鬼塚の弟、翔平くんに手を取られて玄関の中に入る。
小さな玄関にはたくさんの靴が並べられていた。
他にも兄弟がいるのかな?
玄関から向かって右側に、小さな部屋が二つ見えた。
一つは女物の服ばかりが散乱した甘い香りの部屋。
どう考えても、この部屋は鬼塚兄弟のものじゃないだろう。
その証拠に、翔平くんが隣りの部屋へと俺の手を引っ張る。
「藍お姉ちゃん、こっちこっち~」
「うわっ! ちょ、ちょっと待って……」
鬼塚は「飲み物を持ってくる」とリビングへ向かって行った。
子供部屋の中は二つに並べられた学習デスクと、二段ベッドでぎちぎちだ。
人がひとり座れば、床が埋まってしまいそう。
俺の住んでいる部屋の方が圧倒的に広く感じる。
しかし、翔平くんはそんなこと構わず、デスクの上に並ぶギャンプラを嬉しそうに見せてくれた。
「見てみて! これ、お兄ちゃんが色をつけてくれたんだ。すごいでしょ!」
「あ、”V4ギャンダム”じゃん! 懐かしい……」
俺の反応を見て翔平くんは、不満気に頬を膨らませる。
「もう! これ、最近出たばかりのだよ! お年玉をためて買ったマスターグレードなのに!」
ヤバい、涙目になってる。
どうにか挽回しないと……。
「ごめんごめん、確かにお兄ちゃんの塗装、うまいねぇ~ お姉ちゃんじゃ出来ないかも~」
不本意だが、鬼塚の塗装を褒めると翔平くんの態度は一変した。
嬉しそうにプラモデルを俺へ差し出す。
「でしょ!? お姉ちゃんも塗装とかしてもらないよ。お兄ちゃんはすっごくうまいんだから。前にプラモ大会で優勝したこともあるんだ!」
「へぇ~」
超、どうでもいい。
あいつの自慢とか、マジいらねぇ……。
模型店で鬼塚が言ったように、俺が好みのプラモデルなどは全て翔平くんの物だった。
ミニモーターカーやギャンプラも、つまり俺の精神年齢が小学生だと言いたいのだろうか?
でも、本当に対照的な兄弟だな。兄はこんがりと小麦色に焼けた少年なのに、弟は肌が白いお坊ちゃまヘアだもん。
活発な兄と大人しい弟か……。
「おい、翔平。お姉ちゃんをあまり困らせてないか?」
おぼんの上にグラスを三つのせて、鬼塚が部屋に入ってきた。
「別に困らせてないよ、お兄ちゃん。それより藍お姉ちゃんってすごいんだよ。女の子なのにギャンプラに詳しいんだ!」
「ハハっ、良かったな……あ、水巻。好きなのを取ってくれよ。全部同じ麦茶だけど」
「あ、いただきます」
なんで、俺がこいつに頭を下げないといけないんだ。
でも、この麦茶。冷えていて美味しい。
喉が渇いていたから、一気に飲み終えてしまった。
※
しばらく弟の翔平くんとギャンダムの話で盛り上がっていたが。
ちょっと飽きてきたようで、近くにあった小さなブラウン管のテレビの電源をつけ、テレビゲームを始める。
”スーファミ”か……まだまだアナログだな。
後ろから翔平くんのプレイ画面を眺める。
三人で床に座っているが、二段ベッドと学習デスクに挟まれているので、どうしても膝が当たってしまう。
一応、女の子らしく正座しているがそろそろ痺れてきた……。
「なあ、水巻」
「え?」
「お前さ、本当に変わったよな? なんか学校でも急に俺の胸ぐら掴んだと思ったら、給食は早食いするし……」
どうやら思い出しているようだ。失笑している。
「優子ちゃんにも言われるけど、別に自分の中では普通だけど?」
「そうなのか? じゃあ、プラモデルも前から好きだったとか?」
そう言って自身の学習デスクを指差す。
弟とは違い、プラモデルと言っても、バイクやスポーツカーばかり並んでいる。
うまく組み上げているし、塗装もプロレベルだと思うが正直、興味が無いからよく分からん。
「俺……じゃなかった、私はあんまり車とか興味ないっていうか、分からないんだよね」
「ふ~ん、そっか……水巻には分からないかぁ」
あれ? なんか落ち込んでいる?
「でも、これだけ飾っているのなら、本物も好きなの? バイクとか?」
「当ったり前だろ! 大きくなって金さえあればすぐに乗りたいよっ!」
彼自身に他意は無いと思うけど、めっちゃ顔を近づけられて、キッス寸前なのだが……。
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