「だからね、藍ちゃんも鬼塚くんにあまり近寄らない方が良いと思うよ?」
「……」
優子ちゃんの話を聞いて、なんとなく理解できた。
散々、俺のことをいじめて笑っていた奴だ。「ざまあねぇな」と言いたいところだけど……。
なんかこう、胸に小さな針が引っかかるような痛みを感じる。
鬼塚がいじめられるようになった理由として。
被害者の少年が引っ越したあと、クラスで担任の教師が問題として、加害者たちを問い詰めたところ。
先ほどのヤンキーの取り巻きたちが鬼塚を裏切り、彼だけを犯人とした。
そこから、いじめっ子がいじめられることになったそうだ。
また中学へ進学したと同時に、先ほどのヤンキーも加わり、いじめは更に悪化したらしい。
※
因果応報と言えば、そうなんだけど。
やっぱり見ている側かるすると、とても気持ちが良いものではない。
俺が美少女に転生したってのに、モテモテって訳じゃないし、嫌な過去を見せられているようだ。
中学の勉強なんてしたことないから意味も分からず、ボーっとハゲの先生の話を聞いていると。
「はい、じゃあこの公式を解ける人いるかな?」
と言われても、みんな黙り込む。
こういうのは小学校と変わらないな。
しかし、その光景を見た先生はため息をついて、俺に向かって指をさす。
「水巻、毎度で悪いな。お前なら解けるだろ?」
「いいっ!?」
いきなり指をさされて、心臓が飛び出るかと思った。
解けるわけないだろ……。
震えながら、黒板に向かってゆっくり歩き出す。
先生からチョークを渡されて、黒板に書かれた問題を読んで見るが、さっぱり分からん。
中学生ってこんな難しいの?
「どうした、水巻。遠慮せんでいいぞ?」
「あ、いやその……」
クソがっ! どこが美少女に転生したら、人生イージーモードなんだよ?
ハードモードすぎるわっ!
その時、チャイムが鳴って授業の終わりを教えてくれた。
助かったぁ……。
「あ、終わったか。じゃあ仕方ない、宿題にしておくから、明日まで解くように……」
と先生が、生徒たちに話し始めたところで、俺が黒板から離れようとしたら。
「おい、水巻。お前さ、どうかしたの?」
「え? なんのことですか……」
「お前は学年でトップの成績なんだから、こんな公式とか一瞬で解けるだろ?」
「そうでしたっけ?」
どうやら、この世界の俺はとても成績優秀な女子らしい。
そのおかげで、各授業の教師から指をさされることが多く、死ぬかと思った……。
※
1日中、ずっと考えていた。
それは前世で毎晩、苦しむ姿を望んでいた相手。鬼塚 良平のことだ。
俺の頭が悪いからってのもあるけど、授業を受けても全然、頭に入らない。
休み時間。優子ちゃんに誘われて女子トイレへ向かおうとしたら。
男子トイレの窓から、見えてしまった。
無理やり制服を脱がされパンツ一丁にされた褐色の少年を。
他にも掃除の時間、廊下でほうきを使って床を掃いていると。
校舎裏で鬼塚のカバンを使って、ヤンキーがサッカーしていた。
当然、あいつも抵抗していたが……。他の取り巻きの奴らが動けないように押さえている。
そんな鬼塚の姿を見ても、クラスのみんなは黙って見ているだけ。
異常な光景だった。なかには笑って見ている生徒もいた。
過去にいじめたから、あいつもいじめられて当然。
だが、本当にそれで良いのだろうか?
確かに、俺もあいつがこんな風にいじめられたら、どれだけ清々しいだろうと考えない日は無かった。
でも今見ている光景は、過去に俺が受けたものと同じだ。
だからこそ、見ていると自分と重ねてしまう。
一番憎かったのが、鬼塚だったのに。
今では、彼がいじめられている光景をあざ笑う奴が一番ムカつく。
あれ……俺は一体何を考えているんだ?
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