殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

異世界キャンセラー

公開日時: 2025年1月20日(月) 14:00
文字数:1,517


 ドンッ! という鈍い音と共に、俺の身体は宙を舞っていた。

 自慢じゃないが、俺の身長は165センチで体重は110キロ以上ある、超肥満体型だ。

 その俺でも大型トラックにかかれば、簡単に吹っ飛ばすことが出来るんだな……。


 そんなことを考えていると、何かすごく硬い棒で頭を殴りつけられた。

 後頭部から温かい液体がたくさん吹き出ているのを感じる。

 分かった。きっと、トラックに吹き飛ばされ、歩道の電柱で頭をぶつけたんだ。

 

 お次はコンクリートへ向かって、急降下。

 全身を強く叩きつけてしまった……。頭から流れ出る血液で、顔中が血だらけだ。

 その証拠に口の中が、鉄の味がする。唇の中にまで入ってきたのか。


「あ、あの大丈夫ですか! 私の息子のためにすみません!」


 重たい瞼を一生懸命、開いてみせる。

 そこには、スーツ姿の男性が立っていた。

 話からして、先ほどの少年の父親か……。


 リア充って感じのお父さんだな。

 髪型もツーブロックが似合う爽やかなイケメン。

 ちょっと肌が浅黒く日焼けしているが、それがまた色気を感じさせる。

 左手に指輪なんてしやがって……。

 

 いや、待てよ。

 こいつは……俺が一番憎んでいる男、鬼塚 良平じゃないか!

 なんで、地元の福岡にこいつがいるんだ?

 あ、正月だから帰省か。


 頭から大量の血液が溢れ出るため、意識がもうろうとして来たが、俺は声を振り絞る。


「お、おまえ……鬼塚」

「はい? 私のことを知っているんですか? と、とりあえず、すぐに救急車を……」


 こいつ、まさか。あれだけ俺のことをいじめておいて……忘れたって言うのか!?

 そんなこと絶対、許さないぞ!

 頭にきた俺は鬼塚のネクタイを掴み、こちらへ引き寄せる。


「お、お前だけは、絶対に許さないからな……鬼塚」


 そう言って、彼を睨みつける。

 しかし、こいつは俺の怒りや憎しみなど一切、感じていない。

 むしろ俺の身体を心配している。


「え? 何か言いましたか? もう救急車が来ますから、絶対に助かります!」


 クソッ……。

 人のことを平気でいじめていたこいつも、年を重ねて家庭を持てば、良識ある大人に成長したとでもいうのか?

 ふざけんな! お前の子供だって知っていたら、絶対に助けてない。

 ちくしょう……このまま、俺は死ぬのかよ。

 まだ父さんと母さんに、何も親孝行できていないのに……俺の人生って一体なんだったんだ?


  ※


 どこからか、声が聞こえてくる。

 優しそうな若い女の声だ。


「目を覚ましてください、水巻みずまきさん」

「う……」


 瞼をおそるおそる開いて見ると、目の前に美しい女性が立っていた。

 金色の長い髪を肩から下ろし、碧い瞳で微笑む。外国人みたいだ。


「水巻さん。”水巻みずまき 健太けんた”さんでよろしいですね?」

「え? あ、はい」

「残念ながら、あなたは先ほどの交通事故で亡くなってしまいました……」

「はぁっ!? いや……でも、そうだよな。死んだ時の記憶があるもんな」


 ってことは、ここは天国? いや、違う。

 この展開、見たことあるぞ!

 異世界へ行けるシーンだ。ついでに事故死だから、神様からチートをもらえるやつだ!


 やった! 父さんと母さんとは、離れ離れになるけど。

 異世界で無双すりゃ、モテモテ男になれる!

 巨乳からロリ、エルフにケモ耳までハレームし放題!


「どうやら、私の存在を理解しているようですね?」

「は、はい! もちろんです! 早く異世界へ行かせてください! チートはなんでもいいです!」

「ダメです」


 俺は耳を疑った。


「ど、どういうことですか? 異世界へ転生させてくれるために、俺をここへ呼んだんでしょ?」

「いえ……その転生はできますが、異世界へは行けません」

「は? 何でですか?」

「近年、異世界ブームにより、事故死が大変多く。異世界へ行きたがる人が多かったので。現在飽和状態なのです。だからダメです」

「……」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート