美少女に転生して、一日が経った。
全てが新鮮というか、アナログな世界で戸惑っている。
俺の自室には一台のテレビがあるのだが……これも前世では、希少なもので。
名前は、”テレビデオ”と言う。
確かに1990年代当時なら、流行っていたのだろうが。
俺からすると、何も嬉しくない。
今時、VHSビデオデッキとテレビが一緒になって喜ぶ中学生がいるか?
テレビ台の中には、この身体の持ち主が録画したと思われる、ビデオテープが並んでいる。
『金髪先生』『XYZファイル』『お近所ものがたり』
それを見た俺は、思わずこう呟いた。
「どんな趣味してんだ、藍ちゃんは……」
晩ご飯は食べ終わったし、お風呂にも入ったから後は寝るだけ。
可愛らしいキャラもののパジャマに着替えると、ベッドにダイブする。
はぁ……人生をやり直しと言っても、中学生から勉強を学び直すとか。
とてもついていける気がしない。
それに美少女と言っても、なんかチヤホヤされている感じしないんだよな。
※
一旦、眠りについたと思ったが、どうも廊下がうるさい。
『あ、ふふふっ』
この声は、元の世界でハゲの中年だった兄さんだ。
今じゃ、ギャルへ性転換してしまったお姉ちゃんだが……。
笑い声が聞こえたと思ったら、扉の音がバタンと閉まる音が聞こえた。
そして、また笑い声が聞こえてくると、扉が開いて何やら機械を操作している音が。
気になった俺は、自室の扉を開けて、廊下を覗いてみる。
全身ヒョウ柄のパジャマを着たお姉ちゃんが、ニヤニヤと笑いながら小さな端末を手に持っている。
そして、廊下の一番奥に置いてある電話台に向かう。
一台の子機が置いてあるので、手に持ち必死に数字ボタンを連打している。
この間、延々と電子音が廊下に鳴り響き、とてもうるさい。
あ、思い出した……これって、”ポケベル”だわ。
古っ!
前世じゃ数年前にもうサービスが終了したってのに。
数字を打つことによって、文字に変換してメッセージを送るサービス。
俺はポケベルを使う世代じゃないから、よくわからないけど。
そう言えば、前世で兄貴は付き合っていた彼女と、連絡を取り合っていたな。
地味にうるせぇ……。
「あいしてる……だってぇ!」
とポケベル機を見つめて、その場でピョンピョンと跳ねて見せるお姉ちゃん。
まあ、年頃だし分かるけどさ……。元の世界じゃ太った中年のハゲなんだよ。
おっさんの兄貴が若返って、エロいギャルの身体に顔をくっけた感じ。
これほどまでにしんどい女体化は、他に無いかも。
「どっちの世界も地獄だな……」
後ろで隠れて見ているつもりだったが、気がつくと声に出していた。
俺の存在に気がついたお姉ちゃんが、こちらに振り向く。
「あ、藍っ!」
なんか”ばく●んいわ”が顔を赤くしてるけど……。爆発しないよね?
「その……お姉ちゃん。声がしたから、ごめん」
「べ、別に良いけどさ! コソコソ見るのは、超やめて欲しいんですけど!」
この時の流行語かな。
「そういうつもりは無くて、いちいち電話を使わなくても、”メール”とか、”L●NE”で良くない?」
「は? なにそれ?」
「いや、ポケベルなんてガラケーより、古い通信機だから……」
「ちょっと藍! 私、このポケベルを買うのにバイト代、いくら貯めたか知ってんの? おちょくるのも大概にしてよね!」
怒って、自室に戻ってしまった。
あ、そっか……。まだ前世の時代感覚でいるから、お姉ちゃんの地雷を踏んでしまったのか。
25年前に自分を合わせるとか、色々と疲れそう。
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