【完結】慰霊の旅路~煩悩編~

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己斐峠~畑峠(広島・広島市)

公開日時: 2022年4月11日(月) 23:43
文字数:10,145

※己斐峠・・・”こいとうげ、こいだお”と読みます。

※畑峠・・・”はたたお”と読みます。


佐波川トンネルを後にした侑斗と吉岡は肝試しで心霊検証を行うべく広島市内にある己斐峠を目指して車を走らせていた。


助手席に座る吉岡がスマホを片手に「己斐峠って広島では有名な心霊スポットらしいんですけど、裏己斐峠と呼ばれる畑峠もなかなかの心霊スポットらしいですよ。広島の方は己斐峠よりも畑峠のほうがやばいという声もあるみたいですよ。己斐峠は新道が出来たために怖くないと感じる方も多くなったようですが、旧道がまだ存在しているそうなので新道と旧道、そして裏己斐峠と呼ばれる畑峠も合わせて調べて検証してみることにしましょうか?」と切り出すと、侑斗は笑いながら「何だよ。裏己斐峠って呼ばれるぐらいなら、知る人ぞ知る程度ぐらいで何も起きていないんじゃないの?それに地元の人も恐れるというのならそれなりの理由があるってことでしょ?」と訊ねると、吉岡は「一応ネットに掲載されている情報なんですけど言いますね。」と言い出すと、掲載されてある情報について説明し始めた。


「裏己斐峠とも呼ばれる畑峠は、過去に陰惨な事件が幾度も起きたそうです。頂上の電波塔の付近では現役の警察官が拳銃自殺を図ったとも、これは地元の方なら誰しもが知る噂でも何でもなく事実のようですが、ネットで検索してもそのことについて記載されてある記事が出てこないそうです。そのほか女子中学生の死体遺棄事件、恐らく己斐峠だと思いますがタクシー運転手による連続殺人事件の被害者の死体が遺棄されたなどもあったので、ここで伝わる心霊的な噂としては事件の被害者の霊が出るという事です。一番多く聞かれている噂としては、峠道に立つ若い女性の霊とのことみたいですよ。」


吉岡の説明を聞いた侑斗は「なるほどね。心霊検証を行うのは己斐峠だけにしておこう。己斐峠に纏わる怪談も調べているんでしょ?だったらそっちも教えてよ。」と訊ねると、吉岡は呆れた表情で「畑峠のほうが誰がどう考えても普通に考えて怖いじゃないですか。まあ調べてますよ。」と答えると説明した。


「己斐峠は道幅が狭くカーブが連続していて見通しが悪いということもあって事故が多発しており、そのために魔の峠と呼ばれ恐れられているそうですが、いつ起きたのか時代が定かではないのであくまでも都市伝説の噂の類に過ぎないのですが一家惨殺事件が起きた場所とも言われていてそこで霊の目撃談があったそうなんです。内容としては己斐峠の中村家と呼ばれていた廃屋には、3人が精神を病んだ男により惨殺されたとされています。一階で老婆と少女が殺され、2階で中年の男性が殺されていたという、殺された方達のお墓は峠内にある己斐城山墓苑に埋葬されたため、こちらの己斐城山墓苑も心霊スポットの一つになっているそうです。現在は建物が取り壊されて赤い門だけが残っているみたいです。また己斐峠に設置されてある地蔵尊にも色々な噂があるようで、危うく事故を起こしそうになった方がいてお地蔵様のおかげで助かったと御礼参りに伺ったところ”死ねばよかったのに”という耳元で囁かれたいうのが有名らしいんです。地蔵尊は己斐峠の道中に7体祀られていると言われ、7体全て見つけてしまうと呪われるとも言われています。あと深夜にお地蔵様の前を通っただけでも車がエンストを起こしてしまうなんてのもありますね。こういう話もありましたよ。霊感の強い人がこの道を通ったときに悲鳴を上げ錯乱状態になったらしいそうです。果たしてどこまでが本当で噂話の一つに過ぎないのか、情報がありふれていますのでまずは情報整理をしながら、一家惨殺事件ではなく一家心中があったとも、いやそんな事件はなくデマでしかないというのもありますね。」


侑斗は「ありがとう。スマホを片手に長々と説明御苦労。」と吉岡に対して御礼を言った後に、「実は来るまでに己斐峠についてググって見たんだけどさ、その噂の地蔵尊はどう見ても1体しかない。それじゃ残る6体はどうなっているのかとなると、果たして本当に7体あるのかどうかすら不明で付近に墓地やお寺があることも考えたらこの敷地内にある可能性も考えられる。情報が非常に不確かなので、確実に己斐峠のバス停の近くにあると分かっている1体のお地蔵様には必ず御参りをしよう。噂にある7体の地蔵尊を見つけたら呪われるなんて、誰かが思いついた怪談話の一つだろう。だからあとは新道と旧道を実際に走って見てどれだけ急勾配でカーブが多いのか、地図を見ただけでもそりゃ事故が多発するのも頷けるな。であと言わなかったけどさ、自殺が多く報告されている場所でもあるらしい。警官の拳銃によるは畑峠で間違いないが、己斐峠では時代がいつなのかはわからないが電車の運転士だった方が己斐峠の山林で首を吊っているところを発見された、婦女暴行事件の報告が多く上がっているために被害に遇われた方がそのまま自殺をしたのではというのも一説としてはあるみたいだね。あとタクシー運転手の被害者の死体遺棄現場となったのが己斐峠の近くで遺棄したのも事実、それから少年グループによる少女の誘拐・暴行事件があったのも事実だったからいずれにしろ幽霊が怖い云々よりもやっぱり生きている人間のほうがもっと怖いってことだよ。因みに事故が多い背景としては危険な運転を繰り返す走り屋や肝試し目的で足を運ぶ若者達等で事故が多発しているとの情報もある。ウィキペディアでは一家惨殺事件はなかったとしながらも、峠付近で車内心中と首吊り自殺があったことは事実として認めている。」と話しながら、「畑峠はなんか聞けば聞くほど悪い予感しかしないんだよなあ。(ため息をつきながら)嫌だな。とりあえずコンビニがある交差点から己斐峠の肝試しを、本来なら歩いてと行きたいところだが無理そうだな。停められそうなところってあるか?」と吉岡に質問すると、吉岡が即座にスマホの地図を調べ始めると「いやないですね。コインパーキングがあるのはあるんですけどだいぶ先にあるので、所々にある待避所に車を停めて付近で心霊写真が撮れるかどうかを確認するしかない。そのほかは僕がカメラを持ちながら運転中の前方の様子を撮影するしかないみたいですね。畑峠もそんな感じになりそうですよ。嫌だ嫌だと言っていたら、己斐峠に纏わる心霊の話が畑峠の可能性だってあるかもしれないし、そこはしっかりと混同視されている可能性もあるんですから霊能者としては見極めないといけないと思いますよ。」と説得をするように話しかけると、侑斗は不貞腐れた表情を見せつつも「わかった。わかった。まず己斐峠に入ったら右の旧道に入って検証を行った後、確か左折しか出来なかったはずだから左折して右折可能な交差点で切り返しを行う。そこで再び己斐峠を登った後に畑峠へと向かう道へと出発して畑峠での心霊調査を行う。往路だけ。復路は一切行わない。それで真実に辿り着けるはずだろう。」と理解を示したところで、二人が乗る車が広島市内に入った。


吉岡があまりにも臆病になる侑斗の姿を見て「どうしたんですか?あんなにも強がっていたのに急にビビりだしたじゃないですか?何かあるんですか?」と笑いながら質問すると、侑斗は「怖いのは怖いんだよ。それは素直に認める。畑峠のことだってぶっちゃけた話前もって調べていたんだけど、あの警官が自殺しただろう電波塔ってさ写真見ただけでも嫌な感じしかしないんだよね。己斐峠が有名だから裏己斐峠って調べると出てくるんだけど、俺は逆にこっちのほうが嫌な気配しかしない。己斐峠の地蔵尊に現れる老婆の霊も気になるところだが、それは浮遊霊の可能性が高いと見て間違いないと思われるが、その他は事故で亡くなられた方が現れる可能性のほうがグッと高いんじゃないかな。写真や映像を見る限りではそう思った。」と話すと、吉岡は「電波塔、確かに嫌な感じがありましたね。まさかと思いますが自殺した警官の霊が出るとでも言うんですか?」と切り出すと、侑斗は「いやわからない。ただ地図を見ただけでもゾッとさせられるほど曲がりくねっているしそりゃこんなところ事故の多発地帯でしたといえば納得させられる形状をしているよ。己斐峠と同様に事故死者の霊が現れてもおかしくない。」と答えると、二人の乗る車が己斐峠へと登る坂道の手前の交差点になった時に侑斗が吉岡に撮影を始めようと切り出したところで、慰霊の旅路の己斐峠での肝試し心霊検証を20時過ぎになったと同時にスタートした。


車のフロントガラスから見える前方の景色を中心に吉岡が「慰霊の旅路をご覧の皆さん、お憑かれ様です。見習い霊能者の吉岡祐輝です。今回は心霊ドライブをしようということで広島市内にある己斐峠から畑峠を順に心霊ドライブ、待避所があればそこでいったん立ち止まって検証のためにも写真を撮りながら、己斐峠と畑峠に纏わる怪談の真偽について検証をしたいと思いますので宜しくお願いします。先輩の饗庭さんは車を運転しながらなんですけども、何か伝えたいことはありますか?」と侑斗に対して振り始めると、侑斗は「伝わっている怪異譚の真相について出来る限り解明をして行きたいと思いますので宜しくお願いします。」と答えると、二人の乗る車はゆっくりとした速度で坂道を登ってゆく。


助手席の窓を開け乍ら心霊検証を行う吉岡が周りを警戒しながら霊視を行い始めると侑斗もまたハンドルを握りながら可能な限り霊視を開始した。


侑斗が呟くような口調で「魔の峠と言われるだけにカーブが怖い。山道に慣れていないから本当に怖いんだよ。ああ怖いからどうぞこの道に慣れている人は僕の車を追い抜いて下さい。制限速度は守りながら走行していますが、初めてだと本当に怖い。」と口々にしながらも吉岡が侑斗に対して「右手に見えてきたの、あれ噂のお地蔵さんじゃないですか!それに案内看板には旧道と書かれているじゃないですか。地図で見る限り、駐車が出来そうなところ、このお寺に入るまでの道ってゲートも見た感じなさそうなので入っていけることが出来そうですよ。そこでいったん駐車してからお地蔵さんの付近で一度霊視検証を行いましょうか。」と提案を行ったところで、旧道に入るための道で右折をしてその先にあるお寺に入るための入り口のところで右折をして真っ直ぐと突き進み駐車スペースがあると分かり、そこで侑斗が「挨拶も無しに勝手に駐車をするのは良くない。こんな時間で申し訳ないが一言お地蔵さんに御参りがしたいからとお寺さんに先ずは挨拶してからお地蔵さんのところへ行こう。そのためにもお花と線香をわざわざ用意してきたのだから、お供えしてから旧道へ入り、伶円が確か手前にあったからそこで切り返して己斐峠に戻ろうか。そのほうが地図で見る限り早いな。」と吉岡に対して話しかけると、吉岡も「そうですね。そうしましょうか。」といって返事した後、二人はお寺のほうへと出向き一言挨拶をしてからお地蔵さんが設置されてある場所へと徒歩で向かうことにした。


お地蔵さんを前にして吉岡が購入してきたお花を献花台に備えると、続けて侑斗がお線香にライターで火をつけ始めるとお線香立てに線香を立て両手を合わせた。


御参りを捧げ終えたところで、吉岡がお地蔵さんを前に「お地蔵さん。こんな時間に来てしまって申し訳ありません。大変失礼なことですが、今からお地蔵さんの写真を何枚か撮らせていただきます。どうかお許しください。」と一言謝罪の言葉を述べた後、持ってきたデジタル一眼レフカメラで写真撮影を連写で行うと不可解なものが映り込んでしまう結果となった。


5~6枚撮影した中で、たった一つ、お地蔵さんが炎上を起こしているような写真が撮れたことに吉岡は侑斗に「この写真はまずいことになりましたよ。怒りを買ってしまったのかもしれません。」と言って撮影した写真をその場で検証を行うと、侑斗の口からは「ここで祀られているお地蔵さんは交通地蔵尊といって、交通安全を祈願するために設置されているのだろう。この地で事故で亡くなられた方々の御霊達の心の傷に寄り添い天国へと昇天するように導いてくれているのだから、仮にお地蔵さんが7体あったとしても呪われることはない。ただ違う見方をするとしたら、このお地蔵様に救済を求めやってきた事故死者の御霊達の怒りを買う、それが呪われるとされる所以の一つなら、いま俺達が撮影してしまった写真、全て確認する必要がある。」と言い出すとカメラでお地蔵さんの付近を連写した結果の写真を確認し始めると、侑斗は吉岡に「これはやばい。俺達は事故死者の御霊達の怒りを買ってしまった。早急に御祓いをしなければいけない。このまま突き進めば俺達も心霊になりかねない。」と語った後、供養のための御経を唱え始めると、吉岡は陰陽道を用いた御祓い方法でそれぞれが緊急の御祓いを済ませたところで、急ぎ足で車を停めていた寺の敷地内に入ると最後に侑斗が寺に挨拶して旧道へと向かう道を突き進むことにした。


車の中で吉岡が「御祓いはしたのはいいんですけどね、さっきからついて来てませんか?」と侑斗に対して思ったことを語り始めると、侑斗は「今はこの曲がりくねったカーブを慎重に慎重に走り抜けるのが精一杯だよ!あと切り返しが可能な墓苑って進行方向から見て右手にあったよな!近づいたら教えてくれよ!!」と指示を出すと、吉岡の背後から冷たい空気が流れ始めると、吉岡は「やっぱりついて来てますよ。墓苑に入ったら緊急の御祓いが必要だと思いますって。」と言って吉岡がふと後ろを振り返ると事故で亡くなられたであろう方々が必死になって車にしがみつく姿だった。


それを見た吉岡は慌てた表情で「饗庭さん。墓苑に着いたら緊急除霊が必要です。バックミラーを見てくださいよ!やばいことになっていますよ!!」というと、侑斗は恐る恐る確認し始めると、「これは・・・。」と言った後に言葉を詰まらせてしまうと、吉岡が「墓苑が見えてきましたよ!あそこで御祓いをしましょう!!」と強く言い切り、墓苑の中に入っていくと停車可能な場所に車を停車させてから緊急の除霊を行うことにした。御祓いを終え、改めて御霊の存在がいないと分かったところで今度は車全体の御祓いを行ったところで、新道へと戻る道を向かうことにした。


そして新道から畑峠へと向かう道を慎重な速度で突き進んでいくうちに吉岡は「こんなに途中で道幅が狭くなったり、カーブがくねくねと続いていたらそりゃ事故も多いだろうし、お地蔵さんが祀られているのも理解できましたね。事故に遇われた方達にとっては思いもしない最期だったのかもしれませんが、だからこそお地蔵さんに対して救いを求めて集まってくる、そんな傾向が強いところなのかもしれませんね。だからお地蔵さんを撮影すると云々の話が出てきたのは、そのためかもしれませんね。相当数の方々がお亡くなりになられたからこそ急遽弔うためにも設置されたのでしょうね。心霊の噂にある心霊写真が撮れるなんてことを流布した人がどうなったかわかりませんが、少なくとも沢山の方々の尊い命が失われた場所ですから、やはり挑発行為ともとれる写真撮影は控えるべきだという事がわかりましたね。」と話すと、侑斗は吉岡に「そりゃ、そうだろ。しかしこのカーブ道ああ嫌だ、本当怖い。もうこの道を運転しているだけでも寿命が何年も、ああ何十年も縮んでしまったよ!はやくこのくねくね道から脱出したい!!」と文句を言い始めると、吉岡は淡々とした口調で「あと少しで己斐峠のくねくね道の終わりですよ。僕達が向かう畑峠は次の交差点を左に曲がってあとカーナビの音声ガイダンスに従って行けば辿り着くと思いますから、逆に畑峠のほうがくねくね道が連続していて大変だと思いますよ。」と何食わぬ顔で語ると侑斗はカチンときたのか「誰が運転していると思っているんだ!?俺はそこまで敏腕ドライバーじゃねぇよ!」と言いながらも、カーナビの音声ガイダンスを頼りに畑峠へと向かう道へと走っていく。


己斐峠を後にしたところで、吉岡は侑斗に「己斐峠が心霊と言われる理由の一つがあのお地蔵さんだってことはわかりましたね。あとはちらちらとカーブに入る手前のあたりでじっと見つめられた、恐らく事故死者であろう御霊達と、この地で首を吊ったのではなかろうかという嫌な気配を感じる木々がありましたね。心霊スポットというにはある特定の行為さえしなければ、禍を齎すほどのことでもなさそうですし、あとは”怖くない”と分かってご満悦な気持ちになってスピードを加速してしまいがちな心霊スポット帰りの若者達の事故がこれ以上増えてほしくないことを心から願うばかりですね。饗庭さんは何か感じ取りましたか?」と質問すると、侑斗は「俺は目の前の魔のカーブと対峙するのに必死で霊視どころじゃない!!確かに吉岡の話した、恐らくこの木で誰かが首を吊ったのではなかろうかというのは見ていてわかったし、誰も歩いていないにも関わらず歩道に目を向けると俯いた表情で佇む若い女性の姿が見えた。殺人事件の被害者ではないだろうが、事故死者であることは間違いない。今もなおあんな形でSOSのサインを出していると思うと、胸が締め付けられる思いになる。自殺した方も含め、ここを最期にされた方の多くは、救いを求めているんだ。だからお地蔵さんに集結するのも理解できる話だ。」とゆっくりとした口調で語り終えるとカーナビの音声案内が「この先左に曲がってください。」と言われ左に曲がっていくと、侑斗は「ここが畑峠?」と吉岡に訊ねると、確認のために吉岡がカーナビの地図を確認し始めると、「どうやらそうですね。せっかくですから警官が自殺しただろう電波塔の付近でいったん車停車させますか?」と提案すると、侑斗は「来たのは良いけどさ、何これ!?はあ!?もういや。喋っている余裕すらない、街灯も少なくってさこれ絶対に車のライトをハイビームにした状態で突き進んでいかないと、見た感じ待避所は少ないしカーブは多いしその上道幅は狭いし対向車が来たら離合出来る程のものでもないから、一歩間違えれば俺達も心霊になりかねない。とりあえず慎重な慎重な速度で走行するよ。もう喋らないで。本当に怖い。」と語ると、吉岡は「わかりました。黙っておきます。」と理解を示すと、確認のために窓から眺める景色を眺めはじめると、「ガードレール下のほうから数え切れぬ無数の人の視線を強く感じますね。恐らく事故死者の御霊達かと思いますが、己斐峠よりもこちらのほうが死亡者の割合が多いような気がしますね。通ってゆく僕達の車を見て恨めしそうと言いますかね、睨み付けるように見てくるのが、ここのほうがやはり怖いですよ。」と話すと、侑斗は「お待ちかねの電波塔ってあの立入禁止のゲートがあるところかな?とりあえずゲートの付近で動かせるように停車してから、霊視検証を行おうか。」と答えると車を一旦立入禁止のゲートのところでバックして駐車してから、辺りを警戒しながら霊視検証を行おうとしたその時だった。


”バアアアアアン”


銃声のような音が辺り一帯に響くと、吉岡は「さっきの音、何だったんですか!?ハンティングをするにはこの時間、遅すぎますよ。」というと、侑斗は「この電波塔でかつて拳銃自殺を図った警官がいたって言ってたよな。電波塔の付近ってのは電波塔の建物がある付近じゃなく、ここなんじゃないのか?」と切り出すと、吉岡は「え?心霊スポット検索サイトでは電波塔の付近とされているし、投稿されている写真にも電波塔の建物が写されていますからね。でも投稿された写真にはかつてこの地で警官が自殺を図っただろう、そんな残留思念は強く感じられませんでしたけどね。」と話すと、侑斗は「あのな、こんなことを言って良いのかどうかわからないんだけどさ、警官が起こした事件だから闇に葬られてしまう。警官が防衛道具として認められた拳銃の引き金を引いて自らの命を絶つってことはどれだけ罪深いか、マスメディアに公にされてしまった以上、報道を知った人にとっては警察への信頼も失墜しかねない事態にもなる。いつまでもいつまでもそのことについて触れるネットメディアが減るのは当然の流れだろう。」と話すと、吉岡は「饗庭さんの言ったことは凄くわかったのですが、饗庭さんが解説していると段々と僕達の背後から厳しい視線を感じるんですけど、饗庭さん気付いていませんか・・・?」と恐る恐る侑斗に対して訊ねると、侑斗は振り返り、現れた男の御霊に対して「先程の銃声は死ぬ間際にあなたが引き金を引いた銃声だったんですね。あなたはそうやって、生前に訴えることが出来なかった心の救済のサインを我々に対して強く訴えようとしているんですね。」と語ると、現れた警官らしき男の御霊へと近付くと言霊の力で浄化させようとした。


「あなたには、あなたの思い描く理想があったが、自らが思い描いていた警官の理想と現実のギャップも大きく、また警官であるというプレッシャーとも、必ずお見本にならなければいけないということもあって、相談できる相手もおらず、もがき苦しんだ末に拳銃を使って絶命をすることは、自分が思い描く理想の警官にはなれなかったと同時に、こんなにも自分の事を思い詰めた職場に対する怨み辛みもあったんですよね。あなたはストレスを打ち明ける相手もおらず、かたや職業柄打ち明けることも出来ないということに思いつめられた末、このような最期になってしまったことに死んだ後もこうして我々に対して現れるのは一人でいることの寂しさでも何でもなく、腹いせそのものですよね。もういい加減、この世へのしがらみは捨てましょう。」


侑斗が現れた警官の御霊に対して粘り強く説得を行う中で、吉岡が除霊のための陰陽道の御祓いを行い始めると現れた警官の御霊の表情が怒りの表情へと変わってゆく。


その様子を見た侑斗は吉岡に「やめろ。陰陽道の御祓いはこの警官の御霊には通用しない。粘り強く話し合い、この警官の御霊の心の傷が癒えるまで説得するしかない。無論供養や除霊のための御経はこの警官の御霊には通用しない。言霊しかない。言霊で訴え続けるしかない。」と語ると、侑斗は熱心に「このまま、こんなうす暗いところでじっと誰かにSOSのサインを求めるのはやめにしませんか?生前に相談できる相手が居なくて追い詰められたということを訴えたいのならば、僕はもっとこんな形でひっそりと誰が通るかもわからぬようなこの地で訴え続けるよりも、過去のしがらみをきっぱりと捨ててしまい輪廻転生をして二度と自分と同じ過ちを犯さぬように、違う人の人生として歩むべきなんじゃないんですか。立ち止まっていては何の解決にもなりません。進むべき道に向かって進みましょう。自死であれど、あなたの心の迷いや苦しみに理解を示し、共感を示してくれる方はいらっしゃると思います。どうか心の中で迷わず、立ち止まらないでください。思い切って突き進んでください。」と粘り強く必死になって語り掛けると、侑斗の言霊の力が通じたのか、現れた警官の御霊は涙ぐみ始めると、最後に「ありがとう。向かうべき道へ向かうことにすよ。」と一言いい残し、淡い光となって昇天してゆくのだった。


その様子を見た吉岡は「除霊成功ですね。」と侑斗を褒め称えると、侑斗は「これで終わりじゃない。最後まであの亡くなった警官の心のケアをしなければいけない。警官じゃない俺達には分からないことだけどさ、警官には警官の、重圧ってもんがあるからね。精神的なプレッシャーとか、事故を起こしたときや違反切符を切られた時とかね、取り締まる立場だって分かっているからこそ、過ちを犯したときにカミングアウトが出来ない職業柄でもある。それが嫌で俺は兄貴と違って警察官にはならなかったんだけどね。警官ならば誰しもが共感できる悩みに理解を示してくれる人がいたらまた違っていたんだろうけど、あの亡くなられた警官の御霊には心の傷に寄り添えることが出来るような上司や部下がおらず、恵まれた職場環境ではなかったってことだろう。ストレスのはけ口が拳銃を使っての自決というのが何とも言えない。」と語ると、警官の御霊が立っていた場所のほうへとそっと両手を合わせ拝むと、吉岡も侑斗の様子を見て合わせて両手を合わせ拝むことにした。


警官の御霊の除霊を終え、何事もなく畑峠を抜け出ると、侑斗は「はあ。やっぱり山道は慣れない!もう嫌!特に畑峠って何だよ!曲がりくねすぎるんだよ!これでああ寿命が何十年もまた縮んでしまったじゃねぇか!!!」と言い出すと、吉岡は「まあまあ。事故もなく安全運転で峠道を乗り越えられたんですから、きっと僕達のことを見守る優しいエンジェル君がどこかで見ていたってことですよ。きっと。」と笑いながら話すと侑斗は吉岡に呆れた口調で突っ返した。


「エンジェル君って何なんだよ!?」

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