺の左側でわからない。わからないんだけど複数の誰かにジロジロと見られてきた。それが女なのか男なのか、それすら明確な答えが出てこない。ただ視線を感じた方向は明らかに木々に囲まれていて、こんな時間のこんな場所で複数名の男女が集っているっていうのは明らかにおかしい。」
後藤が人差し指を指示した場所には確かに木々が生えていたことに間違いはなかったが、かつて自殺を図った人間がここで飛び降りたとは思えず、後藤の報告を受けた畑は「え?下を見下ろすとこんな人家も近いような場所でか?それはないでしょ。だってご遺体が土左衛門で見つかったって言うのならば、こんな助かる可能性もあるような場所で飛び降りたりはしないと思うよ。助かったってこんなところ、骨折した個所によっては後々麻痺が残ったり或いは不随になってしまう可能性がある場所で、通常で考えてもまずないでしょ。」と伝えると、後藤は星弥が話した言葉を思い出しながら「饗庭さんが柵越しに複数の男女が顔を覗かせている、新しい仲間を待っている、そうか。これは最初から最後まで実は俺達見られていたってことだよ。俺達の目に見えぬ形で実は見られていたんだよ、俺達がどう動くかを常に注視していたんだ。」と言い伝えると、畑は「仮にもしそうならば見えなかったら話にならないでしょ。見えてこそ、噂される内容は本物だったってことが言えるじゃん。ジロジロと見られたからでは、実際に心霊映像が撮れたわけでも何でもないし、カメラも今のところ異常がないんだから、立ち止まらないでこのまま歩き進もう。」と促すように話すと、後藤は「見られたのは事実なんだけどなあ、映っていないのならしょうがない。」と気持ちを切り替え歩き進んでゆく。
”うううううう”
そして橋の中腹のあたりに差し掛かった時に野犬の遠吠えのような、遠くから呻き声が聞こえ始めると、後藤は「犬?人?でもトーンからすると遠吠えにも近いような呻き声を聞いて居るのか、何だろう。この音は。」と語ると、畑は「都会じゃ珍しい野良犬がまだこの付近にいるってことなんじゃねぇの。」と自分なりの解釈を話すと後藤は「こんな橋の下は浦戸湾で人家からは離れているところで、野良犬の遠吠えが聞こえてきたらおかしいでしょ!?」と突っ込むと、畑は「それもそうだな。だったら一体何だったんだ?鳥か?でも鳥だったら何だろう?」と不思議に思いながら先へと突き進んでゆくと、二人の前に対岸の歩道を俯き加減でゆっくりと歩き進む全身黒ずくめの男性が現れると、あまりにも不自然さから畑が「こんなに時間にまさかと思うが俺達と同じ心霊散歩をしている奴がいるよ。しかも一人ってすげぇ。」と思わず口にすると後藤は「さっきは心霊ウォーキングって言ってなかったか!?まあどっちでもいいけどな。それにしても、こんな時間帯に一人でしかもあんな俯いた状態で歩いているのはやはり気味が悪い。見た事は忘れて、前へ突き進もう。」と言うと、二人の足取りが次第に早くなっていき、やがて俯き加減の男性に追いつくと振り返ることなくそのまま前進していくが、気掛かりに思った後藤が「さっき追い抜いた男性だけどやっぱり気になる。あれがもしこれから自殺を図る人ならば、止める必要がある。まだ歩いているかもしれないから、ちょっと追い抜いた場所まで戻ってみるよ。」と話してから、畑も「お化けじゃなかったらそうだな。生きている方の可能性もあるしね。」と理解を示し、再び男性とすれ違った箇所の付近にまで戻ってきたが、周囲を警戒しながら探してみるも通り過ぎる車だけで、畑が「あのペースならこの付近を歩いてもおかしくないのにどうしてだ?まさかもう飛び込んだ?ちょっ後藤!懐中電灯を借りて良いか?防護柵を覗いてくるよ。」と言うと、後藤は「わかった!」といって懐中電灯を畑に渡すと、畑は対岸の歩道へと走って渡ると、注意深く防護柵を攀じ登った痕跡があるかどうかも見てみるが、そのような痕跡が一つもなかった。
畑が「防護柵には真新しいよじ登った痕跡はないけども、飛び降りた可能性がある。とりあえず橋の下を懐中電灯で照らしてみて水死体が浮いていないか見てみるよ。」と言うと慣れた手つきで防護柵をよじ登り始めると内側に折れ曲がった箇所に登ったときに足場に気を付けながら下を可能な限り懐中電灯で照らすも何もなかった。
諦めがついたのか畑が防護柵から下りると後藤に「橋の下から見るしかない。そこでもし水死体で浮き上がっていたら通報しなければいけない。」と説明し、後藤も「そうだな。とりあえず橋を渡り切って、俺達が車を停めてきたキャンプ場から海岸沿いは歩いて行けるからそこから見るしかない。」と言って、二人は橋の上からの捜索は断念して橋を歩き続けることに専念することにした。
二人が橋の傾斜の部分に辿り着いたときに、後藤の携帯に星弥からLINE電話がかかってくると、後藤は「饗庭さんだ。何だろう。」と畑に話し電話に出る。
後藤が「もしもし、饗庭さんどうしたの?」と何ともなかったような感じの口調で話しかけると、星弥は「ライブ見た。その男はもう追いかけなくていい。」と重い口調で語ると、後藤は「追いかけなくていい?自殺したかもしれないのにどうして?」と切り出すと星弥は「追いかける必要はない。あの男性はとっくの昔に飛び降りて旅立っているよ。橋の下を見ても結果は同じだよ。」と答えると、答えを聞いた二人はその場で言葉にならない思いでお互い口を揃えて「え?」と呟くと、星弥は「あえて自分自身に対して心配させるような行為を通りかかった人に対して行うことで自殺者を誘発しているのならばかなり力のある地縛霊が後藤さんと畑さんに付き纏っていたことになる。気にしていたら心の闇に憑かれてしまう。だからもうこれ以上は関わらないほうが良い。憑かれたらとことん精神的に追い詰めてくるだろう。禍を齎しているのは間違いないから、これ以上追求していたらとんでもないことになる。橋を渡り切ったら橋の下での肝試しは諦めてライブ配信は終了しなさい。」と厳しく注意をした後に「俺の弟の侑斗が4日に肝試しの女子部の活動の同行で高知に行くはずだからそのときに男性の御霊による禍を取り祓うべきか見てもらう必要がある。念のため侑斗の連絡先を送信しておくから連絡しておいて。」と畑は「わかった。もうわかった。この橋の心霊に纏わる噂があやふやなのも、老婆の霊が出てくるというのも、全ての答えが同じだってやっと気が付いた。わざわざ連絡してくれてありがとう。」とスピーカー越しに話しかけると、星弥は「真相を追求したい気持ちは分かるけど、でも自殺の名所と言われてる場所なんて答えは一つに決まっている。自殺者の霊が出る。それだけなんだよ。飛び込んだ人が多ければ多い程現れる御霊は不特定になる、だから噂される内容もはっきりしないのが当然なんだよ。」と優しく答えると、後藤は「ありがとう。心配させて申し訳なかった。」と言って電話を切ると、二人は橋の下の付近に辿り着いたところで視聴者に対して最後まで見てくれたお礼を伝えてからライブ配信を終了させた。二人が車に戻り、改めてタブレットでライブ配信した際のコメント欄での反応を見ていくと、「橋を歩く男性、はっきり映っていますよ!やばいですって!」という書き込みが相次いでいるのを見てその場で撮影したカメラの映像検証を行おうとしたが、畑が「あれさっきまでバッテリーがあったのにどうして!?急にバッテリーが切れてしまった。」と慌てると、後藤は「ひょっとすると俺達に憑いてきてしまったのかもしれないな。正体を知られては困るというサインでしょ。タブレットは元気だから投稿した映像で見るしかないね。」と言いながら指摘された箇所を確認し始めると、改めて映像にはっきりと映る男性の姿を目の当たりにして言葉にならない思いになるのだった。
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