殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

腐女子が存在しない世界

公開日時: 2025年2月10日(月) 14:00
文字数:1,578


 俺が通っていたというか、一日も登校しないで終わった中学校。

 ”真島まじま”中学校は、周辺の住宅街に囲まれていて、長い坂道を登った先にある。

 前世では小学校に通っていたから、その大変さが身に染みている。

 だって、中学校より小学校の方が更に遠いのだから。


 優子ちゃんと二人で坂道を登りながら、今期始まったアニメの話をしていた。


「やっぱさぁ~ 今始まったアニメで断トツなのは、『ふしぎなお遊戯』だと思うんだよねぇ~」

「ああ……懐かしい」


 ということは、俺の転生した世界は1995年で間違いない。

 それにきっと秋ごろだ。

 俺も見ていたから、覚えている。


「もうっ! 藍ちゃん! 懐かしいってなんのことっ!?」


 珍しく優子ちゃんが怒っている。

 なにか悪いことでも言ったかな?


「ど、どういうこと?」

「だって『ふしぎなお遊戯』は連載が始まってから、3年経ってようやくアニメ開始だよっ!?」


 あ、そっか。

 俺にとっては25年以上前の出来事でも、この世界では最新の情報なんだ。


「ごめん……でも、私もそのアニメ好きだよ?」

「本当? 藍ちゃんらしくないね。普段はもっとこう、難しい小説ばかり読んでいる子なのに」

「え、そうだったけ?」

「うん! 私がマンガとか貸しても『好みじゃない』って読んでくれなかったもん」


 なんだか嬉しそうだな。

 優子ちゃんって良い子そうだけど、結構オタクな女の子なのかな。


「でもね、私としてはあの作品が気になるのよね……『新世紀アヴァンゲリオン』まだ2話なんだけどさ。今後ずっと愛される作品に化けそうなの」


 当たってるよ……何十年も愛されすぎて、”シン・リメイク”されるほどだよ。

 優子ちゃんのセンス、神がかっているかも。


「そ、そうなんだ……。優子ちゃんは誰が好きなの?」

「そりゃもちろん、主人公でしょ! なんかあのオドオドしたころがたまらないのっ! あの子を見ていると無理やり、女の子の格好をさせたくなるわ!」


 うわっ、急に早口になったよ。

 こりゃあ間違いなく、オタクだ。それにきっと腐女子……。


「あの、間違ってたらごめん……。優子ちゃんって、ひょっとして”腐女子”なの?」


 俺の言葉になぜか固まってしまう、優子ちゃん。


「ふ、女子? なにそれ? 初めて聞いた」

「え? 腐女子じゃないの?」

「ごめん、分からない」


 あ……そうか。インターネットも普及していない時代だから、腐女子と言う言葉が世間に知られていないんだ。

 じゃあ、この時代のBLを愛していた人たちは、なんと呼べば良いのだろうか?


「えっと、じゃあ女オタクなら分かる?」

「酷い! 私のことをそんな風に呼ぶなんてっ!」


 オタクでさえも地雷なのか。

 そうだよな、当時はオタクに対して風当りが強かったもんな。

 俺の記憶を遡り、一つの言葉が見つかった。

 これなら、どうだ!

 

「じゃあ、”やおい”が好きとか?」


 すると優子ちゃんの瞳はキラキラと輝き出す。

 そして、俺の手を両手で掴む。


「なんで、その言葉を知っているの!?」

「いや……昔、親戚の子が読んでいたからさ」

「藍ちゃん! 今まで以上に仲良くしよう! 私でさえ、ついこの間。お姉ちゃんのお友達から教えてもらったばかりなのに!」

「う、うん……」

 

 その後、優子ちゃんがカバンから”薄い本”を取り出し、「是非読んで欲しい」と頼まれた。

 お姉ちゃんが描いたらしく、現在”少年チャンプ”に連載中の大人気マンガ『るろうな謙信けんしん』の同人誌だ。

 BLと表現するには、まだ時代が追いついてないようで。やおいと言うべきだろう。


 ”二重の極み”な男が、主人公から”逆刃刀”を無理やりぶち込まれるシーンだった。

 素人とは思えないぐらい画力が高い。

 しかも、キャラを限りなく原作に寄せている。なんて忠実な二次創作だ。


 それを読んだ俺は……。


「ヴォエっ!」


 お母さんが作ったサンドイッチを吐きそうになった。

 優子ちゃん良い子だし、可愛いから百合展開も考えていたけど。

 ごめんなさい、無理でした。

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