殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

恥ずかしい

公開日時: 2025年4月7日(月) 14:00
文字数:1,703


 店のカウンターを借りてその場で説明書も読まず、さっさと”ミニモーターカー”を作り上げる。

 前世では、何個も買って作っていたから余裕だな。

 たった数分間で俺が作り上げてしまったので、これには店長であるおじさんも驚いていた。


「はぁ~ 女の子なのにすごいねぇ……」

「フッ、子供の頃はしょっちゅう遊んでいたので」


 と照れくさそうに、人差し指で鼻をかいてみせる。

 しかし、それを聞いたおじさんが、冷静にツッコミを入れて来た。


「何言ってんの? お嬢ちゃんはまだ子供だろ?」

「う……」


 まあ身体だけ見れば、そうだよな。


  ※


 店を出ると、男子小学生たちがサーキットで盛り上がっていた。


「いけいけ!」

「俺の方が速いって!」


 見ているだけで、自然と身体が反応してしまう。


「ねぇねぇ、お兄ちゃんじゃなかった……お姉ちゃんもレースに参加していい?」


 少年らに聞いてみると、俺の姿を見て困惑していた。


「別にいいけど……お姉ちゃんは女の子だよね? マシン持っているの?」

「もちろん! この”ブロッガンG”を持ってるさ!」


 先ほど組み立てたマシンを少年らに見せつける。

 新発売のマシンを見て、男の子たちが一斉に声をあげる。


「すごい! 新発売のやつじゃん。お姉ちゃんも好きなんだぁ」

「あれ、今スゲーって話題のやつじゃん!」

 

 少ないお小遣いでやりくりしている小学生とは違うのだ。

 金に物を言わせて、カスタマイズしたマシンだからな。


「じゃあ、お姉ちゃんと競争しよっか?」

「うん! いいよ、勝負しよう!」


 ~10分後~


「ああ~ また負けた! なんで、こんなに速いんだよっ!」


 悔しがる少年の姿を見て、ほくそ笑む。


「フフッ……こう見えて、お姉ちゃんはかなり強いのよ?」

 

 連勝して気持ちよくなった俺は、少年たちに再度バトルを申し込む。


「ねぇ、もう一回レースしようよ?」

「え~ お姉ちゃんのマシン、速いから嫌だなぁ……」

「いいじゃん。今度はお姉ちゃんの方が負けるかもよ?」

「ううん……」


 負けることが怖いのか、少年たちはすっかりやる気が無くなってしまったようだ。

 しかし、一連のレースを黙って見ていたひとりの少年が俺に近づいてきた。


「あの、お姉さん。ちょっと、そのマシンを貸してくれませんか?」

「え? なんで?」

「ちょっと、マシンの中身を見てみたいので……」


 そう言うと、眼鏡をかけ直す少年。

 なんか見るからに頭が良さそうだな……どこの界隈にもいる博士ぽいオタク。

 

「まあ良いけど……」


 俺は黙って彼にマシンを渡してみた。

 受け取ると、ボディを外してシャーシの中を黙って見つめる。

 しばらく見つめていると、ある部分で目が留まった。


「これはっ!?」


 口を大きく開いているので、えらく驚いているように見えるが。

 何か問題でもあったのか?


「どうしたの?」

「お姉さん! これは店内で売られている最強最速モーター、”鬼モーター”ですよね?」

「うん、そうだけど……。それがどうかしたの?」


 俺がそう言った瞬間、少年は眉間に皺を寄せて、下から睨みつける。


「これは大会でも利用してはいけない、”魔改造”モーターです! お店のルールにも書いてありますよ! 立派な違反行為でしょ!」

「え……?」

「一人で楽しむ分には良いのですが、このモーターは公式からもレース使用禁止となっているのです! なのでお姉さんの連戦連勝は無効となりますっ!」

「なっ!」


 知らなかった。前世での俺はいつも一人で平日の昼間にレースしていたから。

 競う相手がいなかったんだ。そんなルールを知るわけがない。

 その後、少年たちに囲まれた俺は「ずるい!」「大きいのに!」だの罵倒され、もうレースに入れてもらえなくなってしまった。



「なんだよ……レースと言っても、遊びだろ。追い出さなくてもいいじゃん」


 と魔改造認定されたマシンを眺めていたら、どこからか視線を感じた。

 振り返ると、そこには褐色肌の少年が突っ立っていた。

 ツンツン頭の鬼塚だ。


「うっ!?」


 恥ずかしいところを見られた……。

 でも、こいつもこの模型店に来たってことは、レースをしたかったのか?

 しかし鬼塚は何も言わず、黙って店内に入って行く。


 無視かよ!

 挨拶ぐらいしろ、女子中学生がレースしてたんだから……。

 クソ、一番見られたくない相手に見られた。

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