【完結】慰霊の旅路~煩悩編~

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長崎ノ鼻(香川・高松市)

公開日時: 2022年7月4日(月) 23:19
文字数:9,528

2026年5月6日 水曜日 PM13時過ぎ


夜に撮影を行うために念入りに喝破道場の敷地内を隈なく確認していた侑斗と吉岡。斧落から聞かされた首切峠での報告を受け、安堵の表情で電話のやり取りを終えた侑斗。隣にいた吉岡が侑斗に「何事もなく安全に終わってよかったじゃないですか。」と切り出すと、侑斗は「あの二人を安心させるためにああ答えたんだ。どんな心霊スポットであれど、お地蔵様に対して供養の気持ちを持って接してほしいと思ったからだよ。だからあの二人がいずれどんな心霊スポットに行くにしても必ずお供えを持った状態で訪れたほうが、視聴者も模倣して訪れる人が増えると、近隣の方も安心するだろう?」といって答えると、侑斗の意思が分かった吉岡は「本当はあの映像には二人には知られてはいけないヤバいものが映っていたんですよね。それをあえて伝えなかったのは霊能者としての責任を問われると思いますよ。」と突っ込んだ内容で切り出すと、侑斗は「知らないほうが幸せな話だってある。俺は言ったつもりだよ。見えないほうが幸せだと感じる幽霊だっているんだよとね。恐らく造田城は、羽床城へ出兵していたために城内の警備が手薄になることを知った長宗我部元親の大軍により、成す術もないと判断した備中守宗俊によって自ら城に火を放って自害したとあるがそもそもこの時代だから内部に密告者が恐らくいただろう、知る由もない情報をいつどのタイミングで長宗我部元親が知ってこれ幸いとばかりに大軍で攻めようと思って行動に移した。備中守宗俊に対して最後まで忠誠心を貫いた家臣からすると敵に情報を提供した裏切り者が出たことに対する憤りもあるだろう、同時に不意打ちを受けるような形で最期は捕まえられて斬首されたのだから、腹立たしいを通り越して、強い憎悪の念があの地には眠っている。こればかりは霊能者ではどうにもならないよ。人の考え方ってのはそんな簡単に変わるものじゃない。ましてや、残忍すぎる。そんなことをされて、安らかに眠れるわけがない。吉岡の言う通りで、強烈な未成仏霊の集まりが今も木々の中に潜んでいた。強い憎しみ、恨み、時代が変わってもなおされたことの怨念を持ち続けている、鎧兜の甲冑姿の家臣達の姿が俺には見えた。よく怪談話でもざんばら髪の落武者の霊が出たとか言って怖がるけど、あれは武者が負けた場合そうなって出てくるであろうというイメージであり、武者も兵士の霊も皆同じ。死ぬ間際までファイティングスピリットを持った状態で逝かれたのなら、彼らの魂は今も戦い続けている。だから死んだ後の姿で現れるなんてことは有り得ない。」と説明すると、吉岡は「饗庭さん、それは甲州さんと斧落さんに対して説明するべきことじゃなかったんですか?」と訊ねると、侑斗は「説明するべきだったんだろうけど、あえて説明をしなかった。この世の中にはまだまだ心に癒えぬ傷を抱えた御霊もいる、あの二人が怖がってそのことを視聴者に伝えたり心霊現象らしきものを拡散されたりされると、それはあの場に眠る御霊達の怒りを買うことになる。知らぬが仏ってこと。知らないほうが良い時だってある。」と侑斗なりの解釈を語り終えると、吉岡は「それでいいのか、でも確かに心霊現象が撮れることを知って若者達が馬鹿騒ぎをしたりするのは非常に好ましくないと考えるのは当然のことです。しかし伝えなければいけないことを伝えるのは霊能者としての責務だと思います。」と強い口調で指摘すると侑斗はだんまりとした後に「言っていることは分かる。言うべきか悩んだけど、でも俺は肝試しとじゃなしに供養目的でより色んな方に足を運んで貰うべきなんじゃないかなと思って言わなかった。言うべきことを伝えないのは俺のミスかもしれない。」と素直に認めると、その後侑斗は何事もなかったかのように建物の危険度の調査を開始するのであった。


一方で甲州と斧落はというと、長崎ノ鼻で行う肝試しライブ配信を開始していた。


進行役を務める甲州が、斧落が持つカメラの前で長崎ノ鼻の説明から、怪異譚の話までじっくりと説明をしていた。


「明るい肝試しの女子部の肝試しライブ配信を見て下さっている視聴者の皆様、こんにちは!甲州です!今回は、知る人ぞ知るような心霊スポットであえてこんな明るい時間帯でも心霊肝試しライブ配信を行おうじゃないかという事で今回は高松市内にある長崎ノ鼻という所にやってきました。長崎ノ鼻は高松市内の屋島最北端に位置する岬で、この地には古代に屋嶋城(=やしまのき)が築城され、源平合戦の際は平家の水軍の拠点となり、幕末には高松藩が砲台を設置した場所としても知られています。瀬戸内海を一望できる絶景でもあり、昼間は観光目的で訪れる方々で非常に賑わう場所でもありますが、同時に自殺の名所としても知られており、ここで入水自殺を図る者が多いと言われています。過去には焼身自殺があったとも、また車の窓ガラスに血の手形がつくという噂もあり、血の手形は他の手形とは違いこの世に対する執念や怨念が強い危険な幽霊ではないかという話があります。そのほかの噂としては、潮流の関係からか岬の付近で水死体が流れ着く、ドライブがてらに訪れた人の話では車を駐車場に停めた途端に車内に冷気を感じ、何気なくバックミラーを覗き込むと姿ことは見えなかったが、後部座席に”誰か”が座っていた感じがしたという話もあります。そこで我々は、噂される霊障の内容の真偽を確かめるべく、徹底的に長崎ノ鼻に纏わることについてじっくりと検証を行いたいと思います。」


甲州がカメラの前で説明をし終えたところで、二人は海が見える遊歩道をゆっくりとした歩調で歩き進んでゆくことにした。


カメラを持った状態で足元に気を付けながら階段を下りる斧落は甲州に対して「入水自殺が多いって言っていたよね?」と訊ねた後に、「さすがにここからて柵を乗り越えて海へダイブしようと思えばできるけど、果たして海の近くにまで行く必要があるのかとなるとそこがちょっぴり疑問な気はするんだけどね。」と話すと、甲州は「ここから飛び降りるってことはまずないでしょ。仮にもし飛び降りたとしても岩盤に激しく叩きつけられた末に海に落ちるって形でしょ?果たして自殺をしようと思う人間がそこまで腹をくくるようなことをするのか、痛みを伴わない形で旅立ちたいからこそ入水自殺を図りたいという心境になるんじゃないのかな?」と答えると、甲州なりの答えを聞いた斧落は「階段に来るまでのところだったんだけど、何だろう。じっと誰かに見られているっていうのがあって、それが気持ち悪かった。」と語ると、甲州は「メイサちゃん、そうやって大坂峠(徳島県)のときもだったけど、崖の下からじっと誰かに見られているとか、そういっても実際に映像として記録に残すことが出来なければメイサちゃんが話すことはメイサちゃんの思い込みでしか思われないよ。しっかりとした根拠を持って話さないと、視聴者はあやふやな答えなんて求めていないと思うよ。」と突っ返すと、斧落は「勿論わかっている。わたしの話したことは、実際にそうだったのか、今までしっかりと根拠として何一つも残すことは出来ていないし、険しい崖になっているからこそ誰かが見つめているような錯覚に陥るとかそういう可能性もあるんじゃないのかな?わたしたち霊感が強いと言っても、ぶっちゃけた話”ここにいるんじゃないのかな”ぐらいの気配を感じることは出来たとしても、ここに何があって、ここにいるとか霊視レベルの幽霊となるとそれは油井君とかなら出来るけど、わたしたちには出来ない芸当じゃん。」と頷きながら話すと、斧落なりの回答を聞いた甲州は「別にメイサちゃんのことを否定しているわけじゃないんだよ。ただやはりわたしたちには出来ることと出来ないことってのがあってそこはやはり霊能力者に頼らないと辿り着かない答えだってあるのは認めるし、メイサちゃんが感じた下から誰かが覗いているという感覚に襲われるというのも理解はできるよ。ただ視聴者は現実的だからね、コメントに書きこまれていた内容でも”思い込みだけで証拠は残さずしかも夜に行かないのは論外”とか、辛辣な意見を書きこむ人も多くなってきたし、わたしたちも流石に夜に行くのが安全面を考慮してとかそういうことが言い訳の一つにしか思われなくなってしまっている以上、出来ることをしっかりとやって怖い、怖いとビビらせたいだけだろっていう意見だけは払拭させたい。わたしたちはそんなつもりであえて明るい時間帯での肝試しを実施しているのも、近所迷惑にならないための配慮は勿論のこと、明るい時間帯に行ってこその安全面の配慮や明るい時間帯に行って心霊現象など出くわさないという人々の思い込みを考え直したいっていうのもあって、油井君が立ち上げたじゃん。油井君の気持ちに、誰しもが理解を示すのは難しいと思うけど、でもわたしたちはあえて明るい時間帯に行い、またわたしたちの活動の意義に理解を示しチップを払ってくれる人だっている、でもわたしたちはあえて心霊現象など記録として残せられるかどうかもわからないような時間帯で勝負をすることを選んだ。」と思い思いに感じたことを語り始めると、斧落は「わたしたちの活動に否定的な意見を持つ人がいてもおかしくない。逆に心霊現象をしっかりと残すことが出来たとしても”やらせでしょ”といって指摘する人だっている。世の中はそんなもんだと思うし、逆に科学や物理が進化した世の中だからこそ心霊などの目には見えぬ存在がこの世の中には存在などしないことを立証できるから、人々も科学的なモノの考え方でしか心霊を考えることしか出来なくなった。心霊や都市伝説は、信じるか信じないかはあなた次第、というほどにまで懐疑的な意見を持つ人々が多く、中にはカメラやマイクの不具合、雑音を拾っただけに過ぎないとしっかりとした証拠や論理を突き付けてくる人だっている。そんな社会でも、わたしたちの活動を見て応援したいと思う人にだけ見てもらうのが一番望ましいと思うよ。」と言い聞かせるようにして語ると、甲州は「ごめん。ライブ配信中だったのに、長崎ノ鼻とは全く関係のないことを熱く語りすぎちゃったね。あと少しで海岸沿いに到着だから、そこで入水自殺を図ることが出来そうなスポットを隈なく探そう。」と一言誤ると、斧落は「むっちゃんの気にしていることはわたしも同じことだからよくわかる。でもこればかりは全ての人々の考え方が変わることは絶対に出来ないと思う。だからこそ、否定的な意見や懐疑的な声にもポジティブな気持ちで受け入れないといけない。」と話していくうちに二人は瀬戸内海を一望できる場所にまで到着した。


絶景ともいえる景色を目の当たりにした甲州は「この絶景を満喫したら帰るのが嫌になって入水自殺を図ったりするのだろうか。ひとまず、入水自殺が図れそうな岩場などを徹底的に調べてみることにしようか。」と斧落に対して話すも、斧落は「入水自殺を図るにしても、岩場から浅瀬へと飛び込むにしても、高さが微妙な感じがするんだよね。自殺の名所って言われる所以がちょっと怪しい感じがする。」と語った後に崖から下を恐る恐る覗き込むと、「高さがやっぱ飛び込むにも入水自殺を図るにも微妙だし、ましてや潮の流れが緩やかな瀬戸内海で、命を絶つことにそもそも無理があるような気がする。むっちゃんも見に来てほしい。」と指摘すると、甲州も確認のために斧落が指摘した個所をじっと見つめると、「いや、ここからはさすがにちょっと無理があると思う。いや、それでも心霊写真が写る可能性はあるから写真だけは撮っておこう。海岸からも近いし仮にもし飛び込んで死に切れぬと分かった人が海岸から海へと吸い込まれるようにして入水自殺を図ることも出来るからね。」と言いながら持っていたカメラのシャッターを切ると、その後は二人で注意深く入水自殺を図ることが出来そうなスポットを情報のあてもないまま岩場を彷徨い続けるのだった。


岩場を隈なく探し続けること30分以上が経過したところで、ある程度どういう場所なのかを確認できたところで、甲州が撮影したカメラの画像を確認し始めると、カメラのフラッシュとは思えぬ不可解なものが写り込んでいたためにすぐさま甲州は他の観光客の邪魔にならぬ岩場の端で斧落を呼ぶと、二人で撮影した画像を急遽確認することにした。


甲州が斧落に「この画像を見てほしい。フラッシュかなと思ったんだけど、画像をよくよく拡大してみるとさ、苦しみ悶える人の顔に見えたんだ。」と言って説明をすると、斧落はじっと画像を見つめた後に「これはカメラのフラッシュじゃない。オーブだと思われる。しかも赤いオーブって一番やばいほうだと思うよ。赤って怒りを露わにしているってことじゃん。これが写るってことはわたしたちがシャッターを切ったことに対して怒っているってことだよ。」と感想を伝えると、甲州は「オーブでやばいのはオレンジとは聞いたことがあるんだけどね。赤は怒りの感情をあらわにするのに対し、オレンジのオーブは怒りの感情が爆発してさらに”これをしたらこれが待っている”的な強い警告を示してくるって話を依然聞いたことがあるんだけどね。それでもまあ、写ってはいけないものではあるけどね。」と話すと、斧落は甲州に「その他にも不審な写真とかなかったの?」と切り出すと、甲州は「一番気になったのがその写真で実はその他にも岩場から白い顔がうっすらと写っているのが複数枚、赤いオーブらしきものが写っているのはこの写真のほか3枚、あとカメラのフラッシュにしては不自然な白いオーブらしきものが写り込んだものもある。」といって返事すると斧落は「カメラを貸してほしい。一枚一枚を確認したい。」と話すと撮影用のカメラを一度甲州に預けた状態で、斧落は甲州が撮影した画像の一枚一枚を確認してゆく。


そして呟くような口調で斧落は甲州に「白い顔、白いオーブ、そして赤いオーブ、自らの命を絶つには若干の難しさがあることも考えたら、名所と言うには無理があると思うけど、写真が物語っている。ここには生き苦しさ故に自らの命をこの地で最期にと思い決意を決め旅立たれた方が複数名いらっしゃる。白いというのは、饗庭さんが説明していたことになるけど、未成仏ってことなんだよ。赤いオーブが複数枚あることも考えたらやはりここは心霊スポットであることには間違いないんだろうけども、触れてはいけないものにわたしたちは接触してしまったのかもしれない。」と語ると斧落が思ったことにすかさず甲州が「とりあえず、撮影した画像を饗庭さんに視てもらおうか。わたしたちの見解では限度があるしね。画像を確認して貰うためにも先ずは視聴者の皆様にわたしたちが撮影した写真を全部紹介しようか。」と切り出すと、斧落は「そうだね。きっと饗庭さんも吉岡さんもわたしたちのライブ中継を見てくれているかもしれないしね。見てくれていることを願って、撮影した画像を紹介しようか。」と理解を示したところで、甲州の持つ撮影用カメラに大きくわかりやすく撮影したすべての画像を心霊だと思える箇所には画像の拡大をしながら説明していく。


ライブ配信を見ている視聴者への一通りの説明を行ったところで、斧落が侑斗の携帯へ連絡することにした。電話は5コール程鳴った後、電話口の向こうから侑斗の声が聞こえてきた。


「はい、もしもし。饗庭です。」


饗庭の声に斧落が「あっ、饗庭さん。斧落なんだけど、今さっき電話をする前に饗庭さんのLINEで画像は送信したんだけど、心霊写真が色々と撮れてしまって、これが一体何を訴えているのかを、霊能者としての意見を聞かせてほしい。」と訊ねると、侑斗は「ああ、画像は見た。斧落さんから電話がかかってきたなと思って電話に出たんだ。」といって答えると、斧落は「すぐに画像を見て電話にも出てくれたなんて助かる。忙しいはずなのに本当にありがとう。」といって御礼を伝えると侑斗は「忙しい?忙しくないよ。今さぬき市内のうどん屋でのんびりと讃岐うどんのおかわりをしているよ。」とケロッとした口調で返事をすると、斧落は笑いながら「ハハハ。お食事中だったのに申し訳ないですね。早速案件に移りたいのですが。」と話した途端に侑斗が「画像も見た、ライブ中継も吉岡の持っているタブレットから見ていた。確かに霊感が強いと言えどもこれは説明をするのは難しいと思った。心霊スポットとして紹介されているから果たしてと思いつつかつての砲台の跡地と思われる場所から、海岸沿いの辺りも、写真に写った赤いオーブなども霊視を行って見て思ったが、自殺の名所というほど、噂にあるようにこの地で命を絶たれた方はいるだろうが、ただ映像や甲州さんや斧落さんが現地に行って見て思ったこと同じことだがここで命を絶とうと思ったら足に何か重石のようなものを引き摺った状態で海の中へと入り込みそして足も届かぬような場所にまで辿り着いたときに重石の効果もあって海面へと浮上することも出来ずにその場でもがき苦しみながら旅立つのだとしたら、衝動的に自死を選んだとしてもそこまで用意周到なことをする人はいないだろうし、最初から覚悟を決めて逝かれたのだとしたら、ここで彷徨う自殺者の御霊の大方は騒がれてほしくないと訴えているのだろう。映像には映っていなかったが霊視したら、甲州さんと斧落さんの背後に20余名程の方々が注意深く甲州さんや斧落さんがリポートをしながら撮影している様子を注意深く見ている方々がいた。ただ禍を齎したり、自分たちの仲間を増やそうとするなどの誘発行為は彷徨っている御霊達からは見受けられない。つまりこの地を永住の地として向かうべき場所のあの世でも居場所がなく、心休める場所がここしかなかったために最期の地となったこの場所に居続けるしかない。だからこそ自らの存在を主張したいんだ、”ここにいる”ということをね。少しでも自分の落ち着く場所があったりすると、誰しもが目には見えぬ存在だからこそ”騒いでほしくないとかそういう心情になるのも、写真に写し出された赤いオーブが物語っている。だからここは心霊スポットとして怖い、怖いっていうのはまた違うような気がする。ここで心霊映像が撮影出来たり等の霊障は出くわす確率は低いんじゃないかな。前説でも話してくれた噂の内容についても、現れた御霊の性質を考えると、果たしてそのようなことをしてくるのかどうかも甚だ疑問。知る人ぞ知る心霊スポットとして紹介されているから心霊現象が撮影できると思ってこの場所を選んだとしたら、御霊が出てくるのは間違いない、ただ心霊現象を追求する目的ならばここを選んだことはベストではなかったと思う。単なる地縛霊でしかいないから、写真も御祓いを済ませたら甲州さんにも斧落さんにも霊障に見舞われることはないだろうと思うが、ここで心霊現象が起きるまでしっかりと心霊調査を続行しても何も出てこない。存在を主張したいだけであって、具体的に自殺行為を誘発しようとしたり呻き声を上げたりなどの様子は一切見受けられない。次にそういえば、林田港に行くって話していたよね。そちらのほうが、時間帯も明るい時間帯で行うことは多分難しいだろうから夜の時間帯を選んで撮影したほうが確実に心霊映像が撮れるんじゃないかな。まああくまでも個人的な見解でしかならないから、地元の人はそんなことは絶対にないというかもしれないけどね。」と思ったことを分かりやすく説明し終えた後、侑斗なりの解釈を聞いた斧落は「ここ(長崎ノ鼻)ならば知る人ぞ知る心霊スポットだけに心霊映像がしっかりと撮れるんじゃないかっていう自信があったんだけど、でも饗庭さんの霊能者としての分かりやすい説明を聞いて色々と思い当たる節があった。仮にもしここが有名だったとしても、有名な自殺の名所であったとしても、ここで自らの命を絶つには相当の覚悟が必要であるという事、衝動的な自死の場合ならまずこんな場所を決しては選んだりはしないという事、だから水死体が多く発見されることが多いから自殺の名所として知られるようになったんじゃないのかなというのが(甲州の顔を見ながら)わたしたちはじっくりと時間をかけて調査を行った結果思えてきた。呻き声がするとか、わたしが崖下から誰かに覗き込まれているというような感覚に襲われた以外は、これといって誰にでもわかるような霊障らしき現象は見受けられなかった。だから饗庭さんなりの解釈を聞いて納得できた。長々と、視聴者にも分かりやすく説明をしてくれてありがとう。」といって御礼を伝えると、侑斗は「また何か見解に困ったとき、また連絡してきてね。ただいつもいつも電話に出れるってわけじゃないけどね。」と謙遜しながら、斧落は「ありがとう。視聴者の皆さんにも明確な答えを説明することが出来る。本当にありがとう。」と深々とお礼の言葉を伝え終えてから斧落が侑斗との電話を切ったのだった。


そして侑斗と斧落のやり取りを聞いて居た甲州が「饗庭さんの意見が正しいかも。あまり長居しても、この場にいることが何より居心地がいいと思っている幽霊がいるのだとしたら、長居をしても心霊現象と思えるものが撮れる保証はないだろうし、次の林田港での肝試し検証を行うためにも、早々とライブ中継を終了させよう。次の林田港でのライブ中継は何時に行うのかを視聴者の皆さんに案内してからだよ。」と切り出すと、斧落は甲州の意見に理解を示しながら「そうだね。」と語った後に再び甲州にカメラを託すと「次の林田港での肝試し心霊検証は23時から行う予定です!さてとわたしたちは今から、といってももう15時なんで今から讃岐うどんを堪能できる店なんてあるのか調べてみるけども、明るい女子部としては初めての本格的な肝試しライブ配信となりますので、是非皆さん、今晩23時から行う林田港での肝試しライブ配信を見て頂けたら嬉しいので宜しくお願いします。」と話すと甲州も持っているカメラに聞こえるようなトーンで「宜しくお願いします!」と元気良く挨拶をしたところで、長崎ノ鼻での肝試しライブ配信を終了させ、駐車させておいた車へと戻ると確認のため、斧落が車の後部座席を調べるとあれという表情になり、その様子を後からやってきた甲州は「どうしたの?」と訊ねると、斧落は「後ろに濡れてしまうようなものなんて置いてなかったのかな?どうしてだろ?後部座席、助手席の後ろ側になるこのシートだけ今さっき誰かが濡らしたような痕跡があるよ、というよりも水浸しの誰かが座っていたというのが正解かもしれない。」と語ると、甲州は恐る恐る後部座席のシートを確認し始めると、確かにそのシートは水浸しの誰かが座っていた痕跡がしっかりと残されていたのだった。


甲州は怖い気持ちを抑え、心霊写真を撮ったその瞬間に背後からじっと見つめられる気配に襲われ振り返ると誰もいなかった。思わず甲州は「まさか、最後の最後で。しかもカメラに映っていないときにこのようなことが起きるなんて。」と言った後に絶句して、甲州が黙り込む様子を見た斧落は「びしょ濡れだとレンタカーだから何かあった時が怖い。とりあえず濡れた個所を拭きましょう。」と言いながら致し方なく濡れた個所を持っていたタオルで水気を取ってから、次の林田港がある坂出市へと向けて出発することにした。

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