殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

無料のデート

公開日時: 2025年5月23日(金) 14:00
文字数:1,297


 鬼塚に連れられ、黙って水族館のレストランへ来たが。

 正直、居心地が悪い。

 本来なら食券を買ってから、店員に渡して料理を待つのだけど……。


 家庭が貧乏な彼は一切、お金を使いたくないと言う。

 周りで美味しそうなハンバーグプレートを食べている家族を見ても、気にする様子はなく。

 勝手にテーブルを占拠して、自身が作って来たというお弁当を広げる。


「さ、食べようぜ。ここの何が良いかってさ、目の前でイルカやクジラたちが泳いでいるところを眺めながら、食べられることなんだよ」

「うん……でもさ、さすがにお店に悪いから飲み物ぐらい注文しない?」

「嫌だよ。金がかかるじゃん」


 そういうところだけは、ガキなんだな。

 ダサすぎだろ……。


  ※


 なんだかんだ文句を言っているが、いざ鬼塚が弁当箱のフタを開けると……。


「うわぁ! めっちゃ美味しそう!」

「まあ、残り物で作っただけなんだけどな」


 と照れくさそうに、人差し指で鼻の下をこする鬼塚。

 しかしお世辞じゃないが、彼が作った弁当は手が込んでいた。

 大きな三段の重箱を横に広げていくと……。

 びっしりとたくさんのサンドイッチが詰め込まれている。

 玉子サンドにツナサンド。それからポテトサラ味に、ハムトマト味まで……。

 うちのお母さんより、種類が豊富だ。


 二段目はおかずがたくさん入っていて。

 ハンバーグ、鶏のから揚げ。ブロッコリー、ミニトマト。

 最後の箱にはデザートとして、色とりどりのフルーツが並べられていた。


「こ、これ……全部食べていいの? なんか二人分にしては多くない?」

「ああ、本当は翔平の分も作ったけど。あいつ、体調が悪いから……仕方ないよ」

「そっか……なんか悪いなぁ」

「気にすんなって! こんなの翔平は毎日、俺が食べさせてやってるし」


 え? 毎日、こんなたくさんの料理を作っているのか、こいつ?

 前世では俺をいじめるクソ野郎だったけど、家庭ではかなり苦労していたのか……。


 ~10分後~


「ん~ めっちゃ美味しい~ 鬼塚のサンドイッチ最高だよ。このから揚げもサクサクでたまらん~!」


 と俺が嬉しそうに食べている姿を見た、鬼塚はちょっと引いていた。


「なら良かったよ……。でも、もうサンドイッチ10個以上食べているぜ? 苦しくないのか?」

「え? 全然。むしろ足りないぐらいかな……」


 前世で唯一できたストレス解消法が、ドカ食いだからパクパク食べてしまう。

 いくら翔平くんがいないからとはいえ、もう3人分は口に入れてしまったと思う。


「そうか。なら、今度作る時はもっと種類や量を増やしておくよ……」

「本当!? じゃあもっと作ってほしいかな」


 気がつくと、重箱の中はキレイさっぱり空になっていた。


「あ、水巻。コンソメスープを魔法瓶に入れてきたんだけど、さすがにもういらないよな?」

「え? もったいないよ! ちょうだい!」

「お前、お腹壊すんじゃないのか……」


 その後も鬼塚が用意してくれたコンソメスープを、水のようにゴクゴクと飲む。


「プッ、はぁ~! たまらねぇ~!」

「……本当に水巻って、前と人が違うみたいだな」

「そう? めっちゃ美味かったよ。鬼塚のお弁当」


 俺の大食いっぷりに、さすがの鬼塚も驚きを隠せないようで。

 しばらく、彼は黙り込んでしまった……。

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