エレナに作ってもらった蜂蜜入りホットミルクに口をつける。優しい甘さと牛乳の滑らかさ。お腹だけでなく心まで満たされ、ほっと一息。
「……なんだか、優しい味がするなぁ」
しみじみと噛み締めるテルミットに、隣に座っているエレナが微笑んだ。
「そうだろうそうだろう。なにせ、隠し味にはボクの愛情がたっぷり入っているからね」
誇らしげにつつましやかな胸を反らせるエレナに、無意識のうちに視線が吸い寄せられる。
愛情。おそらくその源が詰まっているであろう、彼女の胸に。母性の象徴にして、淫靡の権化。赤子の揺りかごにして、快楽の玩具。質量に反して秘められた、無限の可能性に、思わず目が釘付けになってしまう。
物欲しそうなテルミットの視線を感じたのか、エレナがブラウスのボタンを外した。隙間から、ピンク色のレースが覗いている。
「そんなに物欲しそうな目をしなくても、ボクのおっぱいは逃げたりしないよ」
両手を広げるエレナ。灯りに群がる蛾のように吸い寄せられる。
ふと、テルミットの手から重さが消えた。
「あっ!」
テルミットの手から離れたホットミルクが、エレナに降り注いだ。
白い液体が服やら顔やら、全身にかかってしまった。ブラウスからは薄っすらと肌やらレースが透けてしまって、直視するのははばかられる姿だ。
「す、すみません。ケガは……いえ、火傷とかはありませんでしたか!?」
「ボクなら大丈夫だよ」
なんてことのないように言うエレナ。だが、溢したテルミットの方が“大丈夫”ではなかった。
脳をくすぐる甘い香り。花に吸い寄せられた虫のように、エレナに吸い寄せられる。近づくごとに、その引力が増す。
「テル?」
エレナの声を無視して、頬にかかったミルクをペロリと舐める。
エレナが、「ひゃっ」と声を漏らした。
なめらかな肌に、甘くとろけるような食感。
ほんの一滴、口の中に含んだだけで、口いっぱいに多幸感が広がる。まさしく禁断の果実。
脳が痺れるような快感に襲われ、はっと我に帰る。
「あっ、す、すみません!」
「う、うん。大丈夫……」
頬を抑え、うつむくエレナ。その表情はうかがえない。視界の端に映る小さな耳が真っ赤に染まっていた。
「と、とにかく、風邪を引く前にお風呂に入っちゃいましょう!」
有無を言わさずエレナを抱きかかえると、急いでエレナを脱衣場まで運んだ。
エレナの部屋から着替えを持ってくる。
「テルも一緒に入らないかい?」
頬を染めて、もじもじと太ももを擦りながら尋ねるエレナ。
「いえ、僕は服を洗ってきます」
エレナの提案を即座に断る。自分のせいで迷惑をかけてしまったというのに、のんきにお風呂に入る気分にはなれない。自分にはそんな資格はない。
服を洗うべく、裏庭の井戸まで来た。
桶に水を汲み、エレナのブラウスを広げ、まじまじと見つめた。ミルクに浸された布が、薄く透けており、どことなく卑猥なものに見えてしまう。
鼻を近づけ、すんすんと鳴らす。エレナの甘ったるい香りと、ミルクのマイルドな匂いが合わさり、抗いがたい誘惑となってテルミットを刺激する。溢れだす唾液。
あのホットミルクは、エレナが愛情を込めて作ってくれたものだ。それを、このまま洗ってしまっては、彼女の愛情をドブに捨ててしまう気がする。
それはダメだとテルミットの心が叫んだ。
ならば、自分はどうするべきなのか。彼女の愛情を無駄にしないために、自分にできることはないのか。
甘ったるい香りが、テルミットの理性を溶かしていく。
迷った末、テルミットはエレナの服に口をつけた。ちゅうちゅうと、吸い出すように口を動かす。
これは、仕方のないことなのだ。エレナの愛情を無駄にしないためには、しょうがないことなのだ。自分に言い訳をしながら、吸い出す口は止められない。
エレナのブラウスから染み出たミルクを飲み込むたびに、自分の中の何かが壊れていってる気がする。
だか、それも悪くないと受け入れてしまっている自分もいた。
このままエレナだけを見て、エレナだけを感じて、身も心も彼女のものにしてしまう。そんな堕落に、身を委ねてしまいたくなってしまう。
ブラウス、スカートと口をつけ、ピンク色の可愛らしい下着に口をつけようとしたところで──
──背後から声が聞こえてきた。
「こんなところにいた。何をしてたんだ……」
エレナの言葉は、最後まで続かなかった。
エレナの視線の先。ブラジャーを広げて口をつけようとするテルミットを見て、固まってしまっていた。
「あの、その、これは違うんです。せっかくエレナさんから作ってもらったホットミルクを無駄にしてしまうのはもったいないなぁ、と思いまして、その……。
わ、悪いとは思っていたんですけど、でも、その……す、すみませんでした」
「……ヘンタイ」
エレナの言葉が突き刺さる。
返す言葉もなく小さくなるテルミットに、恨みがましい視線が送られる。
「服なんかに興奮しなくても、ここに本物がいるんだから、本物とすればいいのに……。テルの浮気者」
拗ねた様子で睨んでくるエレナがたまらなく愛おしい。
普段の彼女とは違い、子供のような拗ね方をするエレナに、思わず力一杯抱き締めてしまう。火照った身体。わずかに濡れた髪が、テルミットの袖に染みる。
「ぎゅってしても、許してあげないよ」
言葉とは裏腹に、怒っている気はしない。それどころか、背中に腕を回されて、さらに求められている気がした。
エレナの首に。頬に。唇に、媚びるようにキスをする。
「……キスしても、許してあげない」
緋色の瞳が、熱を孕んでテルミットを見上げる。
「じゃあ、どうすれば許してくれますか?」
「ボクの服にしたのと同じくらい……。いや、十倍は愛してくれないと、許してあげない」
聡明な彼女らしからぬ露骨なおねだり。返事をするのも気恥ずかしいので、エレナを抱きかかえると、自室のベッドまで連行した。
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