未久来帯人(みくらたいと)
本作の主人公の彼は16歳のフリーター。
身長は171cmの体重52kg。
黒い髪の毛はいつもボサボサ。
赤い目が特徴。
好きな食べ物はきゅうりだ。
「こんばんは、こんにちは。未久来帯人(みくらたいと)くん。」
俺はメールに添付されていた画質の荒いノイズ混じりの動画を公園のトイレで再生していた。
画面中央に座る女が続けて話す。
「この動画を見ているということは君は採用よ。これから吸血鬼狩りバイト。通称アンチヴァンパイア。君は今日からその一員として頑張ってもらうわ。よろしくね。」
画面に映る彼女は綺麗な笑顔を見せた。
金髪さらっと長い髪。
色白で綺麗な人だった。
「全然応募がこないから100%採用なんだけどね。」
隣からボソッと男の声が聞こえた。
それは言うなと言わんばかりに女は画面外の男をしばいた。
しばらくして画面に戻ってきた女が話を再開する。
「そんなことはどうでもいいの。君には明日の21時に新宿駅にきてもらうわ。そこでこれから君と仕事をともにする仲間たちを紹介するわ。まずは私から。天音響子(あまねきょうこ)。ここでリーダーのようなものをやってるわ。この仕事で起こったこと君の行動や起こした結果は全部私が責任をとるわ。どんな方法でもね。他に気になることがあれば聞いていいわよ。次、この隣に座ってるのは横我涼太(おうがりょうた)。」
そう言うと少しカメラが動き隣の男を映した。
細くサラッとした体に眼鏡をかけている。
悔しいがイケメンが似合うその人物がどうやら横我というらしい。
「彼は主に現場の指揮をとってくれるわ。むかつく奴だけれどほんとに役に立つわ。仲良くしてあげてね彼友達いないから。次は彼。」
そういうとカメラが180度動く。
その間横我という男は今の紹介に文句をつけていた。
そしてカメラが向いた先には悪役が似合うほど大柄な男が映った。
「彼はクイルト。私達に協力してくれる吸血鬼よ。基本誰にも逆らわないわ。言ったことはきいてくれる。彼も困ったときは頼りなさい。必ず力になるわ。」
昨日見た時はここでかなり驚いたな。
そんな事を考えているとカメラは再び天音を映す。
「次ね。ここにはいないから写真。映るかしら?」
天音がそう言うと画面は若い女を映した写真に切り替わった。
「その娘は愛羽紗香(あいばねさやか)。」
美人で黒髪の真面目そうな女性だった。
「私以外唯一の女の子よ。美人で仕事が出来るわ。彼女に教わることは多いかもね。さっ次。」
その言葉とともにまた映像が切り替わる。
スーツをきた茶髪のイケメンだった。
「彼は瑠々流海斗(るるるかいと)。彼は基本的にマイペースよ。現場でもどんな場面でも自分のペースを崩さない。吸血鬼を狩る腕だけは本物だから本当にピンチの時は頼りなさい。次で最後ね。最後の1人は」
そう言うとまた写真が映り変わった。
最後に写った人間はどこか他とは違っていた。
ガスマスクをつけ雰囲気がどこか人間とは逸脱していた。
「最後の1人は関わらなくていいわ。基本的に彼とコミュニケーションすることは不可能よ。それにいかれてるわ。私達を殺そうとしてきたときもあったわね。でも彼も吸血鬼を狩る点では化け物よ。吸血鬼の数を減らしてくれる便利なお掃除ロボットって思っておきなさい。これで紹介終わりね。それじゃあ明日待ってるわ。歓迎するわよ未久来タイトくん。」
ここで動画は終わった。
動画を再生しきった俺は集合場所である新宿駅のトイレに籠もっている。
これでこの動画を見るのは昨日合わせて5回目だった。
そして俺は
「行くのやめようかな。」
そんな事を考えていた。
「はっはっはっ。家まで送ろうか?」
俺は新宿駅で横我涼太に拾われた。
俺が緊張してることやら話したら案の定からかわれた。
だから友達いないって言われるんだよ。
俺は少し食い気味に
「結構です。もう色々覚悟決めたんで。」
俺は吸血鬼という非日常に沢山の覚悟を決めていた。
「そしたらまずアンチヴァンパイアについて説明するね。僕達アンチヴァンパイアは本部の下についてるんだけれど本部がどこにあるかは特定の人間しか知らない。もちろん僕も知らない。そんでそれぞれリーダーを通じて本部からの指示だったりを受け取る。そんなアンチヴァンパイアの集団がここ東京と大阪、京都に北海道。それと広島。これら5つの県にある。」
俺は一つ疑問に思い質問する。
「そんだけで大丈夫なんですか?そんだけで日本中の吸血鬼狩り尽くせるんですか?」
すると涼太はこの質問がくるとわかってたかのような笑顔で答える。
「結界的なものがあってね。吸血鬼にだけ効くんだけど彼らはこれらの県から出られないんだ。」
俺はあまり驚かなかった。
ただ俺が知らなかっただけのこと。
今まで買わなかったあのお菓子がめちゃくちゃ美味かったり今まで聴いてこなかった曲が自分好みだったり。
そういうことの一部なのだ。
「それでね面接では君が吸血鬼かどうかを見たんだ。正確には嗅いだが正しいね。」
「匂いでわかるんですか?」
「ああ。吸血鬼には濃くも薄くも匂いがある。僕らは吸血鬼に殺される人間を1人でも減らすために吸血鬼を狩る。そんな僕らを狙った吸血鬼がアンチヴァンパイアに参加しようと企んでいるかもしれないからね。それでアルバイトってのはギリギリアウトなんだ。だからこれまでのこととこれからのこと秘密厳守を約束できる?」
横我は真剣な顔で俺を見つめていた。
「横我さんと違って俺は口軽くないんで大丈夫ですよ。」
俺の返答に横我は笑って返す。
「ははは。可愛げないな。それと涼太でいいしタメでいいよ。これからよろしく。」
「おう。よろしく涼太。」
俺がそう言うと涼太は表情を固くする。
そして少し身構える。
「帯人。吸血鬼だ。匂い的に能力持ちだ。」
俺は涼太の視線の先を見つめる。
すると茶髪で髪がボサボサの身長の高いチャラそうな男が出てきた。
俺は少しの恐怖で身構えていると男は俺に向かって喋り始めた。
「お前が帯人か!今はこれが最善っぽい。俺の名前は赤霧廻(あかぎりかい)。お前にこれを」
俺の頭の中に映像のようなものが流れる。
女を助ける。
恩人が死ぬ。
女が爆発で死ぬ。
仲間と敵対する。
(ぶつっ。)
ここで頭に流れた映像が途切れる。
すると目の前の赤霧と名乗る吸血鬼は上から急に現れた女によって首を切られた。
赤霧という吸血鬼がバタっと倒れると同時に女はこちらを振り返った。
その女は天音響子だった。
状況に全くついていけない俺はこの光景にデジャヴを覚えた。
俺はその後とあるビルの4階へ連れてこられここがアンチヴァンパイア東京部の拠点兼事務所だと伝えられた。
その道中俺が出会った吸血鬼は恐らく新人狩り(ルーキー潰し)だろうと言われた。
どうやら吸血鬼にもレジスタンスという団体があるらしい。
その一部の集団がアンチヴァンパイアの新人を狙って潰しているらしい。
そして運良く潰されなかった俺は今天音さんに武器を渡された。
立派な刀だった。
「闘う意思を消してみて。」
俺は吸血鬼のことを頭から離した。
すると刀は消えてしまった。
「戦意を出さない限りこの刀は透明よ。好きなタイミングで好きな場所に出せる。持ち運ぶ必要もないし相手に武器がある事を隠せたりもするわ。それじゃあ早速だけれど紗香ちゃんと仕事行ってきてもらえるかしら。」
「え、いきなりですか?!」
俺が驚いてる間にも紗香さんは支度をしていた。
そして一通りの支度が終わったのかこちらにきて一言。
「行きましょう帯人くん。」
背中を押され俺が事務所を出ようとした時天音さんが何かを思い出したかのように俺を止めた。
「そうそうこの吸血鬼に会ったら必ず逃げなさい。絶対に。」
そう言って天音さんはスマホの画面を見せる。
そこには金髪で色白の外国人のような凄く整った美形の男がいた。
「こいつは噛んだ相手を吸血鬼に変える能力を持った吸血鬼。出会ってからじゃ遅いのは確かだけれど出会ったなら絶対に戦おうとしちゃだめ。」
天音さんはかなり強張った顔で忠告した。
「わかりました。行ってきます。」
俺は非日常への期待と不安と余りある恐怖で少し頭が痛かった。
「紗香さんやっぱり怖いです。」
俺の歩くスピードがどんどんと落ちていく。
すると綺麗な笑顔でこちらを見る。
「最初は怖いものよ。私が守るから頑張りましょう。」
ああ。
俺は男だ。
「頑張ります。」
それからしばらく歩いたところで紗香さんは言う。
「吸血鬼よ。急ぐわついてきて!」
俺はいよいよ近づく吸血鬼との戦闘に緊張しつつその足を動かした。
紗香さんに続いてきた路地裏には2人の男がいた。
「彼らよ。私は左をやる。帯人くん右を頼めるかしら。すぐに助けにまわるわ。」
これだよ。
これ。
俺はきっとずっとこういうのを待ってたんだ。
「すぐ倒して俺が助けにまわりますよ。」
俺は少し引きつった笑顔で刀を出した。
「けっ。なんだお前らアンチヴァンパイアかよ。俺たちはただ血が飲みたいだけなんだ。」
左の吸血鬼が喋る。
俺は一息つき走り出す。
右の吸血鬼に刀を思いっきり振りながら突っ込んだ。
すると吸血鬼は軽々刀をかわし俺の足首を掴む。
そして俺を路地裏のさらに奥まで投げ飛ばした。
投げ飛ばされた俺は壁で頭を打ち数秒気絶する。
そして気が付いた時にはもう目の前まで吸血鬼が迫っていた。
「簡単に騙せましたね。君だって忠告を受けたでしょう。」
俺は体温が一気に下がる感覚を覚えた。
全身にひどい脱力感。
全ては恐怖からだった。
俺の目の前で話しているのは俺が天音さんに忠告された吸血鬼だった。
「友人の吸血鬼に頼んだんですよ。凄い技術ってことがわかりましたね。私の名前はリーネル・ハード。私は君をよーく知ってる。でも今の君は全然何も知らない。だから特別に一つだけ私の能力についてでも教えてあげましょう。私の能力実は遺伝するんです。噛んで吸血鬼に変えた相手にまで引き継がれるんです。沢山の人を吸血鬼に変えるんですよ。未久来帯人くん。」
俺はそのまま何もできずにリーネルに首元を噛まれた。
少し時間がかかってしまった。
帯人くん大丈夫かしら。
それにしても何なのだろう。
この手応えのなさ。
この吸血鬼血も出なかった。
どこか人形みたいな。
まあそんなのは今はどうでもいい。
私は帯人くんが吹っ飛んでった方向へと急足で向かった。
しばらく進むと無傷の帯人くんがいた。
「なんとか耐えられました。でもすみません。逃げられてしまいました。」
そう言った帯人くんは眠るように倒れた。
「私がちゃんとしなきゃ。」
翌日
俺は昼の東京を歩いていた。
「どういうことだよ。」
吸血鬼は頭を潰すか首を切るかしないと死なない。
俺は昨日全身の骨を折ったはず。
なのに目が覚めた俺は無傷だった。
リーネルとかいう奴が言ってたように俺は吸血鬼になったのか?
だが俺は昼の東京を平気で歩けていた。
吸血鬼は日光に弱く夜しか活動できないらしい。
俺は例外ってか?
そんな事を考えていると少し先にあるトンネルから女の悲鳴が聞こえた。
「きゃー!」
俺はその方向へ向かって走った。
その途中にある路地裏に男の死体があった。
吸血鬼にやられたのか?
男の死体の隣には短剣が転がっていた。
戦ったのか?
俺は頭では慎重に考えていたが全速力でトンネルに突っ込んだ。
そのトンネルの真ん中で女が吸血鬼に襲われていた。
血だらけだ。
その女の前には吸血鬼らしき男。
俺は迷わずその男の方へ突っ込む。
「もう怖いなんてどうだっていい。」
俺は今笑ってる。
何で笑ってるのかはわからない。
そんな俺の手元に現れた刀は確実に男の首を刎ねた。
殺した。
俺は意外にも呆気ない命に言葉を失った。
しかしまだ終わってない。
この女の子だ。
俺はその女の方を見る。
可愛い。
俺はこんな状況で俺のタイプど真ん中の子と出会ってしまった。
「助ける。親が助けるからな。」
口ではそう強く言うが恐らくこの出血なら救急車も間に合わない。
俺が運ぶのだって論外だ。
俺はそこで一つだけこの子を助ける方法を思いついた。
「ちょっと痛いかもだけど我慢しろよ!」
俺はそう言うと目の前の女の子の首元に噛み付いた。
吸血鬼は頭を潰すか首を刎ねるかしないと死なない。
それ以外の傷は驚異的なスピードで再生する。
俺は昨日リーネルというやつに噛まれた。
でもこの能力なら。
俺が噛んでいる途中女の子は苦しそうな声で一言だけ発した。
「ヴァンパイアヒーロー。」
少し時間が経った。
目の前の女の子の傷は完璧に癒えていた。
そこで俺は確信する。
「俺は吸血鬼だ。」
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