殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

嫌だから

公開日時: 2025年2月24日(月) 14:00
文字数:1,710


 ボーっと授業を受けていたら、すぐに一日が終わってしまった。

 まずい……中学1年生のレベルでも難しすぎた。

 中身は義務教育を終えて25年以上経った、アラフォーのおっさんだもの。

 しかし、これから学び直すのにも苦労しそうだな。

 塾とか通った方が良いのかな?


 そんなことを考えていると、後ろの席にいた優子ちゃんが指で肩をつついてきた。


「藍ちゃん、一緒に帰ろ?」

「あ、うん……」


 鞄に重たい教科書とノートを全て入れて、立ち上がる。

 隣りの席にいた鬼塚は、もういない。

 帰ったのかな?

 あいつ、一日中ヤンキーにいじめられたもんなぁ。

 俺ならすぐ不登校になるわ。



 優子ちゃんと教室を出て、廊下を並んで歩く。

 

「そう言えば、優子ちゃん」

「なぁに?」

「俺……じゃなかった私って、部活は入ってないの?」

「へ? 藍ちゃんは運動系が苦手だし、人見知りだから嫌がってるじゃん」

「あ、そっか……」


 美少女だけど、陰キャなのか。

 部活の話から優子ちゃんの思い出話に火がつき、藍という少女のエピソードを聞かされることに。


「なんかさ、給食の時間も全然食べられなくて、小説ばかり読んでいたのに。今日はがっついてたよね」

「あ、ちょっとお腹が空いてて……」

「藍ちゃんらしくないよ~ 鬼塚くんにケンカ売るし、大食いだし~ まるで別人みたい!」

「それは……」


 本当に別人なんだよ。

 中身がおっさんなんだって! とは言えないものな。


  ※


 一階まで降りてくると上履きを脱いで、下駄箱に入っているスニーカーを取り出す。

 スニーカーへ足を入れようとしたら、どこからか叫び声が聞こえてきた。


「やめろーっ!」


 甲高い少年の声。

 中庭の方からか?


 その声に、俺と優子ちゃんはお互いに目を合わせてみる。


「なんだろ?」

「ちょっと、のぞいでみようか?」


 二人して、玄関から顔だけ出して、中庭の方をのぞいてみる。


「やめろって言ってんだろ! 離せよっ! いい加減にしろ、お前ら!」


 その声の持ち主は、鬼塚だった。

 複数の学ランを着た少年たちに身体を抑えられ、身動きが取れないようにされている。

 鬼塚を抑える少年たちは、みなニヤニヤと不気味に笑っている。

 

 あ、こいつら……思い出した。

 間違いない。俺をいじめていた鬼塚の子分たちだ!

 それが今じゃ、親分をいじめる側に入ったって言うのか?

 中学生ってガキだと思ってたけど、なんか残酷な世界だな。


「それじゃ、いくぜ! お前ら、鬼塚を避けられないように押さえておけよっ!」


 鬼塚から少し離れた所で、赤色のユニフォームを着たヤンキーが、バスケットボールを手に持っている。

 よく見れば、鬼塚も同じユニフォームを着ていた。

 こいつらひょっとして、バスケットボール部の部員同士なのか。


「おらよっ!」


 そう言って、ヤンキーが投げたボールは誰にも当たらず、近くの壁に当たって、地面に転がってしまう。


「クソっ! 鬼塚、避けんなって言ってんだろ!」


 うわ……よく見ると、このヤンキー。かなり目つきが怖い。

 髪色が明るいというか、金髪だし。人を傷つけるのにためらいとか、無さそう。

 女で良かったかも。


「うるせぇ、天ヶ瀬あまがせ! とっとと、俺のボールを返せ! ダセェんだよ、お前のやってること全部!」


 お、やられっぱなしのくせに、反抗するな。鬼塚のやつ。

 

「あ~ ちょっと、ムカついてきたわ。次はマジだからな。股間に当てたらスリーポイントだから」


 股間にあんな硬くて大きなボールをぶつけるとか……怖すぎ。もう、俺には玉が無いけど。

 想像しただけで、気分悪くなってきた。

 

 天ヶ瀬と呼ばれたヤンキーがボールを勢いよく、投げる。

 褐色の小柄な少年へ向かって、バスケットボールが股間にダンクシュートされると思ったが。

 ボールは、空中で止まってしまった。


「おい! デカ女っ! なにしてくれてんだよ!?」


 その時の俺は、どうかしていたんだ。

 両手にバスケットボールを抱えて、羽交い締めにされた少年を上から見つめる。

 どうやら、俺の取った行動に驚いているようだ。


「はい、これ」


 そう言って、鬼塚にボールを渡す。


「お、おう……ありがと。水巻」

「そんなことより、こっちに来なよ」


 鬼塚の小さな手を掴むと、その場から走り去る。

 もちろん、ヤンキーが叫んで怒っていたけど。それでも、このまま彼を置いていくのは嫌だった。

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