世間は今、”三が日”ってやつで、地元の歩道を歩いても俺以外、誰も歩いていない。
たまにトラックが道路を走っているぐらいだ。
きっと、遠くから帰省してきた子供たちと両親のみんなで、今ごろおせち料理でも食べているのだろう。
あ、そう言えば、うちにもそんなリア充が一人いたな。
少し年の離れた兄さんという存在が……。
中学でドロップアウトした俺とは違い、ちゃんと大学まで卒業して一流企業に勤めている。
元々、社交的な性格だったから、女は”とっかえひっかえ”状態だったし。
気がつけば、できちゃった婚。今じゃ3人の子供を持つ、太ったハゲのおっさん。
明日、実家である俺の家に来るって、父さんが言ってたな……。
嫌だな……会いたくねぇ。
姪や甥も最近、俺のことを段々と理解してきたようで、近寄らなくなってきた。
歩くこと数分、そろそろ目的地のコンビニが見えてきた。
コンビニで買うものは決まっている。
マンガ雑誌とスナック菓子。それにジュースを何本か。
これぐらいしか、楽しみがないんだよな。
酒も飲めないし憂さ晴らしには、ドカ食いが一番。
そんなことを考えながら、交差点の前に立つ。
信号機のボタンを押してしばらく待つが、なかなか青に変わらない。
ここに設置されてから随分と経つけど、本当に変わるまでがクソ長い。
「パパ~っ! 早く渡ろうよ!」
反対側の歩道から、甲高い子供の声が聞こえてきた。
「こら、”良太”! 待て! まだ赤信号だろ!?」
その子供を追いかけるように、父親らしき男の声が聞こえて来る。
見かけない親子だな……。
「大丈夫だって! まだ三が日だもん! 車なんて走ってないよ!」
そう言うと、赤信号だと言うのに交差点へと足を踏み入れる少年。
育て方が悪いんだな。
俺が父親ならビンタしてやるけど。
「お、おい! 良太! 前を見ろ! と、トラックが……」
顔面真っ青になって、父親が道路を指差すので。
俺も左側の道路に視線を向けると……巨大なトラックがこちらに向かって走っていた。
運転手は、交差点に侵入した少年の存在に、気がついてない。
このままでは、目の前の少年がバラバラになってしまう。
想像しただけでも、グロテスクだ。
気がつくと俺は交差点の中に突っ走り、少年を担ぎ上げた。
このまま歩道に向かって走る……予定だったが、この少年。背は低いが思った以上に重たい。
いや、そもそも俺は子供を抱えたことが無いから比較出来ないか。
どうする?
もう目の前には、トラックの姿が見えてきた。
死にたくないけど、この子だけでも助けないと!
覚悟を決めた俺は幼い少年を助けるため、思い切り力を込めて歩道へ投げてみた。
少年は宙を舞い、歩道沿いの花壇へ背中から落ちて倒れた。
痛みから泣き出していたが、命に別状はない。
駆けつけた父親が「大丈夫か?」と少年を抱える。
良かった……と安心していたが、「ブーッ!」というクラクションで、俺は現実に戻る。
このまま、トラックに衝突したら俺はどうなるんだ?
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