「服を脱いでください!」 服好きの月聖女はスキル【お着換え】を使い、魔王に汚染された世界でジョブチェンジしながら世界を浄化する

お着換え、それは少女たちの夢の静寂(しじま)
えくせる。
えくせる。

第12話 潜入!探偵メイド!(前編)

公開日時: 2021年7月21日(水) 19:06
文字数:2,346

 サッサッ! サッサッ!

 

「わ! クーちゃんすごい!」

「さすがですわお姉さま!」

 

「えへ、えへへへへ……」

 

 メイドさんに『お着換え』してお屋敷をお掃除する。

 速く、正確に。

 お掃除なんてしたことなかったけど、今ならちり一つ見逃さない自信がある。

 

「今のわたしは月聖女ではないただの一市民、新米メイド・ククリルなの……!」

 

 フンフンフ~ン♪ と口ずさみながらホウキとハタキを駆使する。

 

 メイドさんのお洋服のポイントは白いリボンとワンピースの上に付けた清潔な白いエプロン、これがまさに「ご奉仕します!」といった感じでいい具合だ。

 それとご主人様の好みでスカート丈がちょっぴり短くなっているとのことで、黒のハイソックスとスカートの間から太ももがチラチラと覗く。

 なんでもこれは『絶対領域』といって、巷でも人気のスタイルらしい。

 他のメイドさんの太ももが見えるとドキドキしちゃうし、「わたしの太ももも見えちゃっていないかな?」と思ってドキドキしてしまう……。

 

 かわいいメイドさんのお洋服も着られるし、お掃除って案外楽しいかも!

 

「そうじそうじそうじ~♪ そうじをこなすと~♪ ヤカタヤカタヤカタ~♪ ヤカタがピカピカ~♪」

 

「さ、あたしたちも真面目に掃除するよ。 この広い屋敷をあたしたちだけで掃除しないといけないんだから」

「はぁ、これは新人いびりではありませんの? 実はわたくし不器用でして……。 召喚してお掃除してもらうのもありですわね……」

「いや、なしでしょ……」

 

 そう、ここは伯爵さんのお屋敷。

 わたしたちは店主さん情報により、真の黒幕と思しき伯爵さんのお屋敷に潜入したのだった。

 

「だけどまあ、探偵メイドっていうのもなかなか悪くないね」

「わたくしはお姉さまにメイドなどやってもらいたくはなかったのですが……」

 

「――そこのふたり! 私語は慎みなさい!」

 

 げ、とミーちゃん。

 お屋敷のメイド長さんがやってきた。

 眼鏡をクイッと持ち上げる。

 

「あなたたち、真面目にやらないとすぐにクビにしますわよ? 露頭に迷い、このままでは食うや食わずの生活だというから特別に雇ってあげたのですよ? それなのにそのようにサボって……。メイドの心得も教えましたね? メイドにとってお屋敷は戦場なのです!」

「はぁい」とミーちゃん。

「お姉さまのためならばいくらでも命を賭けられますのに……」

 

「まったく……あの子を見習ったらどうなのです」

 

 と、メイド長さんはわたしを指差した。

 

「あの子の動きはいいですわね! 若かりし頃の私を見るようですわ。あの調子ならば良いメイドに……えっ!?」

 

「――ククリル、いきます!」

 

 直立して手を上げる。

 ここは張り切っていかないと!

 

「ハッ!」

 

 気合いを入れて走り出す!

 

「な、なにを、メイドが走るなど言語道だ――――なっ!?」

 

 ダンッ! と床を蹴り上げてジャンプ!

 クルクルクルクル! と回転しながら天井、窓、壺を磨き上げていく。

 

 シュタッ! と着地してポーズを決める。

 

「ハイッ!」

 

 ――決まった。

 

「い、今のは!」

 

 メイド長さんは目を見開いていた。

 

「スキル【後方伸身宙返こうほうしんしんちゅうがえり4回ひねりお掃除】!!」

 

「な、なんですかそれ……」とミーちゃん。

「かつて魔王に挑んだといわれるメイドが使った伝説のメイドスキルです! ま、まさか伝説のメイドスキルをこの子が…………い、いえ、ただ動きを真似ただけですわ……きちんと汚れが取れているわけ…………ち、塵ひとつ残っていないぃっ!?」

 

 わなわなと震え、眼鏡がずり落ちてしまった。

 

「あ、あなたいったい何者ですの!?」

「ただの一市民、新米メイドのククリルです!」

「ククリル! あなたすばらしいわ!」

 

 ガシッと手をつかまれた。

 その瞳は感動に震えている。

 

「あなたこそメイド界に現れた超新星! どう!? 私と共に頂点を目指さない!? あなたなら伝説にうたわれるメイドになれるわ!」

「え~、どうしよっかな~」

 

 そこまで言われるとまんざらでもない。

 

「ね、どうかなミーちゃん?」

「いや、どうって言われても……」

「あなたたちもこの子を見習って精進なさい!」

 

 興奮したメイド長さんにふたりは苦笑いを浮かべた。

 

   *

 

「伯爵様のおかえりです!」

 

 ズラリ、とメイドさんたちがホールに並んでご主人様をお出迎えする。

 わたしたちもその列に加わった。

 

 ギィィ……

 

 重厚な扉が開き、黒いジャケットを羽織った伯爵さんが姿を現した。

 でもおっきなお腹がきつそうで、今にもシャツのボタンが取れてしまいそうだ。

 

「おかえりなさいませご主人様!」

 

 みんなでそろって頭を下げる。

 

「うむ」

 

 伯爵さんはひとつ返事をしてドカドカと歩を進める。

 磨き上げた床にべっとりと足跡が付いていく。

 

「ああ、せっかく綺麗にしたのに……」

 

「……ん?」

 

 と、目が合った。

 

「見ない顔だな。新入りか?」

「は、はい。ククリルと申します」

「ククリル……? はて、どこかで聞いた名だが……」

 

 伯爵さんは顎に手を当てて考える。

 でもすぐに興味を失って、

 

「まあいい。見たところ仲良し三人組といったところか。お前らみたいなガキに仕事ができるのか?」

 

 ムッとする。

 メイド長さんが慌ててやってきた。

 

「も、申し訳ございませんご主人様! しかしながらこのククリルという子、初日にもかかわらず【後方伸身宙返こうほうしんしんちゅうがえり4回ひねりお掃除】を……!」

「ああ、もういい。ワシは忙しいんだ。部屋には来させるなよ」

 

 メイド長さんを一瞥いちべつして去っていった。

 ふう、と汗をぬぐうメイド長さん。

 パンパン! と手を叩いた。

 

「さ! 各自持ち場に戻って! あなたたち新入りはお掃除の続きをなさい! お屋敷を隅から隅まで徹底的に綺麗にするのですよ!」

 

「はぁい」

 

 ミーちゃんがやる気なく返事をした。

 やっと調査対象の伯爵さんが帰ってきたけど仕方ない。

 まさか部屋に押しかけるわけにもいかないし……焦らずチャンスを待とう。

 

 三人でまたお掃除にとりかかるのだった。

 

(つづく)

 

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