殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

いじめられる理由

公開日時: 2025年6月9日(月) 14:00
文字数:1,694


「はい。では、教科書の130ページを開いて……」


 数学の授業になり、担当のハゲ教師に言われるがまま、指定されたページを開く。

 教科書に書かれている問題を解いて、各自ノートに書き提出しろとのこと。

 ヤベッ、マジでわかんねぇ……。


 ふと隣りの席に座る褐色の少年を見ると。

 手に持つシャーペンはスラスラと動いていて、止まることはない。

 意外だ。鬼塚は頭も良かったのか?

 迷うことなく、問題を解いている。


 それに比べて、俺は一問も解けていない。

 どうしよう? このままじゃ、チャイムが鳴ってしまう。白紙のまま提出したら、怒られるよな?

 ええい! もう無茶苦茶で良いから答えを書いちゃえ。


  ※


 今日、一日過ごしていて、思ったことがある。

 それは鬼塚が全然、いじめられていないということだ。

 一体なぜだろう?

 あの天ヶ瀬あまがせという上級生のヤンキーこそ、姿を見ないけど。

 取り巻きである他の同級生は何人か見かけたのに。


 ”中休み”に鬼塚を連れて、渡り廊下で話を聞いてみることにした。


「ねぇ、なんで最近、鬼塚はいじめられてないの?」

「え? 俺がいじめ? いじめられている覚えはないけど……」


 自覚していないのか。これはこれで、かわいそうだな。


「ほら、天ヶ瀬ていう二年生とその他にも何人かの同級生が集まって、鬼塚を狙っていたでしょ?」

「ああ……あいつらね。ダサい奴らだよ。一人じゃ何もできない。しょうもない人間」

「え? でも鬼塚のことを大人数でめちゃくちゃにしていたじゃん」

「だから、水巻が言ったそのままだって。自分一人じゃ、俺にケンカを売ることすらできないんだよ」

「どういうこと? じゃあなんで、鬼塚は天ヶ瀬ていう人に狙われているの?」

「それは……ちょっと面倒くさい話でさ」


 彼は話したくない様子だったが、俺がしつこく理由を聞いてみると。渋々話してくれた。

 元々、小学生時代に鬼塚は一人の級友をいじめていたのだが。

 そのいじめに加担していたのが、今鬼塚をいじめている同級生たちだ。

 しかし、被害者である級友が引っ越してから、学校内で問題になり主犯として、取り巻きに罪を擦り付けられた。


 そして中学校に入学したと同時に、鬼塚は夢だったバスケットボール部に入部。

 背は低いが、運動神経の高い彼は一年生とは言え、チームから選手として高い評価を得たそうだ。

 しかし、一歳上の天ヶ瀬という先輩がそれをよく思っておらず、彼にちょっかいをかけるようになり……。

 気がつけば、今のような状態になっていたそうだ。


「そうなんだ。じゃあ、天ヶ瀬先輩の逆恨みが原因なの?」

「まあ逆恨みかは知らないけど。そうなんじゃねーの? 上級生の天ヶ瀬が今、謹慎食らっているから、あいつらは何もしてこないし」

「謹慎? 中学校でそんなことある? 一体、なにをしたの?」

「あいつは色々と学校で揉め事が多いから、同級生と殴り合いになったらしいぜ」

「ふーん」


 つまり、トップが不在なため、ヒエラルキーが変わってしまった。

 早い話が天ヶ瀬先輩さえいなければ、鬼塚へのいじめも無くなるということか?


「先輩には悪い話だけど。天ヶ瀬先輩がいない日は、同級生からも狙われないってことだよね?」

「うん。あいつら本当はビビりだから、群がって俺をボコボコにしたいだけだよ」

「鬼塚さ、このことを先生に話したりした?」

「いや、なんでする必要があるんだ?」

「あるじゃん! トイレで裸にされたり、カバンをボールにされたり……もう立派ないじめだよ!」

「水巻、気を使ってくれるのはありがたいけど……こればかりは、時が解決するしかないって」


 のんきな鬼塚の回答に、俺は怒りを隠せずにいた。

 

「はぁ!? 下手したら、命の危険に関わることなのに!」

「違うんだよ。俺がバスケを諦めたらいいけど。諦められないから、我慢するしかないってことなんだ」

「バスケをやるのに、なんでいじめられないといけないの!? おかしいじゃん!」

「まあ、元々は俺の小学生時代が悪かったからだけど……今回の問題は、俺の夢が関わっているんだ。そこにはどうしても天ヶ瀬がいる」


 だからってバスケをやるために、あんな酷いいじめを味わえってのか。

 おかしいだろ……鬼塚のやつ、いじめられすぎて感覚がマヒしてないか?

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート