図書室に訪れていたテルミットは、目についた本を手に取った。パラパラと本をめくると、奇妙なページにたどり着いた。付箋が貼られており、そのページを何度も眺めていたのか、跡が残されている。エレナが読んでいたのだろうか。
中に目を通すと、ページにはある花について記述があった。文字に慣れていないながらも、記憶を頼りに読み進める。
レンメンカ。緋色の花弁をしており、古来から薬の材料や贈り物として重宝されてきたとある。
エレナの好きな花なのだろうか。もしそうなら、是非ともプレゼントしたい。
何より、エレナの瞳と同じ、美しい緋色をしているところが気に入った。
この辺りでも生えているらしいので、採取しに言ってみるのもいいかもしれない。
「エレナさん、喜んでくれるかなぁ」
期待に胸を高鳴らせながら、外出の支度をするのであった。
屋敷に戻ってくると、急いでエレナの元へと駆け寄る。
「エレナさん!」
「どうしたんだい。今日はテルの姿が見えなかったから、心配してたんだよ」
「実はですね。エレナさんにこれをプレゼントしたくて……」
積んできた花をエレナに差し出す。
「これは……」
レンメンカ。美しい緋色の花弁をしており、贈り物やとある薬の材料としても重宝されている花だ。
エレナの頬が、花と同じ色に染まっていく。
気に入ってもらえたようで良かった。危険を犯して取りに行った甲斐があるというものだ。
満足そうに笑みを溢すテルミットとは裏腹に、顔を赤くしたエレナが恥ずかしそうに目を逸らした。
「……テル。レンメンカの花言葉を知ってるかい?」
「? いえ」
「花言葉は子孫繁栄。あと、子沢山という意味もあるね」
子孫繁栄。子沢山。これらの意味するところを想像してしまい、思わず赤面してしまう。
そんな花をプレゼントしてしまうなんて。これでは自分がエレナと子孫を残したくてたまらないみたいではないか。
羞恥に押しつぶされそうになるテルミットに、さらなる追い打ちがかけられる。
「この花言葉には、ちゃんと由来があってね。何でも、香りを嗅ぐと身体が敏感になって、えっちな気分になってしまうんだ」
「……僕、たくさん嗅いでしまいました」
採取する際、さぞかし良い香りがするのだろうと、何度も香りを嗅いでしまった。思えば、先程から妙に鼓動が早くなり、全身が敏感になってしまった気がする。
「…………」
エレナの視線が下に落ちる。そこには、テルミットの言葉を証明するように、ズボンを突き破らんとそびえる塔が立っていた。
そこに視線が釘づけになりそうになり、慌てて目を逸らす。
「……他にも、きちんと調合すれば精力剤や媚薬になることから、古来より子供を授ける花とされてきたんだ」
まあ、薬を作る前にテルが興奮してくれたみたいだけど。エレナがテルミットに聞こえないように呟く。
「えっ、あの、この花について書かれていた本に付箋が挟んであったんですよ。もしかして、エレナさん……」
媚薬や精力剤を作ろうとしていたんですか? という言葉をぐっと飲み込む。
「か、勘違いしないでほしい。ボクはただ、その……飽きられたりしないように、一応保険として考えていただけで、決して薬を盛って無理矢理行為に及ぼうだなんて、まったく全然思ってなくて──」
聡明な彼女らしからぬ言い訳をかき消すように、テルミットが強引に唇を塞ぎにかかる。
唇の柔らかさ。口の中の温かさ。唾液の甘さが、エレナの頭を冷静にさせた。
唇を離すと、薄い桃色の唇がしっとりと水分を含んでいるのがわかる。
「テル……」
とろんと潤んだ瞳がテルミットを見上げた。緋色の瞳に吸い込まれそうになりながらも、想いを伝えるべく口を開いた。
「エレナさんのこと、飽きたりしませんよ。僕の中では、いつだって可愛くて綺麗で、最高の女性ですから」
「うん、ありがとう……」
潤んだ瞳で、テルミットの胸に身体を預けた。背中に腕を回し抱きとめる。服越しに伝わる、華奢な身体。
レンメンカの香りを嗅いでいたせいか、鼓動が早くなり、全身の感覚が敏感になっている。いや、エレナと抱き合っているからだろうか。
相手がエレナだから、こんなにも鼓動が早くなって過敏になった神経がエレナの身体という刺激を求めて大きくなったそれをエレナの下腹部に押しつけて自分の願望めいた欲求をエレナの中で吐き出したい一心で──
──エレナの背中に回した腕に、力が篭った。
「す、すみません……。僕、もう我慢できそうにありません」
情けない言葉を口にするテルミットに、エレナはただ静かに身を任せた。
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