殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

30年越しの失恋

公開日時: 2025年3月10日(月) 14:00
文字数:1,797


 優子ちゃんから、90年代前半の腐女子事情というか、オタクの話を聞かされること数十分間。

 ようやく、目的地である学校へと着いた。

 毎度のことだが、なんでこう。どこの学校も山の上に作りたがるのだろうか?

 膝が壊れそう。


 二人して仲良く玄関へ入ると、ダサいスニーカーから上履きへと履き替える。

 そして、自分たちの教室がある3階へと向かおうと、階段を登ろうとした瞬間。

 俺はその視線に気がついた。


 なんだ、この背筋が凍りつくような、冷たい視線は?

 その視線の持ち主を辿ると……。


 凄まじい目力で、こちらを睨む女子がひとり立っている。

 胸の前で腕を組み、何かを我慢しているようだ。

 背は低いのに独特な存在感。


 手に持つカバンの色が、青色だからまだ一年生。

 この真島中学校の生徒は学年別に3種類の色が振り当てられている。

 一年生が青、二年生が黄色、三年生が赤色だ。なので、カバンの色を見れば何年生かすぐに分かる。

 ちなみに今の三年生が卒業したら、次に入学してくる一年生が赤色を受け継ぐシステムだ。

 

 俺と同じ同級生、13歳だというのに貫禄があるなぁ。

 彼女の持っている大きな瞳が、そう思わせるのかもしれないが……。

 髪型も関係しているのかも?

 ポニーテールだけど、前髪はオールバックで、全て後頭部で結んでいる。


 隣りに立っている優子ちゃんに、小声で「あの子、誰?」と聞くが答えてくれない。

 身体を震わせて、俺の後ろに逃げてしまった。


 ボーっとその子を見つめていると、あちら側からこちらに距離を詰めてきた。

 近づくにつれて、その顔を思い出して来た。


「あ、あゆみ。鞍手 あゆみだ……」


 その名を声に出していた頃には、彼女も俺の目の前に立っていた。

 見つめ合う……と言えば、きれいな表現だが。この場合は睨みあっているのでは?


「水巻さんだっけ? あのさ、昨日のアレ、なんなの?」

「へ?」


 なんかキャラが全然、違う!

 俺の初恋の人は、もっと優しかったのに。

 しかも、めっちゃ怒ってない?


「あのさ……あなた、急に学校へ戻ったと思ったら、鬼塚くんの胸ぐらを掴むわ。先輩とのいざこざにしゃしゃり出るとか、やりすぎじゃない?」

「いや、私は鬼塚のこととか、どうでも良くて……。それよりも、鞍手さんと仲良くなりたいな~ なんて……」


 と言いかけたところで、彼女は深いため息をつく。


「はぁ……私があなたみたいな暗くて、病弱な女の子と? 笑わせないで。その後ろに隠れてるオタクと付き合う女とか、絶対に無理よ!」


 それを聞いて、優子ちゃんが「ヒィッ!」と悲鳴をあげる。

 いくらなんでも、それは言い過ぎじゃないか?


「ま、待ってよ、あゆみちゃん。私たち、小学校の時からの仲間でしょ? 優子ちゃんにそんな言い方、酷いよ」

「ただの腐れ縁でしょ? とにかく、勝手なことは今度からやめてよね。特に……」


 と言いかけたところで、固まってしまう鞍手 あゆみ。

 一体、どうしたと言うのだ?

 あんなに威勢よく、俺と優子ちゃんを罵っていたのに……。


 ふと後ろを振り返ると、赤いユニフォーム姿の少年が玄関に入って来た。

 朝練の後なのだろう。褐色の肌に流れる汗、どこか色っぽく見える。

 なんて、思った俺がバカだった。だって相手は、ツンツン頭の鬼塚 良平だから。


「ふぅ……」


 確かバスケットボール部だったか?

 しかし、この低身長で活躍できるのだろうか。ま、精々ベンチでも温めているんだな。

 万年補欠くん。


「あ、鬼塚くん! おはよ~う!」


 なんだ、この甘ったるい声は?

 と思っていたら、その声の持ち主は、俺の目の前にいた。

 先ほどまで俺たちにプレッシャーをかけていた、強気な女。鞍手 あゆみだ。


「鬼塚くん。朝練、お疲れ様ぁ! 大変でしょ?」


 俺たちを無視して、鬼塚の方へ駆け寄る鞍手。


「あ、鞍手か……まあな」

「鬼塚くん、昨日のこと聞いたよ。先輩にいじわるされてるんでしょ? あゆみが先生に言おうか?」


 なっ!? 一人称が変わった!

 どんな女なんだよ、鞍手。


 俺たちを無視して、鬼塚にピッタリくっついて階段をあがっていく。

 彼女の姿が見えなくなって、ようやく優子ちゃんが俺の背中から、顔を出す。


「だから言ったでしょ? 鞍手さんって、とにかく勝気な女の子で、男の子の前では態度が変わるんだよ」

「それって、つまり……」

「うん、人によって態度が変わる子なの。特に女の子には冷たいから、気をつけて」


 マジか。信じたくないけど、前世で俺に対する優しさも、その性格からだったのかな?

 だとしたら、引くわ……。

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