昨日、あれだけ威勢良くエレナにここに居たいと言ったというのに、早くもその決意は崩れようとしていた。
「帰りたい……」
思い出すのは、昨夜の失態。あろうことか、エレナの目の前で達してしまった。
その後、逃げるように自室に帰り、自己嫌悪。結局、自分の逃げ癖は治らなかった。何も変われやしなかったのだ。
これからどんな顔でエレナに会えばいいというのだろうか。
テルミットがベッドで悶絶していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「起きてるかい? 朝食の準備ができたよ」
扉の向こうからエレナの声が聞こえた。だが、今は返事をする気になれない。第一、会わせる顔がない。
「テル? 寝てるのかい?」
テルミットが狸寝入りを決め込んでいると、ゆっくりと扉が開く音が聞こえた。
「テル? 入るよ?」
エレナが部屋に乗り込むと、テルミットが被っていた布団を引き剥がした。
「良かった。ちゃんと居てくれた」
安心したように、エレナがほっとする。
もう逃げられない。テルミットは姿勢を正すと、エレナに土下座をした。
「昨日はすみませんでした!」
突然の謝罪に唖然とするも、すぐにエレナは申し訳なさそうな顔をした。
「こちらこそすまなかった。昨日は悪ノリしてしまったよ」
「いえいえ僕の方が」「いやいやボクの方こそ」とお互いに謝り合う。
やがてエレナがポツリと口を開いた。
「本当は、少し不安だったんだ。居心地が悪くなって、出ていってしまったんじゃないかって」
当たっているだけに反論できない。
「そんなこと、しませんよ」
エレナを安心させるべく、優しく語り掛ける。
「約束したじゃないですか。ここにいるって」
「テル……」
感極まった様子のエレナが、テルミットの目を見て、
「ありがとう」
緋色の瞳がまっすぐにテルミットを見つめる。わずかに潤んだ瞳がどこか扇情的で、自分の中の理性が悲鳴を上げる。狂ってしまいたくなる衝動に駆られる。
「それより、早く朝食を食べましょう! せっかくのごはんが冷めちゃいますから!」
理性を総動員させることに成功すると、テルミットはエレナの背中を押して部屋を出た。
「そうだね。そうしようか」
エレナの返事がどこか残念そうに聞こえたのは、きっと自分の自惚れだろう。
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