2026年6月27日 土曜日 PM22時40分
樋之池公園を後にした油井、村田、後藤の3人が次の撮影先として弁天池がある鷲林寺に向け移動していた。車を運転しながら油井がスマホの音声案内に従っているときに、後部座席に座る村田と村田がスマホを片手に弁天池のことについて念入りに調べている様子を信号待ちの際に油井が二人に訊ね始めた。
「何か良い情報でもあったのか?」
油井の問いかけに対し、村田は「前もってリサーチはしていたけどやはり牛女に関しては鷲林寺公認のってわけでもなさそうだな。勝手に広まった噂に対して困られているとも、由緒正しきお寺だけにそういう印象があるな。」と言って回答すると、続けて後藤も「ネットの記事を見ていて何となくだけど、俺の中で大体のイメージが想像ついた。多分行けば答えが分かってくる。」と明確な回答を避けると、二人の答えを聞いた油井は「そうか。いや実は言うと、事前に訪れリサーチをしていたというのもあったけども、でも何となくなんだけど答えが分かってきたんだ。でもその答えについては今話すのは早いと思うから、現地で答え合わせをしようぜ。あと少しで鷲林寺に到着だ!」と話すと、油井の返事を聞いた後藤は「何だよ、勿体ぶっちゃって。そういっていて実は行かないと分からないってパターンだろ。」と淡々とした口調で突っ込むと、後藤の意見を聞いた村田は「後藤だってどうなんだよ、そっちだって勿体ぶりながらもでも結局”行かないと分からない”じゃ人の悪口は言えそうにないと思うけどね。」とケロッとした口調で言い返すと、後藤は「多分俺と油井の考えは同じかもしれない。それは撮影時に説明する。」と言い放つと、乗ってきた車を邪魔にならぬような場所を選んで駐車をしてから、歩いて弁天池を目指すことにした。
そして弁天池に入るための”高野山 真言宗 六甲山 鷲林寺”と書かれた石碑の前に辿り着いたところで、撮影を開始した。
進行役の油井が挨拶を交えながら弁天池の怪異譚について説明する。
「明るい肝試しを御覧の皆さん、こんばんわ。油井です!今回はですね、ミステリースポットを巡る旅!ということで西宮市内にある鷲林寺さんの弁天池の心霊考察を行いたいと思います。弁天池、何が有名かと言いますと、ここでは牛女に纏わる伝説で知られているんです。鷲林寺の歴史は古く、真言宗の寺院として開基は弘法大師(=後の空海)とされ、833年(天長10年)に建立。簡単に計算すると1193年の歴史があるということですが、織田信長に反旗を翻した荒木村重の乱が起きた際に一度は消失してしまうんです、伝説ではこの時の兵火から逃れた僧侶が有馬温泉で宿を開いたというのもあるようなんですが、その後に小堂で本尊を譲り、昭和になってから復興に向け進んでゆくんです。ざっくりと鷲林寺さんのお話をしたところで本題へ。」
油井が一通り話し終えた直後に後藤がしきりに入り口近くの藪のほうを見てはキョロキョロとした動きを見せる。その様子が気になった油井は会話を中断し、後藤に対して「どうしたんだよ、何かあったのか?」と訊ね始めると、後藤は「今さっきなんだけど多分女の子だったかな。甲高い声で悲鳴とかじゃないけどわーとかきゃーとか言っていたようにも聞こえて、それ以外にもあの教会がある方向からも一人や二人どころじゃない。無数の人々に目をつけられているような気がした。」と語ると、後藤が発見したことを聞いた村田は「とりあえず話を中断してしまっているから、本題の牛女について説明をしよう。」と切り出したところで、再び油井が語りだした。
「牛女は頭は女だが、体が牛という、これを果たして幽霊というジャンルなのかとなると現実的に言うならば恐らくUMA(=未確認生物)だろうけども、大人になっても純粋な気持ちを忘れない俺達は牛女を妖怪と捉えたい。そこで牛女の伝説をまとめて紹介したい。一つ目は、戦国時代にまで遡る。織田信長勢に追われた城主の姫が助けを求めこの寺へ逃げ込んだが敵勢により放火されてしまい、余りにもの熱さに姫は池に身を投げた。今もなお、深夜の丑三つ時にこの場所に訪れると牛の蹄の音が階段を上がってくるという内容のもの。二つ目が、一つ目の伝説の話と同様で戦国時代であることは変わりないが内容は異なる。織田信長がこの周辺を支配していた時代に反発をした戦国大名への見せしめとして寺に火をつけ、あまりにもの熱さに耐えかねた娘が弁天池に身を投げたという話の2パターンがある。いずれにしろ、火事になって逃げ場を失った末に池に飛び込んだということになる。そういう伝説があるからこそ怪異譚として伝わる内容としては、弁天池の祠を午前2時に反時計回りに三回回ると帰り道に”カツ、カツ、カツ”という牛の蹄の音が聞こえてきて振り返ってみるとそこに頭は女で体が牛の牛女が追いかけてくるというもの。残念ながらスケジュールの都合上、丑三つ時に池の祠を反時計回りに三回回るってことは出来ないけども、我々、樋之池公園の手っちゃんにはやはり時期早々だったのか会えずじまいではあったけども、牛女には会ってから東京に帰りたい。それだけを目標に撮影したいと思いますんで最後までお付き合いのほど宜しくお願いします。」
一通りの説明を終えたところで、油井が先に階段を登り始めると続けて村田、後藤の順に弁天池がある方向を目指し進むことにした。
先を歩く油井が村田に「よくよく考えたら、俺達お墓の中を歩いているってことになるよな。」と訊ねると、聞かれた村田は「仕方ない。俺達が目指す弁天池はこのお墓の敷地内にある通路を抜けた先の左手にポツンとある池なんだから。」といって答えると、村田の答えを聞いた後藤は「さっきの違和感と、そして弁天池がお墓の中にあるというので大体さっきの違和感の正体が何なのか掴めてきた。こんな時間帯に俺達が肝試し目的で来たことにここの墓地に祀られている方々が”こんな時間帯に非常識だ”ということで怒りの感情を露わにしているのかもしれない。それが弁天池に向かうまでの違和感だとしたら、YouTubeの動画にも上がっていたあのコツコツと牛の蹄で歩くような音が聞こえてきたのはとなると、正体は何なんだ?」と思ったことを口にすると、先を歩く油井が「弁天池が見えてきた。一先ず俺達の目標としては、村田にも、後藤にも、勿論俺も全員で池の祠を反時計回りに三回回ってみて果たして牛女が出るか出ないか、俺達は織田信長のようにしぶとく出てくるまで待ってみようじゃないか。ホトトギスじゃなく牛女だけどね。」と自信満々に答えると、油井の話を聞いた村田は「何言っているんだよ!鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスは徳川家康だよ。織田信長は鳴かぬなら殺してしまえホトトギスで、豊臣秀吉が鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギスだよ。」と笑いながら突っ込んだその瞬間だった。
木々の茂みから”クスクス”と女性の笑い声が聞こえたのだった。
階段を登り終え、三人が弁天池へと向かおうとした時のことで、そのとき村田以外の油井と後藤はクスクスと笑っている様子は見受けられなかった。
声が聞こえたことに油井は後藤と村田に対し「さっき、池の後ろにある木々の茂みから女性の笑い声がしてきたけど、でも俺達しかいない。他に女性が来ているのだろうか。」と話すと、油井の話を聞いた後藤が「まさか。こんな夜の遅い時間に女性が一人で、しかもお墓の中にある心霊スポットに来るわけがない。それこそ幽霊に違いない、いや牛女の可能性もあり得るな。」と話しているうちに油井が先に弁天池の祠に入るための入り口の近くにまでやってくると、続けてやって来た後藤と村田が入り口の付近にまで辿り着いたところで油井が「どうする?順番でも決めて誰が先に反時計回りするか。じゃんけんしようか?」と打診すると、後藤は油井に「順序的に先ず油井が最初に祠の前に立ち反時計回りをして、続いて村田、最後に俺のほうが良いんじゃないかな。ってかあんな小っちゃな祠だと反時計回りは難しいな。祠の前に立ち、反時計回りをするしかないだろ。祠をグルグル回るのは多分できないな。」といって返事すると、油井は「村田はどう?俺が最初のほうが良いのか?」と村田の顔を見ながら訊ねると、村田も「俺も、進行役の油井が先に祠の前で反時計回りを行ってから次に俺、最後に後藤が行って牛女が出るか出ないかを粘り強くやっていきたい。」と後藤と全く同じ意見を伝えたところで、油井は渋々「わかったよ。俺が先に祠の前に立ち反時計回りをしてくるから。」というと、颯爽とした足取りで祠の前に立つと深く深呼吸を行ってから、祠の前で反時計回りを三回行い始めた。
油井が何事もなく祠の前での反時計回りを3回終わらせると、続いて村田が祠の前に立ち反時計回りを行っているときに、後藤が鷲林寺のことについて改めて調べたときに興味深い記述があったと油井に報告してきた。
「今、鷲林寺さんのホームページを見ていたけど、多分これが弁天池と言われる池のことだと思うけど、公式のホームページではこう綴られている。戦国時代に織田信長に逆らった伊丹城主の荒木村重を討つために織田信長は兵を構えて摂津を攻めた。そのころに織田信長軍の兵火から逃れるために鷲林寺までやって来た荒木村重軍の姫君のところにも兵火に襲われ、堂塔に火が放たれたという。姫君は自らの操を守るために池に身を投げた。それは心霊の噂通りではある。だがその後がちょっと違ってくる。姫君の死後も、怨念が続いたとされ、悪い事ばかりがあまりにも続くために寺は姫君の霊を供養するために梵鐘を池に沈めたという。しかし、それでも霊が浮かばれることなく、弁才天を祀ったという。その、梵鐘を埋めただろう箇所というのが行けの中で唯一石で積み上げられたところがあるらしく、そこで地下3mあたりに石なのか梵鐘なのか確認こそは取れなかったようだが金属が確かに埋まっているらしい。」
後藤の説明を聞いた油井は「まって、兵火から逃れるためにってのは噂通り。だとしたらいつどこで牛女が生まれた?」と後藤に対して訊ねると、後藤は「心霊とは無関係だけど昔の薬屋の宣伝で牛女のイラストが使われたことから火が付いたのかもしれない。ただ色々と調べてみると、誰かがその梵鐘を引き上げたために姫君が物の怪と合体して牛女になったという説や、或いは牛女伝説の元々の発祥の地である阪急の商業施設の南に位置する場所にあった屠殺場(=とさつじょう 解体して食肉に加工するための施設のことを指す)から生まれた都市伝説から派生したのではという書き込みもあり、また姫君の幽霊だろう、見た人の証言内容もまた異なってくる。古文書の内容としては、信長の焼き討ちで廃寺になった弁天池で夜になると啜り泣く姫君の幽霊が出て村人を苦しめた、というものだったらしい。」と話すと、油井も後藤の話した内容が更に気になり「ちょっと待って、知らないうちに色々な新事実が出てきているじゃないか。確認のために調べるよ。」と話し慌ててスマホで検索し始めると、後藤に対し「屠殺場の噂も調べたらあった。芦屋と西宮の一帯が空襲で壊滅をした際にこの屠殺場も焼失したそうだが、以前からこの屠殺場には座敷牢があって、そこに牛頭の娘が閉じ込められていたといい、焼け跡から牛女が現れた。この事件については当時の新聞にも掲載され、牛女の存在が知られるようになった。それが、昭和50年半頃に週刊誌の記事として掲載されたことにより県外にも心霊スポットとしての噂が広まった。牛女伝説が世の中で囁かれるようになり、多くの人が夜中に訪れるものだから、眠れない日々が続いた住職が苦肉の策として”牛女は残念ながら引っ越しをしました”という看板を立てたところ訪れる人が少なくなり静かなお寺に戻ったというのがある。」と話し終えたときに、村田が祠の前での反時計回りを3回終え誇らしげに油井と後藤に対し「何も違和感はなかった。ラストの後藤の番だよ!」といって後藤の左肩をポンポンと叩くと、後藤は「わかっている。行ってくるよ。」と話すと祠の前まで行って反時計回りに回り始めた。
油井と後藤のやり取りをじっと聞いて居たのだろうか、村田は油井に「さっきの話、長くなるから言わなかったけど、こういう話もある。元ネタは、夜中に姫君のすすり泣く幽霊を見たことから供養のための梵鐘を池の石垣の付近に沈めたというものだけど、更に深い話としては鷲林寺の荒神堂の周りを三周したら牛女が追いかけてくる、鷲林寺の八大竜王を祀る洞窟に牛女が閉じ込められており興味本位で目撃した人が発狂して現在も精神病院に入院している、牛の鳴き声が聞こえたとしても決して振り返ってはならず、振り返ればそこに赤い半てんを着た牛頭の女性がいて手に持っている鎌で殺されるというのだけど、実際に見た人はおらずあくまでも都市伝説の噂に過ぎない。牛女の発祥は19世紀半頃に日本各地で知られるようになった件(=くだん)という妖怪から来ているという説やら、牛の体と人間の顔の怪物だという説に、第二次世界大戦頃から人間の体と牛の頭部を持つとする説もあるけども、本当の心霊の話は夜中に啜り泣く姫君の怪談のほうかもしれない。屠殺場の座敷牢の一件もあったために、色々な情報が時代の流れと共にごちゃごちゃになってしまったがゆえに、今の牛女伝説になったのかもしれない。」と話すと、村田の話を聞いた油井は「だとしたら、後藤が最初に感じたあの違和感というのは、こんな時間帯にお墓に来てあの霊園で眠っている方々の怒りを買ったのかもしれない、だけどここに来ると”出てきそうな雰囲気”もあるが、肝心の身を投げた姫君が出てきそうな気配はしない。弁才天を祀り弔ったともされているから怨念が浄化されて成仏をしたということなのだろうか。だとしたら、心霊映像にもあったあの足音の主は?墓苑で眠る方々が怒り心頭になって現れたとでもいうのか?」と思ったことを口にすると、祠の前で反時計回りに3回回って来た後藤が慌てた表情で油井と後藤に「牛女なのかどうかはわからないが池のほうから牛の蹄のような?カツ、カツ、カツという足音が聞こえてきた。振り返ったら、何もなかった。」と報告すると、油井が確認のために祠の前にまで戻ってくるとその場で霊視を行った。
「大切に祀られているから、怨念の気は感じないんだけどなあ。」
そう呟きながらも、祠の周囲を念入りに持っているデジタルカメラで写真を撮ったりして異変が生じていないかどうかを確認しながら検証を行った。
すると、祠の入り口の付近で待機していた村田と後藤に対して「答えが分かった。牛女の正体が掴めた。」と話すと、再び二人のところへと戻り、村田が「牛女の正体がわかったってどういうことだよ?何が分かったのか?」と話すと、油井は「牛女じゃなく、池に身を投げた姫君の可能性のほうが高い。後藤が聞いたカツ、カツ、カツというあの音は牛の蹄が歩く音なんかじゃない、恐らくだが下駄で歩いた際に生じる音だと思われる。啜り泣いてはいなかったが、安らかに眠るこの場所をこれ以上騒がれてほしくないから現れるのだろう。それを聞いた誰かが、屠殺場の座敷牢にいたとされる牛頭の女と混同視されてしまい、それが時代の流れと共に屠殺場の座敷牢にいた牛頭の女から鷲林寺の牛女伝説になってしまったのかもしれない。」と話し、「焼き討ちになった後、夜にこの付近を訪れると姫君の啜り泣く幽霊を見たという話も、可能性としては”焼き討ちになって廃寺になった鷲林寺を立て直してほしいという訴えもあったのかもしれない。それが真実で、今もこの鷲林寺を見守る存在だとしたらこれ以上心霊検証をするのは、あまりにも失礼な気がしてきた。霊園に眠る方々の怒りを買ってしまっている以上、俺達は早々と退散しますか。あとは、後藤が聞いたとされる異音が収録されているかどうかだよね。」と話すと最後に3人が祠の前に立つと「こんな時間帯に騒いだりしてすみませんでした!」と口を合わせて謝罪を済ませると撮影を終了させ、足早に鷲林寺を後にすることにした。
帰り道に、夫婦岩と言われる心霊スポットの道を横切ると、村田が車の運転をする油井に「本当はあそこも心霊検証行いたかったけど、場所が場所でね交通量も多いし、長時間撮影をやってしまうと怒られてしまうからボツになったけど、今先程通り過ぎた夫婦岩、又の名を祟りの岩っていうんだけど、あんな場所にあるから当然ながら道の邪魔でしょ?岩を移動させようとしたところ工事関係者が次々と体調不良などの祟りに遇ったとされ、今もなお動かすことが出来ないと言われている。実はこの夫婦岩にも牛女の伝説があるんだ。0時ちょうどに訪れると、首から上が牛で体が女性、十二単だったという話もあるが、異様な姿の女性が現れるという噂が徐々に広がるようになっていくと、岩を触ると牛女が現れるという話から触ると死ぬという話もあったんだ。だからぶっちゃけた話鷲林寺に行くならこの夫婦岩も合わせて検証する必要があったんだよね。」と話すと、それを聞いた後藤は「それなら知っているよ。確か、戦後にGHQが”戦車やジープを通行させるためには邪魔”だと判断して軍の工兵隊に岩を撤去指示を出したところ、軍で使用する作業用車両が事故で転倒し死亡した経緯があるから、移動させようとすると祟られるという話にもなったんじゃないのかな。牛女に限らずとも、白狐やら巨大な白蛇が棲みついているという話やら岩に生えている木を切ろうとしたところ巨大な白蛇が現れその人は高熱に魘された末に数日後に亡くなったとか、白い服の女性の霊、男性の霊、赤ちゃんを抱っこした若い女性の霊、人影を見た、女性がむせび泣くような声が聞こえてきた、岩の名前を呼ぶと交通事故を起こすとも色々な噂があるところだよね。あんなところ、車を停める場所も無ければ長丁場での調査すら行えそうにない。諦めて正解だよ。所詮何かしら、色々な怪異譚が融合し合って出来た話に違いないだろう。」と答えると、二人のやり取りをじっと聞いて居た油井が「曰くがあるから今も大切に祀られているってことだろう。あの岩の大きさじゃ今の技術でも動かすのは困難に違いない。クレーン車で引き上げるにしても、ブルドーザーがあったとしても重さがあるために無理と見て良いだろう。それを人は事故があったこともあってか”祟りだ”という認識が芽生えた。それだけの話でしょ?」と淡々とした口調で切り出すと、村田は「そっ、そうかもしれない。」と頷きながら、三人で巡る西宮市内のミステリースポット巡りを終了させた。
一方、市営住宅で腐乱死体を見つけてしまった侑斗はというと、遺体が見つかった後の処理は警察にお願いした後に報道されて日も経過していないうちにあっという間に事故物件の検索サイトに掲載されたことに気付き、思わず尾形に「市のホームページに寄せられた意見で、ほら僕達が行って実際に遺体を発見したあの市営住宅が早速事故物件の検索サイトに載っているのでどうなっているんだ?という意見が寄せられていますけど、まさかこんなにも早く報道されたから誰かしら知っている人が見て投稿されてしまったのかもしれない。」と話すと、尾形は侑斗に「いずれにしろ心理的瑕疵(=しんりてきかし)案件なんだから、事故物件として報告の義務がある。しかしあの部屋で首吊っていたあの白石さんって人、相当風変わりな人だったみたい。」と話すと、侑斗は「何ですか?その風変りってどういうことですか?」と訊ね始めると尾形は「警察からの情報だとね、妹さん。結婚してご家族がいるみたいなんだけど、兄とは長い間絶縁して連絡すらしていなかったらしく、またあの市営住宅には両親と一緒に暮らしていたけど、その両親が不慮の事故で亡くなってから孤独のままあの部屋で首吊って死ぬとは、しかも妹さんに亡くなったことを知らせると”兄のことでこれ以上連絡してくるな、わたしは無関係です”と突っぱねてさ、特殊清掃代の費用すら遺族が負担してくれそうにないんだよな、従妹はいたみたいだけどその従妹すら”付き合いがないからこれ以上連絡するな”と言われる始末だったらしい。そう聞けば、相当あの白石さんが変わっていて嫌われていたってことだよなあ。職場ですら、出勤日なのに出勤してこないこともしょっちゅうだったらしいから、来ないと分かってまた鬱になっただろぐらいしか思われなかったというのも寂しい末路だな。」と話すと、侑斗は「なるほどですね。相当訳ありだったってことですね。特殊清掃代の費用は市民に申し訳ないが税金に頼るしかないとして、それが言いたいんですか?」と切り出すと、尾形は「いやいや、言いたいのはそんなことじゃない。饗庭が言ったと思うけど、あの家おかしいんだよ。」といって返事をすると、侑斗は「変ってどういうことですか?怪しげな呪術の本があったということですか?」と質問すると、尾形は「警察が押し入れの中からムカデが入った壷を見つけたらしい。当初は故人が大事にしているものとみなして、引き取り手が見つかるまで警察で預かることにしたけどそれからあの家に関わった警察の人が不慮の事故に遭ったりと、ほんのちらっとだけど”良くないものだった”らしくってね、蟲毒(=こどく)ってわかるか?」と話すと侑斗は「あ、はい。ちらっとですけど聞いたことはありますね。孤独な男性が蟲毒をしていた、皮肉な話ですね。壷の中に色々な毒虫を入れ、その中で最も強い毒を持つ一匹だけが生き残った毒虫を持つ独が地上最強の毒と言われた、古代の中国において主に用いられた呪術ですよね。それで祟られて警察が怯えたのなら警察はもう終わってますよ。怯まずに体当たりでぶつかってもらわないと困りますからね!」といって返事をすると、尾形は「あのとき立ち会った二人の警察官がいたでしょ?一人は事故死で、実はもう一人も死んでいるんだ。事故じゃないけど、確かくも膜下出血だったと思う。」と説明すると、侑斗は「それだけだと、怖いとも何とも言えませんよ。」と笑いはじめると、尾形は真剣な表情になり「饗庭君、良いか。二人は同じ時期に死んだんだ。呪いがあるとはそりゃ警察も認めないと思うが、因果関係があると考えてもおかしくない。だから警察も、あの案件には関わりたくない。皆怖いんだ。」と改めて口調を変えて語り、尾形の表情が変わったことに「蟲毒の呪いがあるってことですか・・・。」と呟くように悟った後に何も言うことが出来ずに黙り込むのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!