夕暮れ、僕は公園であのジョウロの小学生を待っていた。
ついでにベンチの上には有り金をほぼ全て使い果たして買ってきたうまい棒21本。しかしあまりの空腹に我慢できずに2本食べてしまったので残り19本。久方ぶりの食事はうまかった。
もっと安くて栄養価の高いものを買うべきだったのかもしれないが、僕にはもううまい棒しか見えなかったのだ。
僕がうまい棒3本目に手をかけてしまった頃、ジョウロの小学生が、学校から帰ってきた。
「持ってきました」
彼女はそう言って、ランドセルの中きら、ビニール袋を引っ張り出して僕の目の前に差し出した。
「おお、まさか本当に持ってきてくれるとは。ありがとう」
僕がそのビニール袋を貰おうとすると、彼女は手をさっと引っ込めた。
「本当に土日の水やりしてくれるんですか」
「もちろんだとも」
じとーっと睨まれたが、しばらくすると僕の清らかな瞳を信じてくれたらしく、再びビニール袋が差し出された。受け取って中を見ると、白いご飯が入ってあるではないか。
「ヒャッホイ!」
僕は飛び上がって喜んだ。
僕がした提案は、「土日の水やりを代わりにするから、給食の余りものを貰ってきてくれないか」というものだった。
小学生は給食を残しがちだからな。それを彼女が貰えば、周りからは救世主扱いされるし、僕も腹が満たされる。
これは誰も損をしない素晴らしい案なのだ。
「これもみんないらないって。唐揚げ」
彼女は追加でランドセルからビニール袋を取り出した。
「唐揚げって人気っぽいのになぁ」
「レバーの唐揚げですから。私も嫌い」
まるで今レバーの唐揚げを口の中に入れたかのように、彼女は顔をくちゃっと潰した。
レバーかぁ。僕も嫌いだったというか、今もあまり好きではない。柔らかいというかなんというか、食感も味も独特なんだよなぁ。しかし貴重な栄養源に変わりはない。喜んで食べさせていただこう。
「まぁ、レバーはクセが強いから、残しちゃっても仕方ないよな。」
「私はちゃんと食べましたから!」
まるで自分も残したかのような僕の言い方が気に障ったらしい。彼女はツンと口を尖らせて、自らの身の潔白を主張した。
「そっか、えらいね」
「いえ、当然のことです。じゃあ、どうぞ」
「ありがたく貰わせてもらうよ」
僕はレバーの唐揚げの入ったビニール袋を受け取ろうとして、手を伸ばしたその時、
「ちょっと小学生に何やってんの」
アパートの方から液体窒素さんがやってきた。
彼女はいつにもなく険しい表情でこちらに歩いてきて、小学生を庇うようにして僕の前に立ち、死ね死ね光線を放ってきた。……どうやら僕は小学生に絡む変質者扱いされているようだ。これは早々に事情を説明して誤解を解く必要があるだろう。
違うんだ。僕はただ小学生に食料をたかっていただけなのだ。何も悪いことは何も、悪いことは……あれ?
客観的に考えて、小学生に飯をたかる僕って割と最低のクズ野郎なのではないかということに気づいてしまった。
……これは液体窒素さんに死ね死ね光線を浴びせられるのもしょうがないな。今回ばかりは僕が悪い。
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