鬼塚に連れられ、黙って水族館のレストランへ来たが。
正直、居心地が悪い。
本来なら食券を買ってから、店員に渡して料理を待つのだけど……。
家庭が貧乏な彼は一切、お金を使いたくないと言う。
周りで美味しそうなハンバーグプレートを食べている家族を見ても、気にする様子はなく。
勝手にテーブルを占拠して、自身が作って来たというお弁当を広げる。
「さ、食べようぜ。ここの何が良いかってさ、目の前でイルカやクジラたちが泳いでいるところを眺めながら、食べられることなんだよ」
「うん……でもさ、さすがにお店に悪いから飲み物ぐらい注文しない?」
「嫌だよ。金がかかるじゃん」
そういうところだけは、ガキなんだな。
ダサすぎだろ……。
※
なんだかんだ文句を言っているが、いざ鬼塚が弁当箱のフタを開けると……。
「うわぁ! めっちゃ美味しそう!」
「まあ、残り物で作っただけなんだけどな」
と照れくさそうに、人差し指で鼻の下をこする鬼塚。
しかしお世辞じゃないが、彼が作った弁当は手が込んでいた。
大きな三段の重箱を横に広げていくと……。
びっしりとたくさんのサンドイッチが詰め込まれている。
玉子サンドにツナサンド。それからポテトサラ味に、ハムトマト味まで……。
うちのお母さんより、種類が豊富だ。
二段目はおかずがたくさん入っていて。
ハンバーグ、鶏のから揚げ。ブロッコリー、ミニトマト。
最後の箱にはデザートとして、色とりどりのフルーツが並べられていた。
「こ、これ……全部食べていいの? なんか二人分にしては多くない?」
「ああ、本当は翔平の分も作ったけど。あいつ、体調が悪いから……仕方ないよ」
「そっか……なんか悪いなぁ」
「気にすんなって! こんなの翔平は毎日、俺が食べさせてやってるし」
え? 毎日、こんなたくさんの料理を作っているのか、こいつ?
前世では俺をいじめるクソ野郎だったけど、家庭ではかなり苦労していたのか……。
~10分後~
「ん~ めっちゃ美味しい~ 鬼塚のサンドイッチ最高だよ。このから揚げもサクサクでたまらん~!」
と俺が嬉しそうに食べている姿を見た、鬼塚はちょっと引いていた。
「なら良かったよ……。でも、もうサンドイッチ10個以上食べているぜ? 苦しくないのか?」
「え? 全然。むしろ足りないぐらいかな……」
前世で唯一できたストレス解消法が、ドカ食いだからパクパク食べてしまう。
いくら翔平くんがいないからとはいえ、もう3人分は口に入れてしまったと思う。
「そうか。なら、今度作る時はもっと種類や量を増やしておくよ……」
「本当!? じゃあもっと作ってほしいかな」
気がつくと、重箱の中はキレイさっぱり空になっていた。
「あ、水巻。コンソメスープを魔法瓶に入れてきたんだけど、さすがにもういらないよな?」
「え? もったいないよ! ちょうだい!」
「お前、お腹壊すんじゃないのか……」
その後も鬼塚が用意してくれたコンソメスープを、水のようにゴクゴクと飲む。
「プッ、はぁ~! たまらねぇ~!」
「……本当に水巻って、前と人が違うみたいだな」
「そう? めっちゃ美味かったよ。鬼塚のお弁当」
俺の大食いっぷりに、さすがの鬼塚も驚きを隠せないようで。
しばらく、彼は黙り込んでしまった……。
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