「小学生にたかるとか、人としての誇りってもんがないの?」
事情を説明したが、案の定液体窒素さんからは今までで最高クラスの侮蔑の視線を頂戴した。
「君も餌付けしちゃダメだよ」
「ごめんなさい。なんだかかわいそうだったから」
「かわいそうなのはわかるけど、こういうのは相手にするとどこまでもついてきちゃうから」
二人の会話が、捨て猫を拾ってきた子供とそれを叱りつける親のそれだった。
二人とも僕のことをナチュラルに犬畜生扱いしやがる。
「大丈夫?何かされなかった?」
「はい。大丈夫です。まだ何もされてません」
おい小学生、「まだ」ってなんだ。まるで僕がこれから何か変なことをしようとしているみたいじゃないか。冤罪はやめろ。ほら、また液体窒素さんが僕に死ね死ね光線を送ってきたじゃないか。
「そっか、ならよかった。この人は私がきっちりしめとくから。安心してね」
液体窒素さんらしからぬ優しい声音と共に、彼女は小学生の頭を撫でた。表情も僕を睨みつける時の100倍は柔らかかった。いや、言ってること自体は僕にとっては恐怖でしか無いんだけどもね。
……僕はずっとこんなクソアマが教師になるなんて想像できないと思っていた。
心のどこかでこんな奴は星野先生なんかじゃねぇと疑っていた。
けど小学生に優しくする彼女のその姿に、僕は確かに星野先生を重ねたのだった。そのことがなんだか無性に悔しかった。
まぁ、彼女も子供になら優しくできるらしい。……いや、まてよ? もしかして逆なのか? 子供に優しくて、僕に冷たいのではなく、彼女が蔑んだ目で見るのは、僕だけだったりするのか?
恐ろしい仮説が脳裏をよぎり、僕は震えた。真実を確かめる勇気はない。しかしこれから僕以外の人々と関わる彼女を見ることになれば、嫌でも仮説が正しいかどうかを知ることになるのだろう。
……液体窒素さんが他人と関わらないぼっちだったらいいのに。そんなことを思った。
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