殺したいほど憎いのに、好きになりそう

「いじめっ子×美少女おじさん」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

第四章 大嫌いなあいつとデート

お誘い

公開日時: 2025年5月2日(金) 14:00
文字数:1,558


 鬼塚からもらったクッキーを全部食べたら、なんだか元気が出て来た。

 気がつけば、鼻歌交じりに階段を降りてリビングへ向かう。

 炊飯器を開いて茶碗に白米を山盛りにし、冷蔵庫から生卵を取り出す。

 それを白ご飯にぶっかけて、しょうゆをかけたら出来上がり。


「いただきま~す」


 その後、俺が卵かけご飯を5杯もおかわりしている姿を見て、ソファーに座っていたお姉ちゃんがドン引きしていた。

 まあ数日間、飲まず食わずだったから仕方ないよね。


「あ、藍……あんた。いくらなんでも、そんなに食べたら太るよ?」

「お姉ちゃん、大丈夫、大丈夫。私まだ若いから新陳代謝も激しいし」

「いや、どう考えても食いすぎでしょ……」


 ~翌日~


 元気を取り戻した俺は、改めてセーラー服を纏い、中学校へ向かうことにした。

 家へまで迎えに来てくれた優子ちゃんも、嬉しそうに笑っている。


「藍ちゃん、心配したよ~」

「ごめんごめん……」


 二人して肩を並べて歩いていると、優子ちゃんが不思議そうな顔をして下から俺を見つめる。


「ねぇ、藍ちゃん。なにか良いことでもあったの?」

「なんで? 特に何もないけど」

「本当? さっきからずっとニヤニヤ笑っているからさ……」

「全然無いよ」


 なんだろ? 自分では笑っているつもりはないけど。


 長い坂道を上がっていくと、丘の上に校門が見えてくる。

 相変わらず、先輩たちが大きな声で挨拶をしていた。


「おはようございます!」


 身長は俺の方が高いのに、男の先輩だから怖いな。

 校門をくぐり抜けて、優子ちゃんと下駄箱まで向かうつもりが。

 ひとりの男子生徒が腕を組んで、こちらを睨みつけている。


 ツンツン頭に赤いユニフォームを着たバスケ部の男子。

 今日も小麦色に焼けた肌が印象的だ。

 朝練でもしていたのかな?


「よ、よう。水巻、久しぶりだな……」

「あ……この前はごめん。鬼塚」


 ぎこちない二人の会話を聞いて、隣りにいた優子ちゃんが「あ!」と声を出してしまう。

 俺と鬼塚の顔を交互に見つめている。

 ヤバい、勘違いされているな。お前がどうにかフォローしろ、鬼塚。


「いや、水巻は何も悪いことしてないだろ? 俺がお前を嫌な気持ちにさせたんだから……」


 そんな言い方をするもんだから、優子ちゃんが更に誤解してしまう。


「ちょっ!? 鬼塚くん、藍ちゃんに何をしたの!?」

「この前、俺の家に連れ込んだら、泣かしちゃってさ……」

「最低っ! 女の子にそんなことをさせるなんて! 謝って許してもらえると思ってるの!?」


 うわぁ……余計に話がこんがらがってる。


「桃川の言うことが正しいと思う。だから、お詫びと言ってはなんだけど……」


 鬼塚は何を思ったのか、ズボンのポケットから茶封筒を取り出し、俺に差し出す。

 受け取ってみると、中には水族館のチケットが一枚入っていた。


 隣りから封筒の中を確認した優子ちゃんは、更に怒りを露わにする。

 

「水族館!? こんなもので許してもらえると思ってんの!」

「あ、その……母ちゃんから貰ってさ。弟の翔平も一緒なんだけど、よかったら今度どう? 水巻」


 その時の俺は、どうかしていた。

 ためらいも無く、彼に「うん」と答えてしまったから……。

 俺の返事を聞いた鬼塚はホッとしたようで、背中を向けると体育館へ走り去って行く。


 残された俺と優子ちゃんの間には、変な空気が漂っていた。


「藍ちゃんを自宅に連れ込んで、泣かしたくせに。水族館でお詫びぃ? バッカじゃねぇの! 脳内が少女マンガかよ!」


 優子ちゃん、なんかキャラが変わっている。

 怖すぎでしょ……。


 でも、水族館かぁ。行ったことないし、楽しみかも。


「ねぇ、藍ちゃん。行かないよね? 水族館なんてさ!?」

「え……その、たぶんね」

「絶対、行っちゃダメだよ! 帰りにホテルへ連れ込む気だって! 私の藍ちゃんに何をする気なの、鬼塚くんって!」

「……」


 優子ちゃんて、もしかして俺のことを百合として見てないよね?

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