「ねぇ、藍お姉ちゃん。ゲーム出来る? バトルして欲しいんだけど」
と翔平くんがコントローラーを持って振り返る。
「まあ古い格ゲーは苦手だけど……」
ブラウン管のテレビ画面に映し出されたのは、大人気アニメ”トラコンボール”の格闘ゲームだ。
昔、兄さんと闘ったことあるけど、技を出すのが難しかったんだよなぁ。
「なに言ってんの、お姉ちゃん。これ最近出たばかりの新作だよ?」
「あ、ごめんごめん」
いかんな、まだ25年前というアナログな時代に慣れていない。
俺もこの時代の人々に合わせないと、正体がバレちゃいそう。
翔平くんに言われて、しばらくバトルしているが。
どうにも注文が多い。
「もっと本気出して」「少しは手を抜いてよ!」などなど……。
まだまだお子ちゃまだなぁ。
※
気がつくと、鬼塚の姿がない。なんだろ? トイレかな。
まあいいや。ちょうどこのゲームのコツを掴めてきたところだ。
”今”の自宅には、女の子ぽいものばかりでゲーム機なんて無いし。
ストレス発散のためにも、遊ばせてもらおっと。
なんて考えていると、どこからか旨そうな香りが漂って来た。
この匂いは……。
俺より前に、翔平くんがその名前を口にする。
「あ、今夜はカレーだ!」
そう言うと、ゲームコントローラーを床に投げ捨てて、リビングへ走り去る。
夕飯時か? ていうか、今何時だろ?
部屋の壁にかかっていた時計を見て驚く。
「げっ! もう5時じゃん」
さすがに帰らないと、お母さんに殺される。
そう思った俺は静かに立ち上がり、部屋から出る。
玄関に置いてあった自身のスニーカーに足を通そうとした瞬間、背後から声をかけられた。
「おい、水巻。なにしてるんだよ?」
「へ? だって今から晩ごはんなんでしょ……悪いから帰ろうと思って」
俺がそう言うと鬼塚は「プッ!」と吹き出す。
「ハハハッ! そんなの気にするなって! 今日はお前がいるからいつもより多めに作ったし、一緒に食っていけよ」
「そ、そうなの……? じゃあお言葉に甘えて」
~1時間後~
リビングには俺の家より小さなテーブルがあり、イスは三個しかない。
もう一個は、冷蔵庫の隣りに置かれて物置きと化している。
何故だろう?
俺と翔平くんが横に並んで座り、反対側の席に鬼塚が座っている。
肝心の料理、カレーライスだがめっちゃうまい!
もう二杯もおかわりしてしまった……。
「うわぁ~ 藍お姉ちゃんって本当に食いしん坊なんだねぇ」
「こら、翔平。女の子に失礼なことを言うな!」
「あ、ごめんなさい……」
そのコメントは前世のお前に言って欲しかった。
「いやぁ、私って。本当に食べ物には目が無いっていうか。食べるのが大好きだから、美味しいものには素直になっちゃって……」
「別に良いことじゃん、作る側からすると嬉しい言葉だよ」
なにをサラッと、カッコつけているんだよ。
でもよく見たら鬼塚の目て大きいし、輝いてみえる。
前世の記憶さえ無ければ、仲の良い友達になれそうかも?
「ところでさ、お父さんとお母さんは帰って来ないの? 私がいたら、お邪魔じゃないかなって……」
俺がそう言った途端、二人のスプーンの動きがピタッと止まる。
「父ちゃんはもう帰って来ないよ……」
気がつけば、翔平くんの目には大きな涙が。
げっ! なにか地雷を踏んじゃったのかな?
「悪い、水巻。話してなかったけど。うち片親なんだ。母ちゃんはいるけど仕事が忙しくて……」
「そうなんだ……ごめん。変なこと言っちゃったね」
「いいよ。もう何年も経ってるし、どう考えても親父が悪いし」
「?」
なんだ? 鬼塚の家庭ってこんな複雑だったか?
前世で小学校の時、いじめの問題で鬼塚の母親にも会ったことあるけど。
すごく態度の悪い水商売をしているママって感じだったような……。
こいつの家庭も、あべこべ状態なのか?
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