殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

第二章 それでも気になる

メシウマ状態?

公開日時: 2025年2月17日(月) 14:00
文字数:1,552


 目の前にいる少年は、とても背の低い男の子だった。

 あれほど恐れていた男は華奢な身体で、転生した今の俺なら、ひねりつぶすことさえ出来そう。

 元々、俺は前世でも成長が早く、13歳の頃には160センチ以上あった。


 そのデータは今も引き継いでいて、165センチという高身長な女子。

 だが、鬼塚 良平という男は、150センチも無い。

 その証拠に胸ぐらを掴んだ俺が、軽々と両手で持ち上げられるほど。


 髪型はツンツン頭だから、少しヤンチャに見えるけど……。

 前世で俺をおもちゃのように、いじめていた冷酷さは感じられない。

 逆に鬼塚の方が、睨んでいる俺を見て震えていた。


「鬼塚……」


 長年の憎しみで、俺の両手にも力が入る。

 首を締め上げた為か、鬼塚は苦しそうにしている。


「ガハッ! ちょ、水巻。いきなり……」

「何が水巻だ……お前、俺にずっとなにをやってきたか、忘れたと言うのか?」


 とまたドスのきいた声で、彼を睨んでいると。

 クラスにいた生徒たちがざわめき始めた。

 一気に周囲の視線が、俺と鬼塚に集まってしまう。

 

 ヤベッ! 前世でこいつにいじめられたからと、この世界の鬼塚に憎しみをぶつけてしまった。


「なにやってるの!? 藍ちゃん!」

 

 騒動を聞きつけた優子ちゃんが駆けつけてくる。

 彼女の顔を見て、ようやく我に戻ることが出来た。

 ゆっくりと、この世界の住人。鬼塚 良平を下ろしてあげることにした。


「み、水巻……久しぶりに登校したと思ったら、いきなりなにすんだよ?」

「えっと、その……ごめん」


 なんで、俺がこいつに謝らないといけないんだ!

 でも……今の俺は、水巻 藍という女の子だ。

 前世とは色々と違う世界、パラレルワールド。つまり元の世界とは、過去も違う可能性がある。

 だから、まだこの鬼塚 良平という少年に、憎しみを抱くのは違うのかもしれない。

 一旦、俺の怒りを抑えておくことにした。


  ※


 クラスでも一番静かな女子、水巻 藍がクラスに入った途端。

 鬼塚の胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げたことで、教室はパニックに陥っていた。


「見たかよ? いくら鬼塚がクラスで一番チビでもさ……」

「怖~い。私、もう水巻さんに話したくない」

「ていうかさ、あの子。あんなキャラだったけ?」


 うっ……、色々と居心地が悪いな。

 だって、俺が締め上げたその少年、隣りの席なんだよ。

 優子ちゃんに言われて、仕方なく鬼塚の隣りに座っているけど。

 俺はずっと反対側の窓を見つめている。

 鬼塚の方は知らんけど。


 教室の扉が勢いよく開かれたので、担任の教師かと思ったら。

 少し背の高い学ランを着た生徒だ。

 髪の色が明るく、耳にはピアスが見える。この時代にもヤンキーっているんだな。


「おい、鬼塚。ちょっと来いよ!」

「ハァ!? なんで俺が行かないと……」


 と言いかけている際中だが、教室の中にわらわらとヤンキーの取り巻きが入って来て。

 左右から鬼塚の腕を担ぎ上げ、無理やり教室から連れて行かれた。

 一体、何だったんだ?


 すると後ろに座っていた優子ちゃんが、俺の肩を指で突いてきた。

 振り返ると、こう説明してくれた。


「藍ちゃん。もう、鬼塚くんには関わらない方が良いと思うよ?」

「え、なんで?」

「だって、鬼塚くんってヤンキーの人に狙われてるじゃん」

「それって……あいつが、いじめられているってこと?」


 マジかよっ!? メシウマ状態はこのことだ!

 ざまぁみやがれ、鬼塚の野郎。

 この世界も案外悪くないかもな。


 だが優子ちゃんの話は、それだけで終わらなかった。


 それは鬼塚がいじめられる、きっかけになった過去の話だ。

 小学生時代にひとりの男子を数年間に渡って、凄惨ないじめを繰り返し……。

 いじめが怖くなった少年は学校を休むようになり、引きこもってしまった。

 親同士の話し合いもむなしく、その子はこの土地から引っ越したそうだ。


 なんか、”その子”にすごくデジャブを感じてしまうのだが……。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート